録音年:1977年
ez的ジャンル:究極の美学系ピアノ・トリオ
気分は... :必ず春はやって来る...
今回は偉大なジャズ・ピアニストBill Evans(1929-1980年)の晩年の名作『You Must Believe In Spring』です。
当ブログではこれまで紹介したEvans作品は以下の7枚。
『Portrait In Jazz』(1959年)
『Explorations』(1961年)
『Waltz For Debby』(1961年)
『Undercurrent』(1962年) ※Jim Hallとの共演
『Waltz For Debby』(1964年) ※Monica Zetterlundとの共演
『Alone』(1968年)
『New Conversations』(1978年)
今日紹介する『You Must Believe In Spring』はEvans晩年の作品ですが、1977年から1978年にかけてはキャリアの総仕上げとも呼べる作品を連発しています。
この時期に録音した『I Will Say Goodbye』(1977年)、『You Must Believe in Spring』(1977年)、『New Conversations』(1978年)、Toots Thielemansとの共演作『Affinity』(1978年)といったアルバムの充実ぶりには驚かされます。
本作でEvansとトリオを組むのはEddie Gomez(b)、Eliot Zigmund(ds)。1966年以来Evansのパートナーを務めてきたGomezとの最後の共演となります。
タイトルだけ見ると、春らしいロマンチックな作品を思い浮かべるかもしれませんが、アルバム全体は美しくも切ないムードが支配します。
私生活では最初の妻Ellaine、実兄Harryが相次いで自殺してしまうという悲劇がEvansを襲います。そんな影響がアルバムにも色濃く反映されており、妻Ellaineに捧げた「B Minor Waltz (For Ellaine) 」、兄Harryに捧げた「We Will Meet Again (For Harry) 」といったオリジナル曲が収録されています。
今は亡き愛する人々へ思いを馳せながら演奏した結果、究極に美しいピアノ・トリオ作品が完成したという印象を受けますね。
Evansが美しいピアノを奏でるほど切ない思い募る作品です。
Evans作品で真っ先に聴くべきは、Scott LaFaro(b)、Paul Motian(ds)とのトリオによる 『Portrait In Jazz』(1959年)、『Explorations』(1961年)、『Sunday At The Village Vanguard』(1961年)、『Waltz For Debby』(1961年)だと思いますが、本作を含む晩年の作品もEvans流の美学を存分に堪能できると思います。
冬が過ぎれば必ず春はやって来る...
全曲紹介しときやす。
「B Minor Waltz (For Ellaine) 」
前述のように最初の妻Ellaineに捧げた1曲。EllaineはEvansと別れた後、地下鉄に身を投げ自らの生涯に幕を閉じます。そんな悲劇的な最後を迎えた亡き妻への思いを、美しくも悲しいピアノで奏でます。ただただ美しいピアノに心を奪われるばかりです。
http://www.youtube.com/watch?v=8cR5B1Hfmvk
「You Must Believe in Spring」
タイトル曲はJacques Demy監督のミュージカル映画『Les Demoiselles de Rochefort(邦題:ロシュフォールの恋人たち、英題:The Young Girls of Rochefort)』(1967年)の挿入歌(原題は「Chanson De Maxence」)としてMichel Legrandが作曲したものです。仏詞はJacques Demy、英詞はAlan Bergman/Marilyn Bergmanによるものです。
映画『Les Demoiselles de Rochefort』の中の「Chanson De Maxence」もグッときますが、リリシズム溢れるEvansのピアノによる「You Must Believe in Spring」も魅力的です。
Evansは1976年録音のTony Bennettとの共演第2弾アルバム『Together Again』で本曲を取り上げており、それに続くレコーディングです。彼の本曲に対する強い思い入れを感じますね。♪厳しい冬が過ぎれば、暖かい春がやって来る♪当時のEvansの心情そのままだったのかもしれませんね。
「Gary's Theme」
Cal Tjaderも取り上げたヴァイヴ奏者Gary McFarlandの作品。本曲でも聴かれる張り詰めた美しさが後期Evans作品の特徴かもしれませんね。
http://www.youtube.com/watch?v=6QvVpZdXJ84
※YouTubeは1979年の演奏です。
「We Will Meet Again (For Harry) 」
銃により自殺してしまった実兄Harryに捧げた曲。ピアノ教師であったHarryへのレクイエムといったところでしょうか。自身の死が近いことを予感していたかのようなタイトルも興味深いですね。Evans主導の演奏が目立つ本作ですが、ここではEddie Gomez、Eliot Zigmundとの息の合ったプレイも堪能できます。
「The Peacocks」
ジャズ・ピアニストJimmy Rowlesの作品。Evansのピアノからはいつも「わび・さび」の美意識を感じてしまいますが、本作で言えば本曲などはまさに"わび・さびプレイ"を堪能できます。コーヒーよりも緑茶が似合う演奏です。
「Sometime Ago」
Sergio Mihanovich作。昔の悲しい恋を歌ったものですが、ここではロマンチックでリリカルなピアノを堪能できます。本曲のカヴァーとしてはMichel Petrucciani & Tony Petrucciani親子による演奏もグッドです。
Michel Petrucciani & Tony Petrucciani「Sometime Ago」
http://www.youtube.com/watch?v=OgLzgSNAD08
「Theme from M*A*S*H (Suicide Is Painless)」
邦題「もしもあの世に行けたなら」。映画にもなったTVシリーズ『M*A*S*H』のテーマ曲(Mike Altman作詞/Johnny Mandel作曲)。"静"の演奏が続く本作で唯一の"動"の演奏という気がします。ただし、「Suicide Is Painless(痛みのない自殺)」という副題がEvansの晩年の破滅的な生き方を連想してしまい、切ない思いになります。
http://www.youtube.com/watch?v=P_0ZfO7xl8k
※YouTubeは1979年の演奏です。
本曲のカヴァーとしてはAhmad Jamalによるエレピ・ヴァージョンにもグッときます。
Ahmad Jamal「Theme from M*A*S*H 」(1973年)
http://www.youtube.com/watch?v=aZTUFoD2UN8
本作を気に入った方は晩年の他作品もどうぞ!
『I Will Say Goodbye』(1977年)
『New Conversations』(1978年)
『Affinity』(1978年) ※Toots Thielemansとの共演