2014年09月09日

Slum Village『Fantastic, Vol. 2』

故J Dillaが創り出したHip-Hopの金字塔☆Slum Village『Fantastic, Vol. 2』
Fantastic vol.2
発表年:2000年
ez的ジャンル:J Dilla系Hip-Hop
気分は... :全米オープン決勝、イルカ軍団快勝、『Jazz The New Chapter 2』・・・

テニスの全米オープン決勝、NFL開幕戦でドルフィンズが白星スタート、話題の音楽ムック本の続編『Jazz The New Chapter 2』の発売・・・今日は書きたいことが山ほどあるのですが・・・

とりあえず『Jazz The New Chapter 2』から・・・

新しいジャズの潮流を紐解いた話題の音楽ムック本『Jazz The New Chapter』の続編『Jazz The New Chapter 2』が昨日発売となりました。

『Jazz The New Chapter 2』
Jazz The New Chapter 2 (シンコー・ミュージックMOOK)
『Jazz The New Chapter〜ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平』
Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)

『Jazz The New Chapter』では、Hip-Hop、ネオソウル、LAビート・ミュージック、インディー・ロック、ポストロック、ワールドミュージック等のさまざまなジャンルと融合するRobert Glasper以降の"進化するジャズ"の地図が示されました。

『Jazz The New Chapter 2』は、パート1の追加・補完的な内容であり、ご興味がある方は2冊セットで読むと楽しいと思います。僕も早速購入し、ざっと目を通しましたがTaylor McFerrin『Early Riser』Gideon Van Gelder『Lighthouse』Richard Spaven『Whole Other』といった当ブログで紹介した新作ジャズ作品がきっちりフォローされておりニンマリしています(笑)

新作以外にもJazz The New Chapterの流れで紹介したい作品が我が家のCD棚にかなり溜まってきているので、今月はJazz The New Chapter強化月間として、関連する作品を集中的に紹介したいと思います。と言っても、ジャズ作品ばかり紹介するわけではなく、進化するジャズに影響を与えた作品や、ジャンル融合的な作品も紹介していきます。

まず第1弾として、"進化するジャズ"に大きな影響を与えたHip-HopクラシックSlum Village『Fantastic, Vol. 2』(2000年)です。

Slum Villageは、ご存知の通り故J Dilla(1974-2006年)が在籍していたHip-Hopグループです。J Dilla(当時はJay Dee)がT3Baatinという高校の仲間と1988年にデトロイトで結成しました。

A Tribe Called QuestQ-Tipと出会い、その才能を認められたJay Deeは、The Pharcyde『Labcabincalifornia』(1995年)のプロデュースを皮切りに、プロダクション・チームThe Ummahでの活動などで、その名がシーンで知られるようになります。さらに、2000年代のR&B/Hip-Hopの流れを決定づけた音楽コレクティヴThe Soulquariansのメンバーとなり、絶頂期を迎えることになります。

その傍らでSlum Villageとして『Fan-Tas-Tic (Vol. 1)』(1996年)、『Fantastic, Vol. 2』(2000年)といったアルバムをリリースしています。その後、ソロ活動に専念するためJ Dillaはグループを脱退しています。

『Jazz The New Chapter』に話を戻すと、"進化するジャズ"の中心人物は『Black Radio』(2012年)で音楽シーンに衝撃を与えたRobert Glasperですが、そのGlasperをはじめとする進化形ジャズ・ミュージシャンに大きな影響を与えたのがJ Dillaです。

極端な言い方をすれば、J Dillaのトラックを聴いたことがない人に、"進化するジャズ"の面白さは理解できないというのが『Jazz The New Chapter』のスタンスですからね。

『Jazz The New Chapter』には、J Dillaを代表する1枚として、彼もプロデュースで参加したCommon『Like Water For Chocolate』(2000年)が挙げられていました。

J Dilla作品を未聴の方がいれば、『Like Water For Chocolate』あたりから入るのもいいかもしれませんが、そこをパスしたならば、次の作品としてチェックして欲しいのがSlum Village名義の本作『Fantastic, Vol. 2』(2000年)です。

やはり、J DillaのホームグループであるSlum Villageの作品をチェックしておきたいですよね。『Like Water For Chocolate』以上に、J Dillaの独自性を満喫できるはずだと思います。

1997〜1998年頃にレコーディングされた本作には、Q-TipD'AngeloといったThe Soulquariansの仲間や、Pete RockJazzy JeffBusta RhymesKuruptといったゲストを迎えています。

