発表年:1994年
ez的ジャンル:ソウル/ジャズ・ファンク系UKポップス
気分は... :SOSを侮るなかれ!
今回はCorinne DreweryとAndy ConnellのデュオSwing Out Sisterが1994年にリリースした『The Living Return』です。
Swing Out Sister(SOS)の紹介は、『Shapes And Patterns』(1997年)、『Kaleidoscope World』(1989年)に続き3回目となります。
前作『Get in Touch with Yourself』(1992年)以来のスタジオ・アルバムとなる本作『The Living Return』ですが、その間にグループはライブ・アルバム『Live at the Jazz cafe』(1993年)をリリースするなど勢力的にライブ活動を行っていました。
その影響からか本作ではバンド・サウンドを重視したアルバムになっています。また、『It's Better to Travel』(1987年)、『Kaleidoscope World』(1989年)、『Get in Touch with Yourself』(1992年)という過去のスタジオ3作でプロデュースを担当してきたPaul O'Duffyに代わり、Ray Haydenをプロデューサーに起用しているのも本作の話題ですね。
リアルタイムでUKアシッド・ジャズを聴いていた方ならば、当時のRay Haydenの売れっ子ぶりはご存知かと思います。
レコーディングにはMatt Backer(g)、Tim Cansfield(g)、Derick Johnson(b)、Myke Wilson(ds、timbales)、Chris Manis(per)、Gary Plumley(sax、fl)、John Thirkell(tp、flh)、Richard Edwards(tb)、Derek Green(back vo)、Erica Harrold,(back vo)、Sylvia Mason-James(back vo)といったメンバーが参加しています。
「La La (Means I Love You)」、「O Pesadelo Dos Autores」以外はSOSおよびレコーディング・メンバーによるオリジナルです。
全体としてはSOSのソウルフルな側面が反映されているアルバムという気がします。また、Ray Haydenプロデュースおよびバンド・サウンド重視ということでジャズ・ファンク的な演奏も目立ちます。さらにブラジル音楽からの影響も垣間見ることができます。
大ヒット「Breakout」のイメージのみで捉えられがちなSOSですが、例えば名曲メドレー「O Pesadelo Dos Autores」の選曲センス1つとっても、彼らを薄っぺらなイメージで捉えることが誤りであることがわかると思います。
進化するSOSを実感できる1枚だと思います。
全曲紹介しときやす。
「Better Make It Better」
シングルにもなったオープニング。誰でもいつかは死ぬのだから、生きている間は素敵な人生を過ごしましょ!という運命論的な歌詞を歌ったおのです。重くなりがちなテーマを歌ったものですが、そこをサラっと聴かせてしまうのがSOS風なのでは。
http://www.youtube.com/watch?v=gaBbuhI_xl8
「Don't Let Yourself Down」
Corinne本人はN.Y.のHip-Hopを意識した曲と称していますが、アーバンなブルーアイド・ソウルといった趣の仕上がりです。
http://www.youtube.com/watch?v=-PczbnpKw_8
「Ordinary People」
ソウルフルなファンキー・チューンをSOSらしい洗練されたセンスでまとめ上げたといった感じです。このあたり、プロデューサーRay Haydenのセンスかもしれませんね。
http://www.youtube.com/watch?v=5MKnL4p_Bn0
「Mama Didn't Rise A Fool」
SOSらしいソフィスティケイトされたサウンドを満喫できる1曲。歌詞は母子家庭で前向きに生きる母親への応援ソングになっています。
http://www.youtube.com/watch?v=E6ZV18R1AhY
「Don't Give Up On A Good Thing」
70年代ソウルへのリスペクトを感じる爽快グルーヴ。"バンド・サウンド"という本作の狙いが上手く反映された演奏だと思います。
http://www.youtube.com/watch?v=HQVSmuXhFkQ
「Making The Right Move」
オリジナル曲の中で最もソウルを感じる1曲。10分超の長尺ですが、演奏のテンションが高かったのでヴォーカル・パートが終わったのちも演奏を続けた模様です。それだけ素晴らしいセッションであったという証でしょう。
http://www.youtube.com/watch?v=sRiAXrPvk5c
「La La (Means I Love You)」
Delfonicsの名曲カヴァー(Thom Bell/William Hart作)。シングルにもなりました。また、Hugh Grant、Andie MacDowell主演の映画『Four Weddings and a Funeral(邦題:フォー・ウェディング)』のサントラにも収録されてます。オリジナルがあまりにも偉大な名曲ですが、ちゃんとSOSならではのカヴァーに仕上げているのは流石だと思います。先入観なしに聴くと、かなり良いですよ!
http://www.youtube.com/watch?v=5n0up9BNK2w
「Feel Free」
ジャズ・ファンクな仕上がり。この時期のUKはアシッド・ジャズ後期だったので、バンド・サウンドを重視すればこういう演奏は何曲か入ってくるでしょうね。
http://www.youtube.com/watch?v=kqSL6tC5F5c
「Stop And Think It Over」
Andyの一番のお気に入り曲なのだとか。派手さはありませんが、じわじわ伝わってくるソウルフルなミッド・チューンに仕上がっています。
http://www.youtube.com/watch?v=eoA2GezkgYI
「That's The Way It Goes」
僕の一番のお気に入りはコレ。パーカッシヴなブラジリアン・フュージョンに仕上がっています。流れとしても次曲「O Pesadelo Dos Autores」の伏線になっていてグッド!
http://www.youtube.com/watch?v=Iqgs5smH34A
「All In Your Mind/O Pesadelo Dos Autores」
オリジナル曲「All In Your Mind」と名曲メドレー「O Pesadelo Dos Autores」のメドレー(メドレーの入れ子構造でややこしいですが)。「All In Your Mind」は少しレイジーなブラジリアン・メロウ。諭すようなCorinneのヴォーカルが印象的です。
「O Pesadelo Dos Autores」は、Airto Moreira「Tombo in 7/4」、EW&F「Brazilian Rhyme」、Tania Maria「Come With Me」、Stevie Wonder「My Cherie Amour」、Ivan Lins「Abre Alas」、Herbie Hancock「Butterfly」のメドレーです。全体としてブラジリアン・フレイヴァー全開のエレガント・メロウに仕上がっています。ブラジル音楽好きの僕にはかなりツボです。
このうち、Ivan Lins「Abre Alas」は「The Smiling Hour」のタイトルによる英語カヴァーでもお馴染みですね。Sarah Vaughan ヴァージョンが有名ですが、Andy Connellがかつて参加していたバンドKalimaでもカヴァーしていました。今回の選曲もその影響かもしれません。
「All In Your Mind」
http://www.youtube.com/watch?v=Z-rc5acX49Q
「O Pesadelo Dos Autores」
http://www.youtube.com/watch?v=LgvQpnEbMX4
Kalima「The Smiling Hour」(1984年)
http://www.youtube.com/watch?v=LW-jPb8ELgE
「Low Down Dirty Business」
ラストはインストというのが本作らしいですね。本演奏はSons Of Samacand名義(同じSOSですが)でアシッド・ジャズの代表レーベルTalkin' Loudからアナログ盤もリリースされています。当然のことながら、この時期のUKらしいジャズ・ファンク・チューンに仕上がっています。
http://www.youtube.com/watch?v=FnjhDHOTDzo
Swing Out Sister(SOS)の過去記事もご参照下さい。
『Kaleidoscope World』(1989年)
『Shapes And Patterns』(1997年)