発表年:2012年
ez的ジャンル:アルゼンチン・コンテンポラリー・フォルクローレ
気分は... :聴く者を没入させる魔法の音世界!
アルゼンチンのコンテンポラリー・フォルクローレ・シーンの巨匠Carlos Aguirreの最新作『Orillania』です。
大自然の息吹を音にしたような美しいサウンドで、日本に"静かなる音楽"好きを増殖させた張本人ですね。先月2度目の来日公演を果たし、"静かなる音楽"好きを歓喜させたことと思います。
Carlos Aguirreは1965年、アルゼンチン、エントレリオス州セギーの生まれのシンガー・ソングライター/ピアニスト/ギタリスト。
80年代後半から音楽活動を開始し、自身のレーベルShagrada Madraを設立してからは、同レーベルからCarlos Aguirre Grupo名義の『Crema』(2000年) 、『Rojo』(2004年) 、『Violeta』(2008年) 、ソロ名義の『Caminos』(2006年) といったアルバムをリリースしています。
それ意外にLucho Gonzalezとの共演作Lucho Gonzalez/Carlos Aguirre『Tejundo A Mano』(1990年) 、Francesca Ancarolaとの共演作Francesca Ancarola/Carlos Aguirre『Arrullos』(2009年)といったアルバムをリリースしています。
ここ数年日本でも大注目のアルゼンチン音楽ですが、そんな盛り上がりの中心にいるのがコンテンポラリー・フォルクローレの巨匠Carlos Aguirreです。
僕自身はアルゼンチン音楽好きと呼べるほど、この方面に明るいわけではありませんが、CD棚を眺めると着実にアルゼンチン人アーティストの作品が増え、Andres Beeuwsaert、Florencia Ruiz等の作品にハマっているのも事実です。また、元来Pat Metheny作品に癒されている僕には、"静かなる音楽"好きの素養があるのだと思います(笑)。その意味では、もっと掘り下げていきたいジャンルですね。
さて、巨匠Carlos Aguirreの最新作『Orillania』ですが、2005年からレコーディングを開始し、完成まで約7年の歳月を要した集大成的アルバムです。
さまざまな南米ミュージシャンと共演し、アルゼンチン以外にブラジル、ウルグアイ、チリでレコーディングは行われました。その意味では、これまでの作品以上に多彩な作品に仕上がっていると思います。まさにジャケのようなパステルカラーの音像がイメージされます。
レコーディングには、Fernando Silva(b)、Luis Barbiero(fl)、Jose Piccioni(per)、Mono Fontana(p)、Aca Seca TrioのJuan Quintero(vo)、Jorge Fandermole(vo)、Quique Sinesi(g)、Luis Salinas(g)といったアルゼンチン人ミュージシャンに加え、ブラジル人のGladston Galiza(vo)、Monica Salmaso(vo)、フュージョン・グループOPAのメンバーとしてお馴染みのウルグアイ人Hugo Fattoruso(vo、syn)、チリ人のFrancesca Ancarola(vo)、コロンビア人のAntonio Arnedo (sax)等さまざまな国から多彩なミュージシャンが参加しています。
いやぁ、とんでもない作品に出会ってしまったなぁ、という感想のアルバムです。
あらゆる音楽ジャンルを眺めても最高峰の1枚ではないでしょうか。
こんな素晴らしい作品を聴いてしまうと、他の作品が聴けなくなってしまいます。困ったものですな。
このクリエイティヴかつ美しい音世界は、音楽ジャンルや言語を超越して聴く者を没入させるのではないかと思います。
5年後、10年後に聴いても名盤として光り輝いている1枚だと思います。
音楽の持つ魔法の力を再認識させてくれた1枚です。
全曲紹介しときやす。
「El hombre que mira el mar」
Carlos Aguirre作。ペルーでの思い出を綴った1曲。さざ波の効果音も交え、Aguirreらしい透明感のある音世界を聴かせてくれます。しみじみとしたAguirreのヴォーカルに絡む女性コーラスもグッド!アルゼンチン音響派の重要ピアニストMono Fontanaが参加し、美しい響きのピアノで魅了してくれます。
http://www.youtube.com/watch?v=WJWgK9GiFCo
ご興味のある方はMono Fontanaの作品もチェックを!
