2008年05月15日

Primal Scream『Vanishing Point』

ダブの手法を大胆に取り入れた5thアルバム☆『Vanishing Point』
バニシング・ポイント
発表年:1997年
ez的ジャンル:タブ系オルタナ・ロック
気分は... :やっぱり危険な香りがいいですな...

結構バタバタしていて2日間更新をサボってしまいました。

Bobby Gillespie率いるPrimal Screamの3回目の登場です。

『Riot City Blues』(2006年)以来2年ぶりの新作『Beautiful Future』のリリースが間近のPrimal Scream。45歳になったBobby Gillespieが今でもヘロヘロの悪ガキしているのは嬉しいのですが、個人的には『Screamadelica』(1991年)、『Vanishing Point』(1997年)、『Xtrmntr』(2000年)、『Evil Heat』(2002年)の4枚が好きですね。

これまで『Screamadelica』『Evil Heat』の2枚を紹介してきましたが、今回はダビーなアルバム『Vanishing Point』の紹介です。

70年代前半のStonesのように南部ロックへ接近した『Give Out But Don't Give Up』(1994年)は、ヒットしたもののファンの間でも賛否両論が巻き起こりましたね。個人的には70年代前半のStonesやスワンプ・ロックも好きなので、それなりに気に入りましたが、確かにPrimal Screamでなければ創れないサウンドではありませんでしたね。

その意味ではダブの要素を大きく取り入れた本作『Vanishing Point』は、本来のPrimal Screamが戻ってきた感じがしましたよね。

全編に渡るダブの影響が話題になるアルバムですが、僕にとってダブの導入云々はあまり重要ではなく、危険な香りのPrimal Screamが戻ってきたのが嬉しかったですね。

このグループ(というかBobby Gillespie)には"ヘロへロだけど刺激的!"なものを期待しているので、そういった魅力が堪能できるアルバムになっていると思います。

本作から元Stone Rosesの"Mani"ことGary Mounfield(b)と元 Jazz ButcherのPaul Mulreany(ds)がメンバーに加わっています。特にManiの加入は話題でしたね。

他にレゲエ界の大物Augustus Pablo、元Young DisciplesのMarco Nelson、Sex Pistolsのオリジナル・メンバーGlen Matlock等がゲスト参加しています。

本作に関連する2本の映画があります。

最初の1本は、Richard C. Sarafian監督、Barry Newman主演によるアメリカン・ニューシネマ『Vanishing Point』(1971年)です。警察の制止を振り切りデンバー〜カリフォルニアを平均時速200kmの猛スピードで暴走する男を描いています。

この映画からスピード、セックス、暴走といったイメージを受けたBobby Gillespieは、アルバム・タイトルをスバリ『Vanishing Point』とし、1stシングルは映画の主人公の名前をタイトルにした「Kowalski」となりました。

バニシング・ポイント
バニシング・ポイント

もう1本は、Danny Boyle監督、Ewan McGregor主演のイギリス映画『Trainspotting(トレイン・スポッティング)』(1996年)です。スコットランドを舞台にヘロイン中毒の若者達の日常を描き、当時若者から大きく支持された映画でしたね。映画と同時にサントラも人気になりました。このサントラへの提供曲「Trainspotting」が本作にも収録されています。

トレインスポッティング 特別編
トレインスポッティング 特別編

アルバムと一緒にこれら2本の映画を鑑賞すると、さらに楽しさが増すと思います。

オススメ曲を紹介しときやす。

「Burning Wheel」
サイケ感覚のダビー・チューン。この曲を聴いて、『Screamadelica』のPrimal Screamが戻ってきたと思いましたね。アルバムからの3rdシングルにもなりました。

「Get Duffy」
ダブのフィルターを通過してきた叙情的なインスト。かなり映画のサントラっぽい仕上がりですね。

「Kowalski」
アルバムからの1stシングルとして、UKシングル・チャート第8位のヒットとなりました。前述のようにタイトルは映画『Vanishing Point』の主人公の名前からつけたものです。その映画『Vanishing Point』からラジオDJの声をサンプリングして使っています。

本作のダビーな雰囲気が最も顕著な1曲です。この危うさこそがBobby GillespieやPrimal Screamらしさだと思います。ファンも納得の1曲です。Maniのベースも強力です!

