2015年03月31日

Damian Dame『Damian Dame』

LaFaceの契約第1号アーティストとなった男女R&Bデュオ☆Damian Dame『Damian Dame』
damian dame damian dame.jpg
発表年:1991年
ez的ジャンル:悲運の男女R&Bデュオ
気分は... : ブラック・マンバ

今回は90年代R&B作品からDamian Dame『Damian Dame』(1991年)です。

DamianDeah Dameの男女R&Bデュオ。

Deah DameことDebra Hurdは1958年テキサス州ヒューストン生まれ。1983年にソロ・アルバム『Debra Hurd』をリリースし、シングル「Hug Me, Squeeze Me」をヒットさせました。

その後、Babyfaceの1stソロ・アルバム『Lovers』収録曲「Faithful」でフィーチャリングされたことがきっかけで、後の人気プロデュース・チームL.A. Reid & Babyfaceの関連作品へ参加するようになります。

具体的には、L.A. ReidBabyfaceが在籍していたThe Deele『Eyes Of A Stranger』(1987年)、Shalamar『Circumstantial Evidence』(1987年)、Karyn White『Karyn White』(1988年)といったアルバムに参加しています。

そんな中、Debraのヴォーカルを気に入ったDamian(本名:Bruce Edward Broadus、1966年ミシガン州マーシャル生まれ)が彼女に声を掛けて結成されたのがDamian Dameです。

彼らは幸運にもL.A. ReidとBabyfaceが設立したLaFace Recordsの第1号アーティストとして契約することに成功します。そして制作されたアルバムが本作『Damian Dame』(1991年)です。

アルバムからは全米R&Bチャート第1位となった「Exclusivity」、同チャート第2位となった「Right Down To It」という2曲のヒット・シングルが生まれ、上々の船出となりました。

1992年にはL.A. Reid & Babyfaceがプロデュースし、LaFaceからリリースされたEddie Murphy主演の映画『Boomerang』のサントラに参加し、「Reversal of a Dog」Highland Place MobstersTLC、Toni Braxtonと共演しています。

ちなみにTLCChilliはかつてDamian Dameのバックダンサーを務めていました。

このように順調に見えた2人ですが、突然悲劇が襲います。2ndアルバムのリリースも予定されていた1994年6月にDebraが交通事故で他界してしまいます。享年35歳。

取り残されたDamianは失意の中、1996年にソロ・アルバム『199SEX 』をリリースしますが、その直後にガンのため逝去しました。運命のいたずらか、DebraとDamianの命日は共に6月27日でした。

悲運のデュオDamian Dame唯一のアルバムが本作『Damian Dame』(1991年)です。

L.A. Reid & Babyfaceをはじめ、Daryl SimmonsKayo(Kevin Roberson)といったLaFaceファミリーがプロデュースを務め、Babyfaceの兄Kevon EdmondsTLCLeft EyeT-Boz等がレコーディングに参加しています。

アルバム全体の印象としては、Debraの哀愁ヴォーカルが印象的なアップ・チューン、DamianのラップによるHip-Hopチューン、メロディアスなミディアム〜スロウがバランス良く配されています。このあたりがL.A. Reid & Babyfaceのセンスかもしれませんね。

色使いがケバいジャケも含め、良くも悪くも90年代初頭の雰囲気を満喫できる1枚です。

勿論、僕はこの雰囲気が大好きです。

全曲紹介しときやす。

「Intro」
イントロ。

「Exclusivity」
アルバムからの1stシングルであり、前述のようには全米R&Bチャート第1位となったヒット曲。哀愁のメロディが印象的なNJSです。この時代らしくラップパートを織り交ぜています。
https://www.youtube.com/watch?v=1w7FqIQ3q60

「Gotta Learn My Rhythm」
アルバムからの3rdシングル。Debraの哀愁ヴォーカルが印象的なダンス・チューン。妖しげなサウンドが90年代初めのR&Bらしくていいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=w_IRVmc3WMM

「Believer」
シングル向きのキャッチーなアップ・チューン。Damianのラップ・パートもキマっています。バッキング・ヴォーカルはKayo共にプロデュースを手掛けたDaryl Simmons(DeRock名義)。
https://www.youtube.com/watch?v=rN9HYv-PWr8

