発表年:2009年
ez的ジャンル:進化形ジャズ系女性ジャズ・ヴォーカル
気分は... :彼女がなぜ魅力的なのか?その理由は・・・
今回はJazz The New Chapter(JTNC)強化月間の第8弾、N.Y.を拠点に活躍する進化形ジャズの歌姫Gretchen Parlatoの2ndアルバム『In a Dream』(2009年)です。
『Jazz The New Chapter』でも大きく取り上げられていた新進女性ジャズ・シンガーGretchen Parlatoの紹介は、彼女の名を一躍有名にした3rdアルバム『The Lost And Found』(2011年)に続き2回目となります。
『The Lost And Found』は当ブログ年末恒例の『ezが選ぶ2011年の10枚』にセレクトしたお気に入り作品でした。
振り返れば、僕が進化形ジャズの動きを最初に感じ、そのピープルツリーが気になり始めたアルバムが『The Lost And Found』だったかもしれません。
Gretchenとの共同プロデュースでRobert Glasperが関わり、それ以外にもRobert Glasper ExperimentのベーシストDerrick Hodgeや、『Jazz The New Chapter』でも取り上げれていたTaylor Eigsti(p)、Kendrick Scott(ds)、Alan Hampton(g)といった注目のジャズ・アーティストがバックを固め、Mary J. BligeやSimply Redをカヴァーした『The Lost And Found』は、正にJTNCを象徴するような1枚でした。
まぁ、リアルタイムで聴いていた時は、そこまでの重要作になるとは思っていませんでしたが、僕のフィーリングにジャスト・フィットする特別な作品であるとは感じていました。
また、Q-Tip『The Renaissance』(2008年)への参加以来、僕の中でその名を忘れかけていたRobert Glasperの名前を再度強く印象付けてくれたのも本作でした。その流れで、『Double Booked』(2009年)におけるRobert Glasper Experimentの演奏をチェックした記憶があります。
その意味で、JTNCを決定づけた衝撃作『Black Radio』がリリースされる前年に、聴き手として準備する機会を与えてくれたのが『The Lost And Found』というアルバムでした。
本作『In a Dream』(2009年)は、その『The Lost And Found』の前作となる2ndアルバムです。
改めて聴き直すと、まだまだ手探り状態ですが、『The Lost And Found』の登場を予感させる、進化形ジャズの芽吹きのようなアルバムですね。
レコーディング・メンバーには、Lionel Loueke(g、vo)、Aaron Parks(p、el-p、org、syn、glockenspiel)、Derrick Hodge(b)、Kendrick Scott(ds、per)という、いずれも『Jazz The New Chapter』でリーダー作がピップアップされていたJTNC重要ミュージシャンが顔を並べます。特に、GretchenとはThelonious Monk Institute of Jazz時代の同期である天才ギタリストLionel Louekeのプレイに注目したいですね。
また、レコーディングには未参加ですが、Robert Glasperは楽曲提供で関与しています。
プロデューサーはMichele Locatelli。
シンプルな演奏も多い分、Gretchen Parlatoの魅力がダイレクトに伝わってくると思います。
決して声量があるわけでもなく、歌い上げることもあまりしない彼女のヴォーカルが、なぜ魅力的で、なぜ評価されるのか?本作を聴けば、その答えが見えてくるはずです。
全曲紹介しときやす。
「Turning into Blue」
Alan Hampton/Gretchen Parlato作。Gretchenのヴォーカルも含めて、全体的に澄み切った美しさを持つ演奏がいいですね。実にGretchen Parlatoらしい雰囲気に満ちたオープニングだと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=pO2W-O-2tZg
「Within Me」
Francis Jacob作。派手さはありませんが、進化形ジャズの芽吹きを感じる演奏です。Kendrick Scottの叩き出すリズムが印象的です。
https://www.youtube.com/watch?v=ceCm4oTsFh4
「I Can't Help It」
Michael Jacksonの人気曲をカヴァー(Stevie Wonder/Susaye Coton Greene作)。Gretchenとの親交も深いJTNCの重要アーティストEsperanza Spaldingが『Radio Music Society』で本曲をカヴァーしていましたね。やはり、本作のハイライトはこのMJカヴァーではないでしょうか、Gretchenのメロウな声質による歌い上げないヴォーカル・スタイルの魅力がよく伝わってきます。Lionel Louekeのギター&スキャットと一体化している感じもいいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=D69aT-IFelQ
「Butterfly」
Bennie Maupin/Herbie Hancock作。Hancockのオリジナルは当ブログでも紹介した『Thrust』(1974年)に収録されています。本作と同じ2009年にRobert Glasper Experimentが『Double Booked』で本曲をカヴァーしているという点も興味深いですね。子供の戯れる声と共にスタートする本カヴァーは、「I Can't Help It」同様にLionel Louekeのギター&スキャットが寄り添います。
「In a Dream」
Robert Glasper/Gretchen Parlato作。Robert Glasperとの共作による本曲は、Aaron Parksのメロウ・エレピとGretchenの夢心地モードのヴォーカルがよくマッチしています。まさに夢の中・・・
https://www.youtube.com/watch?v=hSfhowdHjR0
「Doralice」
Antonio Almeida/Dorival Caymmi作。 Stan Getz/Joao Gilberto 『Getz/Gilberto』収録曲として有名ですね。ここでは殆どア・カペラに近い状態でGretchenのヴォーカルを堪能できます。
https://www.youtube.com/watch?v=fffHVcZcnxw
「Azure」
Duke Ellington/Irving Mills作。Ellington作品をアコースティックな雰囲気の中でしっとりと歌い上げます。
「E.S.P.」
Wayne Shorter作。毎回Wayne Shorter作品を取り上げるGretchenですが、本作ではMiles Davisの名盤『E.S.P.』(1965年)のタイトル曲としてお馴染みの本曲を取り上げています。今回のバック陣による主流派らしい演奏とGretchenの軽やかなスキャットが駆け抜けていきます。
「On the Other Side」
Francis Jacob作。シンプルながらもジャズ・ヴォーカルの魅力が伝わってくる味わい深い1曲。こういう曲を聴くと、GretchenがBecca Stevens、Rebecca Martinと女性ヴォーカル・ユニットTilleryとして活動しているのがわかる気がします。
「Weak」
SWVの全米No.1ヒットをカヴァー(Brian Alexander Morgan作)。クレジットを見ると、オリジナルというよりZapp「Computer Love」をサンプリングしたBam Jams Jeep Mixを意識したカヴァーかもしれません。SWV好きの僕としては、かなり嬉しいカヴァーです。また、SWVやMary J. Bligeを軽やかにジャズ・カヴァーしてしまうあたりに、進化形ジャズ・アーティストの真髄を見るような気がします。
https://www.youtube.com/watch?v=WYN4I6YHCfA
「All My Tomorrows」
国内盤ボーナス・トラック。Jimmy Van Heusen/Sammy Cahn作のスタンダードをカヴァー。ここではオーソドックスなスタイルでスタンダードを歌い上げます。Aaron Parksの美しいピアノもいいですね。
『The Lost And Found』に続くスタジオ新作を渇望しています。また、GretchenとJTNCの流れで最も注目を集めている女性シンガーBecca Stevens、Rebecca Martinとの女性ヴォーカル・ユニットTillery名義のアルバム・リリースも期待してしまいます。
Gretchen Parlatoの他作品もチェックを!
『Gretchen Parlato』(2005年)
『The Lost And Found』(2011年)
『Live In NYC』(2013年)