何の予備知識なしに聴いても、J Dillaという不世出の天才が創り上げたHip-Hopの1つの金字塔的作品として楽しめるはずです。

さらにRobert Glasperの諸作を聴いたうえで、Jazz The New Chapter的な観点から聴くと、さらに楽しみが増す1枚だと思います。

全曲紹介しときやす。

「Intro」
時計の目覚ましの音と共にアルバムはスタートします。終盤の声ネタはA Tribe Called Quest「Butter」です。
https://www.youtube.com/watch?v=Sp0q-LqBR94

「Conant Gardens」
Little Beaver「A Tribute to Wes」ネタのベース・ラインのループを使いながら、J Dillaらしいビートを響かせます。A Tribe Called Quest「Award Tour」の声ネタ、終盤には『Fan-Tas-Tic (Vol. 1)』収録の「Keep It on (This Beat)」も声ネタもサンプリングされています(これ自体James Brown「Make It Funky」ネタですが)。
https://www.youtube.com/watch?v=rNW32tg-mbU

「I Don't Know」
Jazzy JeffのスクラッチをフィーチャーしたHip-Hopクラシック。J Dillaらしい独自の揺らぎのあるビートはBaden Powell「E Isso Ai」ネタのメロウなループとよくフィットして実に心地好いですね。Jazzy Jeffの擦りもいい感じです。James Brownの声ネタが配されています。
https://www.youtube.com/watch?v=rXd5ZXTjStA

「Jealousy」
Bill Evans「Are You All the Things」のエレピ・ネタが心地好く弾みます。
https://www.youtube.com/watch?v=rkdVhMIxkF4

「Climax (Girl Shit)」
Isao Tomita「Clair De Lune」ネタの浮遊するメロウ・トラックが絶品です。揺らぎのあるビートの威力発揮ですね。Steve Miller Band「Space Intro」もサンプリングしています。
https://www.youtube.com/watch?v=-p16_e_x7c4

「Hold Tight」
Q-Tipをフィーチャー。KC & the Sunshine Band「What Makes You Happy」ネタのループと共にスタート。さらにはThe Cannonball Adderley Quintet「Experience in E」ネタのサンプリングがミステリアスな雰囲気を醸し出します。J DillaQ-Tipとのタッグは、さらにQ-Tipの初ソロ『Amplified』へと続いていきます。
https://www.youtube.com/watch?v=3FQLgD_8wcs

「Tell Me」
D'Angeloをフィーチャー。D'Angeloの持つグルーヴ感覚とJ Dillaの持つビート感覚が融合したThe Soulquarians屈指のコラボですね。
https://www.youtube.com/watch?v=q4NikHEU6Ww

「What It's All About」
Busta Rhymesをフィーチャー。Alicia Myers「Don't Stop What You're Doin'」ネタのメロウ・ダンサーな上モノ、J Dillaのビート、Bustaのダミ声フロウの組み合わせは実にキャッチーです。
https://www.youtube.com/watch?v=mKvSQzwlJuQ

「Forth and Back」
Kuruptをフィーチャー。Kuruptの客演は少し意外な気もします。Tom Browne「Funkin' For Jamaica」ネタの重心が低くアブストラクト感のあるトラックが印象的です。Kool & the Gang「Jungle Boogie」の声ネタやHerbie Hancock「I Thought It Was You」、Crown Heights Affair「Far Out」ネタも軽く入っています。
https://www.youtube.com/watch?v=znQxLCp-Rsk

「Untitled/Fantastic」
前半の「Untitled」は何の予備知識もなく聴くと、ATCQの楽曲と思い込んでしまいそうですね。
https://www.youtube.com/watch?v=0BOJH-G0T3I

当ブログでも度々その名前が登場すると同時に、Build An ArkやFlying Lotus等の作品に参加し、『Jazz The New Chapter 2』でも特集が組まれていた弦楽器奏者Miguel Atwood-Fergusonがオーケストラを従え、本曲をカヴァーしています。これ自体が進化するジャズにおける本作やJ Dillaの影響力を象徴していますね。

「Fall in Love」
Gap Mangione「Diana in the Autumn Wind」をサンプリングするあたりにJ Dillaのセンスと音楽IQの高さを感じます。ビートはIron Butterfly「Soldier in Our Town」ネタ。
https://www.youtube.com/watch?v=_Mjco9g5dCY