「Right Down To It」
アルバムからの2ndシングル。「Exclusivity」に続き、全米R&Bチャート第2位のヒットとなりました。メロディアスなミディアム・チューンです。Damianのヴォーカルの節回しはLaFaceサウンドにマッチしますね。後にKenny Lattimoreがカヴァーしています。
https://www.youtube.com/watch?v=0PBcyxDD5Js

「Virgin Island」
Debraがキュートながらも大人のヴォーカルでしっとりと聴かせるバラード。イントロは和風です(笑)
https://www.youtube.com/watch?v=4Ij_jyLt9lc

「Whack It On Me」
ラップを前面に打ち出したHip-Hopチューン。DamianのみならずDebraもラップを聴かせてくれます。90年代初めのダンサブルなHip-Hopチューンって結構好きでした。
https://www.youtube.com/watch?v=t9hbRsrwjH0

「Don't Remind Me」
ヒップ・ハウス的なエッセンスを取り入れたダンス・チューン。こういうのもこの時代ならではの音ですね。
https://www.youtube.com/watch?v=kl7WQmh5lsI

「Love Come Near Me」
美メロのミディアム・スロウ。ミディアム〜スロウ系ではこれが一番好き。Damianのソングライティングの才を感じます。
https://www.youtube.com/watch?v=A-OB_JfM0sE

「Trumpet Man (Tribute To Miles Davis)」
本作がリリースされた1991年に逝去したジャズ界の帝王Miles Davisに捧げれた曲。タイトルの割にはトランペットが入っていませんが(笑)。その代わりにシンセでミュート・トランペットっぽいフレーズを奏でています。Milesの遺作となった『Doo-Bop』あたりを意識した雰囲気の仕上がりです。女性R&BグループBlackgirlのメンバーTye-V(Nycolia Turman)がバック・コーラスで参加しています。

「When I'm Crying」
Debraのヴォーカルの魅力を際立たせた哀愁バラード。バック・ヴォーカルでKevon Edmondsが参加しています。
https://www.youtube.com/watch?v=cwLmRNgCvQI

「Sixty Seconds (The Conclusion)」
Left Eye(Q.T.名義)とT-Boz(Boz名義)というTLCメンバーがラップで参加した短いHip-Hopチューン。アルバムのアウトロ的な感じです。
https://www.youtube.com/watch?v=cw6DqdNesII

「Exclusivity Remix」
「Exclusivity」のリミックス。

Original Soundtrack『Boomerang』(1992年)
Boomerang: Original Soundtrack Album
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2015年03月30日

Stephen Stills『Stephen Stills』

創作意欲に溢れた1stソロ☆Stephen Stills『Stephen Stills』
Stephen Stills
発表年:1970年
ez的ジャンル:SSW系フォーキー・ロック
気分は... :ピンクのキリン???

今回はBuffalo SpringfieldCrosby, Stills, Nash & Young等でも活躍した男性シンガー・ソングライター/ギタリストStephen Stillsの1stソロ・アルバム『Stephen Stills』(1970年)です。

これまで『Manassas』(1972年)、『Down the Road』(1973年)といったManassas時代の作品は紹介してきましたが、Stephen Stillsのソロの紹介は初めてになります。

僕の場合、Stephen Stillsについては、フリーソウル的な聴き方をしているので、Buffalo SpringfieldCrosby, Stills, Nash & Young(CSN&Y)よりも、初期のソロ作やManassasを聴く機会が多いですね。

1stソロ・アルバムとなる本作『Stephen Stills』(1970年)は、この時期の彼の充実ぶりが反映されたアルバムであり、商業的にも全米アルバム・チャート第3位、ゴールド・ディスク獲得という大成功を収めました。

レコーディングには、Stephen Stills(vo、g、b、p、org、steel drum、per)以下、Jimi Hendrix(g)、Eric Clapton(g)、Booker T. Jones(org、vo)、Ringo Starr(ds)、
David Crosby(vo)、Graham Nash(vo)、John Sebastian(vo)、Rita Coolidge(vo)、Cass Elliott(vo)等の有名ミュージシャンが参加しています。

