発表年:1975年
ez的ジャンル:ルーツ探索系ロックセッション
気分は... :地下で何が...
偉大なるロック詩人Bob Dylanの3回目の登場デス。
『Highway 61 Revisited』(1965年)、『Hard Rain』(1976年)に続く3枚目は、The Bandとの地下室での音楽的実験『The Basement Tapes(邦題:地下室)』(1975年)デス。
ファンの方はご存知の通り、フォークからロックへの移行し、その地位を確立した2枚組大作『Blonde on Blonde』(1966年)発表から2ヵ月後の1966年7月、別荘のあるウッドストックの路上でバイクの転倒事故に遭ったDylanは瀕死の重傷を負う。
ロック界の時の人Bob Dylanはシーンから忽然と消え、静養を兼ねた隠遁生活に入る。この間、マスコミをシャットアウトしたため、死亡説、廃人説なども流れた。
Dylanがシーンに戻ってくるのは約1年半後の1967年暮れである。そして発表された作品がカントリーの本場ナッシュビルで全曲録音された『John Wesley Harding』。ロック界での成功を印象づけた『Blonde on Blonde』に対して、新作を貫いたのはカントリー・フレイヴァーであり、Dylanの変化を感じさせるものであった。
この『Blonde on Blonde』と『John Wesley Harding』とのギャップを埋めてくれる作品が1975年に発表された『The Basement Tapes』である。
バイク事故の隠遁生活の間、Dylanはおとなしく静養していただけではなかった。ある程度回復した1967年6月から11月にかけて、ウッドストック郊外の“Big Pink”と呼ばれた借家の地下室に籠もり、Dylanは音楽実験を試行していた。この時に一緒にセッションを重ねたのがThe Hawks(後のThe Band)のメンバーである。
このセッションの成果は、The Bandのデビュー・アルバム『Music From Big Pink』(1968年)として発表される。本ブログでも紹介したとおり、この作品で演奏されたルーツミュージックは多くのミュージシャンに多大な影響をもたらし、シーン全体を南部へと向わせた。
一方で、この時のDylanの成果は公になることはないままであった。しかし、1968年にRolling Stone誌がこの私的セッションの事実を公表すると、一部がデモテープとして業界内で出回り、1969年には『Green White Wonder』というタイトルの海賊盤も発表される。
このように正式に作品が発表されないまま、この地下室でのセッションを音楽シーン全体に影響をもたらすこととなった。
そして、1975年にこのセッションの模様が『The Basement Tapes』として発売されることとなる。
大分長くなりましたが、この作品が生まれた経緯はこんなカンジです。
ファンの方が書けば、背景にはもっといろいろあるのかもしれませんが...
発売タイミングの遅れや、私的レコーディングによる音質の悪さなども手伝って、ファンの間でもこの作品は賛否両論みたいですね。“悪くはないけど、それほど騒ぐほどでもない”といったビミョーなニュアンスの評価が結構多いのかなぁ?
確かに、本作が発表された1975年前後のDylanは、『Planet Waves』(1974年)、『Before the Flood』(1974年) 、『Blood on the Tracks』(1975年)、『Desire』(1976年)、『Hard Rain』(1976年)と全キャリアを通じてもかなりの充実期で、敢えて過去のレコーディング作品へ向う必然性は感じられない気もしますね。
でも、個人的にはこの作品は結構好きだなぁ。単純だけど、Dylanだけではなく、The Bandとセットになっているのが大きいかも?
全24曲中8曲は、The Band単独のものです。Dylanマニアではない僕は細かいことにはあまり関心がないのですが、全てがBig Pinkで録音されたものではなく、後にオーバーダブされた箇所もかなりあるみたいです。
まぁ、ずらずら書いてきましたが、余計な予備知識ナシでも十分楽しめる1枚っす。
オススメ曲を紹介しときやす。
「Odds and Ends」
本作のオープニングにぴったりのタイトル(残りもの)ですね。ノリがいいけど、コクもあるご機嫌なロック・チューン。Robbie Robertsonのギターがいいね!(オーバーダブみたいだけど)
「Orange Juice Blues (Blues for Breakfast) 」
The Band単独曲(Richard Manuel作品)。二日酔い気分のブルースってカンジでしょうか。でも、この少し洒落たムードのブルージー感覚は『Music From Big Pink』にはないかも?
「Million Dollar Bash」
Dylanらしい作品ですね。Dylan一人で弾き語りでも良さそうだけど、The Bandが加わることで芳醇さが増すカンジがいいですね。
「Yazoo Street Scandal」
Robbie RobertsonのペンによるThe Band単独曲。かなりカッチョ良い曲ですね。Beatles「Come Together」を南部ロック・テイストにしたカンジが好き(ヘンな説明でゴメンナサイ)。
「Katie's Been Gone」
The Band単独曲(Richard Manuel作品)。Richard ManuelはRay Charlesから影響を受けているらしいみたいですが、そんなブラック・フィーリング溢れたボーカルを堪能できマス。
「Lo and Behold」
以前にも書いたけど、僕はDylanを聴いているとあの独特のトーキング・スタイルがラッパーに思えてくることがある(笑)この曲もそんなDylanに出会えます。
「Bessie Smith」
Robbie RobertsonとRick Dankoの共作によるThe Band単独曲。The Band好きの人は安心して聴ける1曲。あの荘厳で哀愁感漂う演奏とボーカルを堪能できマス。
「Tears of Rage」
『Music From Big Pink』のオープニングも飾ったDylanとManuelの共作曲。哀愁漂うオルガンとアコーディオンが印象的デス。本作のハイライトの1つですな。
「Too Much of Nothing」
不安感を煽るコード進行が全然Dylanらしくない1曲。全体を覆うクールでダークな雰囲気が実に興味深いですね。
「Ain't No More Cane」
トラディショナル・ソングをThe Bandをアレンジしたもの。The Bandらしいアーシーなコクと深みがなんともシブいです。
「You Ain't Goin' Nowhere」
「Nothing Was Delivered」
The Byrdsのカントリー路線アルバム 『Sweetheart of the Rodeo』で取り上げられた2曲。本作の影響力の大きさを窺えますね。The Byrds自体は大好きだけど、このカントリー路線はあまり好きではないというビミョーな心境の僕なのですが(笑)
「Long Distance Operator」
Dylan作品をThe Band単独で演奏したもの。へヴィーな南部ロックらしい演奏を聴くことができマス。
「This Wheel's on Fire」
『Music From Big Pink』にも収録されたDylanとDankoの共作曲。言わずもがなの名曲ですね。
本セッションでDylanを代表する名曲も「I Shall Be Released」レコーディングされていたのですが、何故か本作には収録されていません。
このように書いてきて、Dylan以上にThe Band単独曲への関心が高いのかなぁと思えてきました。
それにしても、ロック界全体がサマー・オブ・ラブで浮かれていた1967年に、地下室でこんなアプローチをしていたいうのが興味深いですな。サイケとフラワーが支配していた時代に、表舞台から姿を消していたというのは、戦略的にも正解だったのでは?