発表年:1968年
ez的ジャンル:ルーツ探求系叙情派ロック
気分は... :シンプルだけどコクがある!
The Band『Music From Big Pink』は、今聴くと実にシンプルで地味な雰囲気のアルバムである。
でも、このアルバムが当時の音楽シーンに与えた衝撃や影響力は計り知れない。何せサイケデリック一色だった時代に、カントリー、フォーク、ブルース、R&B、ゴスペル、ニューオリンズ音楽といったシンプルでイナたいルーツミュージックというサイケデリックとは真逆の音楽だもんね。
このアルバムへの賛辞は、当時の音楽界のスーパースター達の言動からも明らかだ。彼らの恩師でもある神様Bob Dylanに“世界最高のバンド”と言わしめ、アルバムジャケットまで Dylanに書かせてしまった(上手いのか下手なのかようわからんけど)。また、このアルバムに衝撃を受けたEric ClaptonはスーパーグループCreamの解散を決意し、Claptonの最高傑作Derek & The Dominos『Layla & Other Assorted Love Songs』誕生へと向かうのであった。
1957年にアーカンソー出身のロカビリーシンガーRonnie HawkinsのバックバンドThe Hawksに、ドラマーとして同郷のLevon Helmが参加したのが全てのスタートである。1958年にRonnie Hawkinsはカナダ公演を行い、その人気ぶりからそのまま活動拠点をカナダに移した。しかし、その一方でバックバンドThe Hawksのアメリカ人メンバーが次々と抜けていき、その代わりとしてカナダ人メンバーが加入していった。
その結果、1961年末にはThe Hawksは4人のカナダ人(Robbie Robertson、Rick Danko、Garth Hudson、Richard Manuel)と1人のアメリカ人(Levon Helm)というメンバー構成になっていた。この5名こそがThe Bandのオリジナルメンバーである。
The Hawksは1964年にHawkinsのもとから独立した。その後Bob Dylanと出会い、彼のツアーのバックバンドを努めた。1966年のオートバイ事故でDylanがウッドストックの別荘で静養を兼ねた隠遁生活に入ってしまうと、それと同調するかのようにHawksのメンバーもウッドストックに移り住んだ。この時借りた外装がピンクに塗られた大きな農家こそが本アルバムタイトルにもなっている“Big Pink”だ。
Big Pinkの地下室にレコーディング・スタジオが作られ、1967年からDylanとHawksのメンバーはセッションを重ね、それをレコーディングしていった。この時のレコーディングの成果が8年後の1975年に発売されたDylanの『The Basement Tapes』である。そして、Dylanからの勧めで作られたオリジナルアルバムこそが『Music From Big Pink』であり、この時から彼らは“The Band”を名乗るようになった。Dylanを含めた周囲が彼らのことを“The Band”と呼んでいたので、そのままバンド名となったのが由来だ。
『Music From Big Pink』は、アメリカ人が忘れていたルーツミュージックの素晴らしさを再認識させたアルバムと言える。きっとアメリカに憧れたカナダ人中心のグループであったからこそ、こんな感動的なルーツミュージックを提示できたのかもね!日本人力士よりも朝青龍や琴欧州に相撲の素晴らしさを感じる最近の大相撲に似ているかも??
オススメ曲を紹介しときやす。
「Tears of Rage」
ManuelとDylanの共作によるオープニング。哀愁漂うオルガンとアコーディオンが印象的デス。
「In a Station」
これまたManuelのナンバー。何か1920年代位の古いモノクロのドキュメンタリーフィルムをイメージしてしまいマス。
「The Weight」
The Bandの代表曲とも呼べるRobertsonの作品。アメリカンニューシネマの名作『イージーライダー』でも挿入歌として使われ、数年前にサントリー角瓶のCMソングにもなっていましたよねぇ。僕もこの曲が一番スキです。このシンプルなんだけどアーシーなコクと深みはたまらないっす。大豆の旨味を堪能できる絶品豆腐を軽く塩をひとつまみ程度で食した時の幸福感に似てるかも...って伝わるかな???
「We Can Talk」
ゴスペルのようなオルガンの音色が印象的なナンバー。これもManuelのナンバーだ。Robertsonの作品ばかりが目立つグループであるが、意外とManuel作品にハマっていることに気付きまシタ。、
「Long Black Veil」
「Weight」にもう少し苦味を加えたような曲。ウィスキーをロックでチビチビやりたくなるねっ!
「Chest Fever」
荘厳なオルガンのイントロからアーシーなロック、そして一転してディキシー調へとさまざまな展開を見せる曲。
「Lonesome Suzie」
これまたManuel作品による美しく悲しい絶品バラード。
「This Wheel's on Fire」
DankoとDylanの共作。地味な曲が多いなかで比較的派手な曲かも?
「I Shall Be Released」
アルバムのラストはDylanの名曲。「Weight」と並ぶ本作のハイライトっす。何度聴いても感動できるというか、聴くたびに救われる気分になりマス。彼らのラストアルバム&ラストコンサートであった『The Last Walyz』の最後にDylan、Claptonを初めとする豪華ゲスト陣と共演したバージョンも印象的でしたよね。
本作以外では2nd『The Band』(1969年)、7th『Northern Lights Southern Cross 』(1975年)、前述の『The Last Walyz』が僕のお気に入りデス。