発表年:2007年
ez的ジャンル:最も旬なHip-Hop
気分は... :クールでっせ!
年末の『ezが選ぶ2007年の10枚』でもセレクトしたLupe Fiascoの2ndアルバム『Lupe Fiasco's The Cool』の紹介です。
Lupe Fiasco(本名Wasalu Muhammad Jaco)は、1982年シカゴ生まれのMC。高校卒業後に地元シカゴでDa Pakというグループを結成し、シングルもリリースしています。Da Pakは短期間で解散してしまいますが、Lupe自身は彼の才能に早くから注目していたJay-Zのバックアップを受けるという好運に恵まれました。
さらにKanye Westの大ヒット・アルバム『Late Registration』(2005年)からの3rdシングル「Touch The Sky」でフックアップされ、広くLupe Fiascoの名が知られるようになります。
そして、満を持して2006年にデビュー・アルバム『Lupe Fiasco's Food & Liquor』をリリースします。Jay-Zがエグゼクティブ・プロデューサーとなり、Kanye West、The Neptunes、Mike Shinoda(Linkin Park)等がプロデュースを務め、Jill Scott等がゲスト参加するという豪華布陣でした。
そんな豪華布陣を前にしても、Lupeの巧みなラップが際立つというあたりに、彼のただならぬ才能を感じとることができます。
リリース前にネット流出してしまうという不運もありましたが、逆に言えば、それだけ注目されていた証でしょうね。そんな不運もはね退けて、『Lupe Fiasco's Food & Liquor』からは「Kick Push」、「I Gotcha」「Daydreamin」がシングル・カットされ、アルバムもポップ・アルバム・チャート第8位、R&B/Hip-Hopアルバム・チャート第2位という成功を収めます。
この成功を受けて、2007年のグラミー賞のBest Rap Song、Best Rap Solo Performance、Best Rap Albumの3部門にノミネートされ、今度のグラミー賞でもBest Urban/Alternative Performanceにノミネートされています。
さらには、Kanye West、Pharrell Williamsという超ビッグ・ネーム二人と共に話題のユニットCRS (Child Rebel Soldiers)を結成するなど現在のHip-Hopシーンで最も旬なラッパーと言えるかもしれませんね。。
他のアーティストの作品への客演も多く、本ブログでも紹介したJoy Denalane『Born & Raised』やDJ Deckstream『Deckstream Soundtracks』等でも彼のフロウを聴くことができます。
そんなLupe が自信を持ってドロップした新作が『Lupe Fiasco's The Cool』です。
順序としては先にデビュー作『Lupe Fiasco's Food & Liquor』を紹介すべきだと思うのですが、タイミング的にこうなってしまいました。
この2ndではSoundtrakk、Chris & Drop、Patrick Stump(Fall Out Boy)らがプロデュースを務め、Snoop Dogg、Unkleらがゲスト参加しています。正直メンツ的にはデビュー作と比較して寂しい感じですが、それだけビッグネームに頼らなくても大丈夫という自信の表れだと思います。
むしろLupeと本作でもエグゼクティブ・プロデューサーを務めるCharles "Chilly" Pattonで設立した自らのレーベル1st & 15th Entertainment (F&F)のアーティストであるMatthew Santos、GemStones、Sarah Greenらを積極的にフックアップしています。ちなみに前述のSoundtrakk、Chris & DropといったプロデューサーもF&F所属です。
内容的には、前作『Lupe Fiasco's Food & Liquor』の収録曲「The Cool」の世界をさらに発展させたコンセプチュアルなアルバムです。The Cool、The Street、The Gameといったゾンビも登場するダークな雰囲気が特徴ですね。
こうしたダーク路線は基本的には苦手な僕なのですが、本作は違和感なく聴くことができました。むしろ、何処となく儚さを伴うダークな世界がなかなか気に入りましたね。
日本通なLupeだけあって、所々で聴こえてくる日本語を発見するのも楽しいですよ。決して空耳アワーではありません(笑)
まさにHip-Hopの救世主の名に相応しいクールなアルバムです!
オススメ曲を紹介しときやす。
「Go Go Gadget Flow」
Lupeのスキルフルな高速ラップを楽しめる1曲。巧みなフロウでここまで聴かせてしまうのが凄いですね。♪ゴ・ゴ・ゴ・ゴ・ゴ〜♪Soundtrakkプロデュース。
「The Coolest」
まさに極上クールな1曲。アルバム全体のムードを象徴する感じの仕上がりです。リリカルで寂しげな雰囲気がいいですね。Chris & Dropプロデュース。
「Superstar」
アルバムからの1stシングル。前作にも参加していた白人シンガーソングライターMatthew Santosをフィーチャーしています。先行シングルになっただけあって、アルバムで一番派手でキャッチーな曲ですね。僅かアルバム1枚でスーパースターになってしまった自分自身をシニカルに観察している感じです。Soundtrakkプロデュース。
「Paris, Tokyo」
アルバムで一番のお気に入り曲がコレ。Eumir Deodato「San Juan Sunset」をサンプリングしたメロウ・チューンです。ダークな雰囲気のアルバムの中でこのメロウネスは際立ちますね。
「Hi-Definition」
Snoop Doggをフィーチャー。シングル向きのキャッチーな曲ですね。スペイシーな仕上がりが印象的です。Alshuxプロデュース。
「Gold Watch」
この曲もLupeの巧みなラップを堪能できます。特に、フジヤマ、トノサマ、マンガ、ニンジャ...といった具合に続々と日本語が聴こえくるのが楽しいですね。Chris & Dropプロデュース。
「Hip-Hop Saved My Life」
「Intruder Alert」
共にSoundtrakkプロデュースの哀愁メロウ路線の2曲。「Hip-Hop Saved My Life」は、女性シンガーソングライターであり、Nouveau Richへも参加しているNikki Jeanをフィーチャー。「Intruder Alert」は、Sarah GreenとMatthew Santosをフィーチャーしたピアノ・ループが印象的な曲。
「Streets on Fire」
Matthew Santosをフィーチャー。この曲も哀愁モードですね。定番ドラム・ネタThe Winstons「Amen, Brother」をサンプリングしています。Chris & Dropプロデュース。
「Little Weapon」
Patrick Stumpプロデュース曲。Bishop GとNikki Jeanをフィーチャー。銃を持ったアフリカの少年兵士の姿からインスパイアされた曲みたいです。オルタナ・テイストの仕上がりは、Patrick Stumpの起用が成功していると思います。
「Gotta Eat」
個人的には「Paris, Tokyo」と並ぶお気に入り。このダークなトラックが脳内を延々とループしています。Soundtrakkプロデュース。
「Dumb It Down」
GemStonesとGraham Burrisをフィーチャー。このあたりから徐々にダークな世界が深まってきます。Soundtrakkプロデュース。
「Hello/Goodbye (Uncool) 」
完成度ではアルバム随一なのでは?Unkle「Chemistry」をモロ使いし、そこへLupeがリリックをたたみ掛けます。ダークな疾走感と儚さが同居している感じが好きです。♪コンニチハ〜♪なんて日本語も聴こえます。
「Fighters」
この曲も大好き!この儚いムードがたまりません。Matthew Santosをフィーチャー。Le Messieプロデュース。
「Go Baby」
ラストはGemStonesをフィーチャーしたアップ・チューン。Soundtrakkプロデュース。
ちなみ今年リリース予定の次作のタイトルは『LupEND』になる模様です。
本人は『LupEND』のリリースを以って引退すると発言しているようですが、果たしてどうなるのでしょうね。これ程の才能を周囲もファンも手放すはずがないと思うのですが...
デビュー作『Lupe Fiasco's Food & Liquor』も改めて紹介したいと思います。