発表年:1996年
ez的ジャンル:メロディアス・オルタナ・ロック
気分は... :時代の空気を吸おう!
巷では「●●年代ロックのベスト100」とやらが流行っていますね。
某雑誌が3ヶ月連続で60年代、70年代、80年代のロックベスト100の特集を掲載した影響だと思いますが、60年代〜80年代までで90年代には立ち入らないというのがミソでしょう。
僕が思うに、90年代を境に洋楽リスナーは新旧に分断されている気がします。その時点で洋楽の聴き方が大きくパラダイム転換してしまったからでしょうね。
きっと80年代前半あたりまでは、ロックを中心にビルボードのTop40あたりをフォローし、加えてマイナーな作品を多少知っていれば、洋楽通ってカンジだったでしょうか。僕も昔はそんなリスナーの一人でしたね。
しかし、80年代後半あたりになると、Top40の動きと連動しないカレッジ/インディ・チャートの動きが活発化するなど変化の兆候が見えはじめました。さらに、ロックの対抗勢力としてR&B/ソウルがレコード/CDショップの売場面積を拡大していき、Hip-Hop、ハウス/テクノ、ワールド・ミュージック(ラテン、アフリカ等欧米以外の音楽)といった新ジャンルが生まれ、徐々に地殻変動が起きていたような気がします。
90年代に入るとそれら洋楽の細分化・多様化の動きが一気に加速し、もはやロックやTop40という枠組みで洋楽をすくい取ることは困難となり、ロック中心の洋楽というパラダイムは完全に崩壊しまシタ。R&B/Hip-Hopから洋楽に入り、そのままロックを全く聴かずに過ごす世代が急増すると同時に、特定の音楽ジャンルを深く追求するスタイルの人も増えましたよね。
ロックに限定しても、時代はグランジ/オルタナやダンス・カルチャーとの融合といった流れになっており、従来の延長では聴きづらい状況になってしまいました。
結果として、旧来の洋楽通の方は居場所を求めて、現在ではなく過去を掘り下げるといったベクトルへ向かったのではと推察します。そういったニーズをうまくすくい取ったのが前述の某雑誌なのでしょう。
僕の場合、そのタイミングでたまたまロック中心からR&B/ソウル中心の洋楽ライフへシフトしていたので、その立ち位置からリアルタイムの洋楽を聴き続けることができ、ラッキーだったのかもしれません。
誤解しないで欲しいのは、僕は新旧どちらの聴き方も好きだという点です。
節操ないから、両方の聴き方ができるのかもしれませんが(笑)
さて、長い前フリをした上で今回は90年代アメリカン・ロックです。
ということで、USインディ/オルタナ・ロックの重要人物の一人であったLou Barlowの率いるSebadohの『Harmacy』(1996年)です。
かつてJ Mascisと共にDinosaur Jr.に在籍していたLou Barlowが結成したグループがSebadohです。
前述のように、90年代に入るとロック離れが進行していった僕ですが、我が家のCD棚の90年代アメリカン・ロック・コーナーを眺めてみると、Dinosaur Jr.、Sebadoh、Folk ImplosionとLou Barlow絡みのアルバムが意外と揃っています。
きっとロック離れが進んでいても、心の何処かで時代を反映したロックの空気に少しは触れていたいとの思いがあったのでしょうな。歯抜け状態ですが、Sonic Youth、Nirvana、Pearl Jam、Nine Inch Nails、オルタナ・カントリー等を揃えてあるのも同じ理由ですね。
そんな中でLou Barlow関連作品が多いのは、特にSebadoh、Folk Implosionあたりのローファイな素朴感やオーソドックスなカンジが僕に合っていたのかも?
本作『Harmacy』(1996年)は、ローファイ感はかなり弱まりましたが、グループとしての完成度はかなり高まったアルバムだと思います。何よりこの手のグループとしては曲が抜群にいいと思います。かなり地味ですけどね(笑)
メンバーはLou Barlow、Jason Loewenstein、Bob Fayの3名。Jason Loewensteinがソングライティングの面でもLou Barlowと並んで頑張っていますね。
90年代ロックは70年代ロック、80年代ロックと比べると閉塞感や虚無感が蔓延している印象を受けるかもしれません。でも、それが時代の空気ならば、その空気を吸うのもロック的なのでは?
オススメ曲を紹介しときやす。
「On Fire」
90年代以降のオルタナ・カントリー的なカントリー・ロック。穏やかな雰囲気の中に陰を感じるのがらしいですね。
「Prince-S」
ややハードめのメロディアスなギター・ロック。シンプルなのがいいですね。
「Ocean」
シングルにもなったポップなナンバー。下手するとパワーポップ一歩手前ですね。Lou Barlowってこんなにポップだったけ(笑)
「Nothing Like You」
なんて、言っていると気だるい虚無感たっぷりのナンバー。こういったムードの方が合っていますね。
「Crystal Gypsy」
かなりエッジの効いたノイジーなロック・ナンバー。普段この手を曲を聴きなれない分、たまに聴くとスカッとしますね。1分半というコンパクトさも僕にはピッタリ!
「Beauty of the Ride」
この曲もシングルになったナンバー。適度にハードでメロディアスな完成度の高いギター・ロックだと思います。アルバムで一番好きですね。
「Mind Reader」
「Beauty of the Ride」と並ぶ僕のお気に入り曲。ハードめの演奏がいいカンジ。個人的にはコアなパンクやメタル系のようなハードすぎるものは苦手なのですが、ノリ一発ではないこのハードさは大好きですね。
「Willing to Wait」
切なく冷めた雰囲気のカントリー・ロックってカンジでしょうか。この味わいは旧世代のロック・ファンの方にも受け入れられるのでは?
「Zone Doubt」
実に抜けのいい、ストレートなロック・ナンバー。素直にカッチョ良いですね。
「Too Pure」
「Perfect Day」
90年代らしいメロディアスなナンバー2曲。くどすぎない甘さが好きだなぁ。
「Can't Give Up」
キャッチーなミディアム・ロック。70年代ロックのカッチョ良さと共通するものがあります。
本作が気に入った方はLou Barlowの別プロジェクトFolk Implosionの『One Part Lullaby』(1999年)あたりも気に入るのではと思います。あるいは、よりローファイな感覚を堪能したいのであれば、初期のSebadohやFolk Implosionの作品がオススメです。
滅多に90年代アメリカン・ロックを聴かなくなった僕ですが、たまに聴くといいですね。
毎日聴きたいとは思わないけど(笑)