また、後にManassasのメンバーとなるCalvin "Fuzzy" Samuel(b)、Dallas Taylor(ds)も参加しています。

プロデュースはStephen Stills本人とBill Halverson。また、StillsとArif Mardinがアレンジを手掛けています。

アルバム全体としては、フォーク、ロック、ブルース、ソウル、ゴスペルといったエッセンスを巧みに組み合わせたメリハリのあるアルバム構成となっています。グルーヴィーな楽曲やスワンピーな楽曲、ゴスペル調のコーラスが印象的です。CSN&Yの枠では収まりきらなかった創作意欲を発散している感じですね。

シングル・ヒットし、今日でもフリーソウル人気曲である「Love the One You're With」がハイライトでしょうね。また、Jimi Hendrix参加の「Old Times Good Times」Eric Clapton参加の「Go Back Home」も聴く者の期待を裏切らない内容です。

スワンピーな「Sit Yourself Down」Booker T. Jones参加の「Cherokee」あたりも僕のお気に入り。酒が進みそうな酔いどれフォーキー・ブルース「Black Queen」も捨て難い魅力が・・・

楽曲はすべてStephen Stillsのオリジナルです。

雪景色なのに軽装のStillsとピンクのキリンが写るジャケが不思議ですね(笑)

全曲紹介しときやす。

「Love the One You're With」
本作のハイライト。シングルとして全米チャート第14位になっています。前述のようにフリーソウル人気曲でもあります。スティール・ドラムのアクセントが効いたフォーキー・グルーヴ。本作らしいゴスペル調コーラスもいい感じです。
https://www.youtube.com/watch?v=0VsOr5N8LnA

『4 Way Street』(1971年)に収録されたCSN&Yのライヴ・ヴァージョンや、当ブログで紹介したThe Isley Brothersのカヴァーもお馴染みですね。それ以外にAretha Franklin、Dawn、Free Movement、The Supremes & Four Tops、Phyllis Dillon、Luther Vandross、Bucks Fizz等多くのアーティストがカヴァーしています。また、Widespread Panic「Ball of Confusion (That's What the World Is Today)」のサンプリング・ソースとなっています。

「Do for the Others」
SSWらしいフォーキー・チューン。僕の場合、こういう曲はあまり期待していのですが・・・
https://www.youtube.com/watch?v=-OSaIUKi8p4

「Church (Part of Someone)」
ギターではなく、ピアノを中心としたソウル・バラード。ストリングスやゴスペル調コーラスも加わり、盛り上げてくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=P10-ORxQuFA

「Old Times Good Times」
Jimi Hendrix参加曲。ジミヘンのギターとStillsのオルガンの絡みが格好良いグルーヴィーなロック・チューン。久々に聴きましたが、シビれる格好良さですね。
https://www.youtube.com/watch?v=ph_E6tugYLg

「Go Back Home」
Eric Clapton参加のブルース・ロック。Claptonにぴったりなブルージーな雰囲気の中で、らしいギター・ソロを聴かせてくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=Pd9VNlquFlE

「Sit Yourself Down」
この曲もシングルになりました。スワンプ・ロック調の味わい深い仕上がりです。終盤にコーラス隊が盛り上げてくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=hCre-_HUXoU

「To a Flame」
幻想的ながらも味わい深い仕上がりです。中盤以降はストリングスも加わり盛り上げてくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=25dB7pC-ut4

「Black Queen」
弾き語りによる酔いどれフォーキー・ブルース。激シブな格好良さがあります。
https://www.youtube.com/watch?v=ACBQbkYG_tw

「Cherokee」
Booker T. Jones参加曲。ドラマティックなホーン隊やミステリアスなフルートが盛り上げてくれる独特の魅力を持った曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=k_ryQC7Ei5I

「We Are Not Helpless」
Neil Young「Helpless」を意識した曲ですね。ストリングスが少し仰々しいですが、中盤以降のスワンピーな展開はなかなかエキサイティングです。
https://www.youtube.com/watch?v=cBZfsIAZk30


Stephen Stills『Stephen Stills 2』(1971年)
Stephen Stills 2

Stephen Stills/Manassas『Manassas』(1972年)
Manassas

Stephen Stills/Manassas『Down the Road』(1973年)
Down the Road
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2015年03月29日

Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』

Hip-Hop史に残る名盤の誕生!☆Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』
To Pimp a Butterfly
発表年:2015年
ez的ジャンル:コンシャスHip-Hop
気分は... :脱帽です・・・

今回は新作アルバムから超話題のHip-Hop作品Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』です。

Kendrick Lamarは1987年生まれ。カリフォルニア州コンプトン出身のラッパー。2004年、インディ・レーベルのTop Dawg Entertainment (TDE)と契約し、2011年に1stアルバム『Section.80』をリリースします。2012年にTDEがAftermath、Interscope Reccordsとジョイント・べンチャー契約を締結したことに伴い、メジャー契約を手に入れ、2012年にメジャー第1弾アルバム『Good Kid, M.A.A.D City』(2012年)をリリース。同作は大ヒットを記録し、一躍人気Hip-Hopアーティストの仲間入りを果たします。

そして、真価を問われたメジャー第2弾アルバム『To Pimp A Butterfly』でしたが、見事に全米アルバムチャート、全米R&Bアルバム・チャート、全英アルバム・チャートでNo.1に輝き、Hip-Hopのトップ・アーティストとの地位を確固たるものにしました。

当ブログで本作を取り上げたのは、そうしたチャート・アクションに関係なく、中身がとんでもなく素晴らしいものだったからです。僕はアーティスティックな内容と商業的成功は両立しないと思ってしまう方なので、大ヒットとアルバムと聞いただけで、敬遠する傾向があります。しかしながら、本作をCDショップで試聴したとき、メジャー・アーティストがこんなにも凄い作品を創ってしまうのかと驚嘆してしまいました。

僕がKendrick Lamarに興味を持つようになったのは、『Good Kid, M.A.A.D City』(2012年)の大ヒットというよりも、ジャズ界の新星ピアニストKris Bowersが彼の楽曲をカヴァーしたり、L.A.ビートミュージックの雄Flying Lotusの問題作『You're Dead!』(2014年)への参加であり、ごく最近のことです。

そんなタイミングで本作『To Pimp A Butterfly』が届いたのですが、あらゆる面で僕の期待をはるかに上回る作品でした。

ホワイトハウス前で札束とシャンパンで祝福する黒人の人々、その前には顔に落書きされて倒されている白人裁判官が・・・このジャケから本作の政治・社会メッセージ色を感じるはずです。その意味でD'Angelo & The Vanguard『Black Messiah』と重なるものがありますね。

Dr. DreAnthony "Top Dawg" Tiffithがエグゼクティヴ・プロデューサーとして名を連ね、Flying LotusRonald "Flip" ColsonTerrace MartinLoveDragon(Josef Leimberg/Terrace Martin)、Laranee DopsonSounwaveRahkiPharrell WilliamsTaz ArnoldSa-Ra Creative Partners)、WhoareiKnxwledgeTae BeastBoi-1daStephen Kozmeniukがプロデュースを手掛けています。

また、George ClintonThundercatAnna WiseBilalSnoop DoggJames Fauntleroy IIRonald IsleyRapsodyAssassinといったアーティストがフィーチャリングされています。

さらにはRobert Glasper(p、key)、Dr. Dre(back vo)、Josef Leimberg(back vo)、Candace Wakefield(back vo)、Javonte(back vo)Kamasi Washington(ts)、Ronald Bruner Jr.(ds)、Pete Rock(scratch)等のミュージシャンが参加しています。

政治・社会メッセージ色が強いアルバムに見えますが、それと並行して成功を収めつつも自身の立ち位置に葛藤するKendrickの内面が描かれたアルバムでもあります。一方で、サウンドはソウル、ファンク、ジャズ等のエッセンスを上手く駆使し、意外にキャッチーなトラックが多いと思います。また、Robert Glasper(p、key)やThundercat(b)をはじめとする生演奏を積極的に取り入れているのも、僕が本作に惹かれた要因の1つかもしれません。

きちんと聴き込むほどに、彼の内面の葛藤が触れることができ、作品に入り込めるのではないかと思います。

こういう中身のある作品がチャートNo.1になるのは望ましいと思いつつ、こんなにシリアスな作品がNo.1になるのが良い事なのかと複雑な思いになってしまいますね。

Hip-Hop史に残る名盤の誕生を祝福しましょう!