「Star」
アルバムからの2ndシングル。Augustus Pabloのメロディカがフィーチャーされたダウナーな1曲。ほのぼのとしたメロディカ+へヴィーなダブ・サウンド+Memphis Hornsメンバーによる泥臭いホーンというゴッタ煮が結構いい味出しています。この虚しいチル感覚がいいですね。1999年に死去したPabloのメロディカの音色が胸に染みてきます。

「If They Move, Kill 'Em」
個人的には一番のお気に入り曲はインストです。こういうトリップ感覚の曲に弱いんですよね。

「Stuka」
この曲もかなりダビーですね。その意味ではかなり聴きものと言えるかもしれません。トランス状態になりたい方向けの仕上がり。

「Medication」
「Stuka」から一転してストレートなロック・チューン。この曲は『Give Out But Don't Give Up』の流れですね。アルバム全体がコレだと飽きるけど、1曲だけならカッチョ良いですな。Glen Matlockがベースで参加。

「Motorhead」
ヘヴィメタル・グループMotorheadのカヴァーをするというのは意外ですね。エッジの効いたガレージ・ロックをデジタルに仕上げた感じです。

「Trainspotting」
前述の映画『Trainspotting』への提供曲。Andy Weatherallがプロデュースしています。トリップ・ホップ・テイストのダビーなインストです。

「Long Life」
Gillespieのヘロヘロ・ヴォーカルが虚しく響くダビーな1曲。全然長い人生を送れる気になれない雰囲気です(笑)

本作を購入したい方は7月に紙ジャケ仕様のものが発売される予定なので、そちらを待つのも手かもしれません。

また、姉妹アルバムとして本作のリミックス・アルバム『Echo Dek』があります。Adrian Sherwoodがリミキサーを手掛けた、この全編ダブのアルバムも当時話題になりましたね。ご興味のある方はどうぞ!

Echo Dek
Echo Dek
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2008年05月12日

Ramsey Lewis『Love Notes』

Stevie Wonder参加のアルバム☆Ramsey Lewis『Love Notes』
ラヴ・ノウツ
発表年:1977年
ez的ジャンル:エレガント系ジャズ・ファンク
気分は... :長い間忘れていました!

Jazz界の大物キーボード奏者の一人Ramsey Lewisの3回目の登場です。

『Sun Goddess』(1974年)、『The In Crowd』(1965年)に続いて紹介するのは、『Love Notes』(1977年)です。

恥ずかしながら、このアルバムを持っていることをずっと忘れていました。
昨年、CD棚を眺めていたらふと本CDを発見!それ以来ちょくちょく聴いて本作の素晴らしさを再認識しています。

1970年代から80年代にかけてのRamsey Lewisと言えば、『Sun Goddess』(1974年)、『Salongo』(1976年)、『Tequila Mockingbird』(1977年)、『Routes』(1980年)といったEarth,Wind & Fireメンバーとのコラボ作品の印象が強いですね。

そのため、EW&Fメンバーは参加していない非EW&F系作品は割を食うことも多いと思います。
本作『Love Notes』も非EW&F系作品ですが、Stevie Wonder参加という目玉があるアルバムとして見逃せない作品です。

『Sun Goddess』でもStevieの「Living for the City」(オリジナルは『Innervisions』収録)を取り上げていましたし、Ramseyの強い希望でこのコラボが実現したのかもしれませんね。

Stevieは、「Spring High」「Love Notes」の2曲で楽曲提供&レコーディング参加しています。

プロデュースはRamsey本人とBert DeCoteaux。Bert DeCoteauxは次作『Tequila Mockingbird』(1977年)のプロデュースも手掛けています。

Stevie Wonder以外は、Delf Reklaw Raheem(fl、per、vo)、Byron Gregory(g)、Jimmy Bryant(clavinet)、Ron Harris(b)、Tery Fryer(key)、Keith Howard(ds)、Michael Davis(tp、vo)等のミュージシャンが参加しています。

Stevie参加の2曲以外もなかなか楽しめる演奏が揃っています。Ramsey Lewisのアコースティック・ピアノが大きくフィーチャーされており、その意味ではEW&F系作品以上にRamsey Lewis本来の魅力を堪能できると思います。

