発表年:2008年
ez的ジャンル:スーパー・クリエイター
気分は... :蟹江&蟹工船
Kanye Westの新作『808s & Heartbreak』です。
既に様々なブログでレビューされ、賛否両論巻き起こっている作品ですが、一応当ブログでも触れておきたいと思います。
1st『The College Dropout』(2004年)、2nd『Late Registration』(2005年)の2枚でスーパーHip-Hopクリエイターの地位を確立し、3rd『Graduation』(2007年)で従来型Hip-Hopから卒業した蟹江氏ですが、本作『808s & Heartbreak』は遂に歌モノ・アルバムになってしまいました。もはやHip-Hopアルバムとは呼べないかもしれません。
3rd『Graduation』を踏まえれば、エレクトロ・サウンドに支配されている本作の流れはさほど驚くものではないかもしれませんね。ただし、ここまでオートチューン使いまくりの歌モノに徹するとは予想外でした。T-Painも真っ青ですな。
タイトルの"808"はTR-808(1980年代に発売されたローランドのリズム・マシーン)を指しているようですが、80年代テイストのエレクトロ・サウンドとオートチューンの組み合わせがなかなかグッときます。また、本作は貫く哀愁モードはKanyeの母親の死が大きく影響していると思われます。
先に述べたように賛否両論分かれる作品だと思いますが、僕のようにジャンル、年代関係なくいろんな作品を聴くのが好きな人間としては、ジャンルの枠組みを飛び越えて新たな領域に踏み込もうとする蟹江の姿勢を支持したいと思います。ラッパーとしてよりもサウンド・クリエイターとしての蟹江に興味があったので、ラップしない蟹江に全く抵抗感はありません。
また、蟹江本人が意図したことではないと思いますが、本作を貫く美しく、悲しく、虚しい雰囲気は今の時代の空気ともリンクしており、そのあたりも本作を魅力的なものにしていると思います。
本作を聴いて、前作『Graduation』で蟹江が何から卒業したのかが、ようやく理解できた気がします。
蟹江を聴きながら『蟹工船』を読む...2008年らしいのでは?
全曲紹介しときやす。
「Say You Will」
オープニングは本作を象徴する哀愁チューン。オートチューン・ヴォーカルと♪ピコピコ♪ドンドンのチープ・サウンドが哀愁モードを高めてくれます。曲作りにはYoung JeezyやConsequence等も参加しています。
「Welcome To Heartbreak」
Kid Cudiをフィーチャー。深い悲しみと虚しさに包まれるハートブレイクな仕上がり。暗いニュースばかりが続く今の時代の空気感とリンクしていますな。
「Heartless」
アルバムからの2ndシングル。最初はかなり地味な印象を受けるのですが、何度も聴いているとこの哀愁感がクセになります。従来のKanyeと新生Kanyeがうまくバランスしている仕上がりなのでは?Kanyeの師匠であるシカゴHip-Hopのゴッドファーザー No I.D.が共同プロデューサーで関与しています。
http://jp.youtube.com/watch?v=gWzlD7Lc6w8&feature=channel
「Amazing」
Young Jeezyをフィーチャー。前半はKanyeのオートチューン・ヴォーカル、後半はYoung Jeezyはダミ声ラップといった展開です。妄想の世界の虚しいアメイジングといった雰囲気ですな。
http://jp.youtube.com/watch?v=z1nMBeTukY4
「Love Lockdown」
アルバムからの先行シングル。ビルボードHot100で第3位のヒットとなりました。曲自体は10年以上前に書いたものなのだとか。賛否両論分かれているようですが、新生Kanye Westのお披露目という点ではピッタリの楽曲だと思います。個人的には、オートチューン・ヴォーカルとズシリと響くアフリカン・リズムの組み合わせは悪くないと思います。
http://jp.youtube.com/watch?v=ZVZX-W3vo9I&feature=related
「Paranoid」
Mr. Hudsonをフィーチャー。アルバムの中で一番ポップでキャッチーな印象を受ける仕上がりです。The Neptunesあたりがお好きな人は気に入るのでは?
http://jp.youtube.com/watch?v=-bDJAEJDgcQ
「RoboCop」
本作で最も進化したKanye Westに出会えるのがこの楽曲だと思います。エレクトロ・サウンドとストリングスが見事に融合した完成度の高さに正直驚きました。曲作りにはT-Pain、Consequence、Young Jeezy等も参加しています。Patrick Doyle「Kissing in the Rain」ネタ。
http://jp.youtube.com/watch?v=krxnf4WG4qA
「Street Lights」
この曲も「RoboCop」同様進化した蟹江氏に触れることができます。この美しいけど、どこか物悲しい雰囲気が今の時期にピッタリなのでは?
http://jp.youtube.com/watch?v=xUTq3tHg1eA
「Bad News」
Nina Simone「See Line Woman」ネタのアフリカン・リズムが印象的な哀愁チューン。
「See You In My Nightmares」
Lil Wayneをフィーチャー。Lil WayneとKanyeという豪華な組み合わせですが、ここまでの流れがあまりに素晴らしいので物足りない印象を受けるのは僕だけでしょうか?この曲もNo I.D.が共同プロデューサーで参加しています。
「Coldest Winter」
Coldplayあたりの影響を感じるロック・テイストの仕上がり。Tears for Fears「Memories Fade」ネタ。そう言えば前作『Graduation』にはChris Martinが参加していましたね(「Homecoming」)。
あとボーナス・トラック(隠れトラック)として「Pinocchio Story(Freestyle Live From Singapore)」が収録されています。
そろそろ蟹江にグラミー主要部門をあげてもいいのでは?