発表年:2012年
ez的ジャンル:才女系ジャズ・べーシスト/ヴォーカリスト
気分は... :ピープル・ツリーが興味深い!
今日は昨年のグラミーで最優秀新人賞を受賞した女性ジャズ・べーシスト/ヴォーカリストEsperanza Spaldingの新作『Radio Music Society』です。
弱冠20歳のときに名門バークリー音楽学院の教壇に立ち、かのPat Methenyの持っていた講師の学院最年少記録を塗り替えた才女Esperanza Spaldingの紹介は、『Esperanza』(2008年)に続き2回目です。
昨年のグラミー受賞をきっかけに一気に知名度が上がったEsperanza Spaldingですが、Justin BieberやDrakeを差し置き、彼女が最優秀新人賞を受賞したとき、「誰この人?」と思った人も多かったのではないかと思います。受賞対象となった作品は3rdアルバム『Chamber Music Society』(2010年)でしたが、僕自身は2nd『Esperanza』(2008年)で彼女のファンになっており、"3rdアルバムまで出している彼女が何故新人賞なんだろう?"という別の疑問が湧いていましたが。
個人的には、ブラジリアン・フレイヴァーの効いた『Esperanza』をとても気に入っていたので、そうした色合いが薄れ、室内楽のエッセンスを強く取り入れた『Chamber Music Society』はお上品すぎる印象を持ち、多少の物足りなさを感じたものです。
本作『Radio Music Society』は、『Junjo』(2006年)、『Esperanza』、『Chamber Music Society』に続く4thアルバムとなります。
前作と対をなすようなアルバム・タイトルですが、ジャケからして前作とは異なるストリート(?)な雰囲気であり、さらに僕も大好きなHip-HopアーティストQ-Tipが2曲で共同プロデュースしていることからR&B/Hip-Hop路線を期待した人も多かったのでは?
ただし、実際に音を聴いてみると、ネオソウル的な雰囲気も一部にはありますが、正直R&B/Hip-Hop路線を期待するとギャップがある作品だと思います。
"ジャズの枠に収まらないものの、基本はしっかりジャズしている作品"というのが僕の印象です。また、全曲ヴォーカル入りであり、Blossom DearieばりのEsperanzaのキュートなヴォーカルを楽しめます。その意味ではサウンドと同時にメッセージを大切にしている楽曲が目立つのも事実です。
レコーディングには、長年の仕事仲間Leo Genovese(key)、Terri Lyne Carrington(ds)をはじめ、Q-Tip(prod、vo)、Jack DeJohnette(ds)、Billy Hart(ds)、Jef Lee Johnson(g)、Lionel Loueke(g)、Ricardo Vogt(g)Joe Lovano(ts)、Daniel Blake(sax、fl)、James Weidman(org)、Jamey Haddad(per)、Gretchen Parlato(back vo)、Lalah Hathaway(vo)、Algebra Blessett(back vo)、Leni Stern(back vo)、Becca Stevens(back vo)、Alan Hampton(back vo)等の新旧ミュージシャンが参加しています。
個人的には昨年リリースした最新作『The Lost And Found』を当ブログでも大絶賛したGretchen Parlatoの参加に注目しています。実際、EsperanzaはGretchenから影響を受けているようですね。また、本作に参加している天才ギタリストLionel Louekeも元々はGretchenの盟友ですし・・・
さらにGretchenを介して、先日衝撃の新作『Black Radio』を当ブログで紹介したRobert Glasperまでピープル・ツリーを拡げていくと、最近のジャズの新潮流が見えてくるのでは?
※Robert Glasperは前述の『The Lost And Found』をGretchenと共同プロデュース
細かく触れることができませんが、Gretchen以外の参加メンバーもチェックしていくと、なかなか興味深いピープル・ツリーを描けると思います。個人的には昨年デビュー・アルバム『Weightless』をリリースしたBecca Stevensあたりも要チェックだと思います。Norah Jones好きはグッとくると思います。
話を『Radio Music Society』に戻せば、必ずしもインパクトの大きな作品ではありませんが、今どきのジャズを堪能するという意味では楽しめる1枚だと思います。特にヴォーカリストとしてのEsperanzaの魅力に触れることができるのでは?