本作は、Maurice Whiteと共に『Salongo』のプロデュースを手掛けたものの、その直後に急死したCharles Stepneyに捧げられています。

全曲紹介しときヤス。

「Spring High」
本作のハイライト!Stevie Wonder絡みの1曲目。Stevieらしい雰囲気の1曲ですよね。本曲の聴きどころはRamseyのピアノとStevieのシンセのエレガントな絡みですよね。春のそよ風のような清々しさが運んでくれるRamseyのピアノがサイコーです。この1曲だけでも元が取れると思いマス(最近、このフレーズ多いですね)。

クラブ系リスナーの方はDJ Spinna/Bobbito『Wonder Of Stevie』でご存知かもしれませんね。

「Love Theme from "A Star Is Born"(Evergreen)」
Barbra Streisandの全米チャートNo.1、アカデミー主題歌賞受賞の名曲カヴァー。Barbraのオリジナルが大好きな僕の密かな目玉曲です。Ramseyはこの名曲をスウィートなテイストとファンキーなテイストを織り交ぜて聴かせてくれます。

「Shining」
ファンク好きの方にはこの曲が一番のオススメ。ここではRamseyはエレピをプレイし、EW&F系作品に近い仕上がりになっています。Michael Davisのヴォーカルをフィーチャー。

「Love Notes」
タイトル曲はStevie Wonder絡みの2曲目。美しすぎるStevieのメロディアスな楽曲がサイコーです。また、それに応えるRamseyのスウィートがこれまたサイコーです。心がモヤモヤしている方は、この曲を聴くと心身ともにスッキリすると思いますよ!

「Chili Today, Hot Tamale」
ラテンかつスペイシーなファンク・チューン。作曲者でもあるDelf Reklaw Raheemがフルート&パーカッションで活躍しています。

「Messenger」
ギターで参加のByron Gregory作品。少しダークな仕上がりがアルバムの中でアクセントになっています。

「Stash, Dash」
ご機嫌なファンク・チューン。Michael Davisのヴォーカルをフィーチャーしたアップもの。Ramseyのシンセ・ソロが聴かせてくれます。

Ramsey Lewis作品はかなり歯抜け状態なので、ボチボチ充実させたいと思いマス。
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2008年05月11日

Ike & Tina Turner『River Deep Mountain High』

Phil SpectorとTina Turnerのコラボ☆Ike & Tina Turner『River Deep Mountain High』
River Deep - Mountain High
発表年:1966年
ez的ジャンル:ウォール・オブ・サウンド+ダイナマイトR&Bヴォーカル
気分は... :胃もたれ気味...

昨晩は焼肉を食べ過ぎて少し胃もたれ気味(泣)

直前までフル回転で仕事をしており、そのメンバーでハイテンションのまま調子にのって飲み食いしてしまいましたが、そのツケが回ってきました。少しは歳を考えないといけませんな。

今日紹介するアルバムは焼肉に負けないくらいガッツリくるアルバムIke & Tina Turner『River Deep Mountain High』(1966年)です。

Ike & Tina Turnerは、1959年に結成され、1976年に解散した夫婦デュオ。

1950年代から音楽業界で活躍していたIke Turnerの元にやって来たのがTina Turner(本名:Anna Mae Bullock)でした。1960年に結婚した二人はIke & Tina Turnerとしての活動を開始します。

デビュー・ヒット「A Fool in Love」(R&Bチャート第2位)をはじめ、R&Bチャートでヒットを飛ばし、Tinaのダイナマイト・ヴォーカル&激しいステージ・パフォーマンスは高い評価を受けました。1960年代後半からは白人リスナーも意識したアプローチを展開し、「River Deep, Mountain High」(1966年UKシングル・チャート第3位)やCCRのカヴァー「Proud Mary」(1971年全米ポップ・チャート第4位)といったヒット曲を生んでいます。

グループは1976年に解散。Ikeの麻薬問題や家庭内暴力にTinaは悩まされていたようですね。二人は1978年に正式に離婚。しかもIke & Tina Turner時代の権利は全てIkeが保有するというTinaにはあまりに辛い結末でした。

Ike & Tina Turner時代の曲を全く歌えないという不遇時代を過ごしたTinaですが、Rolling Stonesのメンバーはじめ彼女を慕うミュージシャン仲間の励ましもあり、ご存知の通り1984年のアルバム『Private Dancer』で見事カムバックしました。