全曲紹介しときやす。

「Wesley's Theory」
Flying Lotus/Ronald "Flip" Colsonプロデュース。George ClintonThundercatをフィーチャー。曲タイトルは人気俳優Wesley Snipesをさすものであり、大成功したにも関わらず、脱税で収監されたWesley Snipesを喩えに、「いくらカネを稼いでも(蝶になっても)、結局は元締め(アメリカ合衆国)に搾取される」とアルバム・タイトルの意味を紐解いてくれます。そうしたリリックの内容を踏まえると、冒頭のBoris Gardiner「Every Nigger Is a Star」をサンプリングした♪Every Nigger Is a Star♪というフレーズの響きの虚しさが増してくるはずです。George Clintonの掛け声と共に始まる本編は、P-FunkとBrainfeederの融合という意味で興味深いですね。Dr. Dre、Anna Wise、Josef Leimberg等がバック・ヴォーカルで参加しています。

「For Free? (Interlude)」
Terrace Martinプロデュース。Robert Glasper等が参加した生ジャズ演奏をバックに、前曲を受けて、スラングを交えながら"俺は搾取されない"と決意を述べます。Jazz The New Chapter観点で聴いても楽しめる1曲だと思います。Anna Wise、Darlene Tibbsといった女性バック・ヴォーカル陣が盛り上げてくれます。

「King Kunta」
Sounwaveプロデュース。タイトルから想像できますが、TVドラマにもなり高視聴率を記録した、Alex Haleyの小説『Roots』の主人公である18世紀の黒人奴隷クンタ・キンテがモチーフになっています。クンタ・キンテは白人に足の指先を切断されてしまいますが、Kendrickは♪みんなが俺の脚を切断しようとしている♪と彼の成功を快く思わない人間の存在を嘆きます。Mausberg feat. DJ Quik「Get Nekkid」ネタのベース・ラインを使った重量ファンクなトラックはパワフルであり、Michael Jackson「Smooth Criminal」、James Brown「The Payback」、Ahmad「We Want the Funk」の声ネタやParliament「Give up the Funk (Tear the Roof Off the Sucker) 」のフレーズ引用が散りばめられています。

「Institutionalized」
Rahkiプロデュース。Bilal、Anna Wise、Snoop Doggをフィーチャー。華やかな世界に身を置いても、貧困層の生活で身に付いた悪行の習慣から抜け出すことの難しさを嘆いた曲。こういった内容であれば、Snoopの参加がハマりますね。クラリネットやチェロを配したエレガントなトラックも効果的です。

「These Walls」
Terrace Martin/Laranee Dopsonプロデュース。Bilal、Anna Wise、Thundercatをフィーチャー。Robert Glasper(key)も参加しています。トラック自体は実にキャッチーですが、リリックはKendrickの友人を銃で殺害した少年に向けられた重々しいものです。

「u」
Taz Arnold/Whoareiプロデュース。Kendrickの叫びと共に始まるこの曲は、Kendrickが自身の抱える心の闇に踏み込んだものです。Whoarei「Loving You Ain't Complicated」をサンプリング。Brainfeederの一員Kamasi Washington(ts)が参加しています。

「Alright」
Pharrell Williams/Sounwaveプロデュース。Pharrell Williamsが手掛けたRick Ross feat. Elijah Blake「Presidential」をサンプリングしています。自分に大丈夫と無理矢理言い聞かせているKendrickの苦悩が伝わってきます。

「For Sale? (Interlude)」
Taz Arnoldプロデュース。悪魔に魂を売る甘い言葉がKendrickに向けられます。

「Momma」
Knxwledge/Taz Arnoldプロデュース。甘い言葉を断ち切ったKendrickが本来の自分を取り戻し、ラッパーとしての立ち位置を再確認しているかのような曲。Knxwledge「So[rt].」をまんま活用したトラックに、Lalah Hathaway「On Your Own」のフレーズが織り交ぜられます。終盤のジャズ的展開はスリリングです。Lalah HathawayBilalがバック・ヴォーカルで参加しています。

「Hood Politics」
Sounwave/Tae Beast/Thundercatプロデュース。タイトルの通り、地元での争い(政治)について言及しつつ、それと対比するように世界で勝負する有名ラッパーの世界について触れます。Sufjan Stevens「All for Myself」をサンプリング。

