発表年:1995年
ez的ジャンル:ミステリアス系女性ジャズ・ボーカル
気分は... :和食と冷酒が合いそうな気がする...
秋らしくなってくるとCassandra Wilsonが聴きたくなります。
このダークだけれどもピュアなムードは秋にピッタリだと思いますねぇ。
Cassandra Wilsonは1955年ミシシッピ州ジャクソン生まれのジャズ歌手。80年代にミシシッピからNYへ進出し、Steve Colemanらの先鋭ジャズ集団M-BASEと共に活動していました。
90年代に入りBlue Noteへ移籍し、その第1弾アルバム『Blue Light 'Til Dawn』(1993年)で世界的な注目を集め、第2弾アルバム『New Moon Daughter』(1995年)でグラミー賞最優秀ジャズ・ボーカル・アルバム賞を受賞し、その地位を確固たるものにします。
現在の女性ジャズ・ボーカルの頂点に立つシンガーがCassandra Wilsonであることは多くの人が認めるところだと思います。そのディープかつミステリアスな低音ボーカルにはまるで精霊が宿っているようであり、ジャズ・ファンのみならずともその魅力に引き込まれてしまいますよね。僕もそんな一人です。
そんな彼女の代表作と言えば、まずは『New Moon Daughter』(1995年)ということになると思います。
『New Moon Daughter』で聴けるCassandraの世界は、決して明るいものではありません。むしろ深海のように深く、翳りのある世界です。実際、“生と死”がアルバムの大きなテーマとなっており、タイトルにDeathという言葉が含まれる曲も何曲か収録されています。一方で、そうした翳りのある世界の中から尊いピュアなものを感じ取ることができます。
変な言い方ですが、たまに都会から田舎へ行った時に空の青さや空気の美味しさといった単純なことに感動することがありますよね。それに似た感動を味わえるのがCassandra Wilsonの歌だと思います。
中身としては、Cassandra自身のオリジナルやジャズ/ブルース/カントリーのスタンダードに加えて、U2、Monkees、Neil Youngをカヴァーするという懐の深さを見せてくれます。アーバンながらも土の匂いもほんのり香るサウンドもグッドですね。
“ジャズは聴かない!”なんて偏見を持たずに、ぜひ聴いて欲しい作品ですね。特に、オーガニック・ソウルやNorah Jonesあたりが好きな人が聴くとハマるのではと思います。最近紹介した女性R&BシンガーLedisiあたりを気に入った人にもオススメです。
またまた変な表現ですが、このアルバムには和食と冷酒がよく合うような気がします。
オススメ曲を紹介しときやす。
「Strange Fruit」
Billie Holidayのレパートリーとしてお馴染みの曲ですね(邦題「奇妙な果実」)。1939年、Lewis Allanによって書かれた当時のアメリカ南部の人種差別による黒人リンチの光景を描いた歌です。このようなショッキングな歌を1995年にミシシッピ出身のCassandraが歌うところに何か深いものを感じてしまいますね。ダークかつクールなムードの中で淡々と歌うCassandraにある種の凄味を感じます。
「Love Is Blindness」
U2のカヴァー(オリジナルはアルバム『Achtung Baby』収録)。U2のオリジナルも持っていますが、正直オリジナルはそれ程いい曲だと思っていなかったので、憂いと同時に“わび・さび”を感じてしまう、このカヴァーの仕上がりは驚きでしたね。
「Solomon Sang」
Cassandraのオリジナル。和やかな雰囲気を持つフォーキーなナンバー。力強さと優しさに包まれていくような気がする1曲。
「Death Letter」
伝説のデルタ・ブルース・マンSon House作品のカヴァー。勿論どディープなブルースに仕上がっています。こういった曲を歌わせたら、ドスの効いたCassandraはハマりすぎですな。バックのアーシーな味わい満点の演奏もサイコーです。この只ならぬ臨場感は絶対聴くべし!
「Skylark」
「Star Dust」でお馴染みの作曲家/歌手/俳優Hoagy Carmichaelの作品。ペダル・スティールの響きが何ともムーディーなロマンティック・チューンに仕上がっています。それでも甘すぎず、ビタースウィートなのがCassandraらしいところです。
「I'm So Lonesome I Could Cry」
カントリーの大御所Hank Williamsのカヴァー。オリジナルに対してはカントリー特有のイモ臭さを感じてしまう僕ですが、この美しく感動的なカヴァーの仕上がりにただただうっとりしてしまいます。ビューティフル!
「Last Train to Clarksville」
なんとMonkeesの大ヒット曲をカヴァー。あの曲がこんな仕上がりになるなんて...Monkeesファンの方に大変失礼ですが、初めてこの曲が名曲だと思えるようになりました。マーベラス!(だんだんルー語になってきている???)
「Until」
Cassandraのオリジナル。この翳りが実に雰囲気があっていいですなぁ。メランコリックなアコーディオンとパカポコと響き渡るボンゴのリズムがいいカンジです。
「A Little Warm Death」
Cassandraのオリジナル。小粋でソフィスティケイトされた仕上がりの少しボッサなフォーキー・チューン。個人的にはアルバムで一番のお気に入りです。
「Harvest Moon」
Neil Youngのカヴァー。このカヴァーはオリジナルに割と近い仕上がりとなっています。先に述べたようにCassandraのボーカルには精霊が宿っているかのようです。
僕の持っている盤にはボーナス・トラックとしてRobert Johnsonのカヴァー「32-20」が収録されていますが、「32-20」の代わりにHenry Manciniの名曲「Moon River」が収録されている盤(多分、日本盤だと思います)もあるみたいですね。
さて今夜は本アルバムと塩辛を肴に一杯やろうっと...