「Get Dis Money」
Jazz The New Chapter的なセレクトとしてチェックしておきたいトラックですね。Herbie Hancock「Come Running to Me」をサンプリングしています。Robert Glasperが、J Dillaと同様の影響力を語っていたHerbie Hancock。その両者がクロスする本曲をJazz The New Chapter的な観点から聴くのも楽しいのでは?
https://www.youtube.com/watch?v=F-oLqMwzvBY

「Raise It Up」
Thomas Bangalter「Extra Dry」ネタのループによるミニマル感が興味深いですね。
https://www.youtube.com/watch?v=eATZrHwNW7w

「Once Upon a Time」
Pete Rockをフィーチャー。Dee Dee Bridgewater「Afro Blue」をサンプリング。Jazz The New Chapter的な観点に立てば、J DillaがDee Dee Bridgewater「Afro Blue」をサンプリングし、J Dillaから影響を受けたRobert Glasper『Black Radio』で「Afro Blue」をカヴァーするというソング・サイクルは実に興味深いですね。
https://www.youtube.com/watch?v=hjhGGvJXeaA

「Players」
The Singers Unlimited「Clair」の声ネタを巧みに使った浮遊トラックが印象的です。
https://www.youtube.com/watch?v=xqylSGpyhOI

「Eyes Up」
ブリブリとうねるファンキー・トラックが印象的です。
https://www.youtube.com/watch?v=JDHX67ovBd0

「2U4U」
D'Angelo「Jonz In My Bonz」をサンプリング。J DillaがD'Angeloネタを使うのは少し反則技な気もしますが(笑)、究極に心地好いユラユラ浮遊するグルーヴを堪能できます。夢心地気分です。
https://www.youtube.com/watch?v=L_vNfcaX8oc

「CB4」
今では聴き慣れた乾いたビートと淡々としたフロウの組み合わせですが、それもJ Dillaのおかげですね。
https://www.youtube.com/watch?v=vbh-sopLNWA

「Go Ladies」
本編のラストは、Don Blackman「Holding You, Loving You」ネタの浮遊トラックで締め括ってくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=x5f4uhkDAK8

「Thelonius」
CDの隠れトラック。Common『Like Water For Chocolate』(2000年)収録曲としてお馴染みですね。『Jazz The New Chapter』の中でもRobert Glasperが影響を受けた楽曲として本曲が挙げられていました。『Like Water For Chocolate』であれば、「The Light」「The 6th Sense」あたりのHip-Hopクラシックに耳を奪われる人が多いにも関わらず、「Thelonius」に惹かれるあたりがRobert Glasperの感性なのかもしれませんね。George Duke「Vulcan Mind Probe」をサンプリング。
https://www.youtube.com/watch?v=7mvlaULr2Xs

『Fan-Tas-Tic (Vol. 1)』J Dillaのソロ作もチェックを!

『Fan-Tas-Tic (Vol. 1)』(1997年 ※2006年に再発)
FANTASTIC VOL. 1

Jay Dee『Welcome 2 Detroit』(2001年)
Welcome to Detroit

Jaylib『Champion Sound』(2003年)
Champion Sound

J Dilla『Donuts』(2006年)
Donuts

J Dilla『The Shining』(2006年)
The Shining

Jay Dee『Jay Deelicious: The Delicious Vinyl Years』(2007年)
Jay Deelicious: The Delicious Vinyl Years

J Dilla『Jay Stay Paid』(2009年)
Jay Stay Paid

テニスの全米オープン決勝、残念ながら錦織選手はストレート負け!でも今日は彼が悪かったというより、相手のチリッチが生涯最高のプレーと呼べるほど良すぎた!という感じでしたね。錦織選手の今大会の見事な戦いぶりに拍手を送りましょう!

NFL開幕戦でドルフィンズが白星スタート・・・これについては明日にでも書きます。
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2014年09月08日

Bjorn Gardsby『On The Line』

スウェーデン出身の男性SSWによるAOR/メロウ・グルーヴ☆Bjorn Gardsby『On The Line』
オン・ザ・ライン
発表年:1980年
ez的ジャンル:北欧SSW系AOR/メロウ・グルーヴ
気分は... :歴史的快挙まであと1つ・・・

昨日深夜の全米オープンテニス「ジョコビッチ対錦織」戦は興奮しましたね。

僕にとって男子テニスは試合時間が長すぎて1試合最初から最後まで観るのは結構つらいことが多いのですが、昨日だけは最初から最後まで夢中でTV観戦していました。特に勝負の分かれ目となった第3セットは一進一退の攻防に、呼吸が乱れるほど興奮していました。

