2014年10月19日

Flying Lotus『You're Dead!』

ジャズ・ネクスト・レベルの超問題作、遂にリリース☆Flying Lotus『You're Dead!』
You're Dead! [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 初回盤のみ特殊パッケージ仕様 / 国内盤] 特典マグネット付 (BRC438)
発表年:2014年
ez的ジャンル:LAビート・ミュージック系ネクスト・レベル・ジャズ
気分は... :聴いた瞬間に死んでしまう?

今回はLAビート・ミュージックの中心人物、Flying Lotusの最新作『You're Dead!』です。

『Jazz The New Chapter 2』"ジャズ・ネクスト・レベルの超問題作"と紹介され、注目度の高かった作品です。

LAビート・ミュージック・シーンを牽引し、自身のレーベルBrainfeederから才能あるアーティストの作品を発信し続けるFlying Lotus(本名:Steven Ellison)の紹介は、『Until The Quiet Comes』(2012年)、『Cosmogramma』(2010年)に続き3回目となります。

『Jazz The New Chapter 2』でも詳説されていたように、Flying Lotusがネクスト・レベルのジャズに取り組んだ意欲作です。ビート・ミュージックを進化させ、Flying Lotusが一つの高みに達した感のある衝撃作というのが僕の感想です。

アルバム・タイトルやアートワークも衝撃的ですよね。

『You're Dead!』というタイトルには、死んだ瞬間からストーリーが始まるというコンセプトが込められているようですし、聴いた瞬間に死んでしまうような衝撃作という意味合いもあるようです。また、死後の世界が描かれたアートワークは日本人の奇想漫画家、駕籠真太郎氏によるものです。

アルバムには、進化形ジャズに多大な影響を与えているジャズ・ミュージシャンHerbie Hancockや、Kendrick LamarSnoop Doggという新旧の人気ラッパーがゲスト参加しています。特にKendrick Lamar参加の「Never Catch Me」は素晴らしいですね。また、Flying Lotus自身もCaptain Murphyの名でヴォーカルを披露してくれます。

加えて、Thundercat(b、vo)、Kamasi Washington(sax、key)といったBrainfeeder軍団、Miguel Atwood-Ferguson(strings)Andres Renteria(per)といったBuild An Ark系ミュージシャン、元The Mars VoltaのDeantoni ParksThundercatの兄、Ronald BrunerGene CoyeJustin Brownという4名のドラマー、Flying Lotus作品の常連Niki Randa、Dirty Projectorsの活動でも知られるAngel DeradoorianArlene DeradoorianKimbra Johnsonといった女性シンガー陣の名がクレジットされています。

それ以外にもBrandon Coleman(key)、Taylor Greaves(key)、Brendon Small(g)、LAのロック・バンドWires On FireのJeff Lynn(g)、Laura Darlington(fl)、Taylor Cannizzaro(strings)といったミュージシャンが参加しています。

Flying Lotus作品やビート・ミュージック作品の場合、2分にも満たない曲も多く、未完成のサウンド素材集のような側面があります。その意味で必ずしも万人受けしないリスナーを選ぶ音楽と言えるでしょう。

本作でもそういった側面があるのも否めませんが、それでもサウンドの完成度はかなり高まっていると思います。また、尺の短い曲も前後の曲とセットで聴くと、まるで1曲のように聴こえるので、その部分は以前の作品ほどは気になりませんでした。

何より、そのサウンド、音世界に圧倒されてしまいます。特にジャズへのアプローチを強化した分、超絶ベーシストThundercatの存在感が従来以上に増しています。

進化形ジャズを聴く場合、まずはドラムの音に耳がいくのですが、本作はどうしてもThundercatのベースに耳を奪われてしまいます。Jaco Pastorius参加作品でJacoのベースばかり追いかけるのと同じ感覚ですね。

見方を変えれば、Thundercatという天才ベーシストの右腕がいたからこそ、Flying Lotusはネクスト・レベルのジャズへ挑んだのではないかと思えてきます。

その一方で、本作はミュージシャンが一堂に会して演奏することはなく、個別の演奏をFlying Lotusが1つにまとめ上げたものです。その意味では、Flying Lotusのプロデュース能力やサウンド・クリエイターとしてのセンスにも感心させられます。

タイトル、ジャケのインパクトに負けないネクスト・レベルのジャズを聴かずに死ねるか!