「How Much a Dollar Cost」
LoveDragon(Josef Leimberg/Terrace Martin)プロデュース。James Fauntleroy II/Ronald Isleyをフィーチャー。Kendrickとホームレスのやり取りの末、神から審判が下ります。Ronald Isleyのヴォーカルは神の声のようです。

「Complexion (A Zulu Love)」
Sounwave/Tae Beast/Thundercatプロデュース。Rapsodyをフィーチャー。肌の色による差別について言及したもの。Rapsodyの♪どんな肌の色であろうと美しい♪というメッセージが心に響きます。Pete Rockがスクラッチで参加しています。

「The Blacker the Berry」
Boi-1da/Stephen Kozmeniuk/Terrace Martinプロデュース。AssassinとLalah Hathawayをフィーチャー。♪俺は2015年最大の偽善者だ♪と叫び、黒人社会の抱える矛盾を"偽善"として問題提起した曲であり、その賛否を巡り議論を巻き起こすでしょうね。そんな曲にも関わらず、シングル・カットしたあたりにKendrickの強い意志を感じます。Cold Grits「It's Your Thing」ネタ。終盤はRobert Glasper(key)、Thundercat(b)、さらには彼の兄である敏腕ドラマーRonald Bruner Jr.というJTNC的に興味深い共演を楽しめます。
https://www.youtube.com/watch?v=6AhXSoKa8xw

「You Ain't Gotta Lie (Momma Said)」
LoveDragonプロデュース。タイトルの通り、「嘘をつかなくていい」という母の教えについて歌ったものです。心に葛藤を抱えたとき、最後に拠り所となるのは親の言葉なのかもしれませんね。Detroit Emeralds「You're Getting a Little Too Smart」ネタ。

「i」
Rahkiプロデュース。The Isley Brothers「That Lady」ネタで話題のアルバムからの先行シングル。Ronald Isleyもバック・コーラスで参加しています。ただし、アルバム・ヴァージョンはシングル・ヴァージョンと少し異なります。キャッチーでアゲアゲな曲調ですが、♪俺は自分を愛してる♪というシンプルなフレーズの裏には、ラッパーとして己の信じる道を突き進もうとするKendrickの思いが込められています。
https://www.youtube.com/watch?v=8aShfolR6w8

「Mortal Man」
Sounwaveプロデュース。ラストは自分も普通の人間であり、過ちがあるかもしれないことをファンに問い掛けます。さらには今は亡き2Pacとの時空を超えた疑似インタビューを行い、ラッパーとして自身が進むべき道に対する強い決意を示して締め括ってくれます。Houston Person「I No Get Eye for Back」(Fela Kutiのカヴァー)をサンプリング。

『Section.80』(2011年)
Section.80 (Limited Edition Cdr)

『Good Kid, M.A.A.D City』(2012年)
Good Kid M.a.a.D City
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2015年03月28日

Enchantment『Utopia』

Michael Stokesの手腕とグループの魅力が結び付いた充実作☆Enchantment『Utopia』
ユートピア(紙ジャケット仕様)
発表年:1983年
ez的ジャンル:Michael Stokes系男性ソウル・グループ
気分は... :ユートピアは何処に・・・

今回は男性ソウル・グループEnchantment『Utopia』(1983年)です。

Enchantmentは1966年にデトロイトで結成された男性ソウル・グループ。

結成時のメンバーはEmanuel "EJ" JohnsonBobby GreenMickey ClantonDave Banksの4名。

1973年に後の名プロデューサーMichael Stokesと出会ったことがきっかけで、Joe Thomasが加わり、グループは5人組体制となります。

1975年にデビュー・シングル「Call on Me」をリリース。1977年にMichael Stokesプロデュースの下、1stアルバム『Enchantment』(1977年)をリリース。同アルバムには「Gloria」(全米R&Bチャート第5位)、「Sunshine」(全米R&Bチャート第3位)といったヒット・シングルが収録されています。

続く2ndアルバム『Once Upon a Dream』(1978年)、3rdアルバム『Journey to the Land Of... Enchantment』(1979年)もMichael Stokesがプロデュースし、『Once Upon a Dream』からは「It's You That I Need」という全米R&BチャートNo.1シングルも生まれました。

