
発表年:2015年
ez的ジャンル:進化形ジャズ・ピアノ・トリオ
気分は... :カヴァー・センスがドンピシャ!
今回は話題のジャズ・ピアニストRobert Glasperの最新作『Covered』です。
ジャズに止まらないクロスオーヴァーな活動でシーンを牽引する先鋭的アーティストRobert Glasperに関して、これまで当ブログで紹介した作品は以下の4枚。
『Double Booked』(2009年)
『Black Radio』(2012年)
『Black Radio Recovered: The Remix EP』(2012年) ※リミックスEP
『Black Radio 2』(2013年)
Robert Glasper Experiment名義の『Black Radio』、その続編『Black Radio 2』でジャズ界のみならず音楽シーン全体に大きなインパクトを残したRobert Glasper。
注目の最新作はExperiment名義ではなく、『In My Element』(2007年)以来のピアノ・トリオ作品となっています。メンバーもRobert Glasper(p)、Vicente Archer(b)、Damion Reid(ds)という『Canvas』(2005年)、『In My Element』のメンバー編成が復活しています。
『Covered』はタイトルの通り、カヴァー集です。ただし、ジャズ作品のカヴァーは1曲のみで、残りはRadiohead、Joni Mitchell、Musiq Soulchild、John Legend、Bilal、Kendrick Lamar、Jhene Aikoといったロック、R&B、Hip-Hop系アーティストのカヴァーが並びます。
また、カヴァー以外に『Black Radio 2』収録曲のリメイク、故J Dillaへのトリビュート第3弾、本作用に用意したオリジナル曲も含まれます。
レコーディングは2014年12月2日、3日の2日間ハリウッドのキャピタル・スタジオにて、スタジオ・ライブ形式で行われました。
カヴァーのセレクト、アルバム構成からも察しがつくように、ピアノ・トリオによるジャズ作品でありながら、コアなジャズ・ファン向けに制作されたものではなく、『Black Radio』同様に普段あまりジャズに接することが少ない人向けに聴かせることを意図した作品に仕上がっています。
『Black Radio』、『Black Radio 2』でR&B、Hip-Hop系リスナーの心を掴むことに成功したGlasperが、そうしたリスナーのジャズへの興味を喚起するためにピアノ・トリオという典型的なジャズのフォーマットを用意したのでしょうね。
また、『Black Radio』シリーズでのR&B、Hip-Hop的アプローチのイメージがあまりにも広く浸透しすぎたため、その呪縛から解放される意味でも、こういった典型的なジャズ・フォーマットの作品が必要だったのかもしれませんね。ロック、R&B、Hip-Hopといった他ジャンルの音楽の魅力をジャズ・ピアノ・トリオで最大限伝えるという点に、『Black Radio』シリーズと『In My Element』の橋渡し的な役割も感じるアルバムです。
僕自身、今年に入ってから最も頻繁に聴いていたGlasperのアルバムが『In My Element』だったので、本作の方向性をすんなり受け入れることができました。また、カヴァーしているアーティストを眺めてもJhene Aiko以外は当ブログでも紹介済みのお気に入りアーティストばかりであり、そのあたりも僕を大きく惹きつけました。
おそらく『Black Radio』シリーズほどの商業的成功は見込めないと思いますが、"今ジャズ"作品として興味深く聴ける1枚だと思います。
本作を聴きながら、Robert Glasperが次にどんなステージへ向かうのかを妄想してみるのも楽しいのでは?
全曲紹介しときやす。 ※国内盤
「Introduction」
Glasper自身がアルバムのコンセプトを説明し、メンバー紹介を行います。
「I Don't Even Care」
『Black Radio 2』(デラックス盤)収録曲のリメイク。オリジナルはMacy GrayとJean GraeをフィーチャーしたHip-Hopビートの哀愁チューンでしたが、ここではドラムンベース調にリメイクしています。同じ『Black Radio 2』収録曲でもNorah Jonesをフィーチャーした「Let It Ride」に近い雰囲気です。また、終盤にはThe Roots「You Got Me」のフレーズの引用も聴こえてきます。
「Reckoner」
Radioheadをカヴァー。オリジナルは『In Rainbows』(2007年)に収録されています。『In My Element』でも「Everything in Its Right Place」(オリジナルは『Kid A』収録)をカヴァーするなど以前からRadioheadへのリスペクトを示していたGlasperなので、彼らしいセレクトといえるでしょう。Radioheadの世界観をピアノ・トリオで見事に表現しています。
https://www.youtube.com/watch?v=Lsl4TW3Hm1o
Radiohead「Reckoner」
https://www.youtube.com/watch?v=rOoCixFA8OI
「Barangrill」
Joni Mitchellをカヴァー。Joniのオリジナルは当ブログでも紹介した『For The Roses』(1972年)に収録されています。オリジナルの雰囲気を受け継ぐ美しい演奏でJoni作品の素晴らしさを再認識させてくれます。
Joni Mitchell「Barangrill」
https://www.youtube.com/watch?v=1tDpyvgk0kk
