発表年:2016年
ez的ジャンル:社会派シカゴHip-Hop
気分は... :アメリカはどうなる!
シカゴ出身の人気ラッパーCommonの最新作『Black America Again』です。
これまで当ブログで紹介してきたCommon作品は以下の7枚(発売順)。
『Resurrection』(1994年)
『One Day It'll All Make Sense』(1997年)
『Like Water For Chocolate』(2000年)
『Be』(2005年)
『Finding Forever』(2007年)
『Universal Mind Control』(2008年)
『The Dreamer, The Believer』(2011年)
これまでCommonの最新作がリリースされれば、即座に当ブログで取り上げてきましたが、前作『Nobody's Smiling』(2014年)はスルーしてしまいました。Commonが変わってしまったのか、僕の耳がオッサン化したのかはわかりませんが、聴いても今一つピンと来なかったというのが正直な感想です。
最近の僕はアーティストにあまり固執せず、"旬が過ぎたな"とか"商業路線に走ったな"と思うと、一気に気持ちが離れることも多く、Commonについても『Nobody's Smiling』を聴いた時点で、"もう彼の新作を待ち遠しく聴くことはないのかなぁ"なんて勝手に思っていました。
しかし、そんな僕の杞憂を吹き飛ばすような素晴らしい新作を届けてくれました。
アルバム・ジャケやアルバム・タイトルに反映されているように、アメリカ社会の抱える人種差別問題に鋭く切り込んだ1枚です。血の日曜日事件(1965年)で有名なセルマからモンゴメリーへの行進を描いた映画『グローリー/明日への行進(Selma)』(2014年)のテーマ曲「Glory」(John Legendとの共演)あたりにも伏線はありましたが、ここまで重厚な作品をリリースするとは・・・
アメリカ大統領選挙の直前に、アメリカ社会の分断に警鐘を鳴らすアルバムをリリースするあたりにCommonの本作に込めた強い意志を感じます。
その意味でD'Angelo & The Vanguard『Black Messiah』(2014年)、Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』(2015年)といった近年の傑作アルバムたちと同じ流れに位置付けられる1枚だと思います。
CommonとNo I.D.がエグゼクティブ・プロデューサーを務め、ジャズ・ドラマー/Hip-Hopプロデューサーとして活躍し、Common作品も手掛けてきたKarriem Rigginsがメイン・プロデューサーに起用されています。加えて、Robert Glasper、Frank Dukesがプロデュースしている曲もあります。CommonはGlasperの『Black Radio 2』(2013年)に参加していました。
Bilal、Stevie Wonder、Marsha Ambrosius、PJ(Paris Jones)、Syd tha Kyd(The Internet)、BJ The Chicago Kid、Elena Pinderhughes、John Legend、Tasha Cobbsといったアーティストがフィーチャリングされています。
フィーチャリング・アーティスト以外にBurniss Earl Travis II(b)、Theo Croker(tp)、Roy Hargrove(tp)、J-Rocc(DJ、scratch)、James Poyser(org)、Esperanza Spalding(b)等のミュージシャンが参加しています。
Stevie Wonder、John Legendといった大物アーティストとの共演も楽しいですが、個人的にはSyd tha Kyd(The Internet)、BJ The Chicago Kid、PJといった新進アーティストとの共演や、Bilal、Roy Hargrove、James PoyserといったThe Soulquariansの面々との共演が嬉しかったですね。
また、Karriem Riggins、Robert Glasper、Esperanza Spalding、Burniss Earl Travis II、Theo Croker、Elena Pinderhughesといった"今ジャズ"系アーティストの参加でアルバムにジャズのエッセンスを効かせているのも僕好み!
ラッパーCommonの矜持を感じる1枚です。
全曲紹介しときやす。
「Joy and Peace」
Bilalをフィーチャーしたオープニング。自由と愛と平和を武器に立ち上がったCommonの強い意志を感じます。Gentle Giant「No God's a Man」をサンプリング。Karriem Rigginsプロデュース。
https://www.youtube.com/watch?v=MFPhp5dzung
「Home」
この曲もBilalをフィーチャー。O.V. Wright「I'm Going Home (To Live With God)」をサンプリングしたダーク・トラックやThe Nation of Islam の黒人リーダーLouis Farrakhanの演説のサンプリングと共に、Commonが黒人の権利を強く訴えます。Karriem Rigginsプロデュース。
https://www.youtube.com/watch?v=x-TQc9-3U_Y
「Word From Moe Luv Interlude」
Robert Glasperによる美しいインタールード。
https://www.youtube.com/watch?v=91ajGG0rioU
「Black American Again」
Stevie Wonderをフィーチャーしたタイトル曲。先行シングルにもなり、ルイジアナ州バトンルージュで今年7月5日に起きた白人警官による黒人男性射殺事件の映像と共に始まるPVは実にショッキングです。依然として無くならないアメリカ社会の人種差別に対する怒り、悲しみ、苦しみをCommonが代弁します。本作を象徴する1曲です。キング牧師の有名な演説「I Have a Dream」、James Brown「Introduction to Say It Loud - I'm Black and I'm Proud」、Public Enemy「Bring the Noise」、MC Lyte feat. Audio Two「10% Dis」といった声ネタが織り交ぜられています。Robert Glasperがピアノ、Esperanza Spaldingがベースで参加しています。ドラム・ループはJuice「Catch a Groove」ネタ。Robert Glasper/Karriem Rigginsプロデュース。
