発表年:2016年
ez的ジャンル:今ジャズによるMiles再構築
気分は... :Milesの名義は必要だったのか?
今回は現在進行形ジャズを牽引するピアニストRobert Glasperがジャズ界の帝王であった故Miles Davisの音源を再構築した話題のアルバム『Everything's Beautiful』です。
『Black Radio』(2012年)で一気にジャズ界のトップ・ランナーに躍り出た先鋭的ジャズ・ミュージシャンRobert Glasperに関して、これまで当ブログで紹介した作品は以下の5枚。
『Double Booked』(2009年)
Robert Glasper Experiment『Black Radio』(2012年)
Robert Glasper Experiment『Black Radio Recovered: The Remix EP』
(2012年) ※リミックスEP
Robert Glasper Experiment『Black Radio 2』(2013年)
『Covered』(2015年)
また、ジャズ界の帝王Miles Davisに関して、これまで当ブログで紹介した作品は以下の16枚。
『Bag's Groove』(1954年)
『'Round About Midnight』(1955、56年)
『Cookin'』(1956年)
『Miles Ahead』(1957年)
『Milestones』(1958年)
『Someday My Prince Will Come』(1961年)
『E.S.P.』(1965年)
『Miles Smiles』(1966年)
『Nefertiti』(1967年)
『Filles De Kilimanjaro』(1968年)
『In A Silent Way』(1969年)
『On The Corner』(1972年)
『Get Up With It』(1970、72、73、74年)
『Dark Magus』(1974年)
『Agharta』(1975年)
『The Man With The Horn』(1981年)
本作と同時期にRobert Glasperが音楽を手掛けたDon Cheadle監督・主演のMiles Davisの伝記映画『Miles Ahead 』のサントラもリリースされ、大きな話題となっているRobert GlasperとMiles Davisの時空を超えた共演。
Original Soundtrack『Miles Ahead 』(2016年)
ホンネを言えば、本作『Everything's Beautiful』を取り上げるか大いに悩みました。正直、僕の中で扱いがビミョーで手放しで歓迎できるアルバムとまでは至っていないので・・・
しかしながら、当ブログにおける帝王Milesや"今ジャズ"トップ・ランナーGlasperの存在感を考慮すれば、取り上げないわけにはいかないかなぁ・・・と。加えて、多彩なゲスト陣が当ブログで取り上げた僕のお気に入りアーティストばかりである点もエントリーする理由です。
僕の中で本作がビミョーな最大の理由は、本作をRobert GlasperとMiles Davisの共同名義にする必要があったのか?という点です。
Glasper自身に単なるカヴァー集、リミックス集のような作品にしたくなかったという意図があり、Milesの過去の音源を素材に、Glasperやフィーチャリング・アーティストが「Milesが今生きていれば、こんな音を創造するのでは?」とイマジネーションを働かせたアルバムに仕上がっています。
また、Milesの遺作となった『Doo-Bop』でHip-Hopとの融合を図ったことを踏まえ、あえてドラマーによる生演奏は用いず、すべてドラム・ループによるHip-Hop的手法を徹底しています。
フィーチャリング・アーティストはBilal、故J Dillaの弟Illa J、Erykah Badu、Phonte(The Foreign Exchange)、Hiatus Kaiyote、KING、Laura Mvula、Georgia Anne Muldrow、John Scofield、Ledisi、Stevie Wonderという顔ぶれです。『Black Radio』、『Black Radio 2』ほどの豪華さはないものの、なかなか充実してたメンツです。
サウンドの方は自ずと今ジャズ+R&B/Hip-Hop的なサウンドとなっており、Glasper的な音という印象は受けますが、Glasper meets Milesというイメージはそれ程湧いてきません。
このようにGlasperやフィーチャリング・アーティストが音楽界のイノベータ―であったMilesの精神を受け継ぎたいという気概は十分伝わってくるし、支持したいと思いますが、やはり本作はMiles Davis名義のアルバムではないと思います。
既にWikipediaのMilesのディスコグラフィに本作が記載されていますが、Miles自身のトランペットが殆ど聴こえてこないアルバムがMiles作品としてリストアップされているのは違和感がありますね。
アルバムの中にはGlasperはMilesの音源を提供したのみで、フィーチャリング・アーティスト主体の楽曲もいくつか含まれます。それらも考慮すれば、本作はRobert Glasperが総指揮をとったMiles音源の再構築コンピレーションといった位置づけでも良かった気がします。
いろいろ文句を書いてきましたが、アルバム全体のスモーキーな雰囲気やサウンドは嫌いではありません。多小地味ですが・・・。また、Glasper、フィーチャリング・アーティスト、Milesの三者の関係を意識しながら聴くのも興味深いですね。
さらにGlasperがドラム・ループによるHip-Hop的手法にこだわったことを踏まえると、ここにいないもう一人のイノベータ―J Dillaの存在が見え隠れしてきます。GlasperとMilesとJ Dillaが一緒に音を創ったらどうなるんだろう?なんて妄想してしまいます。
多分、ジャズの新旧イノベータ―の共同名義アルバムとしては期待を裏切られたと感じる人もいるであろう賛否両論に二極化するアルバムだと思います。
自分にとって有りか無しか?その意味でも聴いてみる価値があるのでは?