『Private Dancer』は僕もかなり聴き込みました。特にAl Greenの名曲カヴァー「Let's Stay Together」が大好きでしたね。

一方、離婚騒動ですっかり悪役となったIkeは、その後もドラッグ問題で服役するなどトラブルが絶えませんでした。そして、2007年に76歳で死去しています。

Ike & Tina Turnerの魅力ってレコードではなく、ライブでこそ本領発揮なのでしょうね!日本でも1970年12月に行われた赤坂MUGENでのライブは伝説になっていますしね。

以前にNHKのBSでRolling Stone誌が選んだ『Top 500 Greatest Rock Songs Of All Time』を特集する番組をやっていましたが、その中で第33位に「River Deep, Mountain High」がランクインされており、TVショーでのパフォーマンスの映像が放映されました。Tinaのあまりのカッチョ良さに惚れ惚れしてしまいました。あれに対抗できるのはJames Brownぐらいしか居ない気がします。

その「River Deep, Mountain High」は、"ウォール・オブ・サウンド"のPhil Spectorプロデュース作品です。このコラボはPhil Spector側から"是非Tinaのレコードを作りたい!"との連絡があり、実現したものでした。

それまで歌ってきたノリ重視のR&Bチューンと異なるキャッチーなメロディの楽曲をTinaも気に入り、早速レコーディングが開始されます。レコーディングにはLeon Russell、Hal Blaine、Sonny Bono(Sonny & Cher)、Barney Kessel等総勢15名のミュージシャンが集い、かつてTinaが経験したことがないほどの時間を費やして録音されました。

こうして出来上がった作品はSpectorもTinaも"No.1ヒット間違いナシ!"との自信作でした。そして、1966年5月にこのシングルがリリースされますが、目論みは外れてしまい全米チャートでもR&Bチャートでも惨敗してしまいます。

一方、イギリスでは前述のように大ヒットし、それを気に入ったRolling StonesがIke & Tinaをツアーの前座に抜擢するほどでした。こうしたイギリスでの反響によって、「River Deep, Mountain High」はオールタイム・ベストの第33位ランクインするほどの名曲になりました。

今日紹介する『River Deep Mountain High』(1966年)は、その「River Deep, Mountain High」をフィーチャーしたPhil Spectorプロデュースのアルバムです。

ただし、Phil Spectorが手掛けているのは収録曲の約半分で、残りはかつてのIke & Tina Turnerのレパートリーが収録されています。Phil Spectorが手掛けた作品はTinaとSpectorのコラボであり、そこにIkeの存在はありません。しかし、かつてのヒット曲が収録されることで、かろうじてIke & Tina Turnerのアルバムという体裁を保っているという変則アルバムになっています。
※このあたりの理解はかなり曖昧です。間違っていたらゴメンナサイ。

全体の統一感という観点で考えると訳のわからないアルバムですが、かつてのヒット曲とSpector作品の対比がよくわかるという点では面白いアルバムだと思います。

オススメ曲を紹介しときやす

「River Deep, Mountain High」
前述のとおりの名曲です(Phil Spector/Jeff Barry/Ellie Greenwich作品)。"ウォール・オブ・サウンド"をバックにTinaのダイナマイト・ヴォーカルが炸裂します。女性コーラスも加わったゴージャスなサウンドを相手にしても、それに負けないTinaのヴォーカルのパンチ力には脱帽です。

この曲が名曲であることは、Harry Nilsson 、Deep Purple、Supremes & Four Tops、Animals、Easybeats等カヴァーした面々の顔ぶれを見てもわかると思います。

「I Idolize You」
この曲は1960年にR&Bチャート第5位となったヒット・チューン。「River Deep, Mountain High」と対比すると面白いと思います。

「A Love Like Yours (Don't Come Knocking Everyday)」
Martha Reeves & The Vandellasのカヴァー(Dozier/Holland/Holland)作品。オリジナルは1963年の大ヒット曲「(Love Is Like A) Heat Wave」のB面曲としてリリースされました。必ずしもTinaに合ったカヴァーではないと思いますが、Phil SpectorがD-H-D作品を手掛けたというのが興味深いですね。