全曲のクリップが収録されたDVD付のヴァージョンもあります。
Esperanza Spalding『Radio Music Society』 ※CD+DVD♪
Michael Jackson「I Can't Help It」、Wayne Shorter「Endangered Species」のカヴァー以外はEsperanzaのオリジナルです。
全曲紹介しときやす。
「Radio Song」
キュートなEsperanzaのヴォーカルと流麗なエレクトリック・ベースが音空間を楽しげに駆け巡る開放的なオープニング。ジャズをベースにさまざまな音楽のエッセンスを取り込む自由なEsperanzaの音楽性がよく表れた1曲なのでは?個人的にはJamey Haddadのパーカッションによるラテン・フレイヴァーがいいアクセントになっていると思います。Alan Hamptonがバック・ヴォーカルで参加。
http://www.youtube.com/watch?v=ew-wc1CINZ8
「Cinnamon Tree」
バイオリン、チェロも配したエレガントかつコンテンポラリーな仕上がり。幼馴染みとのプラトニックな愛情を描いた歌であり、そんなピュア・テイストがサウンドにも反映されています。つい数日前にスウェディッシュ・ポップ・グループCinnamonを紹介したばかりなので、このタイトルにも反応してしまいます(笑)
http://www.youtube.com/watch?v=nv4uby-aGKo
「Crowned & Kissed」
Q-Tip共同プロデュース曲その1。ただし、Hip-Hop的なテイストが強調されているわけではなく、Qちゃんの復帰作『The Renaissance』(2008年)で聴かれた感覚に近い雰囲気の軽快ジャズ・チューンに仕上がっています。緩急自在な感じがいいですね。Jeff Galindoのトロンボーンがいい味出しています。
http://www.youtube.com/watch?v=OgrmWSnklkY
「Land Of The Free」
EsperanzaのヴォーカルとJames Weidmanのオルガンのみの演奏です。冤罪の被害者について歌ったものです。
「Black Gold」
ネオソウル系女性シンガーAlgebra Blessettをフィーチャー。アフリカン・アメリカンなグルーヴにグッとくるネオソウル調の仕上り。ソウル/R&B好きの人が聴くのであれば、この曲のフィーリングが一番合うのでは?Lionel Louekeの堅実なギター・プレイで好サポートしています。
http://www.youtube.com/watch?v=Nppb01xhfe0
「I Can't Help It」
Michael Jacksonの人気曲をカヴァー(Stevie Wonder/Susaye Coton Greene作)。この曲のジャズ・カヴァーと言えば、真っ先にGretchen Parlatoヴァージョンを思い浮かべてしまいます。Robert Glasper Experimentも本曲を演奏していますね。ということで、現在注目のジャズ・アーティスト3組がいずれも「I Can't Help It」を取り上げているというのは実に興味深いですね。
Esperanzaのカヴァーは、本人も語っているようにGretchen Parlatoヴァージョンの影響を受けており、Gretchen Parlatoもバック・コーラスで参加しています。軽やかな中にもどこかミステリアスな雰囲気が漂うのがいいですね。Gretchen以外にBecca Stevens、Justin Brownもバック・コーラスで盛り上げてくれます。
http://www.youtube.com/watch?v=8FqAzMnUTcI
Gretchen Parlatoヴァージョンは『In a Dream』(2009年)に収録されています。
Gretchen Parlato「I Can't Help It」
http://www.youtube.com/watch?v=D69aT-IFelQ
『In a Dream』(2009年)
「Hold On Me」
ベテラン・ドラマーBilly Hartも参加したノスタルジックな雰囲気のジャズ・ヴォーカル・チューンに仕上がっています。The American Music Programのビッグ・バンドが盛り上げてくれます。
「Vague Suspicions」
戦争による無差別殺人をテーマにした社会派ソング。Esperanzaの切ない叫びが美しくも切ないメロディにのって響いてきます。
「Endangered Species」
Wayne Shorter作品に歌詞をつけたもの。Shorterのオリジナルは『Atlantis』(1985年)に収録されています。Gretchen ParlatoもShorter作品を盛んにカヴァーしていますし、改めてWayne Shorterの名コンポーザーぶりを確認できます。ここではLalah Hathawayのヴォーカルをフィーチャーし、ミステリアスなコンテンポラリー・ジャズに仕上がっています。キュートなEsperanzaとソウルフルなLalahのヴォーカルのコントラストが楽しいです。
「Let Her」
派手さはありませんが、小粋なヒネリの効いた1曲。
「City Of Roses」
Q-Tip共同プロデュース曲その2。Esperanzaの故郷、オレゴン州ポートランドのことを歌ったジャジー・チューン。故郷への愛情がキュートな歌声で歌われます。Qちゃんもヴォーカルで参加。
「Smile Like That」
ラストは恋の終わりを歌ったもの。しかし、湿っぽくなくカラっとした雰囲気のヴォーカル&サウンドが印象的です。
http://www.youtube.com/watch?v=jpf3AwpTfOg
僕が保有するのは輸入盤ですが、国内盤にはボーナストラック「Jazz Ain't Nothin' But Soul」gが収録されています。
Esperanza Spaldingの他作品もチェックを!特にブラジリアン・フレイヴァーな2nd『Esperanza』(2008年)が超オススメです。
『Junjo』(2006年)
『Esperanza』(2008年)
『Chamber Music Society』(2010年)