発表年:2016年
ez的ジャンル:才女系ジャズ・べーシスト/ヴォーカリスト
気分は... :進化か?退化か?
注目の新作が多く、定番の週末の新作エントリーのみでは対応しきれないので、週中にも新作を取り上げたく思います。
ということで、才女ジャズ・べーシスト/ヴォーカリストEsperanza Spaldingの最新作『Emily's D+Evolution』です。
弱冠20歳のときに名門バークリー音楽学院の教壇に立ち、かのPat Methenyの持っていた講師の学院最年少記録を塗り替え、2011年のグラミー最優秀新人賞を受賞した才女Esperanza Spaldingの紹介は、『Esperanza』(2008年)、『Radio Music Society』(2012年)に続き2回目です。
本作『Emily's D+Evolution』は、誕生日の前夜に見た夢に出てきたもう一人の自分が主人公のコンセプト・アルバムです。アルバムのタイトルにあるEmilyとはEsperanzaのミドル・ネームであり、Devolution(進化)とEvolution(退化)
そんなコンセプトに合わせたビジュアル面も重視されており、オープニング曲「Good Lava」のPVでその一端を確認することができます。同曲のPVでは人類の創生や文明の発展をイメージさせます。また、Esperanzaの中のもう一人の自分を演じることを意識してか、彼女自身のビジュアルもそれまでのアフロヘアからロング・ブレイズとなり、さらにはセルフレームのメガネ姿と大きくイメチェンしています。
本作はすでに各地のライブで演奏されており、曲間の演技も交えたミュージカル仕立てのパフォーマンスも披露しています。
プロデュースはEsperanza Spalding本人とTony Visconti。
Tony Viscontiといえば、先日惜しくも逝去したロック界のスーパースターDavid Bowie作品のプロデュースでお馴染みの巨匠ですね。Bowieの遺作『★』のプロデュースも手掛けていました。
ミュージカル的なエッセンスも含むコンセプト・アルバムである本作で、さまざまな人物を演じてきたロック・スターDavid Bowieを最も良く知るプロデューサーを起用したあたりの巡り合わせが実に興味深いですね。
コンセプト・アルバムなので、緻密なサウンド・ワークを駆使した作品と思いきやスタジオ・ライヴによるレコーディングです。まぁ、前述のようにライブでの再現できる作品、ジャズ・ミュージシャンの作品ということを踏まえれば、スタジオ・ライブという選択は当然なのかもしれませんが・・・
レコーディング・メンバーは、Esperanza Spalding(b、vo、p、synth bass)、Matthew Stevens(g)、Justin Tyson(ds)、Karriem Riggins(ds)、Corey King(back vo、syn、key、tb)、Emily Elbert(back vo)、Nadia Washington(back vo)という少数精鋭の編成です。
レコーディング・メンバーで印象的なのはギターのMatthew Stevens。Jamire Williams、Kris Bowers、Ben Williamsらも参加する若手ジャズメンのオールスター・ユニットNEXT CollectiveのメンバーでもあるJazz The New Chapter(JTNC)注目のギタリストです。
当ブログで紹介した作品であれば、Matthew Stevensは、Ben Williams『State Of Art』(2011年)、Erimaj『Conflict Of A Man』(2012年)、Christian Scott『Stretch Music』(2015年)といったJTNC重要作に参加しています。
後はThe Soulquarians好きの僕としては、Common、Jay Dee(J Dilla)、Erykah Badu、>(The Roots)等の作品でお馴染みのプロデューサー/ドラマーであるKarriem Rigginsの参加も、JazzとHip-Hop/R&Bの融合という意味で興味深いですね。
サウンド的にはMatthew Stevensのギターに象徴されるロック寄りのオルタナティヴ感のあるダイナミックな演奏が目立ちます。そこにEsperanzaのもう一つの魅力である愛らしいピュア・ヴォーカルが加わることで、ハードさと優しさが絶妙なバランスで調和するEsperanzaならではの音世界を生み出しています。
コンセプト・アルバムに相応しいミュージカルや映画を観るような感覚でアルバム1枚を聴くことができる1枚です。
ベーシスト、ヴォーカリスト、トータルなクリエイターとEsperanzaの才女ぶりを存分に楽しめる1枚です。
全曲紹介しときやす。
「Good Lava」
主人公Emilyが登場し、進化と退化というアルバムのテーマを示唆するオープニング。Matthew Stevensのギター、Esperanzaのベース、Justin Tysonのドラムによるトリオ演奏ですが、本作らしいロッキン・サウンドによるダイナミックな演奏は迫力があります。
https://www.youtube.com/watch?v=UDrEHphZbcE
「Unconditional Love」
無条件の愛が歌われます。ピュアなEsperanzaの歌声が印象的です。JTNC好きの人はKarriem Rigginsの"今ジャズ"的なドラミングにグッとくるのでは?
「Judas」
従来からのEsperanzaらしい雰囲気のある演奏ですね。Esperanzaのベース・プレイも存分に楽しめます。
「Earth To Heaven」
文明への風刺も効いたロッキンな演奏です。トリオ演奏とは思えないダイナミズムの中にも、しっかりジャズを感じられるのがいいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=WdcPPLDvJoA
「One」
本作らしい世界観やサウンドがよく反映された1曲。スケール感の大きな演奏と、Esperanzaの愛のあるヴォーカルの組み合わせが聴く者を惹き込みます。
https://www.youtube.com/watch?v=bGqmoWH-t1c
「Rest In Pleasure」
力強さと優しさのメリハリの効いた演奏によるドラマチックな仕上り。
「Ebony And Ivy」
Esperanza、Corey King、Nadia Washingtonによる早口なア・カペラが印象的です。人種差別、格差社会へのメッセージが歌われます。
「Noble Nobles」
Corey KingとEsperanzaの共作。SSW的なアコースティックな質感が印象的な演奏です。
「Farewell Dolly」
ベースによる弾き語りといった雰囲気が印象的です。
「Elevate Or Operate」
Esperanzaの愛らしい声質を活かした1曲。ハードなサウンドと愛らしいヴォーカルのコントラストが実にいいですね。
「Funk The Fear」
タイトルの通り、ファンク・ロック炸裂の演奏でグイグイきます。キャッチーな格好良さでいえば、アルバム随一かもしれませんね。
「I Want It Now」
Anthony Newley作。人類に警鐘を鳴らすような演奏で締め括ってくれます。
「Change Us」
CDボーナス・トラック。Matthew Stevensのギターが牽引するメロディアスな仕上り。
「Unconditionnal Love - Alternate Version」
「Unconditionnal Love」の別ヴァージョン。9分半を超える長尺です。
「Tambien Detroit」
国内盤ボーナス・トラック。独特の雰囲気を醸し出す、つなぎの小曲といった感じですね。
『Junjo』(2006年)
『Esperanza』(2008年)
『Chamber Music Society』(2010年)
『Radio Music Society』(2012年)