発表年:1968年
ez的ジャンル:不世出系天才シンガー
気分は... :僕にとっての麦藁帽は何なのだろう?
昨日たまたまTVで映画『人間の証明』を観た。
ご存知の通り、森村誠一による大ベストラー小説の映画化である。
故松田優作の翳りと怒りに満ちた演技が何度観ても印象的ですな。
あまり小説を読まない僕でもこの原作は何度も読み直した。
好きというよりも、忘れられない作品という感じだろうか。
母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね ええ、夏、碓氷峠から霧積へ行くみちで 渓谷へ落としたあの麦藁帽ですよ...
という事件を解く重要な鍵となる西条八十の詩「帽子」の一節が脳裏から離れない。
『人間の証明』に触れるたびに人間の過去やしがらみについて考える。
人は理想の未来を思い描きたがる。
一方で、人は自分の過去から逃れることはできない。
思い出の良し悪しは別として、過去こそが人が生きてきた証なのだから。
だから、人は自分のいかなる過去も受け入れなければならない。
そんな感傷的な気持ちにさせられるのが『人間の証明』という作品の魅力だと思う。
映画を観終わった後に、何故だかJanis Joplinを聴きたくなった。
ということで、今日はJanis Joplinの出世作Big Brother & The Holding Company『Cheap Thrills』(1968年)です。
Janis Joplinを取り上げるのは、ソロ第1作である『I Got Dem Ol' Kozmik Blues Again Mama!』以来2回目です。
僕がJanis Joplinを聴くのは、せいぜい数年に一度くらいであろう。多分、前回聴いたのは2005年に先に書いた『I Got Dem Ol' Kozmik Blues Again Mama!』をエントリーした時なので、約1年半ぶりのJanis Joplinですね。
僕がたまにしかJanis Joplinを聴かないのは、決して嫌いだからではありません。
Janis Joplinという人の歌に魂の重みがあるからこそ、聴く機会を厳選しているという感じでしょうか。僕の中ではJohn Coltrane、Donny Hathawayなども同じような位置づけですね。
さて本作『Cheap Thrills』は、Janis Joplinという不世出のシンガーが一気にブレイクしたアルバムですね。
Janisが属していたグループBig Brother & The Holding Companyは前年にデビュー・アルバム『Big Brother & The Holding Company』を発表していますが、必ずしもJanisを前面に押し出したものではなく、サウンドもカントリー・フレイヴァーでした。
しかし、1967年6月のモンタレー・ポップ・フェスティヴァルでのJanisの圧倒的なパフォーマンスが全てを一変させます。一躍注目を集めたJanisの魅力を引き出したそうとレコード会社が画策したのが、この擬似ライブ・アルバム『Cheap Thrills』です。
デビュー・アルバム『Big Brother & The Holding Company』に比べて、ダイレクトにJanisのボーカルの魅力を堪能できる仕上がりだと思います。
Janis Joplinという人はロック・シンガーという枠に収まりきらない魅力を持った人だったと思います。なので、普段ロックを聴かないR&B/Soulリスナーの方にぜひJanis Joplinという人に触れて欲しい気がします。
全曲紹介しときヤス。
「Combination of the Two」
ヒッピー・ムーヴメントの聖地であったサンフランシスコで、Jefferson Airplane、Grateful Dead、Quicksilver Messenger Serviceといったサイケデリック・ロックの雄に続くポジションを狙っていたグループらしい演奏が聴けます。
「I Need a Man to Love」
JanisとメンバーのSam Andrewの共作によるブルース・ナンバー。シャウトとするエネルギッシュなJanisもいいですが、こういった抑制の効いたブルージーなJanisも好きですねぇ。
「Summertime」
有名なスタンダードですね。George Gershwinによる有名なフォーク・オペラ『Porgy and Bess』の挿入歌です。ここでもJanisの抑えたボーカルがいい感じです。Gershwinのスタンダードをアシッドなサウンドで聴かせるサウンドも悪くないと思いマス。
「Piece of My Heart」
アルバムに先駆けて発表されたシングル曲。オリジナルはAretha Franklinの姉Erma Franklinの1967年のヒット曲です。Aretha Franklinに憧れていたというJanisのソウルフルな側面を堪能できる1曲ですね。
「Turtle Blues」
Janisのオリジナル。タイトルの通り直球ど真ん中のブルース・ナンバー。バックがシンプルな分だけJanisのボーカルが引き立ちます。
「Oh, Sweet Mary」
この曲はサイケデリック・ロックしています。グループとしてはもっとこうしたタイプの曲を演奏したかったのでは?
「Ball and Chain」
モンタレー・ポップ・フェスティヴァルでの熱唱で有名になったナンバー。「Summertime」、「Piece of My Heart」と並ぶ本作のハイライトですね。Elvis Presleyの大ヒット曲「Hound Dog」のオリジナルでも知られる女性R&BシンガーBig Mama Thorntonのカヴァーです。
この曲でのJanisはまさに魂の叫びというカンジですね。愛に傷ついた女性の悲哀を歌わせたら、やっぱりこの人は凄すぎますね。
Janisへの注目からこのアルバムは大ヒットしますが、逆にそれがJanisと他のメンバーとの溝を深めました。結局、本作の発表から2ヵ月後にJanisはグループを脱退することになります。