UKでは「River Deep, Mountain High」に続くシングルとして、チャート第16位のヒットとなりました。

「A Fool in Love」
前述のようにR&Bチャート第2位となった1960年のデビュー・ヒット。このR&Bノリこそが本来のIke & Tina Turnerなのでしょうね。

「Hold on Baby」
Phil Spector/Jeff Barry/Ellie Greenwich作品。「River Deep, Mountain High」がお好きな方ならば気に入る曲でしょう。ある意味、「River Deep, Mountain High」以上にカッチョ良い曲だと思います。

「I'll Never Need You More Than This」
Phil Spector/Jeff Barry/Ellie Greenwich作品。この曲はいかにもSpectorとTinaのコラボといった感じがする仕上がりですね。女性コーラスとTinaの絡みが印象的ですね。この曲もかなり好きです。

「Save the Last Dance for Me」
ご存知The Driftersの大ヒット曲のカヴァー。好き/嫌いが分かれるかもしれませんね。ちなみに僕はSpectorとTinaのコラボ曲の中では一番僕の好みではありません(笑)

「Such a Fool for You」
Ike Turner作品。こんなことを言うと台無しになるかもしれませんが、このストレートなR&Bノリの作品が一番のお気に入りです。"ウォール・オブ・サウンド"をバックに歌うTinaはあくまで仮の姿で、やっぱりこの雰囲気が一番似合う気がします。

「It's Gonna Work Out Fine」
1961年にR&Bチャート第2位となったヒット曲。TinaとIkeとの掛け合いがなかなか面白いです。

Ike & Tina Turnerのようなアーティストは、アルバム単位で紹介すること自体に無理があるのかもしれませんね。
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2008年05月10日

Arto Lindsay『Prize』

ブラジル人のDNAが組み込まれたアメリカ人☆Arto Lindsay『Prize』
プライズ
発表年:1999年
ez的ジャンル:ブラジル音楽+アヴァンギャルド・サウンド
気分は... :静けさと過激さと...

今回はArto Lindsayの1999年作品『Prize』の紹介です。

これまでPeter SchererとのユニットAmbitious Loversは紹介しましたが、Arto Lindsayのソロ・アルバムは初めてになります。

Arto Lindsayは1953年ニューヨーク生まれのギタリスト/シンガー。牧師だった父親の任務の関係で3歳から15年間ブラジルで過します。1978年にニューヨークでD.N.Aを結成、NYアンダーグラウンドの金字塔的アルバム『No New York』でのノー・チューニングによるノイズ・ギターは大きなインパクトを与えました。

その後、Lounge Lizards、Golden Palominos等での活動を経て、Peter SchererのユニットAmbitious Loversを結成し、『Envy』(1984年)、『Greed』(1988年)、『Lust』(1991年)と3枚のアルバムをリリース。パンク、ファンク、ジャズ、ブラジルなどさまざまな音楽がカオス状態で詰め込まれているアヴァギャルドなサウンドを披露してくれました。

90年代半ばからはソロ活動を開始し、『The Subtle Body (O Corpo Sutil)』(1995年)、『Mundo Civilizado』(1996年)、『Noon Chill』(1997年)、『Prize』(1999年)、『Invoke』(2002年)、『Salt』(2004年)といった作品を発表しています。

また、Caetano VelosoMarisa Monte、Gal Costa、Carlinhos Brown等ブラジルのトップ・アーティストのプロデュースも数多く手掛けています。

さらに、坂本龍一との親密な交流をはじめ、テイ・トウワ、葉加瀬太郎、大貫妙子、中谷美紀、ゲイシャ・ガールズ、UA、ゴンチチのプロデュース等日本人アーティストとのつながりも多い人ですね。

本国アメリカ以上に日本で人気のあるアーティストの1人ですよね。

Ambitious Loversのエントリーの時にも書きましたが、我が家のCD棚において、Arto Lindsayのソロ作品はUSロックとブラジル/ラテンの棚を行ったり来たりしており、置き場所が一定しません。どちらのコーナーに置いても違和感があるんですよね。それだけ個性的な存在のアーティストなんでしょうね。

