発表年:2010年
ez的ジャンル:進化形男性ネオソウル
気分は... :時代を先取り!
今回はJazz The New Chapter(JTNC)強化月間の第9弾、かつては"The Soulquariansの最終兵器"と呼ばれた男性R&BシンガーBilalの2ndアルバム『Airtight's Revenge』(2010年)です。
『Jazz The New Chapter』の中で、Robert Glasper周辺作品の中の1枚として紹介されていたのが、本作『Airtight's Revenge』です。
周知の通り、Robert GlasperとBilalは、ニュースクール大学時代の盟友であり、Bilalの全アルバムにRobert Glasperが参加しています。
Bilal(本名:Bilal Sayeed Oliver)は1979年フィラデルフィア生まれの男性R&Bシンガー。
The Soulquariansメンバーとして、?uestlove(The Roots)、Erykah Badu、Q-Tip、D'Angelo、Mos Def、Common、Jay Dee(J Dilla)等の錚々たるメンバーと肩を並べていました。
2001年にリリースした1stアルバム『1st Born Second』には、Jay Dee、Mos Def、Common、?uestlove(The Roots)といったThe SoulquariansのメンバーやDr. Dre等が参加し、ネオソウル良盤として高い評価を得ました。
その後、2006年に2ndアルバム『Love for Sale』をリリースする予定でしたが、直前に音源がリークしてしまい、結局お蔵入りとなってしまう不運に遭います。
そして、2010年に約9年ぶりの2ndアルバム『Airtight's Revenge』をリリース。さらに2013年には3rdアルバム『A Love Surreal』をリリースしています。
Bilalのアルバムは3枚とも所有していますが、何故かブログでは未紹介のままでした。しかし、今年に入り『Jazz The New Chapter』を読んだことがきっかけで、Bilalのアルバムを聴き直す機会が増えています。
1st『1st Born Second』(2001年)もクレジットをきちんと見直すと、Robert GlasperやRobert Glasper ExperimentのメンバーCasey Benjaminの名前を確認することができます。
2nd『Airtight's Revenge』、3rdアルバム『A Love Surreal』も同様に、JTNC的視点で参加メンバーを確認すると実に興味深いですね。
Soulquarians好きの僕としては、『1st Born Second』(2001年)に一番愛着がありますが、JTNCの文脈で聴くのであれば、本作『Airtight's Revenge』が一番面白いと思います。実際、『Jazz The New Chapter』でも本作がピックアップされました。
『Airtight's Revenge』には、JTNC関連でいえば、Robert Glasper、Derrick Hodge、Shafiq Husayn(Sa-Ra Creative Partners)、Miguel Atwood-Ferguson、Thundercatといったミュージシャンが参加しています。
当時、Bilal自身が最も好きなプロデューサーとして、Flying Lotusの名前を挙げており、Flying Lotusの右腕ThundercatやL.A.シーンの重要ミュージシャンMiguel Atwood-Fergusonの起用は、そのあたりの意図もあるのかもしれませんね。この時点でLAビート・ミュージックに着目したBilalの先見の明に感心します。
BilalとSteve McKieがメイン・プロデューサーですが、それ以外にNottz、Shafiq Husayn、88-Keys、Conley "Tone" Whitfieldがプロデューサーとして起用されています。
アルバム全体としては、インディー・ロック、LAビートミュージック、ジャズ、Hip-Hop、エレクトロ等のジャンル融合的な実験的サウンドが印象的であり、R&B/Soulの枠を飛び越えて進化しようとするBilalの意気込みが伝わってくる意欲作です。
おそらくR&B/Soulというジャンル固定的な音楽の聴き方をしている方は、LAビートミュージックな「Levels」、インディー・ロックな「All Matter」、アブストラクトHip-Hopな「The Dollar」のようなサウンドに戸惑うかもしれませんね。
しかしながら、それらの曲にこそ本作の面白さやBilalの意図が明確に示されていると思います。
JTNC的な聴き方が要求される、時代を先取りした1枚だと思います。
Bilalはやはり只者ではありませんな。
全曲紹介しときやす。
「Cake & Eat It Too」
Bilal/Steve McKieプロデュース。Jay Dee的なビートにのって、Bilalが独特のハイトーン・ヴォーカルが浮遊するネオソウル・チューン。ベースはDerrick Hodge、シンセ/フェンダー・ローズはJunius Bervineです。
https://www.youtube.com/watch?v=uwmCt_S24lk
「Restart」
Bilal/Steve McKieプロデュース。シングルにもなった本曲では、本作の特徴であるインディー・ロック的なアプローチを聴くことができます。リード・ギターはBen "Bananas" O'Neil。
https://www.youtube.com/watch?v=5att1ZTG1wY
「All Matter」
Bilal/Steve McKieプロデュース。Bilalが客演したRobert Glasperの『Double Booked』(2009年)のヴァージョンでも知られる楽曲ですね。JTNC的な聴き方をすると、実にジャンル融合的で興味深い楽曲です。Bilalの少し憂いのあるハイトーン・ヴォーカルが適度にハードかつサイケなサウンドとよくマッチしています。
https://www.youtube.com/watch?v=0apYId-zQQE
「Flying」
Bilal/Nottz/Frederick G. Mcintoshプロデュース。アンダーグランド的な儚い美しいトラックにグッときます。Bilalの進化を感じる1曲。
https://www.youtube.com/watch?v=GPFVj5FcHXY
「Levels」
Bilal/Shafiq Husayn/KenBts.プロデュース。Shafiq Husayn、Thundercat、Miguel Atwood-Fergusonが参加している本曲は、Flying Lotusの影響を色濃く感じるLAビート・ミュージック的な仕上がりです。シングルにもなりました。アルバム未収録ですが、Flying Lotusによるリミックスもあります。また、Flying LotusはPVの監督も務めています。
https://www.youtube.com/watch?v=qleLHf0_Swg
「Little One」
Conley "Tone" Whitfieldプロデュース。美しい哀愁モードがグッときます。シングルにもなりました。バックの演奏はすべてConley "Tone" Whitfieldによるものです。
https://www.youtube.com/watch?v=PzrQexzPLDk
「Move On」
Bilal/Steve McKieプロデュース。Robert Glasper参加曲です。そのGlasperの美しいピアノとMike Seversonのハードなギターのコントラストが印象的なネオソウルです。
https://www.youtube.com/watch?v=t1Xu7noivfU
「Robots」
Bilal/Steve McKieプロデュース。Hip-Hopビート、ロッキン・ギター、スペイシーなシンセ等ジャンル融合的なサウンドを楽しめる1曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=gZek8rK6gvk
「The Dollar」
Bilal/Steve McKieプロデュース。アブストラクトHip-Hop的なサウンドが実に印象的です。Robert Glasperがフェンダー・ローズで参加しています。
https://www.youtube.com/watch?v=H1BO1JTEAUI
「Who Are You」
Bilal/Steve McKieプロデュース。アルバムでも最も柔らかい印象を持つ楽曲と思いきや・・・後半は実験的な展開となり、終盤はダビーなサウンドへ様変わりしていきます。
https://www.youtube.com/watch?v=tA5tThJlaNA
「Think It Over」
88 Keys/Bilalプロデュース。Gentle Giant「Memories of Old Days」をサンプリングしたギター・ループに、ThundercatのベースやMiguel Atwood-Fergusonのストリングスが加わります。Miguel Atwood-Fergusonのサウンド・センスに脱帽です。
https://www.youtube.com/watch?v=QsBMP8rZrHA
Bilalの他作品もチェックを!
『1st Born Second』(2001年)
『A Love Surreal』(2013年)