発表年:2014年
ez的ジャンル:"ピアノの詩人"系コンテンポラリー・ジャズ
気分は... :誰かに思いを寄せて・・・
今回はコンテンポラリー・ジャズの新作からFred Hersch Trio『Floating』です。新作といっても、リリースから半年ほど経過していますが・・・
Fred Herschは1955年、オハイオ州シンシナティ生まれのジャズ・ピアニスト。
幼少期からピアノを習い、ボストンのニューイングランド音楽大学で学んだ後、N.Y.へ移住し、さまざまなセッション、ギグに参加します。1984年、初リーダー作『Horizons』をレコーディングします。その後コンスタントに作品をリリースしますが、2008年にHIVウィルスに起因する発作で昏睡状態に陥り、生死の境を彷徨いますが、奇跡的に回復し、2010年にカムバックを果たしています。
現代ジャズ・シーンに多大な影響力をピアニストであり、コンテンポラリー・ジャズを代表するピアニストBrad MehldauやJason MoranもFred Herschに師事した一人です。
こんな事を書きながら、僕自身はFred Herschというアーティストとまったく接点を持たぬまま、音楽ライフを過ごしてきました。それだけ僕がコンテンポラリー・ジャズに背を向けてきた証拠かもしれません。
しかしながら、今年話題の音楽ムック本『Jazz The New Chapter』を読んだことを契機に、Fred Herschに興味を持ち、最新作『Floating』を試聴し、大変気に入り購入した次第です。
レコーディング・メンバーは、Fred Hersch(p)、John Hebert(b)、Eric McPherson(ds、per)の3名。
聴く前はリリカルなピアノ・トリオ演奏をイメージしていました。実際にピアノ詩人らしい繊細で美しい演奏に魅了されるのは事実ですが、それだけに止まらない、ワールド・ジャズ的な演奏、伝統的ジャズのエッセンスを取り入れた演奏などでアルバムにメリハリをつけている点が気に入りました。
「You and The Night and The Music」、「If Ever I Would Leave You」、「Let's Cool One」の3曲以外の7曲はFred Herschのオリジナルですが、そのうち6曲が誰かに捧げられているという点も特徴です。
ピアノ詩人のさまざまな思いが込められた芸術的な1枚を堪能しましょう。
こういう作品を聴き逃さなくて良かった!
接点をくれた『Jazz The New Chapter』に感謝!
全曲紹介しときやす。
「You and The Night and The Music」
Arthur Schwartz/Howard Dietz作のスタンダードがオープニングを飾ります。『Night & The Music』(2007年)でも取り上げた楽曲の再演。Herschの華麗な手さばきと、そこにベースとドラムが絡む表情豊かなアンサンブルは、最初聴いたとき、南米の"静かなる音楽"と同じような印象を受けました。素晴らしい!このオープニングを聴き、"これは僕向きのコンテンポラリー・ジャズ作品に違いない!"と確信しました。
https://www.youtube.com/watch?v=t2v2_TiBijE
「Floating」
Herschの繊細なプレイを堪能できるリリシズムに溢れた美しい演奏です。一音一音に深遠な思いが込められている感じがいいですね。
「West Virginia Rose (for Florette & Roslyn)」
母親と祖母に捧げられたピアノ・ソロ。感動的なメロディを奏でるHerschの優しいタッチを堪能しましょう。
https://www.youtube.com/watch?v=VFBTWGVeqwY
「Home Fries (for John Hebert)」
バンド・メンバーJohn Hebertに捧げられた曲。John Hebertがニューオリンズ出身ということで、セカンド・ラインによるハッピー・リズムが印象的です。
「Far Away (for Shimrit)」
2012年に29歳の若さで逝去したイスラエル人女流ピアニストの故Shimrit Shoshanに捧げられた曲。生死の淵から甦ったHerschから若くして逝ったShimritへのレクイエムといった趣です。聴く者も思わず感傷的な気持ちになってしまいますね。
「Arcata (for Esperanza)」
現代ジャズを代表する女流ベーシストEsperanza Spaldingに捧げられた曲。Esperanzaのイメージにマッチしたブラジリアン・フィーリングの演奏が実にいいですね。白熱した三人の演奏にグイグイ引き込まれます。
「A Speech to the Sea (for Maaria)」
フィンランド出身の芸術家Maaria Wirkkalaに捧げられた曲。Shimritのピアノ詩人ぶりを存分に堪能できる美しい演奏です。John Hebertのベース・ソロもいい感じです。
「Autumn Haze (for Kevin Hays)」
タイトルの通り、ジャズ・ピアニストKevin Haysに捧げられた曲。ジワジワと高揚する小粋なモーダル感にグッときます。
「If Ever I Would Leave You」
Frederick Loewe /Alan Jay Lerner作のスタンダード。ミュージカル『Camelot』挿入歌です。センチメンタルな演奏に思わずグッときてしまいます。
「Let's Cool One」
Thelonious Monk作。『Thelonious: Fred Hersch Plays Monk』(1998年)でも演奏していた楽曲の再演です。軽快なアレンジでMonk作品を楽しく聴かせてくれます。
これを機にFred Herschの他作品も聴きたいですね!
Fred Hersch Trio『Horizons』(1985年)
Fred Hersch With Charlie Haden & Joey Baron『Sarabande』(1987年)
Fred Hersch, Steve La Spina,Jeff Hirshfield『ETC』(1988年)
Fred Hersch『Evanessence: A Tribute To Bill Evans』(1990年)
The Fred Hersch Group『Forward Motion』(1991年)
Fred Hersch Trio『Dancing in the Dark』(1992年)
Fred Hersch『Live at Maybeck Recital Hall, Vol. 31』(1993年)
Fred Hersch『Red Square Blue: Jazz Impressions of Russian Composers』(1993年)
Fred Hersch Trio『Plays...』(1994年)
Fred Hersch『Point in Time』(1995年)
Janis Siegel & Fred Hersch『Slow Hot Wind』(1995年)
Fred Hersch『Passion Flower』(1996年)
Fred Hersch『Plays Rodgers & Hammerstein』(1996年)
Fred Hersch『Thelonious: Fred Hersch Plays Monk』(1998年)
Fred Hersch & Bill Frisell『Songs We Know』(1998年)
Fred Hersch『Fred Hersch At Jordan Hall: Let Yourself Go』(1999年)
Fred Hersch『Songs Without Words』(2001年)
Fred Hersch Trio『Live at the Village Vanguard』(2003年)
Fred Hersch & Norma Winstone『Songs & Lullabies』(2003年)
Fred Hersch Trio + 2『Fred Hersch Trio + 2』(2004年)
Fred Hersch『Leaves of Grass』(2005年)
Fred Hersch『Personal Favorites』(2006年)
Fred Hersch『In Amsterdam: Live at the Bimhuis』(2006年)
Fred Hersch Trio『Night & The Music』(2007年)
Fred Hersch『Fred Hersch Plays Jobim』(2009年)
Fred Hersch『Live at Jazz Standard』(2009年)
Fred Hersch Trio『Whirl』(2010年)
Fred Hersch『Alone at the Vanguard』(2011年)
Fred Hersch Trio『Everybody's Song But My Own』(2011年)
Fred Hersch Trio『Alive at the Vanguard』(2012年)
Fred Hersch & Julian Lage『Free Flying』(2013年)
Ralph Alessi & Fred Hersch『Only Many』(2013年)
Benoit Delbecq & Fred Hersch『Fun House』(2013年)