基本はブラジルなんだけど、ボッサ/サンバなサウンドの中から時折顔を見せるアヴァンギャルドな展開は、Arto Lindsayにしか創り出せない世界だと思います。ブラジル音楽とアヴァンギャルド・サウンドという相容れないように思える要素を、見事に融合させてしまうのがいいですよね。

Arto Lindsayの場合、アメリカ人でありながらブラジル人のDNAが半分組み込まれているような人なので、ブラジリアン・サウンドが実に馴染んでいますよね。上っ面のブラジリアン・テイストでないあたりも好感が持てます。

彼の作品は全てお気に入りであり、特に自分の中の優劣はないのですが、ブラジル的な要素とアヴァンギャルドな要素が一番バランスしている作品として『Prize』をセレクトしました。

プロデュースは、前作『Noon Chill』に続きArto Lindsay本人とAndres LevinMelvin Gibbsの3人。ここにDavi Moraes(g、per)、Skoota Warner(ds)の2人を加えた5人が基本的なレコーディング・メンバーです。ブラジルで曲作り、基本的なトラックの録音を行い、ニューヨークに戻って仕上げたようです。さりげにBrian Enoもゲスト参加しています。

ボーナス・トラックを含めた全13曲中5曲がポルトガル語、残りが英語で歌われています。

オススメ曲を紹介しときやす。

「Ondina」
ネオ・ボッサなオープニング。穏やかななんだけど、基本的に"陽"ではなく"陰"な感じがArto Lindsayらしくて好きです。今回聴いてみて、Sam PrekopThe Sea and Cake等のシカゴ系ポスト・ロックあたりとの共通項もあるのかな?なんて思いました。

「Prize」
タイトル曲はロック・テイストの強い仕上がり。ノイジーなArtoのギターも聴けます。Artoのアルバムならば、このギターを聴きたいですよね。ストリングスがサウンドの表情を豊かにしてくれます。

「Pode Ficar」
フツーにMPB感覚で聴けるサンバ・チューン。Artoの弱々しいヴォーカルとポルトガル語って実にマッチしていますね(笑)

「Prefeelings」
ブラジル音楽とアヴァンギャルド・サウンドが融合したArto Lindsay流ポスト・ロックといった仕上がりです。パーカッシヴなリズムにのった過激な世界を堪能できます。

「Modos」
「O Nome Dela」
NY在住のブラジル人アーティストVinicius Cantuariaとのコラボ2曲。アーティスティックなネオ・ボッサを聴かせてくれます。

「Ex-Preguica」
全体を漂う美しくも憂鬱なムードがいいですね。Steve Barberアレンジのストリングスが絶品です。

「Unsure」
アンビエント&ドラムン・ベースな1曲。こういった曲をやっても全然違和感がないですよね。

「Resemblances」
Arto Lindsayだからこそ作れるネオ・ボッサ。音の拡がりがいいですね。Brian Enoがゲスト参加しています。

「Tone」
アルバムで一番のお気に入り。フューチャー・サンバといった仕上がりです。クラブ系の音が好きな人ならば気に入る1曲だと思います。

「E Ai Esqueco」
Ambitious Lovers時代の盟友Peter Schererの美しくも悲しげなピアノが印象的です。

「Porno Samba」
日本盤のボーナス・トラック。タイトルが過激ですね。ギターの弾き語りでArtoがビミョーな歌詞を爽やかに歌ってくれます(笑)

弱々しい風貌と過激な音楽のギャップが楽しい人ですよね。
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2008年05月09日

Traffic『Shoot Out at the Fantasy Factory』

後期Trafficの中で一番のお気に入り作品☆Traffic『Shoot Out at the Fantasy Factory』
Shoot Out at the Fantasy Factory
発表年:1973年
ez的ジャンル:マッスル・ショールズ系ブリティッシュ・ロック
気分は... :このビミョーな感じが好き!