全曲紹介しときやす。

「Theme」
アルバムのプロローグ。ビート・ミュージックとジャズの融合が生む衝撃を予感させます。

「Tesla」
Herbie Hancock参加曲。Hancockのキーボード、Thundercatのベース、Gene Coyeのドラムによるスリリングな演奏に背中がぞくっとします。

「Cold Dead」
ThundercatとRonald Brunerによる兄弟リズム隊に、Kamasi Washingtonのサックスが絡む進化形フリージャズの断片を聴くことができます。

「Fkn Dead」
わずか40秒の演奏ですが、なかなか聴き応えがあります。前曲「Cold Dead」と合わせて1曲のような印象を受けます。

「Never Catch Me」
Kendrick Lamar参加曲。話題という面でも、完成度という面でも、キャッチーさという面でもアルバムのハイライトかもしれません。Thundercatのベース、Deantoni Parksのドラム、Kendrick Lamarのラップが一気に駆け抜けていきます。Kendrick Lamarのラップがしっかりジャズしている点に驚かされます。また、バック・コーラスも含めて全体をキャッチーにまとめ上げたFlying Lotusの手腕も素晴らしいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=2lXD0vv-ds8

「Dead Man's Tetris」
Snoop Dogg参加曲。Flying LotusもCaptain Murphyの名でSnoopと共に歌っています。ビート・ミュージックのHip-Hop的なルーツを再確認できます。Flying Lotus作品はCDショップのHip-Hopコーナーに置かれていますからね。

「Turkey Dog Coma」
Thundercatのベースを中心としたネクスト・レベルのコズミック・ジャズといった趣ですね。Miguel Atwood Fergusonのストリングスも効果的です。Kamasi Washingtonのサックスも加わり、現在のBrainfeederの音って感じですね。

「Stirring」
Jeff Lynnのギターをフィーチャーした小曲。

「Coronus, The Terminator」
Niki Randaのヴォーカルをフィーチャーしたダウンテンポな仕上がり。

「Siren Song」
Angel Deradoorianがソングライティング&ヴォーカルで活躍する幻想的な音世界です。

「Turtles」
Ennio Morricone「Piume Di Cristallo」をサンプリングしたドリーミーなサウンドが印象的です。

「Ready Err Not」
Flying LotusとThundercatによるミニマル・ワールド。

「Eyes Above」
ThundercatのベースとDeantoni Parksのドラムによるサウンド素材的な仕上がり。

「Moment Of Hesitation」
Herbie Hancock参加曲。サックスのKamasi Washingtonをフィーチャーした本作らしいネクスト・レベルのジャズを堪能できます。

「Descent Into Madness」
Thundercatがヴォーカルをとる不気味な仕上がり。Laura Darlingtonのフルート、Miguel Atwood Fergusonのストリングスが不穏な空気を演出します。

「The Boys Who Died In Their Sleep」
Captain Murphy名義でFlying Lotusがヴォーカルをとります。本作のテーマである死後の世界をイメージさせるダークな仕上がり。

「Obligatory Cadence」
見たこともない異空間をさまようかのような音世界が展開されます。

「Your Potential//The Beyond」
Niki Randaがソングライティング&ヴォーカルで活躍します。。前曲からの流れを受け継ぐ幻想的な音世界です。

「The Protest」
本作の世界観と進化形ジャズがシンクロした美しい音空間に浸りながらアルバムはエンディングを迎えます。

国内盤にはボーナス・トラックとして「Protector」が追加収録されています。

他のFlying Lotus作品やThundercatのアルバムもチェックを!

『1983』(2006年)
1983 (Rmx) (Dig)

『Los Angeles』(2008年)
Los Angeles (WARPCD165)

『Until The Quiet Comes』(2012年)
Until the Quiet Comes [解説付 / ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC350)

Thundercat『The Golden Age of Apocalypse』(2011年)
The Golden Age of Apocalypse [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC302)

Thundercat『Apocalypse』(2013年)
Apocalypse [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC383)

本作の背景やBrainfeederの動向について知りたい方は『Jazz The New Chapter 2』に詳説されています。

『Jazz The New Chapter 2』
Jazz The New Chapter 2 (シンコー・ミュージックMOOK)
posted by ez at 03:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 2010年代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする