発表年:2014年
ez的ジャンル:ポストGlasper世代ジャズ・ピアニストの新星
気分は... :ジャズ界を背負って立つ逸材!
昨日に続き、Jazz The New Chapter強化月間の第4弾Kris Bowers『Heroes + Misfits』(2014年)です。
1989年L.A.生まれのジャズ界の新星ピアニストKris Bowersは、これからのジャズ界を背負って立つ才能であることは間違いないでしょう。
ジュリアード音楽院を卒業し、2011年のThelonious Monk International Jazz Piano Competitionで優勝するというジャズ界のエリート街道にいる期待のピアニストです。その一方で、Jay-Z & Kanye West『Watch the Throne』(2011年)に参加し、などジャズの枠に囚われない活動も行っています。
Erimaj『Conflict Of A Man』の記事で紹介した、若手ジャズメンのオールスター・ユニットNEXT Collectiveのメンバーであり、NEXT Collective『Cover Art』(2013年)、さらにはJose James『No Beginning No End』(2013年)、Jose James『While You Were Sleeping』(2014年)
Takuya Kuroda『Rising Son』(2014年)といったJTNC重要作にも参加しています。
Kris Bowersの音楽性が示されているのがYouTubeにアップされている2本の動画です。
1本目は1899年から2014年までのジャズ・ピアノの歴史を11分で演奏した「History of Jazz Piano」、もう1本が新進ラッパーKendrick Lamarの楽曲「Rigamortis」のジャズ・ピアノ・カヴァーです。ジャズの歴史をしっかり踏まえつつ、ジャズ以外の音楽もしっかり吸収するというKris Bowersというアーティストのスタンスが示された動画2本です。
Kris Bowers「History of Jazz Piano」
https://www.youtube.com/watch?v=IstFVThvo1A
Kris Bowers「Rigamortis」
https://www.youtube.com/watch?v=_Mx5rZFAm0g
そんなKris Bowersのデビュー作となるのが今年リリースされた本作『Heroes + Misfits』です。厳密には2010年に日本で『Blue In Green』というBen Williams(b)、Clarence Penn(ds)とのピアノ・トリオ作品をリリースしていますが、本作『Heroes + Misfits』をデビュー盤と呼んで差支えないと思います。
2012年にレコーディングされた本作の参加メンバーはKris Bowers(p、el-p、syn)以下、Casey Benjamin(as、vocoder)、Kenneth Whalum III(ts)、Adam Agati(g)、Burniss Earl Travis II(b)、Jamire Williams(ds)といったミュージシャンです。
Casey BenjaminはRobert Glasper Experimentのメンバーとしてお馴染みですね。新進ジャズ・ドラマーJamire Williamsは先日Erimaj『Conflict Of A Man』を紹介したばかりです。Burniss Earl Travis IIはそのErimaj『Conflict Of A Man』にも参加していたベーシストです。特にJamire Williamsの存在感は本作でも大きいですね。
さらにJulia Easterlin、Jose James、Chris Turnerといったヴォーカリストがゲスト参加しています。
アルバム全体の印象としては、ジャズ界のエリートらしい側面と、インディー・ロック、エレクトロニカ、ネオソウルなどジャズの枠に囚われない進化形ジャズ・アーティストらしい側面が上手くバランスしたバラエティに富んだ内容になっています。特にインディー・ロックからの影響が印象的です。また、映画音楽の作曲も学んでいた彼らしくトータルなサウンド創りの巧みさも目立ちます。
ポストGlasper世代を代表する若手ピアニストの溢れんばかりの才能を満喫しましょう。
全曲紹介しときやす。
「Forever Spring」
Kris Bowers作。アルバムのプロローグ。小鳥の囀りと共にKrisの美しいピアノが響きます。
「Wake the Neighbors」
Adam Agati/Kris Bowers作。インディー・ロックやエレクトロなエッセンスが反映された今ジャズらしいサウンドを堪能できます。Jose James『While You Were Sleeping』に通じるものがありますね。Adam Agatiのギターが唸りを上げます。インディー・ロック好きというKris Bowersの嗜好を垣間見ることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=-N_8xl7o4io ※ライブ音源
「#TheProtester」
Kris Bowers作。正統派の現代ジャズですが、Jamire Williamsのドラムが新世代らしいですね。終盤のChris TurnerのヴォーカルとRGEでもお馴染みのCasey Benjaminのヴォコーダーの掛け合いもいい感じです。
「Vices and Virtues」
Kris Bowers作。70年代クロスオーヴァー/フュージョン風の仕上がり。浮遊するメロウ・エレピをバックに、サックスが心地好くブロウします。70年代のHerbie Hancockからの影響も感じます。
「Forget-er」
Kris Bowers/Julia Easterlin作。Julia Easterlinの女性ヴォーカルをフィーチャー。Julia Easterlinのコケティッシュかつミステリアスなヴォーカルが少しダビーなサウンドともマッチしています。また、Jamire Williamsの叩き出すロックなビートとエレガントなKris Bowersのコントラストもいいですね。菊地成孔氏が進化形ジャズのリズムを称した"第二次ドラムンベース"的なリズムも聴こえてきます。聴き重ねることに惹かれる演奏です。
https://www.youtube.com/watch?v=vYM2N1NTwxw
「WonderLove」
Kris Bowers作。JTNCでも注目されているヴォーカリストChris Turnerをフィーチャー。ジャズというよりもメロウなネオソウルですね。Chris Turnerの優しいヴォーカルとKrisのメロウ・エレピが実に心地好いですね。
「Forever Wonder」
Kris Bowers作。インタールード的な小曲。メロウ・エレピが浮遊します。
「Drift」
Kris Bowers作。緩急をつけたドラマチックな演奏が素晴らしいですね。鍵盤を巧みに使い分けるKris Bowers、哀愁のメロディをブロウするなホーン・アンサンブル、演奏全体を先導するJamire Williamsの変幻自在のドラムは噛み合ったRobert Glasper以降の進化形ジャズならではの演奏を満喫できます。ここでもインディー・ロックからの影響を感じます。
「First,」
Kris Bowers作。美しいピアノ・ソロによる小曲。
「Ways of Light」
Kris Bowers/Jose James作。ラストはJose Jamesをフィーチャー。Krisのピアノとトレモロ・エレピをバックに、Joseが歌い上げるバラード。Bill Evansの音世界に通じるようなリリカル
で"わびさび"な音世界を堪能できます。
https://www.youtube.com/watch?v=yQnvVjj-42k
ご興味がある方は、Kris Bowersの参加作品もチェックを!
Jose James『No Beginning No End』(2013年)
NEXT Collective『Cover Art』(2013年)
Takuya Kuroda『Rising Son』(2014年)
Jose James『While You Were Sleeping』(2014年)