男子テニスのグランドスラム決勝の舞台に日本人が立つなんて想像したこともありませんでした。もし優勝できたならば、サッカーW杯優勝、オリンピック陸上男子100M金メダル級の"信じられない"快挙ですね。歴史的瞬間を目にしたく、決勝のある火曜は早起きしなければいけませんな。

さて、今回はスウェーデン出身の男性シンガー・ソングライターBjorn Gardsbyが1980年にリリースした『On The Line』です。

彼の詳細なプロフィールは知りませんが、自主制作された本作は北欧AOR/フリーソウルの隠れ名盤として再評価が高まった1枚です。

アルバムはフリーソウル好きにはグッとくるメロウ・グルーヴ、都会的なAOR、SSWらしい味わい深い楽曲がバランス良く配されています。どこか青臭さの残るBjornのヴォーカルが曲調・サウンドによくマッチしているのもいいですね。

個人的には「Love & Devotion」「No One Like」「Do You Really」といったフリーソウルな楽曲がお気に入りです。

AOR/シティ・ミュージック好き、フリーソウル好きの人はぜひチェックを!

全曲紹介しときやす。

「You」
イントロのギター・カッティングが格好良いアーバン・ファンクなメロウ・ダンサー。都会的な疾走感がいい感じです。

「Gone In The Morning」
SSW的な味わいのメロウ・チューン。澄み切った感じが北欧らしくていいですね。

「Do You Really」
フリーソウル好きはグッとくるであろうブルーアイド・ソウルな爽快メロウ・グルーヴ。女性コーラスやシンセの音色による味付けもいい感じです。

「Fatherless Child」
しっとりとしたピアノ・バラード。透明感のある歌声で切ないメロディを歌い上げます。

「Fly Fly Away」
哀愁のシティ・ミュージックといった趣です。逃避行モードのときにどうぞ(笑)

「On The Line」
メロウなギター・カッティングと共に始まる哀愁グルーヴ。AOR好きの人向けかもしれません。

「The Dreamer」
SSW的な仕上がり。美しいメロディを少し青臭く歌い上げるのが雰囲気あります。

「No One Like」
爽快に疾走するメロウ・グルーヴ。シティ・ミュージック/フリーソウル好きの人はきっとグッとくるはず!

「Hello My Friend」
ソングライターとしてのBjornの才能を感じる美メロ・ソング。その素晴らしいメロディを澄んだヴォーカルで歌い上げる込み上げ系の仕上がり。

「Love & Devotion」
フリーソウル好きの人にはイチオシの曲。ブラジリアン・フレイヴァーの爽快メロウ・グルーヴです。自由でポジティヴなヴァイヴがあっていいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=e4rzw8Y5FmI

「Here Is A Song」
ラストはアコースティックなメロウ・バラードで美しく締め括ってくれます。

CDには「Let's Spend the Night」「Heart Direction」の2曲がボーナス・トラックとして追加収録されています。
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2014年09月07日

Richard Spaven『Whole Other』

UK敏腕ドラマーによる話題の進化形ジャズ・アルバム☆Richard Spaven『Whole Other』
ホール・アザー
発表年:2014年
ez的ジャンル:進化形ジャズ系敏腕ドラマー
気分は... :これぞ今ジャズ・・・

今回はUKの敏腕ドラマーRichard Spavenの最新作『Whole Other』です。

先週のGideon Van Gelder『Lighthouse』に続き、話題の音楽ムック本"Jazz The New Chapter"の流れを汲む、進化形ジャズ・アルバムです。

Richard Spavenは、Mark De Clive-Lowe4HeroJose JamesFlying Lotus等の作品に参加している人気ドラマーです。

これまでRichard Spavenについては、オランダ人プロデューサー/キーボード奏者Vincent Helbersらと組んだクロスオーヴァー・ユニットSeravinceのアルバム『Hear To See』(2012年)を当ブログで紹介済みです。

また、今年当ブログで紹介した新作アルバムでいえば、Ruth Koleva『Ruth』Jose James『While You Were Sleeping』といった話題作でSpavenが大きく貢献しています。

"Jazz The New Chapter"で示されたように、Robert Glasper以降の進化形ジャズの中核を成すのがドラムです。J Dilla以降のリズム感覚を持つChris DaveMark ColenburgJamire WilliamsKendrick ScottMark GuilianaMarcus Gilmoreらが新世代ドラマーの代表格ですが、Richard Spavenもそうしたドラマーの一人です。

彼が大きく関与したSeravince『Hear To See』(2012年)やRuth Koleva『Ruth』(2014年)を聴けば分かるとおり、新世代ドラマーの中ではクラブミュージック/クロスオーヴァー寄りのアプローチも目立つアーティストですよね。その分、僕などはUSジャズ・ミュージシャンなどよりも、とっつきやすいのかもしれません。

そんなRichard Spavenの最新作『Whole Other』は、進化形ジャズの流れを汲むと同時に、トータルなサウンド・クリエイター的な才覚も持つSpavenらしいジャンル横断的な幅広い音楽性を堪能できます(Richard Spaven本人によるプロデュース)。また、2/3の楽曲がベースレスの演奏なのも新世代ドラマーらしいのでは?

レコーディングには、Richard Spaven(ds)以下、Spavenと同じくJose Jamesのバンドで活動する日本人トランぺッターTakuya Kuroda(黒田卓也)(tp)、Spavenがアルバム・プロデュースも手掛けたオランダの新感覚ジャズ・ユニットFinn Silverの女性リード・ヴォーカルFridolijn van Poll(vo)、Gilles Petersonも注目する、ロンドンを拠点に活動するRoxane DayetteとSam Paul EvansによるユニットThe Hics(vo)、The Cinematic OrchestraのギタリストStuart McCallum(g)、Zero 7等のレコーディングに参加しているRobin Mullarkey(b)、Jose James『No Beginning No End』(2013年)にも参加していたGrant Windsor(el-p)、DegoSunlightsquare、Bah Samba、Bugz In The AtticSeravince等の作品でフィーチャーされているUKクラブミュージック/クロスオーヴァー好きの人であればお馴染みの女性ヴォーカリストSharlene Hector(vo)、Ben Edwards(flh)、Graeme Blevins(fl)、、Danny Fisher(g)、Dave Austin(g)、そしてL.A.ビート・ミュージックの奇才Kutmahといったミュージシャンが参加しています。

進化形ジャズとクラブミュージック/クロスオーヴァーを股に掛けるRichard Spavenが叩き出す、今のリズム、サウンドに耳を傾けましょう。

全曲紹介しときやす。

「Assemble (Intro)」
Richard Spaven/Stuart McCallum作。Spavenの叩くリズム、黒田卓也のトランペット、Fridolijn van Pollのエコーのようなヴォーカルがコズミックな音空間を築します。

「Whole Other」
Richard Spaven/Stuart McCallum/Sam Paul Evans/Baker作。The Hics(Roxane Dayette/Sam Paul Evans)をフィーチャー。進化形ジャズらしいSpavenのドラミングを堪能できます。進化形ジャズとUKフューチャー・ジャズの境のようなサウンドを目指すあたりがSpavenらしいのでは?ある意味、本作のハイライトだと思います。

「Taj」
Richard Spaven/Grant Windsor/Graeme Blevins作。タイトルからしてエスニックの香りがする、進化形ジャズ・ミーツ・ワールドミュージックといった趣の演奏です。トータルなサウンド・クリエイターとしてのSpavenのセンスを感じます。

「SideIISide」
Richard Spaven/Sharlene Hector/Graeme Blevins作。Sharlene Hectorがミステリアスなヴォーカルを聴かせてくれます。日本が誇るジャズ・ミュージシャン菊地成孔氏が進化形ジャズのリズムを"第二次ドラムンベース"と称していますが、それを実感できる演奏になっています。特にUKフューチャー・ジャズ/クラブミュージックとの接点も多いSpavenの演奏だと"第二次ドラムンベース"という表現がとてもしっくりきますね。

「Tribute」
Richard Spaven/Stuart McCallum作。SpavenのドラムとMcCallumのギターが織り成すダウンテンポで幻想的な音空間を堪能できます。

「The Look Out」
Richard Spaven/Stuart McCallum作。微かに聴こえてくるFridolijn van Pollの女性ヴォーカルが独特の雰囲気を醸し出す美しい演奏です。作者Stuart McCallumの曲「Indigenous」をサンプリング。

「Bianca」
Egberto Gismonti作。本作唯一のカヴァーがブラジルの奇才アーティストEgberto Gismontiの作品というところにSpavenの持つ広い音楽性が窺えます。ここではDanny FisherとDave Austinによるアコースティック・ギターをメインに据え、Spavenはプロデューサーとしてトータルなサウンドに重きを置いているようです。

「Closure」
Kutmah/Richard Spaven作。L.A.ビート・ミュージックの重要人物Kutmahとのコラボ。進化形ジャズを聴くうえで、L.A.ビート・ミュージックとの接点というのも注目ポイントの1つですが、本曲はまさにそんな流れを象徴するコラボです。特にUKフューチャー・ジャズ/クラブミュージックとも近いSpavenがL.A.ビート・ミュージックとどう融合するのか?という意味で実に興味深く聴くことができました。

「Speedbird」
Richard Spaven/Stuart McCallum作。ラストはフューチャー・ジャズ/ダウンテンポな雰囲気で締め括ってくれます。

ご興味がある方は、Seravince『Hear To See』やRichard Spavenの関与が大きいRuth Koleva『Ruth』もチェックを!

Seravince『Hear To See』(2012年)
ヒア・トゥ・シー

Ruth Koleva『Ruth』(2014年)
ルス
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2014年09月06日

Djavan『Djavan』

独自の音世界を創り出した2ndアルバム☆Djavan『Djavan』
ジャヴァン&アルンブラメント(閃き)
発表年:1978年
ez的ジャンル:MPB第二世代男性シンガー・ソングライター
気分は... :ハノイの街角で・・・

今回はブラジル人の世界的シンガー・ソングライターDjavanの2ndアルバム『Djavan』(1978年)です。

僕の保有するCDおよび上記ジャケのAmazonへのリンクは、3rdアルバム『Alumbramento』(1980年)との2 in 1CDです。

Djavanは1947年ブラジル北東部アラゴアス州マセイオ生まれ。

1975年にサンパウロで開催された音楽フェスティバルで彼の楽曲「Fato Consumado」が入賞したことがきっかけでレコード会社との契約に成功し、1976年にSom Livreから1stアルバム『A Voz, O Violao, A Musica de Djavan』をリリースします。

1978年にEMIからリリースした2ndアルバム『Djavan』(1978年)の収録曲「Alibi」Maria Bethaniaが取り上げたことでDjavanへの注目が高まりました。Maria Bethaniaヴァージョンは当ブログでも紹介した『Alibi』(1978年)に収録されています。

1982年にはCBSと契約し、アメリカ進出作品『Luz』をリリースします。Ronnie Fosterがプロデュースし、Stevie Wonder、)、Hubert LawsJorge Dalto、Harvey Mason等が参加した同作で、Djavanの名はブラジルに止まらず、世界中の音楽ファンに知られるようになりました。

その後もコンスタントに作品をリリースし、世界的シンガー・ソングライターとして活躍しています。

何故か当ブログで紹介する機会を逸していた大物アーティストDjavan。ようやく紹介できて安堵しています。

僕がDjavanの名を知ったのは、『Luz』(1982年)がリリースされた時ですね。当時高校生で全米Top40中心の洋楽生活であったような僕でも、音楽雑誌のレビュー・宣伝で『Luz』のことは知っていたので、当時日本でもかなり話題の作品であったと記憶しています。

最初にDjavanのCDを購入したのは、80年代後半にリリースされた『Flor De Lis』でした。この作品は、1stアルバム『A Voz, O Violao, A Musica de Djavan』をタイトル、ジャケを一新してリリースした新装盤だったのですが、当時はブラジル音楽に関する情報源など殆どない時代だったので、そのような事実さえ知らぬままワールド・ミュージック・ブームの流れで購入していました(笑)。その後、オリジナル・ジャケでのCDも欲しかったので、改めて『A Voz, O Violao, A Musica de Djavan』も購入したのですが・・・

Djavanを紹介するのであれば、『Djavan』(1978年)、『Alumbramento』(1980年)、『Seduzir』(1981年)のいずれかにしようと思っていました。これらの3枚にこそ、Djavanというアーティストの個性が一番純粋なかたちで詰まっていると感じたからです。

ボサノヴァ色の強かった1st『A Voz, O Violao, A Musica de Djavan』(1976年)に対して、2ndとなる本作『Djavan』(1978年)はDori CaymmiGilson Peranzzettaらのサポートを受けながら、Djavan独自の音世界を創り出しています。

「Cara De Indio」「Alibi」「Estoria De Cantador」のような名曲もいいですが、僕のオススメは軽快なリズムの「Serrado」、素敵なアコースティック・グルーヴの「Numa Esquina De Hanoi」「Alagoas」、心地好いメロウ・サンバ「Samba Dobrado」あたりですかね。

