録音年:1970年
ez的ジャンル:ボサノヴァ・パイオニア
気分は... :今年もブラジルにハマりそう!
昨年に続き、今年もブラジル作品の紹介回数が多くなりそうな予感の当ブログです。
さて、Antonio Carlos Jobimらと並ぶボサノヴァ創成の功労者の一人であるシンガー/ギタリストJoao Gilbertoの初登場です。
セレクトしたのは1970年にレコーディングされたアルバム『Ela E Carioca(En Mexico)』です。
元妻Astrud Gilbertoや娘Bebel Gilberto(Astrudの次の妻Miuchaとの間に生まれた娘)は紹介済なのに、肝心のJoao Gilbertoを紹介するのが遅れてしまいました。
Joao Gilbertoは1931年、ブラジルのバイーア州ジュアゼイロ生まれ。1950年代初めより音楽活動を行っていましたが、Joao自身の素行不良や薬物中毒により思うような活動はできませんでした。1950年代後半に入り、心機一転したJoaoは真剣に創作活動へ取り組むようになります。そして、リオでAntonio Carlos Jobimと出会い、1958年にはVinicius de Moraes/Antonio Carlos Jobim作の最初のボサノヴァ・ソング「Chega de Saudade(想いあふれて)」をレコーディングし、同曲は翌年ヒットします。
1960年にはAstrud Gilbertoと結婚し、1963年にはジャズ・テナーサックス奏者Stan Getzと共演した『Getz/Gilberto』をレコーディングします。同作に収録された「The Girl From Ipanema(原題:Garota de Ipanema、邦題:イパネマの娘 )」が大ヒットし、アメリカをはじめと世界中でボサノヴァ・ブームが巻き起こりました。
しかしながら、同曲でJoaoのヴォーカル部分はカットされ、たまたまスタジオにいた妻Astrudのヴォーカルがフィーチャーされたのは何とも皮肉でした。Astrudは瞬く間に本国ブラジルを除く各国で"ボサノヴァの女王"として紹介されるようになります。程なくJoaoとAstrudは離婚し、Joaoはその後Miucha(Bebel Gilbertoの母)と再婚しています。
1960年代後半にはボサノヴァ・ブームが終焉し、Joaoはアメリカを後にすることになります。しかしながら、Joaoが向かったのは当時は軍事政権下であった本国ブラジルではなく、メキシコでした。数年間をメキシコで過ごしたJoaoは、この地で今日紹介する『Ela E Carioca(En Mexico)』をレコーディングしています。
その後も代表作の呼び声高い『Joao Gilberto(邦題:三月の水)』(1973年)、Tommy LiPumaがプロデュースした『Amoroso』(1977年)、Caetano Veloso、Gilberto Gil、Maria Bethaniaと共演した『Brasil』(1981年)、10年ぶりのスタジオ・レコーディングとなった『Joao』(1991年)、Caetano Velosoがプロデュースした『Joao Voz e Violao』(2000年)等の作品をリリースしています。
現在78歳のボサノヴァの巨人は今も健在です。
今日紹介する『Ela E Carioca』は、前述のようにメキシコ滞在期にレコーディングされた作品です。元々は『En Mexico』のタイトルでしたが、再発の際に現行タイトルとなりました。
メキシコで不遇時代を過ごしたと言われるJoaoですが、本作は『Joao Gilberto(邦題:三月の水)』と並び、Joao Gilbertoの真髄に触れることができる作品ではないかと思います。シンプルなアレンジでJoaoのヴォーカル&ギターを楽しめるのが魅力ですね。
コアなブラジル音楽ファンからは敬遠される"ボサノヴァの女王"Astrud Gilbertoも大好きな僕ですが、本作におけるJoaoの少し籠もった素朴なヴォーカルとサウダージ・ムード満点のボッサ・ギターを聴くと、"やはりJoao Gilbertoこそがボサノヴァである"と実感してしまいますね。
また、そうしたJoaoのヴォーカル&ギターの魅力を引き出しているOscar Castro-Nevesのアレンジも素晴らしいと思います。
全曲紹介しときやす。
「De Conversa em Conversa」
ボッサ気分を満喫できる軽やかなオープニング。Harold Barbosa/Lucio Alves作のスタンダードです。Joaoのヴォーカル&ギターを際立たせるシンプルなアレンジがいいですね。この1曲のみで本作が名盤であることを実感できるはずです。
http://www.youtube.com/watch?v=bN7VwpOHa0U
「Ela E Carioca」
邦題「彼女はカリオカ」(英題「She's a Carioca」)。Vinicius de Moraes/Antonio Carlos Jobim作のボサノヴァ・スタンダード。当ブログではこれまでAstrud Gilberto、Walter Wanderley、Celso Fonsecaのヴァージョンを紹介しています。ここでのJoaoヴァージョンも絶品です。元々サウダージ指数が高い楽曲ですが、Joaoのヴォーカル&ギターで演奏されると、さらにサウダージ指数が上昇します。ストリングス・アレンジのセンスもグッド!