60年代〜70年代ブリティッシュ・ロックを代表するグループTrafficの2回目の登場です。

前回はデビュー作『Mr. Fantasy』(1967年)を紹介しましたが、今回は後期Traffic作品の中からお気に入りのアルバム『Shoot Out at the Fantasy Factory』(1973年)をセレクト。

『John Barleycorn Must Die』(1971年)以降を後期Trafficと呼ぶことが多いと思いますが、後期Trafficってメンバーの出入りも激しく、僕の中ではイマイチ捉えどころがない印象を受けます。

我が家のCD棚でも『John Barleycorn Must Die』『The Low Spark Of High Heeled Boys』は、数年に1度手に取るかどうかといった頻度でしか聴いていません。

そんな中、頻繁に聴く唯一の後期Traffic作品が今日紹介する『Shoot Out at the Fantasy Factory』(1973年)です。

本作におけるメンバーは、Steve Winwood(vo、key、g)、Jim Capaldi(vo、per)、Chris Wood(fl、sax)、Rebop Kwaku Baah(per)、David Hood (b) 、Roger Hawkins (ds) の6名体制です。

前作『The Low Spark Of High Heeled Boys』からRick Grech(b)、Jim Gordon(ds)が抜け、新たにMuscle Shoalsの腕利きスタジオ・ミュージシャンDavid HoodRoger Hawkinsの2人が加わりました。さらにJimmy Johnson 、Barry BeckettといったMuscle Shoals勢もゲスト参加しています。

本作の伏線として、以前に紹介したJim Capaldiの初ソロ・アルバム『Oh How We Danced』(1972年)があります。このレコーディングでTrafficメンバーとMuscle Shoals勢が交流し、その流れでグループへ参加することになります。

『Oh How We Danced』『The Low Spark Of High Heeled Boys』はセットで聴くのがオススメです。

両作品ともMuscle Shoalsの二人が加わったことで、泥臭くかつリズミックな南部サウンドが強調されている点は共通しています。

Trafficというグループは、Steve Winwoodのみに注目してはいけないグループだと思いますが、あえてWinwoodに注目するならば、やはり彼のソウルフルなヴォーカルにはR&B寄りのグルーヴ感のあるサウンドが似合うと思います。僕のようにThe Spencer Davis Group時代のWinwoodがお好きな方は特にそう思うのでは?

その意味で、Muscle Shoalsのリズム隊とWinwoodのヴォーカルの組み合わせはグッドですね!

ジャマイカへ飛びわずか8日間でレコーディングしたため、完成度が低い、構成が散漫等々の批判も受けるアルバムですが、全米アルバム・チャート最高位第6位となり、『John Barleycorn Must Die』(最高位第5位)に次ぐチャート・アクションを残しています。

南部テイストとTrafficらしさのせめぎ合いを楽しむアルバムだと思います。

Chris Wood作の「Tragic Magic」を除き、Capaldi/Winwood作品です。

全曲紹介しときヤス。

「Shoot Out at the Fantasy Factory」
邪道ですが、Trafficの中で一番好きな曲です。およそTrafficらしからぬファンキー・グルーヴがサイコーです。Muscle Shoalsのリズム隊参加の成果だと思います。Rebopのパーカッションもグッド!基本的にRebopの目立つ演奏=僕の好きな演奏というパターンが多いですね。
個人的にはこの1曲のみでも元が取れると思います!Trafficファンの方がこの曲をどう思うかはビミョーですが(笑)

「Roll Right Stones」
10分超のアメリカン・テイストのリリシズムが溢れる1曲。Winwoodのソウルフルなヴォーカルには、こういったリリシズムが似合うと思います。演奏面では南部テイストとTrafficらしさを融合しようと試行錯誤しているのが楽しかったりします。

「Evening Blue」
哀愁ムードが漂います。全体的にはいい感じだと思いますが、Chris Woodのサックス・ソロが余計かな(笑)

「Tragic Magic」
Chris Wood作のインスト曲。ジャズ的アプローチの曲なのでしょうが、このメンバーで演奏するとアーシーな仕上がりになるところが面白いのでは?

「(Sometimes I Feel So) Uninspired」
「Shoot Out at the Fantasy Factory」と並ぶ本作のハイライトだと思います。南部テイストたっぷりのゴスペル・ライクな1曲。Winwoodのヴォーカルを存分に堪能できます。Winwoodはギターでも頑張っています。

オリジナル・ジャケは『The Low Spark Of High Heeled Boys』に続き、Tony Wrightデザインによる六角形ジャケでした。CDだとわからないのが残念ですね。

Steve Winwoodのソロ作も長らく紹介していないですね。そのうち取り上げたいと思います。
posted by ez at 07:32| Comment(2) | TrackBack(0) | 1970年代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする