録音年:1965年
ez的ジャンル:エキゾチック&モーダル・ジャズ
気分は... :This is it !
今日は"弁護士"ドラマーPete La Rocaによる1965年の作品『Basra』です。
Pete La Rocaは1938年N.Y.生まれのジャズ・ドラマー。1950年代後半にSonny Rollinsのグループに抜擢されてデビューを果たし、その後Jackie McLean、Art Farmer、John Coltrane、Kenny Dorham、Freddie Hubbard、Joe Hendersonらと共演するなど活躍しますが、1960年代後半に突如弁護士に転身し、さらに80年代に入りドラマーに復帰したという異色の経歴の持ち主です。
当ブログで紹介した作品では、Sonny Rollins『A Night At The Village Vanguard, Vol. 1』(1957年)、Joe Henderson『Page One』(1963年)の2枚にPete La Rocaが参加しています。
彼が残したリーダー作は『Basra』(1965年)、『Turkish Women at the Bath』(1968年)の2枚のみです。
そのうち、今日紹介する『Basra』はLa Rocaの初リーダー作です。
メンバーはPete La Roca(ds)以下Joe Henderson(ts)、Steve Kuhn(p)、Steve Swallow(b)というワンホーン・カルテット編成です。当時のArt Farmerのグループから親分が抜けてJoe Hendersonが加わったメンバーです。La Roca以外では、どうしてもJoe Hendersonを注目してしまいますね。実際、Hendersonのプレイは素晴らしく、ついつい彼のプレイが気になってしまうのですが、KuhnとSwallowの両Steveもそれぞれ魅力的なプレイを聴かせてくれます。
学生時代にはラテン・バンドでティンバレスを演奏し、インド音楽やヨーガにも傾倒していたLa Rocaらしく、エキゾチックな魅力に溢れた演奏が目立ちます。
インド音楽からの影響のせいか、スピリチュアルな魅力も指摘されているようですが、あまり"スピリチュアル"なアルバムという印象は受けませんね。
エキゾチックな演奏のみならず新主流派的なスマートな演奏もあり、個人的にはそのコントラストがアルバム全体の魅力になっている気がします。
全曲紹介しときやす。
「Malaguena」
キューバの作曲家Ernesto Lecuonaの作品スペイン組曲(Suite Espanola)の中の1曲。「Malaguena("マラガ風"といったニュアンス)」とはスペイン南部の港町マラガ(サッカー・ファンにはお馴染みの地名ですね)で発達したフラメンコ音楽の一種です。
マラガはかつてはカルタゴ領(現在のチュニジア)だったこともあり、スパニッシュなフラメンコ・テイストとイスラム圏のエスニックなテイストが感じられるテーマが印象的です。そんなテーマに続き、Joe Hendersonによるフラメンコを舞うように情熱たっぷりのソロを存分に堪能できます。続くKuhnのピアノ・タッチも迫力がありますね。そして何よりLa Rocaの叩き出すリズムが演奏全体のインパクトを高めてくれます。
「Candu」
La Rocaオリジナルのブルース作品。出だしは小粋なブルース作品ですが、Hendersonのソロ・パートの途中から急にテンションが上がります。Kuhnのピアノ・ソロに続くSwallowのベース・ソロが短いながらもカッチョ良いですな。
「Tears Come From Heaven」
La Rocaのオリジナル。モーダルな疾走感がカッチョ良い1曲。La Roca、Swallowのドラム&ベースがグイグイと引っ張ってくれる感じがいいですね。La Rocaのソロも迫力満点です。
「Basra」
タイトル曲もLa Rocaのオリジナル。バスラとはイラク南部の都市です(一時期、戦争関連のニュースでこの地名を多く耳にしたのではないでしょうか)。中近東のエキゾチックかつミステリアスな雰囲気がよく出た曲です。出だしのSwallowのベース、続くHendersonのテナーと実に雰囲気があっていいですね。オリエンタルな演出が抜群のKuhnのピアノもいい味出しています。そして最大の聴きどころは後半のLa Rocaのドラムでしょうね。こんなに語りかけてくるドラムも珍しいのでは?La Rocaのインド音楽からの影響も感じることができ、実に興味深い演奏です。
「Lazy Afternoon」
1954年のミュージカル『The Golden Apple』の挿入歌(John Latouche/Jerome Moross作品)。個人的にはBarbra Streisandのカヴァーで慣れ親しんでいる曲ですね(アルバム『Lazy Afternoon』収録)。La Rocaのフェイバリット・チューンの1つなのだとか。
実に美しく感動的なバラードに仕上がっています。他の曲とはガラリと変わってリリカルなプレイを聴かせてくれるHendersonにうっとりです。Bill Evansからの影響が大きいKuhnにとっては、この手の美しいピアノは大得意といったところなのでしょうね。
「Eiderdown」
Steve Swallow作品。実にスマートな仕上がりの演奏です。作者のSwallowが渾身のソロを聴かせてくれます。Swallowを主役に据えて書かねばいけない曲なのですが、個人的にはKuhnの上品なピアノにグッときてしまいます。Hendersonもここではソフトな演奏に徹しています。
もう1枚のリーダー作『Turkish Women at the Bath』(1968年)は未聴ですが、機会があればぜひ聴いてみたいと思います。