https://www.youtube.com/watch?v=bURKiygUPow
「Love Star」
元FloetryのMarsha AmbrosiusとPJをフィーチャー。PJことParis JonesはL.A.を拠点に活動する期待の女性R&Bシンガーです。Mtume「You, Me And He」ネタのトラックにのった女性ヴォーカル陣がドリーミーな歌声が印象的なアルバムに安らぎを与える1曲に仕上がっています。途中、チラっとThe Moments「Sexy Mama」のパーカッション・ネタも登場します。Karriem Rigginsプロデュース。
https://www.youtube.com/watch?v=4Ruqow2jjQg
「On a Whim Interlude」
エレピによるインタールード。Robert Glasperと思いきやKarriem Rigginsでした。
「Red Wine」
The Internetの主要メンバーSyd tha Kydと女性ジャズ・ヴォーカリスト/フルート奏者Elena Pinderhughesをフィーチャー。OFWGKTAのメンバーでもあったSyd tha Kydの才能は当ブログでも何度も紹介済みです。Elena Pinderhughesは当ブログでも紹介したChristian Scott『Stretch Music』(2015年)でのフルートの音色が印象に残っています。Edgar Vercy「Cormoran Blesse」のシンセ・ネタやストリングスをバックに、浮遊する儚い女性ヴォーカルがメインです。Commonは脇役に回って淡々としたフロウを聴かせます。
Karriem Rigginsプロデュース。
https://www.youtube.com/watch?v=E2N7l0Z5khM
「Pyramids」
ヴォーカルはBilal。JTNC好きの人はGlasperの鍵盤とRigginsのドラムによるトラックを楽しめるのでは?Hip-HopファンはBoogie Down Productions「South Bronx」、A Tribe Called Quest「Award Tour」、Public Enemy「Don't Believe the Hype」、Ol' Dirty Bastard「Brooklyn Zoo」といった名曲の一節を引用しているので、分かるとニンマリかもしれませんね。Robert Glasper/Karriem Rigginsプロデュース。
https://www.youtube.com/watch?v=Fs4EQ6-2jmE
「A Moment In the Sun Interlude」
Glasperのピアノ、Elena Pinderhughesのフルート/コーラス、Karriem Rigginsのドラム/ベースによる美しいインタールード。もっと長尺で聴きたいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=7YKRl7BMYkw
「Unfamiliar」
PJをフィーチャー。John Cameron「Half Forgotten Daydreams」のドリーミーなトラックにのって、PJが透明感のあるキュートなヴォーカルを聴かせてくれます。Karriem Rigginsプロデュース。
https://www.youtube.com/watch?v=cl21BcmLUaY
「A Bigger Picture Called Free」
Syd tha KydとBilalをフィーチャー。アトモスフィアなアンダーグラウンド感があるトラックとSyd & Bilalの哀愁ヴォーカルがマッチしています。注目の新時代ジャズトランペッターTheo Crokerのトランペットがいいアクセントになっています。Karriem Riggins/Frank Dukesプロデュース。
https://www.youtube.com/watch?v=9miZhXiLYBY
「The Day Women Took Over」
今年メジャー初アルバム『In My Mind』で注目を集めた男性R&BシンガーBJ The Chicago Kidをフィーチャー。The Soulquariansの盟友Roy Hargrove(tp)も参加しています。Commonの力強いフロウに、BJ The Chicago Kidの妖しげなセクシー・ヴォーカルが加わったソウルフル感がいいですね。Karriem Rigginsプロデュース。
https://www.youtube.com/watch?v=A6CCOeFNAWg
「Rain」
John Legendをフィーチャー。John LegendとCommonの共演といえば、先には挙げた「Glory」以外に、反戦メッセージのPVが印象的であったJohn Legend & The Roots『Wake Up!』(2010年)収録の「Wake Up Everybody」や『Be』収録の「Faithful」(Bilalも共演)を思い出します。Glasperの美しいピアノにのって、John Legendが高らかに歌い上げ、Commonが祈るようにフロウする感動的な1曲に仕上がっています。
https://www.youtube.com/watch?v=5Zxb0mwSz3E
「Little Chicago Boy」
女性ゴスペル・シンガーTasha Cobbsをフィーチャー。The Soulquariansの盟友James Poyser(org)も参加したゴスペル調の仕上がり。Karriem Riggins/Frank Dukesプロデュース。
「Letter To the Free」
ラストはBilalをフィーチャー。憲法修正第13条を通して、差別問題に切り込んだドキュメンタリー映画『13th』でも使われた曲。Glasper(p)、Burniss Earl Travis II(b)、Elena(fl)、Riggins(ds)による生演奏と黒人霊歌調のコーラス隊をバックに、BilalとCommonが自由を訴えてアルバムは幕を閉じます。
https://www.youtube.com/watch?v=TRlTnJr_7ec
Common作品の過去記事もご参照下さい。
『Resurrection』(1994年)
『One Day It'll All Make Sense』(1997年)
『Like Water For Chocolate』(2000年)
『Be』(2005年)
『Finding Forever』(2007年)
『Universal Mind Control』(2008年)
『The Dreamer, The Believer』(2011年)