発表年:1971年
ez的ジャンル:戦う好青年系MPB
気分は... :John Lennonの命日ですが・・・
今日はJohn Lennonの命日ですね。昔はJohnの命日に彼のアルバムをエントリーするというベタなこともしていましたが(笑)
今回はJohnの命日に相応しく、社会派アルバムを紹介したいと思います。
セレクトしたのはブラジル人シンガー/ソングライターChico Buarqueの名盤『Construcao』(1971年)です。
Chico Buarqueは1944年オ・デ・ジャネイロ生まれのシンガー/ソングライター/劇作家/小説家。姉はJoao Gilbertoの奥さんでもあったMiuchaです。
有名な歴史家、社会学者である父親がボサノヴァの創始者の一人Vinicius de Moraesと親友ということもあり、幼い時から音楽や執筆に興味を持っていたようです。
1964年にはシンガー/ソングライターとしてデビューし、注目を浴びるようになります。そして、1966年には「A Banda」、「Ole Ola」、「Tem Mais Samba」、「Pedro Pedreiro」、「Sonho De Um Carnaval」といった名曲を収めたデビュー・アルバム『Chico Buarque de Hollanda (Vol. 1) 』をリリースします。
その後もコンスタントに作品をリリースし、「Noite Dos Mascarados」、「Com Acucar,Com Afe」、「Quem Te Viu,Quem Te Ve」、「Carolina」、Antonio Carlos Jobimとの共作「Retrato Em Branco E Preto(邦題:白黒のポートレイト)」などの名曲を世に送り出します。
こうして人気シンガー/ソングライターの地位を確立したChicoですが、他のミュージシャン同様にブラジル軍事政権から反社会的人物と見なされるようになり、Chicoも1969年にローマへ亡命します。しかし、1970年に帰国し、その後は独裁政権の検閲を受けながらもプロテスト・ソングをリリースし続け、ブラジル国民から熱烈に支持されます。
ブラジルを代表するミュージシャンでありながら、同世代のCaetano Veloso、Milton Nascimentoあたりと比較すると、日本での知名度は低いミュージシャンということになるのでしょうね。でも本国ブラジルでの人気は、CaetanoやMiltonを凌ぐものがあるようです。
今回紹介する『Construcao』(1971年)は、イタリアから帰国後の第1弾アルバム『Chico Buarque de Hollanda (Vol. 4) 』(1970年)に続く作品です。
数年前に発表されたブラジル版Rolling Stone誌が選ぶブラジル音楽ベスト・ディスク100で、本作『Construcao』は何と第3位にランクされていました。つまり、ブラジル音楽史上ベスト3に入るほどの名盤ということになります。
ジャケに写るChicoの風貌は、それまでの好青年イメージとはかけ離れたものであり、それ自体が軍事独裁政権と対峙するスタンスだったのかもしれません。
内容も、オープニング「Deus Lhe Pague」やタイトル曲「Construcao」など閉塞したブラジル社会を痛烈に風刺した歌詞が目立ちます。ただし、単に過激なメッセージを歌うというのではなく、独裁政権の検閲をバネに誌的表現の可能性を広げていくあたりが、Chico Buarqueという人のアーティスティックな部分なのかもしれません。
また、重々しいプロテスト・ソングのみならず、人気サンバ・チューン「Samba de Orly」をはじめとする親しみやすい楽曲も収められています。その意味では、アルバム全体のバランスが良いのではと思います。
Roberto Menescalがプロデュースを務め、MPB4のMagroが音楽ディレクターとしてクレジットされています。そのMPB4やAntonio Carlos JobimとJobimの息子Paulinhoがゲスト参加しています。
決して派手な作品ではありませんが、ブラジル音楽の真髄が詰まった1枚なのでは?
全曲紹介しときやす。
「Deus Lhe Pague」
Chico Buarque作。平穏な社会が訪れるように願う神への祈りが歌われます。この不穏な空気感は当時のブラジルそのものだったのかもしれませんね。重々しさのみならず、アヴァンギャルド感もあるところがいいですね。
http://www.youtube.com/watch?v=PvN7nocb9kA
「Cotidiano」
Chico Buarque作。彼女との日常生活を歌った歌詞の中に軍事政権下の社会の閉塞感を感じます。そんな歌詞を反映し、サウンド面でもサンバながら重々しさが支配します。
「Desalento」
Chico Buarque/Vinicius de Moraes作。哀愁チューンですが不穏な空気を醸し出す大胆なストリングス・アレンジが印象的です。
http://www.youtube.com/watch?v=eh2pu6G-y8s
「Construcao」
Chico Buarque作。タイトル曲は表現の自由を奪った軍事政権に屈せず、新たな歌詞の可能性へ挑戦した意欲作です。レンガ職人の死をテーマに、鋭いメッセージを突き刺します。MPB4のコーラスとオーケストレーションが加わった後半は社会風刺劇でも観ている気分になります。
http://www.youtube.com/watch?v=JnOAYO8aOrU
「Cordao」
Chico Buarque。邦題「楽団」。ようやく美しいメロディのボッサ・チューンを聴くことができます。ここでは♪誰も僕を止めることはできない♪と歌われます。静かなる決意!といったところでしょうか。
「Olha Maria」
Antonio Carlos Jobim/Chico Buarque/Vinicius de Moraes作。大御所二人との共作です。演奏にはJobim本人(p)とJobimの息子Paulinho(g)が参加しています。Jobim親子の美しいピアノ&ギターとChicoの歌声が一体化した素晴らしい出来栄えです。
「Samba de Orly」
Chico Buarque/Toquinho/Vinicius de Moraes作。やはり本作のハイライトと言えば、この人気サンバ・チューンなのでは?当ブログではCafe Apres-midiでも人気のTania Mariaのヴァージョンを紹介済みです。Chico本人のヴァージョンも聴く者全てを魅了する素晴らしい仕上がりです。歌詞は亡命中のChicoの心情を歌ったものです。やはり、この曲は名曲ですな。
http://www.youtube.com/watch?v=rfpjEeK1Jeg
「Valsinha」
Chico Buarque/Vinicius de Moraes作。邦題「ワルツ」。哀愁のメロディにグッときます。この曲はリオよりもかつての亡命先パリの街角が似合う雰囲気の曲ですね。
http://www.youtube.com/watch?v=2bV5rVUJ7-I
「Minha Historia」
Chico Buarque/Lucio Dalla/Pallotino作。イタリアの曲「Gesubambino」にChicoがポルトガル語の歌詞をつけたもの。独特の味わい深さがあって大好きです。
http://www.youtube.com/watch?v=66For4DyLOc
「Acalanto」
Chico Buarque作。前年に生まれたChicoの次女へ向けた子守唄らしいです。
http://www.youtube.com/watch?v=ldeqk1fDO-g
興味がある方は他のChico Buarque作品もどうぞ!
『Chico Buarque de Hollanda (Vol. 1) 』(1966年)
『Chico Buarque de Hollanda (Vol. 2) 』(1967年)
『Chico Buarque de Hollanda (Vol. 4) 』(1970年)
『Sinal Fechado 』(1974年)
『Meus Caros Amigos』(1976年)
『Chico Buarque』(1978年)