80年代に入るとMichael Stokesの元から離れ、『Soft Lights, Sweet Music』(1980年)、『Enchanted Lady』(1982年)という2枚のアルバムをリリースします。『Enchanted Lady』リリース前にBobby Greenが脱退し、新たにCarl Cottonがグループに加入しています。

そして、再びMichael Stokesをプロデューサーに迎えて制作されたのが本作『Utopia』(1983年)です。

結局、本作がグループのラスト・アルバムとなってしまいましたが、Michael Stokesの手腕とEmanuel "EJ" Johnsonを中心としたグループの魅力が見事に結びついた1枚だと思います。

アルバムは「Give It Up」「Come Be My Lover」「Here's Your Chance 」「Somebody's Loving You」といったエレクトリック・サウンドを前面に打ち出した曲と、「Lovestruck」「Don't Fight the Feeling」「I'm Dreaming」といったEmanuel "EJ" Johnsonのスウィートなテナー・ヴォーカルを活かしたメロウ・バラードから構成されており、メリハリのある構成になっているのがいいですね。

Michael Stokesワークスの中でも再評価が高いのも頷ける1枚です。

全曲紹介しときやす。

「Give It Up」
John Barnes/Emanuel "EJ" Johnson/Linda Stokes/Michael Stokes作。Michael StokesとEnchantmentの相性の良さを実感できる、格好良いエレクトリック・ファンクでアルバムを幕を開けます。
https://www.youtube.com/watch?v=0kE-LQl21S8

「Come Be My Lover」
Linda Stokes/Michael Stokes作。エレクトリック色を前面に打ち出したディスコ・ファンク。Michael Stokesのサウンドを楽しむ1曲といった感じですね。
https://www.youtube.com/watch?v=FJ2Tc9Qujn4

「Lovestruck」
Sam Dees/Ron Kersey作。1、2曲から一転して至極のメロウ・バラードです。Emanuel "EJ" Johnsonの素敵なテナー・ヴォーカルを堪能しましょう。
https://www.youtube.com/watch?v=UuQae3o0QC8

「Here's Your Chance 」
Emanuel "EJ" Johnson/Linda Stokes/Michael Stokes作。シングルにもなったダンス・チューン。80年代エレクトリック・ファンクらしい曲調ですが、今聴くと好き/嫌いが分かれるかもしれませんね。
https://www.youtube.com/watch?v=jWZSeJafArI

「Don't Fight the Feeling」
Joe Thomas作。この曲もシングルになりました。グループの魅力を堪能できる70年代テイストの素敵なスウィート・バラードです。
https://www.youtube.com/watch?v=imzOJKgHM_A

「Somebody's Loving You」
Dave Erving/Emanuel "EJ" Johnson/Linda Stokes作。この曲はかなりお気に入り。軽快なエレクトリック・サウンドとEmanuel "EJ" Johnsonのヴォーカルがよくマッチしていると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=D5rnoiwTjss

「I'm Dreaming」
Emanuel "EJ" Johnson作。Emanuel "EJ" Johnsonのスウィート・ヴォーカルを存分に満喫できるメロウ・バラード。
https://www.youtube.com/watch?v=5PPcJjKKa_E

「Get It While It's Hot」
Linda Stokes/Michael Stokes作。ポップなダンス・チューン。Enchantmentにこういう曲が似合うのかはビミョーですが、さすがはMichael Stokesといった仕上がりです。
https://www.youtube.com/watch?v=RDIsK-090WE

「Gotta Find a Love」
Emanuel "EJ" Johnson作。ラストはEJのスウィート・ヴォーカルでとろけるようなメロウ・バラードで締め括ってくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=6MNkn6BG4pw

僕の所有する国内盤再発CDには、前作『Enchanted Lady』(1982年)に収録されていた「I Know Your Hot Spot」「Enchanted Lady」「Adora」の3曲がボーナス・トラックとして追加収録されています。

『Enchantment』(1977年)
エンチャントメント+6

『Soft Lights, Sweet Music』(1980年)
Soft Lights Sweet Music

『Enchanted Lady』(1982年)
エンチャンテッド・レイディ
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2015年03月26日

Uschi Classen『Soul Magic』

女性キーボード奏者による西ロンドン経由のクロスオーヴァー・ソウル☆Uschi Classen『Soul Magic』
Soul Magic
発表年:2002年
ez的ジャンル:西ロンドン系女性キーボード奏者
気分は... :マジック!