全曲紹介しときやす。
「Talking Shit」
Milesの会話の声、「In A Silent Way」におけるJoe Zawinulのエレピ、Robert Glasper ExperimentのベーシストDerrick Hodgeのベースを融合させたオープニング。音自体は今ジャズらしい雰囲気でスモーキーな魅力があります。
「Ghetto Walkin'」
Glasperの盟友である男性R&BシンガーBilalをフィーチャー。『In A Silent Way』セッション時にレコーディングされた「The Ghetto Walk」をサンプリングし、Bilalが歌詞をつけたもの。BilalとGlasperの共演曲としても楽しめますし、このトラックは多少Miles作品の匂いを感じます。
https://www.youtube.com/watch?v=A9U8y4aWveE
「They Can't Hold Me Down」
故J Dillaの弟であるラッパーIlla Jをフィーチャー。このトラックは正直MilesとGlasperというより、J DillaととGlasperの時空を超えた共演といった雰囲気がありますね。J Dilla好きの人は楽しめるのでは?
「Maiysha (So Long)」
Erykah Baduをフィーチャー。『Get Up With It』収録曲にErykah様が歌詞につけて再構築。オリジナルもラテン/ボッサ調であったこの曲は確かにErykah様にフィットしますね。ただし、オリジナル自体があまりMilesっぽくなかったので、この再構築ヴァージョンもMilesっぽくありませんが、辛うじてミュート・トランペットをサンプリングでMilesを感じることができます。、
https://www.youtube.com/watch?v=bstfOqQhW48
「Violets」
Phonte(The Foreign Exchange)をフィーチャー。名盤『Kind Of Blue』収録の「Blue In Green」のレコーディング音源からオリジナルではカットされていたBill Evansのピアノのイントロをサンプリングした哀愁のジャジーHip-Hopに仕上がっています。Phonteのソロ『Charity Starts At Home』や初期The Foreign Exchangeの雰囲気に近いですね。
https://www.youtube.com/watch?v=IJnIpohlNVY
「Little Church」
Nai Palm擁するオーストラリアのフューチャリスティック・ハイブリッド・バンドHiatus Kaiyoteをフィーチャー。Glasperは素材を提供したのみで、残りはHiatus Kaiyote側で全て仕上げた模様です。Nai Palmのヴォイスが浮遊するミステリアスな仕上がりです。
https://www.youtube.com/watch?v=ZXZPK6pwKek
「Silence Is The Way」
UKの女性シンガーLaura Mvulaをフィーチャー。「In A Silent Way」におけるMilesのミュート・トランペットをサンプリングし、GlasperのピアノとHip-Hopビートが加わった本演奏にはMilesとGlasperの融合感はあるかも?
「Song For Selim」
今年デビュー・アルバム『We Are KING』を紹介した期待の女性R&BグループKINGをフィーチャー。『Live-Evil』収録の「Selim」をサンプリング・ソースに用いた曲ですが、これはGlasperでもMilesでもなく、100%KINGワールドの1曲に仕上がっています。彼女達のドリーミーな魅力を存分に楽しめます。
https://www.youtube.com/watch?v=b0tE0J_xjC8
「Milestones」
才気溢れる女性R&Bシンガー/プロデューサーGeorgia Anne Muldrowをフィーチャー。『Milestones』収録の名曲を取り上げています。この演奏については、GlasperのピアノとMuldrowのヴォーカルをフィーチャーしたリメイクという感じなので一番分かりやすいかも?終盤にはMilesの声ネタも登場します。
「I'm Leaving You」
リアルにMilesと共演していたギタリストJohn Scofieldと実力派女性R&BシンガーLedisiをフィーチャー。Hip-HopサイドからBlack Milkがプロデューサーとして加わっています。Milesの声ネタを中心に制作された曲みたいです。歯切れのいいLedisiのヴォーカルとJohn Scofieldのギターが印象的な演奏のパワフル感は、70年代エレクトリック・マイルスに通じるものがあるかもしれません。
https://www.youtube.com/watch?v=cKkaAIIA-vs
「Right On Brotha」
ラストはMilesに見劣りしない偉大なレジェンドStevie Wonderのハーモニカをフィーチャー。さらにDJ Spinnaがプロデュースしています。『A Tribute To Jack Johnson』収録の「Right Off」をサンプリングし、ダンサンブル・サウンドの中でMilesとStevieを融合させたDJ Spinnaの手腕が光ります。。
https://www.youtube.com/watch?v=g2UI612ZGNw
Robert GlasperおよびMiles Davisの過去記事もご参照を!
Robert Glasper『In My Element』(2007年)
Robert Glasper『Double Booked』(2009年)
Robert Glasper Experiment『Black Radio』(2012年)
Robert Glasper Experiment『Black Radio Recovered: The Remix EP』(2012年)
Robert Glasper Experiment『Black Radio 2』(2013年)
Robert Glasper『Covered』(2015年)
Miles Davis『Bag's Groove』(1954年)
Miles Davis『'Round About Midnight』(1955、56年)
Miles Davis『Cookin'』(1956年)
Miles Davis『Miles Ahead』(1957年)
Miles Davis『Milestones』(1958年)
Miles Davis『Someday My Prince Will Come』(1961年)
Miles Davis『E.S.P.』(1965年)
Miles Davis『Miles Smiles』(1966年)
Miles Davis『Nefertiti』(1967年)
Miles Davis『Filles De Kilimanjaro』(1968年)
Miles Davis『In A Silent Way』(1969年)
Miles Davis『On The Corner』(1972年)
Miles Davis『Get Up With It』(1970、72、73、74年)
Miles Davis『Dark Magus』(1974年)
Miles Davis『Agharta』(1975年)
Miles Davis『The Man With The Horn』(1981年)