とにかく良い曲がぎっしり詰まっています。
Djavanを聴くならば、最初の1枚として推奨します。

全曲紹介しときやす。

「Cara De Indio」
邦題「インディオの顔をした白人」。淡々とした中にミステリアスな雰囲気が漂います。
https://www.youtube.com/watch?v=XavMY3vdij4

「Serrado」
邦題「ふるさとの山地」。当ブログではSirius Bのカヴァーも紹介済みです。軽快なリズムにのって、Djavanの歌が瑞々しく躍動します。
https://www.youtube.com/watch?v=M6apeWgnhqA

「Agua」
Djavanならではの美しく透明感のあるメロディを味わい深く歌い上げます。
https://www.youtube.com/watch?v=C5ZbDfTRfog

「Alibi」
前述のようにMaria Bethaniaがカヴァーし、Djavanが注目されるきっかけを作った名曲です。哀愁のメロディを切々と歌います。
https://www.youtube.com/watch?v=zMn9CLOEiXM

「Numa Esquina De Hanoi」
邦題「ハノイの街角で」。僕の一番のお気に入り。今聴いても実にフレッシュ!美しいアコースティック・メロウ・グルーヴです。
https://www.youtube.com/watch?v=NzbWmDU4Ddo

「Minha Mae」
邦題「僕の母」。郷愁感がたまらない1曲。終盤の展開も美しい・・・
https://www.youtube.com/watch?v=QIVJs9w9WsA

「Alagoas」
この曲も大好き!心地好いアコースティック・サウンドとDjavanの軽やかな歌声がよくマッチしています。
https://www.youtube.com/watch?v=zr-NVhHQ6jA

「Estoria De Cantador」
邦題「即興詩人の物語」。Djavanのソングライターとしての才能を実感できる名曲です。ピュアな歌声が聴く者を優しく包み込んでくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=fnZ5cW-J8ic

「Nereci」
ヴァイヴの音色が心地よいジャジーなアレンジに惹かれます。サウンドの洗練という意味ではアルバム随一では?
https://www.youtube.com/watch?v=IarcA-HRnP0

「Samba Dobrado」
邦題「朝から晩までサンバを」。Elis Reginaもカヴァーした楽曲です。Djavan流メロウ・サンバ!Elis姐さんが歌いたくなったのも頷けるオトナの素敵なメロウ・サンバです。
https://www.youtube.com/watch?v=tafaYIJ1gGE

「Dupla Traicao」
邦題「二重の裏切り」。ラストは哀愁モードでしっとりと締め括ってくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=aYTvPBfWBKg

Djavanの他作品をチェックを!

『A Voz, O Violao, A Musica de Djavan』(1976年)
ジャヴァン (BOM1103)

『Alumbramento』(1980年)
閃き~アルンブラメント

『Seduzir』(1981年)
誘惑~セデュジール

『Luz』(1982年)
ルース

『Lilas』(1984年)
Lilas

『Meu Lado』(1986年)
Meu Lado

『Bird of Paradise』(1987年)
Bird of Paradise

『Djavan』(1989年)
Oceano

『Puzzle of Hearts』(1990年)
Puzzle of Hearts

『Coisa de Acender』(1992年)
Coisa De Acender

『Novena』(1994年)
Novena

『Ao Vivo』(1999年)
Djavan Ao Vivo
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2014年09月04日

Jimi Tenor & Kabu Kabu『Joystone』

フィンランドの奇才マルチプレーヤーとアフロ・グルーヴ・バンドとの共演☆Jimi Tenor & Kabu Kabu『Joystone』
Joystone
発表年:2007年
ez的ジャンル:北欧系コズミック・アフロ・ジャズ
気分は... :オトナの!