今回はUKの女性キーボード奏者/プロデューサーUschi Classenによるクロスオーヴァー・ソウル作品『Soul Magic』(2002年)です。

正直、Uschi Classenのキャリアについては詳しく知りませんが、90年代から活躍する女性キーボード奏者であり、Phil Asher等との共同作業など西ロンドン方面で注目を浴びたアーティストといえるでしょう。

90年代からシングルでは自身名義の作品をリリースしてきた彼女ですが、アルバムとしては本作『Soul Magic』(2002年)が初リリースとなります。というか、現時点で本作が唯一のアルバムですが・・・

殆どの曲でヴォーカリストをフィーチャーしており、2000年代初めの西ロンドンらしいブロークンビーツ/フューチャー・ジャズを通過したクロスオーヴァー・ソウルという印象です。

アルバムにはDee EllingtonEska MtungwaziKimra(Kimberly Kimbrough)、Robert Owensといったヴォーカリストがフィーチャーされています。特にMr. Fingers(Larry Heard)らとのユニットFingers, Inc.での活動でも知らせるシカゴ・ハウスの伝説的ヴォーカリストRobert Owensの参加が目を引きます。

想像以上にキャッチーな楽曲が揃っており、普段クラブミュージックを聴かない人でもすんなり入れるアルバムではないかと思います。その分、サウンド面での刺激は少ないので、そのあたりで好き/嫌いが分かれるかもしれません。

とりあえず「Soul Magic」「Dizzy Heights」「Home」あたりを聴いて気に入れば、買いだと思います。

全曲紹介しときやす。

「Soul Magic」
Dee Ellingtonのキュートな女性ヴォーカルをフィーチャーしたアーバン・メロウなタイトル曲でアルバムの幕は開きます。西ロン好きというより、アーバン・メロウ/AOR好きの人が気に入るのでは?
https://www.youtube.com/watch?v=ZF4xz0Qdkf8

「Dizzy Heights」
Eska Mtungwaziをフィーチャー。西ロンドンらしい疾走感が心地好いクロスオーヴァー・ソウル。
https://www.youtube.com/watch?v=IIjT_5DKmHo

「Now Illuminate」
Kimraをフィーチャー。アルバムに先駆けてシングル・リリースされていた楽曲です。最初"Kimra"は日系のキムラさんか?なんて想像してしまいましたが、KimraさんはKimberly Kimbroughさんでした(笑)。クールなダンサブル・サウンドが実に心地好いです。

「Wise Words」
Dee Ellingtonをフィーチャー。Bill Withers「Use Me」のエレメンツを引用したフューチャー・フォーキー・ソウルです。

「Fire」
Dee EllingtonのヴォーカルとWildflowerのラップをフィーチャーした西ロンドン・テイストのジャジーHip-Hopに仕上がっています。

「She」
この曲はインスト。キーボード奏者Uschi Claassenを堪能するのであれば、こうしたインストの方が分かりやすいかもしれませんね。
https://www.youtube.com/watch?v=nIx4qV87fn8

「The Path」
ジャジー・ハウス調のインスト。ラテン・フレイヴァーが効いているのが僕好み!
https://www.youtube.com/watch?v=oUsoLDVXccE

「Meditative Flow」
Kimraをフィーチャー。Da BoodleyのスクラッチがアクセントとなっているアブストラクトHip-Hop調の仕上がり。

「Home」
Eska Mtungwaziをフィーチャー。アルバムに先駆けてシングル・リリースされていた楽曲です。ラテンとジャズ・ファンクが融合したようなサウンドが面白いですね。
https://www.youtube.com/watch?v=7H7Wf88WiYk

「Only In Your Eyes」
Robert Owensをフィーチャー。アコースティック・サウンドによる透明感に溢れたメロウ・ソウルに仕上がっています。相変わらずRobert Owensのヴォーカルはセクシーですね。

Uschi Classen(ウーシー・クラッセン)・・・クラッセン・ゴレライ???
posted by ez at 02:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 2000年代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする