発表年:1977年
ez的ジャンル:激シブ系サンバ
気分は... :この枯れた味わいがたまらん!
今回はブラジル音楽の至宝、偉大なるサンビスタCartola(1908-1980年)の紹介です。
Cartola(本名:Angenor de Oliveira)は1908年リオ・デ・ジャネイロ生まれ。Cartola(ポルトガル語で“シルクハット”を意味する)というニックネームは、10代の頃に石工として働き、その時にいつも帽子をかぶっていたことから付けられたようです。
1920年代後半に現存する最古のEscola de Samba(サンバ・チーム)である「Estacao Primeira de Mangueira(マンゲイラ)」が創立されます。"Mangueira"と命名し、チーム・カラーを緑とピンクと決めたのはCartolaでした。
マンゲイラ結成後は、リズム隊やコーラス隊の指揮や楽曲提供などで活躍しましたが、50年代に入ると内部の派閥争いに嫌気がさし、マンゲイラを離れます。
1959年には、映画『Orfeu Negro(邦題:黒いオルフェ)』に妻のDona Zicaと共にワンシーンだけ登場しています。1963年、二人はリオに“Zicartola”というレストラン/バーをオープンし、ここを本拠地とします。Zicartolaは、Nara Leao, Paulinho da Viola等も訪れるミュージシャンの交流の場になりました。
70年代に入ると、ブラジル国内で黒人サンバに対する再評価の動きが高まり、それと共にCartolaにも再びスポット・ライトが当たり、初のレコーディングを行う運びとなりました。
こうして、Cartolaは66歳にして1stアルバム『Cartola』(1974年)をリリースします。その後は『Cartola』(1976年)、『Verde Que Te Quero Rosa』(1977年)、『70 Anos』(1979年)とコンスタントにアルバムをリリースしますが、1980年にガンのために死去しました。
ブラジル音楽を語る上で欠かせない重要人物の一人だと思います。
ブラジル音楽で一番好きなアーティストは?
こんな質問を受けたら、僕は迷わずCartolaの名を挙げるでしょう。
僕がCartolaを初めて聴いたのは、ワールド・ミュージック・ブームの時に購入した『Cartola』(1974年)と『Cartola』(1976年)の2in1CDでした。「O Mundo E Um Moinho(人生は風車)」、「As Rosas Nao Falam(沈黙のバラ)」という2大名曲をはじめ、その枯れた歌声とサウダージ感にすっかり魅了されてしまいました。
ワールド・ミュージック・ブームの時、欧米以外の音楽を数多く聴き、その度に衝撃を受けたものですが、Youssou N'Dourと並んで僕に最も大きなインパクトを与えたのがCartolaでしたね。
恥ずかしい話ですが、Cartolaを聴くまでは「サンバ=カーニヴァルで奏でられる陽気なダンス・ミュージック」という安易なイメージを抱いていました。なので、Cartolaを聴いて、サンバに対する認識を新たにすると同時に、その奥行きの深さに見事にハマってしまいました。
今回は3rdアルバム『Verde Que Te Quero Rosa(邦題:愛するマンゲイラ)』(1977年)をセレクト。
中身もさることながら、エスプレッソ・コーヒーを飲むCartolaの姿が決まりすぎのジャケが秀逸ですよね。サングラス、煙草、コーヒーカップ全てのバランスがパーフェクトですな。
本作『Verde Que Te Quero Rosa』の背景として、Cartolaのマンゲイラへの復帰があります。長らくマンゲイラを離れていたCartolaでしたが、マンゲイラと和解し、復帰を果たします。そして、マンゲイラへ強い想いが反映されたアルバムが本作だと思います。
ジャケ同様、中身も激シブ&激カッチョ良いっす!
枯れているけど、ピュアなブラジル音楽がここにある!
オススメ曲を紹介しときやす。
「Verde Que Te Quero Rosa」
邦題「愛するマンゲイラ」。タイトルは、“Verde(緑)とRosa(ピンク)のミックス”を意味します。これはCartola自身が決めたマンゲイラのチーム・カラーであり、マンゲイラへの愛情を歌ったものです。ここまで書けばお気付きだと思いますが、ジャケのコーヒーカップとソーサーの色もVerde(緑)とRosa(ピンク)になっています。
アルバムの中でも1、2を争う出来だと思います。落ち着いた中にも軽やかさがあっていいですね。
「A Cancao Que Chegou」
邦題「生まれ出た歌」。喜びも悲しみも様々な経験をしてきた69歳だからこそ歌に説得力があります。7弦ギターとクラリネットによる伴奏がさらに深さを増してくれます。
「Autonomia」
邦題「囚われの心」。Radames Gnatalliによる美しいアレンジとピアノが印象的ですね。実に感動的でエレガントな仕上がりです。
「Desfigurado」
邦題「うちひしがれて」。個人的にはかなりお気に入りの1曲です。人生苦しい時でもジメジメせずに、この曲のようにサラッといきたいものですな。
「Tempos Idos」
邦題「過ぎ去りし日々」。Cartolaと同じく伝説のサンビスタCarlos Cachacaとの共作。サンバへの愛情と現状への嘆きを歌っています。
「Pranto de Poeta」
邦題「詩人の涙」。これまた伝説のサンビスタNelson Cavaquinho/Guilherme de Britoの作品。Nelson Cavaquinhoはレコーディングにも参加しています。この共演は本作のハイライトの1つですね。
「Grande Deus」
邦題「偉大なる神」。コルコバードのキリスト像を思い出してしまいます。ただし、歌の内容は聖母マリアへお願いするものですが...
「Que E Feito De Voce」
「Desta Vez Eu Vou」
Altamiro Carrilhoのフルートをフィーチャーしている2曲。「Que E Feito De Voce」はエレガントな仕上がりがグッド。「Desta Vez Eu Vou(邦題:愛の終末)」はなかなかカッチョ良い仕上がりです。
「Nos Dois」
邦題「ふたり」。ノスタルジック・ムードに充ちています。69歳になってもこんな歌が歌えるなんれ素敵だなぁ。
この枯れ具合いはたまりませんなぁ。