
発表年:2015年
ez的ジャンル:アルメニア系進化形ジャズ
気分は... :これぞ進化形ジャズ!
今ジャズの中で最も注目を集めるピアニストの1人、アルメニアの神童Tigran Hamasyanの最新作『Mockroot』です。
昨年話題となったジャズ本『Jazz The Next Chapter』の中でも、その才能が大きくクローズ・アップされていたJTNCのイチオシ・アーティストですね。
Tigran Hamasyanは1987年アルメニア北西部のギュムリ出身のジャズ・ピアニスト。ジャズとクラシックの教育を受けてきた彼は2006年のThelonious Monk International Jazz Piano Competitionで優勝し、大きな注目を浴びます。その勢いで2006年にデビュー・アルバム『World Passion』をリリースしました。
その後は『New Era』(2007年)、『Aratta Rebirth: Red Hail』(2009年)、『A Fable』(2011年)、『Shadow Theater』(2013年)といった作品をリリースしています。
Thelonious Monk International Jazz Piano Competition優勝というジャズ・エリートながらも、幼少期からロック好きで一時はスラッシュ・メタルのギタリストになりたかったということで、オルタナ・ロック、エレクトロニカ等の影響も多分に感じ、自身のアイデンティティを探求すべくアルメニアの伝統音楽も掘り下げるというジャズの枠に囚われないアプローチで音楽ファンを虜にするアルメニアの神童。
そんな彼の才能を多くの音楽ファンに知らしめたのが前作『Shadow Theater』(2013年)でした。それまでのキャリアの集大成的な同作は、彼の持つ多様で先進的な音楽性をアルバム1枚に上手く詰め込んだ傑作であり、進化形ジャズと呼ぶに相応しい1枚だと思います。
僕もJTNCの影響を受けて前作『Shadow Theater』(2013年)を購入し、そろそろ当ブログで取り上げようと思っていたところに新作『Mockroot』が届けられたので、まずは最新作を先に紹介することにしました。
個人的には『Shadow Theater』で自信を深めた独自の音世界をさらに進化させたプログレッシヴな1枚に仕上がっていると思います。僕の浅い知識でざっくりといえば(笑)、Tigranと同じThelonious Monk International Jazz Piano Competition優勝者であるKris Bowersにも通じるオルタナ・ロック・フィーリングとAntonio Loureiroのような「ワールド・ミュージック+現代音楽」的感覚が融合した、アルメニア人のアイデンティティを感じる"進化形ジャズ"に仕上がっています。
レコーディング・メンバーはTigran Hamasyan(p、key、vo、sound effects)、Sam Minaie(b)、Arthur Hnatek(ds、electronics)が中心です。それ以外に「The Roads That Bring Me Closer to You」のみにGayanee Movsisyan(vo)が参加しています。また、「Song for Melan and Rafik」のみAreni Agbabian(vo)、Ben Wendel(sax)、Chris Tordini(b)、Nate Wood(ds)というメンバーです。
Tigranのピアノが素晴らしいのは勿論のこと、Tigranのプログレッシヴな音世界の構築に大きく貢献しているArthur Hnatekのドラミングにも注目です。以前に『Jazz The Next Chapter』の特集記事で"進化形ジャズの肝はドラムにあり"と書きましたが、本作も然りです。
アルメニアのトラディショナル「Kars 1」、「Kars 2 (Wounds of the Centuries)」以外はTigranのオリジナルです。
"Mockroot" (Behind the Scenes)
https://www.youtube.com/watch?v=0vKfE2dPWbc
JTNC好きの人にはマストな1枚になりそうですね。
全曲紹介しときやす。
「To Love」
Tigranの奏でるピアノから深遠な愛と自身のアイデンティティを感じるオープニング。
「Song for Melan and Rafik」
前述のように本曲のみレコーディング・メンバーが異なります。Areni Agbabianのスキャットをフィーチャーした、オルタナ・ロックや現代音楽を飲みこんだのTigranらしいコンテンポラリー・ジャズを楽しめる1曲に仕上がっています。
「Kars 1」
アルメニアのトラディショナル。エキゾチックな旋律にTigran自身のヴォーカルも加わり、アルメニア気分を味わうことができます。ただし、そこにエレクトロニクスなスパイスやコンテンポラリーなエッセンスを加えることも忘れないのが、この人の只者ではないところかもしれません。
「Double-Faced」
Tigranのオルタナ・ロック的な側面が打ち出されたエキサイティングな仕上がり。殺気を感じるTigranのピアノにArthur Hnatekの叩き出す変拍子リズム、エレクトロ二クスも加わり、進化形ジャズらしい刺激的な演奏を堪能できます。
「The Roads That Bring Me Closer to You」
Gayanee Movsisyanの美しい女声スキャットをフィーチャー。壮大なストーリーを感じる美しい演奏に魅了されます。
「Lilac」
Tigranのピアノ・ソロを満喫できます。クラシックやアルメニアの伝統音楽の影響も感じる美しい演奏を堪能できます。
「Entertain Me」
スラッシュ・メタルのギタリストに憧れたTigranの激しさが伝わってくるロッキンな演奏は繰り広げられます。
https://www.youtube.com/watch?v=k-GUNcSWSko
「The Apple Orchard in Saghmosavanq」
Tigranの繊細さと激しさが交錯するドラマティックな演奏は聴き応え十分です。
https://www.youtube.com/watch?v=v-QXm5Ku_l0
「Kars 2 (Wounds of the Centuries)」
アルメニアのトラディショナルのパート2。パート1の余韻のようなインタールード的演奏です。
「To Negate」
アルメニア伝統音楽のエッセンスを取り入れたミステリアスな演奏です。中盤以降のスリリングな演奏にグッときます。
「The Grid」
シンセも駆使した今ジャズらしい演奏を楽しめます。Arthur Hnatekのドラミングが今ジャズ好きを唸らせます。
「Out of the Grid」
ラストは力感のあるコンテンポラリーな演奏で締め括り・・・のはずが4分40秒前後で演奏が終わった後、5分半頃から別の演奏が始まります。シークレット・トラックという扱いでいいんですかね。こちらはスキャット入りの美しきドラマティック感が印象的です。
https://www.youtube.com/watch?v=fnPTzOlxgl4
本作とセットで『Shadow Theater』(2013年)を聴くことをオススメします。それ以外の作品もこれからフォローしたく思います。
『World Passion』(2006年)

『New Era』(2007年)

『Aratta Rebirth: Red Hail』(2009年)

『A Fable』(2011年)

『Shadow Theater』(2013年)