http://www.youtube.com/watch?v=Afv4fxEfuU4
「O Sapo」
Joao Donato作の名曲。当ブログでも紹介した「The Frog」の英タイトル((邦題「ヒキガエル」))によるSergio Mendes & Brasil'66ヴァージョンが有名ですね。スタイリッシュなBrasil'66ヴァージョンと比較すると、Joaoヴァージョンは素朴な仕上がりですが、カエルの鳴き声スキャットも含めてこちらの方がヒキガエルらしいです(笑)
「Esperanza Perdida」
Billy Blanco/Antonio Carlos Jobim作品。ボッサど真ん中な仕上がりです。Oscar Castro-Nevesのアレンジ・センスが光ります。
「Joao Marcello」
Joao Gilbertoのオリジナル。JoaoとAstrud Gilbertoの間に生まれた息子Joao Marcelloに捧げられたインストです。
「Farolito」
邦題「街灯」。メキシコの偉大な作曲家Agustin Laraの作品をカヴァー。本作の録音と同じ1970年にLaraが死去しているのは偶然なのでしょうか?元々は哀愁のボレロですが、ここではサウダージ・モードのワルツで聴かせてくれます。エレガントなストリングス&フルートも盛り上げてくれます。
「Astronauta(Samba da Pergunta)」
「Samba da Pergunta」の副題があるMarcos Vasconcellos/Pingarilho作品。当ブログではElis Reginaヴァージョンを紹介済みです。Joaoの脱力系ヴォーカルが実にマッチしていてグッド!
http://www.youtube.com/watch?v=-xJti1jqH6s
「Acapulco」
タイトルの通り、メキシコのリゾート地アカプルコをタイトルにしたJoao Gilbertoのオリジナル。シンプルながらもリゾート気分を満喫できる洗練された仕上がりで、かなりグッときます。
「Besame Mucho」
甘〜いラテン名曲としてお馴染みのベサメ・ムーチョ。メキシコ人の女性ピアニスト/ソングライターであったConsuelo Velazquezの作品です。出来栄えはともかく、意外なカヴァーという点で楽しみましょう。
「Eclipse」
キューバの偉大な音楽家Ernesto Lecuonaの作品。エレガントなアレンジの妙が光ります。
「Trolley Song」
ラストはJudy Garland主演のミュージカル映画『Meet Me In St. Louis(邦題:若草の頃)』の挿入歌。♪ボ・ボ・ボン・ボン〜♪と思わず歌いたくなります。
http://www.youtube.com/watch?v=6YBRQ2dyI8s
興味がある方は他のアルバムもセットでどうぞ!
『Joao Gilberto(邦題:三月の水)』(1973年)
『Amoroso』(1977年)
『Brasil』(1981年)
『Joao Voz e Violao』(2000年)