発表年:2010年
ez的ジャンル:北欧系ブラジリアン・グルーヴ
気分は... :今聴きたいメロウ・グルーヴがココに!
今回は"スウェーデンのDeodato"ことRoman Andren待望の新作『Color Green』です。
当ブログでも紹介した2ndアルバム『Juanita』(2007年)での北欧ブラジリアン・サウンドが大評判となり、2008年日本でもブレイクしたスウェーデン出身のキーボード奏者Roman Andren。さらに日本での盛り上がりに応えるかたちで、スタジオ・ライブ作『Juanita And Beyond: Live Studio Sessions』(2008年)がリリースされ、2009年の来日公演も大成功!という熱狂ぶりでしたね。
『Juanita』(2007年)
まだRoman Andren未体験の方は『Juanita』収録の「Bumblebee」を聴いていただければ彼の魅力が一発でわかると思います。
「Bumblebee」
http://www.youtube.com/watch?v=bkrznn0Xjgw
『Juanita And Beyond: Live Studio Sessions』(2008年)
"スウェーデンのDeodato"と評されるように、60〜70年代ブラジル音楽/フュージョンを彷彿させるアナログ感たっぷりのメロウ・グルーヴを21世紀北欧クラブ・ジャズの感性で創り上げたサウンドは、北欧クラブ・ジャズ大好き、ブラジル音楽大好き、70年代メロウ・フュージョン大好きという日本人リスナーの感性に見事にハマる音でしたよね。
昨年の『ezが選ぶ2009年の10枚』でも顕著でしたが、僕の最近の音楽ライフでは「北欧」「クラブ・ジャズ」「ブラジル」がキーワードになっています。そんな要素を全て備えていたアーティストがRoman Andrenです。
Roman自身が影響を受けたアーティストとして、ブラジル音楽ではDeodatoをはじめ、Antonio Carlos Jobim、Walter Wanderley、Sergio Mendes、Marcos Valle等、フュージョン/ソウル系ではQuincy Jones、Roy Ayers、Bob James、Lonnie Liston Smith、George Duke、Marvin Gaye等の名前を挙げています。
これらのアーティスト名を眺めただけでグッとくる人も多いと思いますが、それらの影響を大胆にチラつかせながらも2000年代らしいクラブ・ジャズの感性でまとめげたところが心憎いですね。
今回届けられた新作『Color Green』も、ファンの期待を裏切らない旧くて新しい21世紀北欧ブラジリアン・グルーヴを堪能できます。。前作同様、多くの曲がヴォーカル入りです。
一方で本作はアフロ色やソウルなど更に幅広い音楽性を披露してくれます。デビュー・アルバム『Ambessa's Dream』(2004年)ではブラック・ミュージック寄りのアプローチをしていたようなので、そのあたりも上手く融合したのかもしれませんね。
またコンセプチュアルな面では、イギリスの小説家Joseph Conradが1899年に書いた長編小説『Heart of Darkness(闇の奥)』からインスパイアを受けた作品らしいです。アフロ色が強いのはその影響でしょう。『Heart of Darkness(闇の奥)』はアフリカの象牙売買をめぐる人間の心の闇を描いたものであり、その意味でRomanがアルバムに込めたメッセージには奥深いものがあるのかもしれません。
しかしながら、とりあえずはその部分は置いておき、まずは心地良いメロウ・グルーヴを堪能すればいいと思います。
しばらくは毎日本作を聴き続けることになりそうです。
全曲紹介しときやす。
「Birth Of Eshu」
ジャケのイメージそのまま、エスニックな効果音も入ったジャングル・モードのオープニングです。サウンド的には壮大なスケール感を持ったアフロ・ブラジリアンなジャズ・ファンクといったところでしょうか。
「Piranha (The Buffalo Hunt)」
パーカッシブなアフロ・ブラジリアン・グルーヴ。きっとガラージ/トライバル系の音が好きな人が気に入るであろうインスト・チューンです。
「Captain's Sword」
Romanファンお待たせのライト&メロウなブラジリアン・グルーヴです。まさにDeodato好きの人であればど真ん中のフュージョンに仕上がっています。フルートの音色と女声スキャットが実に涼しげです。
「Always On The Run (To Love You)」
僕の一番のお気に入り。ここ数日毎日20回以上は聴いているヘビロテ曲です。一度聴けば、即スマイル・モードになれる極上メロウ・グルーヴです。Sergio Mendes+モータウン+Marcos Valleみたいなさじ加減がサイコー!この心地よいライト&メロウな疾走感はエンドレスで聴いていたいですね。
「Inside Life」
ミステリアス雰囲気のミッド・グルーヴ。ソウルフルな女声コーラスとファンキーなギター&キーボードが印象的です。
「Color Green (Part.I & Part.II) 」
タイトル曲は12分を超える大作。「Piranha (The Buffalo Hunt)」同様、ガラージ/トライバル系のアフロ・ブラジリアン・グルーヴです。
「My Ten Zillion Dream」
幻想的かつドラマティックな展開の仕上がり。特に中盤の壮大なサウンドの広がりには圧倒されます。思わずアフリカの広大な大地が思い浮かんできます。
「Sky Ride」
軽快なアフリカン・リズムを取り入れています。アルバム・コンセプトを反映している曲の1つかもしれませんね。
「Let It Out!」
「Always On The Run (To Love You)」と並ぶお気に入り曲。ライナーノーツにはモータウンやノーザン・ソウルへのオマージュという説明がありましたが、僕的にはメロウ・フュージョン的な心地よさを感じます。いずれにしてもポジティブ・モードになれる素敵な仕上がりです。
「People Make The World Go 'Round」
タイトルの通り、世界周遊フュージョンといったところでしょうか。
「Love Is Still Everything (With You) 」
ラストはロマンティックなボッサ・チューンで幕を閉じます。しかしながら、曲終了後に長い沈黙があり、最後に本作らしいエンディングが待ち構えています。
とりあえず僕は「Always On The Run (To Love You)」を中毒のようにリピートしている状態ですが、ある程度メロウ・グルーヴを堪能したならば、コンセプチュアルな面も含めて聴き込むとさらに興味が増すかもしれませんね。
これを機にRoman Andren関連作品をおさらいしたい方は、以前に紹介したIngela『All These Choices』(2009年)も再チェックしてみては?Ingela Janssonは『Juanita』にも参加していたスウェーデン人SSWであり、『All These Choices』ではRomanがミックスを担当しています。
Ingela『All These Choices』(2009年)
話が逸れますが、前述のJoseph Conradの長編小説『Heart of Darkness(闇の奥)』は、Francis Ford Coppola監督の映画『Apocalypse Now(地獄の黙示録)』の原作なんですね。勉強不足で今まで知りませんでした。舞台を暗黒時代のアフリカからベトナム戦争下のカンボジアに置き換え、登場人物も象牙売買の代理人であったKurtz(クルツ)をMarlon Brandoが演じたKurtz(カーツ)大佐に置き換えたことを知り、より映画の全体像が鮮明になった気がします。そう思うと久々に映画が観たくなってしまいました。でも、注意しないと長い映画ですからね(笑)