録音年:1955年
ez的ジャンル:モテ男系ウェストコースト・ジャズ
気分は... :中性的ヴォーカルがグッとくる!
夏気分ということで、ウェストコースト・ジャズが聴きたくなりました。
今回は栄光と挫折のトランペット奏者Chet Bakerのアルバム『Chet Baker Sings And Plays』(1955年)です。
Chet Baker(1929-1988年)は、オクラホマ出身のジャズ・トランペット奏者。
Charlie Parkerに見出され、1952年にウエストコーストのGerry Mulliganのグループに参加し、華やかなデビューを飾ります。翌1953年には自身のコンボを結成し、初のリーダー・セッションを行っています。そして、人気を決定付けたアルバム『Chet Baker Sings』(1954-56年録音)ではヴォーカルも披露しています。
こうしてChet Bakeは瞬く間にウエストコースト・ジャズを代表するトランペット奏者として注目され、当時は帝王Miles Davisをも凌ぐ人気を誇っていたようです。
しかしながら、50年代後半から麻薬問題、傷害事件などのトラブルが続発し、長きにわたり演奏できない状態にあったようです。その後1970年代にカムバックを果たしますが、1988年にオランダ、アムステルダムのホテルの窓から転落し、波乱万丈の人生の幕を閉じました。
僕の中でChet Bakerは、"パシフィック・ジャズ"、"ウエストコースト・ジャズ"といった言葉から受ける眩しい印象も重なり、"色男"、"伊達男"という言葉が似合うモテ男ジャズ・ミュージシャンというイメージが強かったですね。
特に、トランペットに止まらず、ヴォーカルまでこなしてしまうという点に格好良さを感じたものです。それだけに転落死のニュースは衝撃的でした。光と影...両極端な人生だったのかもしれませんね。
そんなChet Bakerの代表作として真っ先に挙げられるのが、おそらく『Chet Baker Sings』(1954-56年)だと思います。「My Funny Valentine」をはじめ、いい曲が揃っていますからね。僕も昔は『Chet Baker Sings』ばかり聴いていました。
『Chet Baker Sings』
しかしながら、最近のお気に入りは今日紹介する『Chet Baker Sings And Plays』(1955年)です。この作品は『Chet Baker Sings』に続いて録音されたヴォーカル作品です。
録音は1955年2月28日と同年3月7日の2回に分けて行われ、2月28日に録音された4曲は、Chet Baker(tp、vo)、Russ Freeman(p)、Red Mitchell(b)、Bob Neel(ds)、Bud Shank(fl)、Corky Hale(harp)というメンバーにストリングスを加えた布陣、3月7日に録音された6曲は、Chet Baker(harp)、Russ Freeman(p)、Carson Smith(b)、Bob Neel(ds)という布陣になっています。
Chet Bakerの唯一無二の中性的ヴォーカルと親しみやすいトランペットをコンパクトに堪能できます。特に、本作ではストリングス入りの演奏が4曲あり、アルバム全体としてのメリハリがある点がいいですね。
彼の中性的ヘタウマ・ヴォーカルって不思議な魅力がありますよね。
当時、女の子もキャー、キャー言っていたというのも納得です(笑)
順番から言えば、まずは『Chet Baker Sings』をゲットすべきだと思いますが、ぜひセットで本作を揃えておくことをオススメします。
クールで小粋なウェストコースト・ジャズを堪能あれ!
全曲紹介しときやす。
「Let's Get Lost」
いきなり本作のハイライト。Frank Loesser作詞、Jimmy McHugh作曲のスタンダード。Frank Sinatra等も歌っていますね。Chet Bakerの死後に公開された自伝的ドキュメンタリー映画のタイトルが『Let's Get Lost』であり、Chetのキャリアを代表するレパートリーと言えるでしょうね。
Russ Freemanの小粋なピアノをバックに、Chetのトランペット&ヴォーカルを堪能できます。さすが伊達男!って感じでキマりすぎの出来栄えです。サバービア好きの方は要チェックの1曲。
http://www.youtube.com/watch?v=Q0ZBaZoBCaA
「This Is Always」
オリジナルは1946年の映画『Little Girls In Blue』のために書かれたもの(Mack Gordon作詞、Harry Warren作曲)。この曲も様々なジャズ・ミュージシャンがカヴァーしていますが、Cal Tjaderのヴァージョンあたりは僕好みです。Chetヴァージョンは、ストリングスを従えたエレガントなアレンジで、甘くロマンティックなヴォーカル&トランペットを際立たせています。
「Long Ago and Far Away」
Ira Gershwin作詞、Jerome Kern作曲のスタンダード。オリジナルはミュージカル映画『Cover Girl』(1944年)のために書かれたものです。この曲ではヴォーカルもさることながら、Chetのトランペットを堪能しましょう!
「Someone to Watch Over Me」
「Let's Get Lost」と並ぶお気に入り。Ira Gershwin作詞、George Gershwin作曲のスタンダード(邦題「やさしき伴侶」)。オリジナルはミュージカル『Oh, Kay!』(1926年)のために書かれたもの。曲自体が大好きなのですが、Chetヴァージョンは彼の中性的ヴォーカルが曲、アレンジと実にマッチしていると思います。サイコー!
http://www.youtube.com/watch?v=CCTIpclVQe4
Chet以外にも数多くのアーティストが取り上げている名曲ですね。オールド・ファンならば、Ella Fitzgerald、Frank Sinatra、Perry Comoあたりが王道でしょうか。ポップス・ファンであればLinda Ronstadtヴァージョン、若いリスナーであればAmy Winehouseヴァージョン(Ella Fitzgeraldヴァージョンを意識したもの)で聴いているのでは?
Ella Fitzgerald「Someone To Watch Over Me」
http://www.youtube.com/watch?v=PzjLzUn_9oc
Frank Sinatra「Someone To Watch Over Me」
http://www.youtube.com/watch?v=mlgWm7Yly-I
Perry Como「Someone To Watch Over Me」
http://www.youtube.com/watch?v=dqVUg-0hzac
Linda Ronstadt「Someone To Watch Over Me」
http://www.youtube.com/watch?v=S0oRfg5RyVA
Amy Winehouse「Someone To Watch Over Me」
http://www.youtube.com/watch?v=Wo5--q2GPNo
「Just Friends」
Sam M. Lewis作詞、John Klenner作曲のスタンダード。Russ Columboが1931年にヒットさせたらしいです。Charlie Parkerも演奏していますね。
ここでは軽快なヴォーカル&演奏を聴かせてくれます。ノリの良いバック陣にChetのトランペットも気持ち良さそうです!
http://www.youtube.com/watch?v=88CqlgFAJ-k
「I Wish I Knew」
オリジナルは映画『Diamond Horseshoe』(1945年)のために書かれたもの。「This Is Always」と同じくMack Gordon作詞、Harry Warren作曲です。当ブログでは、これまでJohn Coltrane、Bill Evansの演奏を紹介してきました。Chetヴァージョンは、スタンダード・ムード満点のロマンティックな仕上がりです。優しげなヴォーカルに野郎の僕もウットリしてしまいます(笑)
http://www.youtube.com/watch?v=D0fq1szgiN4
「Daybreak」
この演奏も大好き!中世的なヴォーカル、親しみやすいトランペットとChetの魅力がコンパクトに凝縮されている気がします。
Ferde Grofe/Harold Adamson作品。
「You Don't Know What Love Is」
Don Raye/Gene De Paul作。ミュージカル映画『Keep 'Em Flying』の挿入歌です。数多くのジャズ・ミュージシャンが演奏しているスタンダードですね。当ブログでは、これまでJohn Coltrane、Sonny Rollinsの演奏を紹介したことがあります。Chetヴァージョンも素敵な哀愁バラードに仕上がっています。♪ブルースの意味が分かるようにならなければ、恋も分かるようにはならない...
http://www.youtube.com/watch?v=MDsaQhxvXS4
「Grey December」
Frank Campo作品。タイトルから想像できるように、哀愁ムードのバラードに仕上がっています。いつも明快なChetのトランペットも何処か寂しげ...
「I Remember You」
ラストは映画『The Freet's In!(邦題:艦隊入港)』(1942年)の挿入歌(Johnny Mercer作詞、Victor Schertzinger作曲)。に仕上がっています。Russ Freemanをはじめとするバックの演奏がキマっていますね。
日本のバンド勝手にしやがれ(グループ名です)が、本作のジャケをパロったアルバム『Let's Get Lost』(2007年)をリリースしています。
勝手にしやがれ『Let's Get Lost』(2007年)
ジャズと言えば、以前にエントリーしたThe Quiet Nights Orchestra『Chapter One』の音源をYouTubeで見つけたので、記事に加えておきました。今年の新作クラブ・ジャズの中でも大プッシュしたい1枚なので、ぜひ音源を聴いてみてください。