「In Case You Forgot」
Glasperのオリジナル。リラックスした雰囲気の中での気分転換といった感じで、各メンバーのソロを楽しめます。途中、Cyndi Lauper「Time After Time」、Bonnie Raitt「I Can't Make You Love Me」のフレーズが引用されています。
「So Beautiful」
『Black Radio』にも参加していたMusiq Soulchildをカヴァー。オリジナルは当ブログでも紹介した
『Onmyradio』(2008年)に収録されており、シングルとして全米R&Bチャート第8位となっています。Musiq Soulchildらしさを残しつつ、しっかり"今ジャズ"しているところさすがですね。この曲の魅力を見事に引き出していると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=GS2Y_CkaXP0
Musiq Soulchild「Sobeautiful」
https://www.youtube.com/watch?v=2ZCmSkHf3Yw
「The Worst」
新進の女性アーティストJhene Aikoをカヴァー。このセレクトはGlasperの20代の従姉妹の愛聴曲からピックアップしたものらしいです。オリジナルはEP『Sail Out』(2013年)に収録されています。美しさと憂いを醸し出すGlasperのピアノ・タッチに魅了されます。
https://www.youtube.com/watch?v=2g6MsY8vD1A
Jhene Aiko「The Worst」
https://www.youtube.com/watch?v=-sp0PmE5t1Q
「Good Morning」
John Legendをカヴァー。オリジナルは当ブログでも紹介した『Evolver』(2008年)に収録されています。この曲の持つ穏やかな魅力をピアノ・トリオならではの美しい演奏で余すことなく伝えてくれます。アルバムの中でも特にキャッチーな1曲なのでは?
John Legend「Good Morning」
https://www.youtube.com/watch?v=6D1Zl3BbLCY
「Stella By Starlight」
Victor Young作の有名スタンダード「星影のステラ」をカヴァー。本作では異色のセレクトですが、ライブ・レパートリーということで本作に収録されたようです。なお、国内盤はExtended Versionが収録されています。本作はわかりやすい演奏が多いですが、この曲に限ってはジャズ・ピアノ・トリオらしいアレンジになっています。
「Levels」
Glasperのニュースクール大学時代からの盟友Bilalの楽曲をカヴァー。オリジナルは当ブログでも紹介した『Airtight's Revenge』(2010年)に収録されています。オリジナルはFlying Lotusの影響を色濃く感じるLAビート・ミュージック的な仕上がりでしたが、ここではジャズ・ピアノ・トリオで新たな息吹を吹き込んでいます。Damion Reidのドラムが"今ジャズ"らしくていいですね。
Bilal「Levels」
https://www.youtube.com/watch?v=qleLHf0_Swg
「Got Over」
ベテラン男性シンガーHarry Belafonteをフィーチャーしたオリジナル曲。D'Angelo & The Vanguard『Black Messiah』のリリースにも影響を及ぼした2014年8月に起きたミズーリ州セントルイス、ファーガソンでの黒人少年射殺事件(警察官が丸腰の黒人少年を射殺)がモチーフになっているようです。社会活動家としても知られるBelafonteのモノローグを通して、人種差別への鋭いメッセージを投げ掛けます。
「I'm Dying of Thirst」
人気と実力を兼ね備えたHip-HopアーティストKendrick Lamarの作品をカヴァー。オリジナルは『Good Kid, M.A.A.D City』(2012年)に収録されています。ここではピアノ・トリオの演奏をバックに、Glasperの6歳の息子らが近年の人種差別絡みの事件の犠牲者となった黒人被害者の名前を読み上げられます。Glasperらがこのようなメッセージを発していた矢先に、サウスカロライナ州の教会で白人の若者が黒人9人を射殺するというヘイトクライムが発生してしまいました。アメリカ社会の抱える闇の根深さを感じずにはいられません。
Kendrick Lamar「I'm Dying of Thirst」
https://www.youtube.com/watch?v=tM6seEs7wgs
「Dillalude 3」
国内盤ボーナス・トラック。『In My Element』に収録された「J Dillalude」、『Black Radio Recovered: The Remix EP』に収録された「Dillalude #2」に続く、故J Dillaへのトリビュート第3弾です。Glasperの流麗なピアノの音色とDamion Reidの叩き出す乾いたビートのコントラストがJ Dillaへのレクイエムらしくていいですね。
Robert Glasperの他作品もチェックを!特に『In My Element』(2007年)は、本作とセットで聴くと楽しめると思います。
『Mood』(2003年)

『Canvas』(2005年)

『In My Element』(2007年)

『Double Booked』(2009年)

『Black Radio』(2012年)

『Black Radio Recovered: The Remix EP』(2012年)

『Black Radio 2』(2013年)