今回はフィンランドの奇才マルチプレーヤーJimi Tenorがアフロ・グルーヴ・バンドKabu Kabuとのコラボ第1弾Jimi Tenor & Kabu Kabu『Joystone』(2007年)です。

Jimi Tenorの紹介は、ジャズとテクノの融合を見事に実現させたフューチャー・ジャズ作品『Intervision』(1997年)、公私のパートナーNicole Willisとの共同名義でリリースしたソウルフル・ハウス作品Cola & Jimmu『Enigmatic』(2013年)に続き3回目となります。

レコーディングには、Jimi Tenor(vo、fl、sax、key)とEkow Alabi Savage(ds)、Akinola Famson(per)、Patrick Frankowski(b)というKabu Kabuメンバー、さらにはFela KutiのバックバンドAfrica 70のメンバーだったNicholas Addo Nettey(vo、per)、フィンランドの人気ジャズ・ユニットThe Five Corners Quintet(FCQ)のメンバーJukka Eskola(tp)とTimo Lassy(sax)、それ以外にIlkka Mattila(g)、Kalle Kalima(g)、Markku Veijonsuo(tb)、Juha Kortehisto(tb)、Iro Haarla(harp)、 Didier Selin(effects)、Aleksi Saraskari(tuba)、それにJimiの公私のパートナーNicole Willis(chekere)が参加しています。

アルバムのテイストは北欧ジャズとアフロ・グルーヴが融合したコズミック・アフロ・ジャズといった内容です。ただし、むやみにアフロ色を前面に押し出すばかりではなく、アフロ・ブラジリアン・テイストの演奏や、北欧ジャズとのバランスを重視した演奏などアフロ・グルーヴというマテリアルをあの手この手で聴かせてくれるのが楽しいですね。

北欧らしいスタイリッシュなセンスで仕上げたキャッチーな演奏が多いので、アフロビート、アフロ・ジャズをあまり聴かない人もスンナリと入りやすい1枚だと思います。

全曲紹介しときやす。

「Anywhere, Anytime」
グルーヴィー・ソウルとアフロ・ジャズが合体し、さらにはコズミックなスパイスが効いた摩訶不思議なコズミック・ソウル。案外キャッチーでかなり心地好いです。終盤にはアフロ色が強まり、パーカッシヴな演奏を楽しめます。

「Green Grass」
開放的なアフロ・ジャズ。薄っすらとエレクトリックなエッセンスを織り込んでいるところがJimi Tenorらしいのでは?

「I Wanna Hook Up With You」
疾走するアフロビート。ヴォーカル・パートも含めて、アフロビートのエッセンスをコンパクトかつキャッチーに聴かせてくれます。普段あまりアフロビートを聴かない人でも耳に入りやすいと思います。

「Hot Baby」
アフロ・グルーヴを北欧ジャズらしいスタイリッシュなセンスでまとめ上げた感じです。中盤のセクシー・パートや格好良いパーカッション・ブレイクもたまりません!

「Bedroom Eyes」
Jukka EskolaとTimo LassyというFCQ勢も活躍するアフロ・ブラジリアン・フュージョンといった趣の仕上がり。
https://www.youtube.com/watch?v=D2G-nWjmEaM

「Hermetic Man」
この曲もFCQ勢が活躍するアフロ・ブラジリアン風の仕上がり。キーボードの音色はアフロビートですが、適度にメロウ&パーカッシヴなのが僕好みです。
https://www.youtube.com/watch?v=pLQxRu-AWE0

「Love Is The Only God」
Jimi Tenorらしい音世界を堪能できるコズミック・アフロ・ジャズです。

「Ariane」
ソウルフルな味わいのアフロ・グルーヴ。音色はアフロですが曲調はソウルって感じですかね。

「Smoking」
地を這うベースラインとTimo Lassyのフルートが牽引するミステリアスな雰囲気の仕上がり。淡々としたクールな音世界が展開されます。

「Horror Water」
不穏な空気感にグッとくるコズミック&フリーキーな音世界が展開されます。
https://www.youtube.com/watch?v=EiMkzKMm8BM

「Sunrise」
北欧ジャズ+コズミック・ソウル+アフロ・グルーヴという本作らしい音を堪能できるピースフルな1曲。心地好いコズミック・グルーヴにのって、Timo LassyとJukka Eskolaらが素敵なソロを聴かせてくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=ojgnmNG8j_s

「Dede」
ラストはアフロ・スピリチュアル・ジャズで締め括ってくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=aeG_zoW2zkA

他のJimi Tenor & Kabu Kabu名義のアルバムもチェックを!

Jimi Tenor & Kabu Kabu『4th Dimension』(2009年)
4th Dimension

Jimi Tenor & Kabu Kabu『The Mystery Of Aether』(2012年)
Mystery of Aether

Jimi Tenorの過去記事もご参照ください。

Jimi Tenor『Intervision』(1997年)
INTERVISION

Cola & Jimmu『Enigmatic』(2013年)
Enigmatic
posted by ez at 02:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 2000年代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする