発表年:1972年
ez的ジャンル:迷える女性SSW
気分は... :迷えるJoniに思いを巡らせて
恋多き女性シンガー・ソングライターJoni Mitchellの5回目の登場です。
これまで紹介してきたJoni作品は以下の4枚(発売順)。
『Blue』(1971年)
『Court and Spark』(1974年)
『Hejira』(1976年)
『Don Juan's Reckless Daughter』(1977年)
5枚目に紹介するのは5thアルバムJoni Mitchell『For The Roses』(1972年)。
レコード会社や私生活の面で転機を迎えて制作されたのが、本作『For The Roses』です。
レコード会社の面では、以前よりJoniのマネジメントを担当していたElliot RobertsとDavid Geffenが設立したAsylum Recordsへ移籍しています。
また、私生活の面では、前作『Blue』の頃はラブラブであったJames Taylorとの破局を迎えました。その影響でハリウッドの家を売却し、自然に囲まれたカナダのバンクーバーの新居へ移ってしまいます。
その間にJTはCarly Simonと深い仲になり、本作がリリースされる1972年11月に二人は結婚しました。
そんな経緯で、JTとの破局へのさまざまな思いが交錯するアルバムとなっています。
レコーディングにはJoni Mitchell(vo、g、p)以下、Tom Scott(reeds)、Wilton Felder(b)、Russ Kunkel(ds)、Bobby Hall(per)、Bobby Notkoff(strings)、Graham Nash(hca)、Stephen Stills、James Burton(g)が参加しています。Tom Scott、Wilton Felder等ジャズ/クロスオーヴァー系のミュージシャンの参加が目立ちますね。また、Stephen Stillsは"Rock 'n' Roll Band"というクレジットで参加しています。
こうした参加メンバーから予想されるように、『Blue』までのフォーク路線に加えて、『Court and Spark』以降のジャズ/クロスオーヴァー路線を予感させる楽曲が数曲含まれています。
どうしても過渡期のアルバムという印象で、数あるJoniのアルバムの中でもあまりスポットライトの当らないアルバムかもしれません。
『Blue』に代表される初期のアルバムと、『Court and Spark』に代表される中期のアルバムをある程度聴いてから聴くと楽しめるアルバムだと思います。
いろいろな意味でJoniの迷いが見え隠れするアルバムですが、そうした部分をそのまま作品してしまうあたりが、アーティストJoni Mitchellの魅力なのでしょうね。
全曲紹介しときやす。
「Banquet」
邦題「宴」。『Blue』路線のピアノの弾き語りによるJoniらしい1曲。L.A.の音楽業界の喧騒から逃れたJoniの心情に思いを巡らせながら聴くと、さらにグッとくるのでは?Lani Hall(Herb Alpertの奥方でもある女性シンガー)がカヴァーしています。
Lani Hall「Banquet」
http://www.youtube.com/watch?v=8J00rD7GaAM
「Cold Blue Steel and Sweet Fire」
従来のフォーク路線と『Court and Spark』以降のジャズ/クロスオーヴァー路線が融合した仕上がり。Tom Scottのサックス、James Burtonのエレクトリック・ギターがいい味を出しています。
http://www.youtube.com/watch?v=y1QNetpN5oc
「Barangrill」
この曲も『Court and Spark』を予感させます。ストリングスやTom Scottののフルートが曲の表情を豊かなものにしてくれます。
http://www.youtube.com/watch?v=H-zSeDn9Y-k
「Lesson in Survival」
ピアノの弾き語りによるJoni節を堪能できる曲。僕は高音部でファルセットに切り替わる時のJoniがたまらなく好きなのですが、この曲でもそんな歌い回しを堪能できます。
http://www.youtube.com/watch?v=4CFksy54n1w
「Let the Wind Carry Me」
落ち着いた家庭生活と自由な放浪生活という2つのライフスタイルの狭間で揺れる気持ちを歌った作品。Tom Scottのサックスはまるで風のようですね。。
「For the Roses」
タイトル曲はJTとの幸せな日々を歌ったフォーキーな作品。特に♪Remember the days when you used to sit♪And make up your tunes for love♪といったあたりは実にリアルですね。Joniの歌声もどこか寂しげです。
先日紹介したばかりのCassandra WilsonがJoniのトリビュート・アルバム 『A Tribute to Joni Mitchell』 の中で本曲をカヴァーしています。Cassandraの低音ヴォーカルで歌われる本曲は迫力があります。
Cassandra Wilson「For the Roses」
http://www.youtube.com/watch?v=SIelPzQ-pOs
「See You Sometime」
まだ残るJTへの思いが♪I'd just like to see you sometime♪という歌詞に反映されていますね。前曲の「For the Roses」とセットで聴くと、Joniの揺れる女心が伝わってきますね。
http://www.youtube.com/watch?v=lvUQk6tq_yw
「Electricity」
Bobby Hallのパーカッションが心地良いフォーキー・チューン。サウンド的には一番好みかも。
http://www.youtube.com/watch?v=5KBCGDYIfEw&
「You Turn Me on I'm a Radio」
シングルにもなったポップなカントリー・ロック(邦題「恋するラジオ」)。ハーモニカはかつての恋人Graham Nashです。本作がお好きな方の中には本曲をイチオシする人も多いのでは?僕自身は出来栄えの良さは認めるものの、"Joniがこういう曲をやらなくてもいいんじゃない?"という気もします。
「Blonde in the Bleachers」
後半の疾走感にグッときます。Stephen Stillsが"Rock 'n' Roll Band"というクレジットで参加しています。少なくともギターとベースはStillsのようです。
http://www.youtube.com/watch?v=Eh9Z8OsfxEo
「Woman of Heart and Mind」
曲としては一番好き。(歌詞は置いておいて)傷ついた心を癒すような穏やかな曲調にホッとします。
http://www.youtube.com/watch?v=OZ-GM8Q7q60
「Judgement of the Moon and Stars (Ludwig's Tune) 」
邦題「月と星の審判」。サブ・タイトルに「Ludwig's Tune」とあるようにベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)に捧げられた歌です。ストリングスを含めたアレンジがいいですね。
本作と言えば、見開きジャケの内側に(後姿ですが)ヌードのJoniの写真が掲載されたことでも当時話題になったようですね。現在のCDでも確認できますが、写真があまりに小さいし、後姿なのでJoni本人なのか全くわかりませんね(笑)