発表年:1973年
ez的ジャンル:脱力ヴォーカル系メロウMPB
気分は... :ユル〜くならないとね。
ブラジル音楽界を代表するキーボード奏者/コンポーザー/アレンジャーJoao Donatoの初のヴォーカル作品『Quem e Quem』(1973年)です。
Joao Donatoは1934年ブラジル アクレ州生まれ。
少年時代からアコーディオンを使って作曲を行い、10代半ばにして初レコーディングを経験し、1956年は1stアルバム『Cha Dancante』をリリースするなど、若くしてその才能を遺憾なく発揮していたようです。
ブラジルでボサノヴァが盛り上がり見せようとしていた1959年にDonatoは渡米してしまいます。
米国ではTito Puente、Mongo Santamaria、Cal Tjaderなどのラテン・ジャズ・バンドに参加しています。
その間ブラジルに一時帰国し、『Muito A Vontade』(1962年)、『A Bossa Muito Moderna De Donato E Seu Trio』(1963年)というのアルバムをレコーディングしています。再び米国に戻ったDonatoは1965年には米国録音のリーダー作『The New Sound of Brazil』をリリースし、Bud Shank作品『Bud Shank & His Brazilian Friends』にも参加し、共演しています。1969年にはEumir Deodatoとの共演作『Donato Deodato』をレコーディング。1970年代に入るとエレピを演奏するようになり、クロスオーヴァーなアルバム『A Bad Donato』をリリースしています。
1972年のクリスマスにブラジルに戻ってきたDonatoは、Marcos Valleらのサポートを受けて今回紹介する初のヴォーカル・アルバム『Quem e Quem』(1973年)をリリースします。
80年代後半から90年代初めにかけて隠遁生活を過ごしていましたが、日本人にはお馴染みの小野リサ『Minha Saudade』(1995年)で再び脚光を浴び、活動を再開します。2000年代に入ってからもWanda Saとの共演盤『Wanda Sa com Joao Donato』(2003年)や記憶に新しいJoyce(Joyce Moreno)との共演盤『Aquarius』(2009年)など健在ぶりを見せています。
すっかり忘れていましたが、Michael Franks『Sleeping Gypsy』でも彼のプレイを聴くことができますね。
本作『Quem e Quem』は、コンポーザーのイメージが強かったDonatoがMarcos ValleとAgostinho Dos Santosに説得され、自らヴォーカルに初挑戦した作品です(全12曲中9曲でリード・ヴォーカル)。
Dorival Caymmi作品「Cala Boca Minino」以外はDonatoの楽曲であり、2曲のインストを除きPaulo Cesar Pinheiro、Joao Carlos Padu、Geraldo Carneiro、Lysias Enio(Donatoの弟)、Marcos Valleが作詞を担当しています。
本作を機に殆どインストゥルメンタル作品であったDonatoの楽曲に歌詞がつけられるようになり、同時にDonatoおよびDonato作品の評価が高まった模様です。その意味では単に初ヴォーカル・アルバムという以上にDonatoにとって転機となった作品です。
うつむいたまま顔を見せないジャケがいいですよね。
初のヴォーカル挑戦ということで照れくさい面もあったのでしょうか(笑)
決して上手いとは言えませんが、Donatoの脱力ヴォーカルは彼自身が生み出した素晴らしい楽曲と、彼自身が弾くメロウなエレピ・サウンドと実にマッチしています。
アレンジはLindolfo Gaya、Ian Guest、Laercio De Freitas、Dori Caymmi、そしてDonato本人が担当しています。
今週は気持ちが張り詰めた日が続いているので、ユル〜い音楽でも聴いて気分転換しないとね。
全曲を紹介しときやす。
「Chorou, Chorou」
軽やかなエレピと鼻歌のようなDonatoのヴォーカル、和やかな雰囲気の中にもさりげないセンスの良さがキラリと光ります。Youngbloods「RIde The Wind」あたりと一緒に聴きたくなる曲ですね。
http://www.youtube.com/watch?v=GY2li7-mEGk
「Terremoto」
