発表年:2014年
ez的ジャンル:新世代系女性ジャズ・ヴォーカリスト/ピアニスト
気分は... :トナカイ頭が決意の印?
未紹介の新作が溜まってしまい、週1回の新作紹介では足りないので今月も頻度を上げたいと思います。
今回は新世代女性ジャズ・ヴォーカリスト/ピアニストElizabeth Shepherdの最新作『The Signal』です。
カナダ出身の女性ジャズ・ヴォーカリスト/ピアニストElizabeth Shepherdに関して、これまで当ブログで紹介したのは以下の3枚。
『Start To Move』(2007年)
『Parkdale』(2008年)
『Heavy Falls the Night』(2010年)
特に3rdアルバムは、年末恒例の『ezが選ぶ2010年の10枚』にセレクトする程のお気に入り作品でした。クラブジャズ経由のダンサブルなコンテンポラリー・ジャズといった内容が僕の嗜好ど真ん中でした。
その後、全曲カヴァー集の4thアルバム『Rewind』がリリースされましたが、少し大人しい印象を受け、当ブログでも取り上げることはありませんでした。
そんな流れで5thアルバムがどのような展開になるのか興味津々でした。ジャケだけ見るとフューチャリスティックなクロスオーヴァー・サウンド作品をイメージしてしまいそうですが、実際はJazz The New Chapterでした(笑)
JTNCの注目アーティストの一人Lionel Loueke(g、vo)の参加や、エレピを多用したネオソウル風の楽曲が増えたことが、JTNCの流れとリンクした感じです。
個人的には『Jazz The New Chapter』を読んだとき、Elizabethの『Heavy Falls the Night』あたりも進化形ジャズの1枚に入れてもいいんじゃないかなぁ、と思っていました。人力ドラムンベース的な展開は進化形ジャズの1要素ですし、DJ Mitsu The Beatsとの共演はピープルツリー的にはJ Dillaの影響を間接的に受けているし・・・実に進化形ジャズ的じゃん!なんて思ったのですが。やはりクラブジャズの文脈に入りそうなものは、意識的に距離を置いたのでしょうね。
脱線しますが、DJ Mitsu The Beatsの最新ソロ・アルバム『Celebration of Jay』はJ Dillaに捧げられた作品であり、要チェックですね(当ブログでは基本的に海外アーティストしか扱っていませんが)。
DJ Mitsu The Beats『Celebration of Jay』
さて『The Signal』に話を戻すと、アコースティック・ピアノの比率が激変し、電子サウンドが目立つようになりました。また、従来以上に歌詞も含めたソングライティングを重視している印象を受けます(全曲Elizabethのオリジナル)。コンポーザーからソングライターへ進化した感じですかね。
レコーディングには、Lionel Loueke以外にも、Elizabeth Shepherd Trio時代からの盟友Scott Kemp(b)、Colin Kingsmore(ds、per)やRoman Tome(ds、per)、Ross MacIntyre(b)、Kevin Turcotte(tp)といった前作、前々作にも参加しているメンバー、さらにはLarnell Lewis(ds、vo)、Joshua Van Tassell(ds)、Mark Mosca(steel pan)、Alex Samaras(vo)、Yvette Tollar(vo)、John Maclean(fl、ngoni)といったミュージシャンが参加しています。特にLarnell Lewisは進化形ジャズ、注目のドラマーのようです。
まぁ、進化形ジャズの文脈を抜きにしても、一歩踏み出そうしているElizabethの姿勢を前向きに評価したいと思います。
ジャケに写るトナカイ頭が決意の表れなのでは?
全曲を紹介しときやす。
「Willow」
Lionel Loueke参加の1曲目。アルバム全体を印象付けるインパクトのあるオープニング。Elizabethのフューチャリスティックな電子ピアノの音色、Roman Tomeが叩く進化形ジャズ的なリズム、Lionel LouekeのギターやJohn Macleanのンゴニ(西アフリカの伝統弦楽器)が奏でるアフリカン・リズムが相俟った神秘的な音世界の虜になります。
http://www.youtube.com/watch?v=vHD7txRZK_g
「What's Happening」
Elizabeth Shepherd Trioのメンバー3名による演奏ですが、従来よりも歌を大切にしている印象を受けます。この3名による演奏を聴くと、やはりElizabeth Shepherd Trioは進化形ジャズだったと実感します。
http://www.youtube.com/watch?v=UiMAhI9OqUo
「B.T. Cotton」
従来からのファンは安堵するかもしれない小粋な演奏を聴くことができます。スティール・パンでアクセントをつけているのも印象的です。
http://www.youtube.com/watch?v=o_WLUlaJbIw
「The Signal」
Alex Samarasの男性ヴォーカルとのデュエットによるバラード。これからの季節にピッタリな寂しげなジャズ・ヴォーカル・チューンに仕上がっています。
http://www.youtube.com/watch?v=ui1c5Ba27ss
「Lion's Den」
中盤まで大人しいですが、終盤はトランペット・ソロとコズミックなムーグ・サウンドと共に演奏のテンションが上がります。
http://www.youtube.com/watch?v=2WMnxcnV-9c
「This」
Lionel Loueke参加の2曲目。Lionel Louekeが親交の深いGretchen Parlatoあたりとイメージが重なる1曲です。Lionelがさすがのギター・プレイを披露してくれます。
http://www.youtube.com/watch?v=IHgiBHETtUo
「On Our Way」
Elizabeth、Scott Kemp、Larnell Lewisによるトリオ演奏です。今回、Elizabethが多数のドラマーを起用した理由を知る意味でLarnell Lewisのプレイに注目です。
http://www.youtube.com/watch?v=rC7M1EWRRGo
「I Gave」
本作で印象的であるミステリアスな作風がここでも登場します。カリンバの音色がその神秘性を増幅させています。
http://www.youtube.com/watch?v=ATKaU2Kkg14
「Another Day」
シンガー・ソングライター的な作風の仕上がり。先に述べたコンポーザーからソングライターへの進化を感じる1曲です。
http://www.youtube.com/watch?v=YXmBw5bONss
「Baby Steps」
ラストはメロウなネオソウル風で締め括ってくれます。
http://www.youtube.com/watch?v=3KjDvHtGPVY
Elizabeth Shepherdの他作品もチェックを!
『Start To Move』(2007年)
『Besides』(2007年) ※未発表B面曲+リミックス集
『Parkdale』(2008年)
『Heavy Falls the Night』(2010年)
『Rewind』(2012年)