発表年:1981年
ez的ジャンル:SSW系スタンダード集
気分は... :艶っぽい女性ヴォーカルが聴きたい
今日は艶っぽい女性ヴォーカルが聴きたい気分...
ということで、女性シンガーソングライターCarly Simonの1981年のアルバム『Torch』の紹介です。
Carly Simonといえば、「You're So Vain」(1972年 全米ポップ・チャート第1位)、「Mockingbird」(※James Taylorとのデュエット、1974年 全米ポップ・チャート第5位)、「Nobody Does It Better」(1977年 全米ポップ・チャート第2位)、
「You Belong to Me」(1978年 全米ポップ・チャート第6位)等のヒット曲でお馴染みですね。また、1989年には映画『Working Girl』の主題歌「Let the River Run」でアカデミー歌曲賞を受賞しています。プライベートではJames Taylorと1972年に結婚しています(1983年に離婚)。
Carly Simonの代表作と言えば、『No Secrets』(1972年)、『Hotcakes』(1974年)、『Playing Possum』(1975年)、『Boys in the Trees』(1978年)あたりだと思います。
僕の場合、『Torch』(1981年)、『Hello Big Man』(1983年)の2枚をLPで愛聴し、CD時代になって70年代の作品をコレクションしたというパターンでした。
ただし、『Torch』、『Hello Big Man』も長い間CDで買いそびれたままでした。それが今年たまたまCDショップで『Torch』を見かけ購入し、約20年ぶりに聴き直しました。改めていいアルバムだと感動を新たにしました。
『Torch』は、Torch Song(失恋の歌)を集めたアルバムであり、殆どの曲はスタンダード・ナンバーという構成です。この後、Linda Ronstadtがスタンダード集『What's New』(1983年)、『Lush Life』(1984年)を、Barbra Streisandがミュージカルの名曲集『Broadway Album』(1985年)をリリースし、それぞれヒットさせていますが、そうした流れを作った先駆け的アルバムですね。
その意味では、シンガーソングライターCarly Simonらしからぬ特異な作品と言えるでしょうが、Carly Simonのシンガーとしての魅力を堪能できる作品だと思います。
Carly Simonは決して技巧派シンガーではありませんが、艶っぽくかつ情感豊かにTorch Songを歌いきっています。気負わず、ナチュラルな感じがいいですね。
プロデュースはヴァイヴ奏者Mike Mainieri。彼自身もStepsの活動等ノッていた時期でした。Carlyとは、『Come Upstairs』(1980年)、『Torch』(1981年)、『Hello Big Man』(1983年)と三作続けてのコンビを組むことになりますが、両者の息はぴったりという感じですね。
バックにはジャズ・ミュージシャンおよびオーケストラを配し、スタンダード・ムードを演出してくれます。Mike Mainieri(vibe、p)以下、Hugh McCracken(g)、Lee Ritenour(g)、Anthony Jackson(b)、Eddie Gomez(b)、Warren Bernhardt(key)、Rick Marotta(ds)、David Sanborn(as)、Phil Woods(as)、Michael Brecker(ts)、Randy Brecker(tp)、Don Sebesky(och)、Marty Paich(och)等の豪華メンバーがバックを務めています。
この手のアルバムにありがちは"企画モノ"臭さがないのも魅力だと思います。
全曲紹介しときヤス。
「Blue of Blue」
Nicholas Holmesの作曲にCarlyが詞をつけたもの。まずはDavid Sanbornのサックスにうっとりですね。そのおかげでCarlyのヴォーカルの艶っぽさもアップしています。数日前Cal Tjader『The Prophet』のエントリーで紹介したばかりのDon Sebeskyによる美しいオーケストラ・アレンジも秀逸です。
「I'll Be Around」
1942年のAlex Wilder作品。The Mills Brothersが1958年にヒットさせています。アコースティック・ギターの響きに従来からのファンはホッとするのでは?バックはHugh McCracken & Lee Ritenourという強力ギター・コンビです。
「I Got It Bad (And That Ain't Good)」
Duke Ellingtonが1941年に黒人ミュージカル『Jump for Joy』に作った作品。Bill Evansも演奏していますね。ポップス歌手によるエレガントかつロマンティックなスタンダードのカヴァーを期待する方にはピッタリだと思います。Warren BernhardtのピアノとMarty Paichによるオーケストラは実にエレガントだし、David Sanbornのサックス・ソロも雰囲気を盛り上げてくれます。何より、お色気ムンムンのCarlyのヴォーカルが素晴らしいですな。
「I Get Along Without You Very Well」
「Stardust」でお馴染みHoagy Carmichaelの1939年の作品。Billie Holiday、Frank Sinatra、Chet Baker等が取り上げています。 本アルバムのテーマ(Torch Song)が十分に伝わってくる寂しげな仕上がりが印象的ですね。
「Body and Soul」
お馴染みのスタンダードですね(Robert Sour/Edward Heyman/Frank Eyton作詞、John Green作曲)。この演奏が一番ジャズ・スタンダードらしいかもしれませんね。Carlyのヴォーカルにも実に雰囲気があります。ヴァイヴ大好きの僕としては、Mainieriのヴァイヴが響きが実に心地良いです。Phil Woodsによるリリカルなソロもなかなかです。
「Hurt」
Jimmie Crane/Al Jacobsによる1954年の作品。黒人シンガーRoy Hamiltonによって紹介され、Timi Yuroのヴァージョンがヒットしました。ここではMichael Breckerのテナーを大きくフィーチャーしたドラマティックな仕上がりが印象的です。シングル・カットもされました。
「From the Heart」
この曲はCarlyのオリジナルです。ピアノとギターのみのシンプルなバックを従え、哀愁ムードのヴォーカルを聴かせてくれます。
「Spring Is Here」
Lorenz Hartz作詞、Richard Rodgers作曲の1938年作品。個人的には一番のお気に入りです。ミュージカルや映画のサントラのロマンティックかつエレガントなオーケストラがお好きな方は気に入ると思います。仰々しくないCarlyの自然体ヴォーカルが胸の中にスーッと染み渡ってくる感じがたまりません。
「Pretty Strange」
Jon Hendricks作詞、Randy Weston作曲。ヴォーカル、バック共にジャズ・スタンダードの雰囲気十分なのがいいですね。Randy Breckerのミュートが印象的ですね。
「What Shall We Do With the Child?」
「Blue of Blue」同様、Nicholas Holmesの作曲にCarlyが詞をつけたもの。フツーにCarly Simon作品として聴けるアコースティックな仕上がりです。実に切ない歌詞&ヴォーカルが胸に突き刺さりますね。
「Not a Day Goes By」
ブロードウェイ・ミュージカル『Merrily We Roll Along』の挿入歌(Stephen Sondheim作品)。ミュージカル好きにはたまらない感動的な仕上がりです。
Carlyは2005年に再びスタンダード集 『Moonlight Serenade』 をリリースしています。