バイーア風のリズムの楽曲ですが、その部分は少し抑えめにしてソフトな仕上がりにしているのが印象的です。
「Amazonas」
『The New Sound of Brazil』(1965年)に収録されていた名曲インストの再演です。本ヴァージョンもインストですが、Nara Leaoの名盤『Os Meus Amigos Sao Um Barato』(1977年)にNaraとDonatoがデュエットしたヴォーカル・ヴァージョンが収録されています(作詞は弟Lysias Enio)。
http://www.youtube.com/watch?v=Crim_adFsrk
「Fim De Sonho」
本曲はDonatoの線の細いヴォーカルが上手くハマったロマンチックな仕上がりです。
「A Ra」
カエルの鳴き声をスキャットで表現したこの名曲を本作のハイライトに挙げる人も多いのでは?Sergio Mendes & Brasil '66が「The Flog」のタイトルで歌ったヴァージョンが本曲の初録音です(アルバム『Look Around』収録)。当ブログではJoao Gilbertoのカヴァー(タイトルは「O Sapo」)も紹介しています。
Donato自身は『A Bad Donato』でスキャットなしヴァージョンをレコーディングしていますが、予備知識が無ければ本曲だと気付かないかもしれません。それに対して、本ヴァージョンはしっかりスキャット入りで「The Flog」らしく(?)聴かせてくれます。エレピ・サウンドと相俟ってなかなかグッドな仕上がりです。
「Ahie」
僕の一番のお気に入り。Eumir Deodatoとの共演作『Donato Deodato』に「Where's J.D.」として収録されていた楽曲の再演です。曲自体メロウな名曲だと思いますが、ヴォーカルが入りさらに味わい深い仕上がりになっています。Dori Caymmiによるアレンジもグッド!
http://www.youtube.com/watch?v=yyFVKFDkmRk
「Cala Boca Minino」
本作唯一のカヴァー曲はDori Caymmi作品です。Nana Vasconcelos、Novelliも参加し、バイーア色の強く出た土着的なテイストの仕上がりです。
「Nana das Aguas」
タイトルはCandomble(アフロ・ブラジリアン宗教)の水の女神のことのようです。そのわりにはサウンドは重々しくなく、メロウなエレピとパーカッションがよくマッチしています。
「Me Deixa」
米国時代のクロスオーヴァー・サウンドの影響が窺えるインスト・チューン。
http://www.youtube.com/watch?v=BYYv9XQjg4A
「Ate Quem Sabe?」
前述の『Donato Deodato』に「You Can Go」として収録されていた曲に弟のLysiasが詞をつけたもの。「Ahie」、「Mentiras」と並ぶ僕のお気に入りです。Donatoのヴォーカルの枯れ具合がいい感じです。ここでもDori Caymmiのアレンジが光ります。
「Mentiras」
当ブログでも紹介したCal Tjader『The Prophet』(1968年)に「Warm Song」として収録されていた楽曲です。Dori Caymmiの娘Nana Caymmiの感動的なヴォーカルがフィーチャーされています。Lindolfo Gayaがさすがマエストロと思わせてくれるアレンジを聴かせてくれます。主役のはずのDonatoの存在感は薄いですが素晴らしい仕上がりです。
「Cade Jodel」
離婚によって離れ離れとなってしまった愛娘Jodelへの思いを歌ったもの。そんな複雑な歌の内容とは対照的にサウンドは実に洗練されたメロウ・チューンに仕上がっています。Marcos Valleが作詞を担当しています。
『Muito A Vontade』(1962年)
『A Bossa Muito Moderna De Donato E Seu Trio』(1963年)
『The New Sound of Brazil』(1965年)
『Donato Deodato』(1969年)
『A Bad Donato』(1970年)
『Lugar Comum』(1975年)
小野リサ『Minha Saudade』(1995年)
Wanda Sa/Joao Donato『Wanda Sa com Joao Donato』(2003年)
Joyce Moreno Feat. Joan Donato『Aquarius』(2009年)