Mono Fontana『Cribas』(2007年)
「Casamiento de negros」
Violeta Parra作のチリ・フォルクローレをカヴァー。社会変革を目指したヌエバ・カンシオンの先駆者Violeta Parra作品を、素晴らしいアレンジのビューティフル・サウンドで21世紀に蘇らせてくれました。これには脱帽です。Silvia Salomone、Paula Rodriguez、Emilia Wingeyerという女性コーラス隊の透明な歌声にも癒されます。
「Preparativos del viaje de la ratita Amelia a casa de su tia Clelia」
Carlos Aguirre作。AguirreのピアノとLuis Barbieroのフルートのみのインスト小曲。1980年代半ばからの仲間であるBarbieroとの友情を感じる瑞々しい演奏です。
「Naufrago en la orilla」
Carlos Aguirre/Walter Heinze作。ブラジル人シンガーGladston Galizaやコンテンポラリー・フォルクローレ・シーンの人気のギタリストQuique Sinesiが参加しています。Jose Piccioniのパーカッションの響きが心地好い、サルサ/ブラジル音楽のエッセンスも取り込んだ開放的な汎ラテン・チューンに仕上がっています。アルゼンチン音楽好き以上に、ラテン/ブラジル音楽好きにフィットする1曲なのでは?Quique Sinesiもメロウ・テイストで流石のプレイを聴かせてくれます。
ご興味のある方はQuique Sinesiの作品もチェックを!
Quique Sinesi『Danza sin fin』(1998年)
「El diminuto Juan」
Carlos Aguirre/Jorge Fandermole作。Andres BeeuwsaertらとのユニットAca Seca Trioでお馴染みのJuan QuinteroとAguirreの盟友Jorge Fandermoleがヴォーカルで参加しています。Aguirreも交えた3人のヴォーカルがしみじみと伝わってくる味わい深い仕上がり。
「Con los primeros pajaros de la manana」
Carlos Aguirre作。サンパウロの新世代MPBシンガーMonica Salmasoをフィーチャー。AguirreおよびQuique SinesiのギターにMonica Salmasoのスキャットが絡む様は、まるでPedoro Aznarの天使のスキャットを伴うPat Metheny作品を聴いている気分になります。ただし、Aguirre自身のアコーディオンでアクセントをつけているのはコンテンポラリー・フォルクローレ作品ならではですね。
「Rezo」
Carlos Aguirre作。AguirreのアコーディオンとSebastian Macchiのピアノのみのインスト。「祈り」と題したタイトルそのままに、切ない思いが伝わってくるシンプルながらも感動的な演奏です。
「El hechizo de tu nombre」
Carlos Aguirre/Livia Vives作。チリ人女性シンガーFrancesca Ancarola、コロンビア人サックス奏者Antonio Arnedoをフィーチャー。ラテンとジャズとコンテンポラリー・フォルクローレがバランスが絶妙な美しい1曲に仕上がっています。艶やかなFrancesca Ancarolaのヴォーカルと心地好い音色に魅了されるAntonio Arnedoのサックスもグッド!
「Puerto」
Carlos Aguirre作。フュージョン・グループOPAのメンバーであり、当ブログでもお馴染みのウルグアイ人キーボード奏者Hugo Fattorusoがヴォーカル&シンセで参加しています。ウルグアイのアフロ・リズム"カンドンベ"を取り入れたフュージョン・テイストの演奏が、ファンの方が聴いてAguirreらしいものなのかは判断しかねますが、南米フュージョンがお好きな方であれば楽しめると思います。僕のようにパーカッシヴな音が好きな人間にとっては、カンドンベのリズムが心地好いです。
http://www.youtube.com/watch?v=nRLUdcjlT60
「Peces de luz」
Carlos Aguirre/Livia Vives作。じっくりと歌い込まれるAguirreらしい美しい音世界を満喫できます。
「Caracol」
Carlos Aguirre作。AguirreのピアノとLuis Barbieroのフルート、ピッコロによるインスト小曲。
「Pueblos tristes」
ベネズエラ人ミュージシャンOtilio Galindezの作品をカヴァー。苦悩に満ちた歌をノスタルジックかつビューティフルなサウンドで再構築しています。素晴らしいですね。
「Compadres candomberos」
Carlos Aguirre作。ラストはフェンダー・ローズのメロウな音色をバックにAguirreが優しく語りかけてくれます。Luis SalinaのPat Methenyのようなビューティフル・ギターもサイコーです。全ての嫌なことを洗い流してくれる至極の癒しソングだと思います。この曲を子守唄にすれば、間違いなく快眠できる気がします。
「Con los primeros pajaros de la manana」
「Con los primeros pajaros de la manana」の別ヴァージョンがボーナス・トラックとして収録されています。ここではAguirreのピアノとMonica Salmasoのスキャットのみの演奏を聴くことができます。このヴァージョンも実に感動的です。
Carlos Aguirre Grupo『Crema』(2000年)