発表年:2013年
ez的ジャンル:Flying Lotus系天才ベーシスト
気分は... :喪失と再生・・・
今回は音楽ファン大注目の天才ベーシストThundercatの最新2ndアルバム『Apocalypse』です。
ThundercatことStephen Brunerは、Diana RossやThe Temptations等のバックを務めた黒人ドラマーRonald Bruner Sr.を父に持つベーシスト(多分、現在27歳前後)。兄のRonald Bruner Jr.もグラミー受賞歴を持つ敏腕ドラマーです。
こうした音楽一家のなかで幼少期からベースを弾き始め、10代の頃からLeon Wareをはじめとする様々なソウル/ジャズ・ミュージシャンのバックを務めています。その一方で16歳から現在に至るまでL.Aのクロスオーヴァー・スラッシュ/ハードコア・バンドSuicidal Tendenciesに参加しているという側面を持ちます。
当ブログで紹介した作品でいえば、Erykah Badu『New Amerykah Part Two: Return Of The Ankh』(2010年)、Flying Lotus『Until The Quiet Comes』(2012年)の記事にThundercatの名が登場します。
特にLAビート・ミュージックの牽引者Flying Lotusとはアルバム『Cosmogramma』(2010年)の頃から蜜月関係にあり、Flying Lotusの後押しもあって彼のレーベルBrainfeederから1stソロ・アルバム『The Golden Age of Apocalypse』(2011年)をリリースしています。この作品は一部音楽ファンやミュージシャンの間で評判となり、一躍Thundercatの存在が注目されるようになりました。
本作『Apocalypse』は、『The Golden Age of Apocalypse』に続く2ndアルバムであり、前作同様Brainfeederからのリリースです。エグゼクティヴ・プロデューサーとしてFlying Lotusの名がクレジットされています。
僕も発売前から期待していたアルバムであり、発売直後に国内盤を即ゲットしましたが、某CDショップの新譜コーナーで本作が大々的にプッシュされているのには正直驚きました。しかも発売元の謳い文句が「Jaco PastoriusとStevie Wonderがセッションしたような・・・」といった具合です。そんな大袈裟なフレーズで売り出すと、アーティスト/作品の真の姿が歪曲してしまうと思いますが・・・
ジャズ、ソウル、エレクトロニカ、プログレッシヴ・ロック、コズミック・ファンク、ディスコ等をBrainfeederらしいエクぺリメンタルな感覚でまとめあげた作品に仕上がっています。天才ベーシストとしての壮絶プレイもさることながら、本作では歌への比重が高まっているのが特徴です。
本作のテーマは「喪失と再生」。この背景には、『The Golden Age of Apocalypse』にも参加していた天才ピアニストAustin Peraltaが昨年11月に急逝したことが大きく影響しています。ジャケのインナーには在りし日のPeraltaの姿が写り、彼の死による喪失感や死生観を感じる楽曲が目立ちます。
アルバムには元The Mars VoltaのドラマーThomas Pridgen、Thundercatも一目置くベーシストHadrien Feraud、新世代ソウル・ミュージックの担い手Adrian Younge、グラミー賞受賞ピアニストRuslan Sirota等も参加しています。
楽曲はすべてThundercat、Flying Lotusらによるオリジナルです。
「Jaco PastoriusとStevie Wonderがセッションしたような・・・」といった謳い文句に惑わされることなく、Thundercatというアーティストの立ち位置や本作の「喪失と再生」というテーマの背景を知ることで、より興味深く聴くことができると思います。
全曲紹介しときやす。
「Tenfold」
Thundercatの哀愁モードのヴォーカルがスペイシーなエレクトロニカ・サウンドの中を駆け抜けます。
http://www.youtube.com/watch?v=F_mjwyPFCGs
「Heartbreaks + Setbacks」
僕の一番のお気に入り。メロディアスかつうねるグルーヴが僕好みのコズミック・ソウル!曲自体はPeraltaの死にショックを受け、心が折れかけていた時期に作られたもののようです。そんな自分を奮い立たせるかのような孤独な疾走感にグッときます。もっと長尺で聴きたい!
http://www.youtube.com/watch?v=48hJPXmqiFo
「The Life Aquatic」
ミニマル感覚のエレクトロニカなインスト。このあたりはBrainfeeder作品らしいエクぺリメンタル感覚ですね。
http://www.youtube.com/watch?v=Zmdqr1zl5S8
「Special Stage」
美しさの中にエクぺリメンタルなスパイスの効いたソウル・チューン。
http://www.youtube.com/watch?v=dCZeWhfEpVU
「Tron Song」
スペイシー感覚の音世界が印象的なビューティフル・ソング。歌とメロディを重視した本作らしい仕上りなのでは?
http://www.youtube.com/watch?v=czATEsWsmXU
「Seven」
ミニマルなエクぺリメンタル・チューン。このあたりは好き嫌いが分かれるかもしれませんが・・・
http://www.youtube.com/watch?v=4cmP3M4NY9A
「Oh Sheit it's X」
「Heartbreaks + Setbacks」と並ぶ僕のお気に入り。80年代感覚のキャッチーなディスコ・ファンク・チューンに仕上がっています。
http://www.youtube.com/watch?v=uAdxsQC--ns
「Without You」
ここからはAustin Peraltaの死が影響している楽曲が続いています。サウンド自体はポップですが、どこか寂しげなヴォーカルが友の喪失感を表しているのでは?
http://www.youtube.com/watch?v=DfXhyl3KMLI
「Lotus and the Jondy」
タイトルにあるJondyとはAustin Peraltaの愛称です。スピリチュアル・ジャズ感覚の演奏ですが、特に後半のインプロヴィゼーションはテンション高いです。
http://www.youtube.com/watch?v=GfcfFYg6puM
「Evangelion」
タイトルはお馴染みのアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』からとってものです。死はあらゆる生に付随するという死生観をエヴァンゲリオンやPeraltaの死に照らし合わせているようです。
http://www.youtube.com/watch?v=bfVkz2DYlNY
「We'll Die」
この曲も前曲の流れを汲むかのようなスピリチュアルな小曲です。
http://www.youtube.com/watch?v=byNQwIYz8xU
「Daylight (Reprise)」
この曲は国内盤のみのボーナス・トラック。前作『The Golden Age of Apocalypse』にも収録されていた「Daylight」のリプライズです。
「A Message for Austin/Praise the Lord/Enter the Void」
ラストは3曲から成る組曲。「A Message for Austin」はタイトルの通り、Austin Peraltaに捧げられた楽曲。坂本龍一「El Mar Mediterrani」をサンプリングしたトラックに合わせて友の死を悼んでいます。「Enter the Void」は東京を舞台にしたGaspar Noe監督の同名映画がモチーフになっているようです。
http://www.youtube.com/watch?v=sHowf-v1Aho
『The Golden Age of Apocalypse』(2011年)