発表年:2017年
ez的ジャンル:今ジャズ系トランぺッター
気分は... :解放宣言!
今回は新作ジャズから現在ジャズを牽引するトランぺッターChristian Scott aTunde Adjuahの『The Emancipation Procrastination』です。
1983年ニューオリンズ生まれ。サックス奏者のDonald Harrisonを叔父に持つChristian Scott(Christian Scott aTunde Adjuah)の紹介は、『Stretch Music』(2015年)、『Ruler Rebel』(2017年)に続き3回目となります。
最新作『The Emancipation Procrastination』は、ジャズ生誕100年を記念してリリースされる三部作"The Centennial Trilogy"の最終作と位置付けられるアルバムです。
これまで第1弾『Ruler Rebel』、第2弾『Diaspora』がリリースしています。
『Ruler Rebel』
『Diaspora』
プロデュースはChristian Scott aTunde AdjuahとChris Dunn。
レコーディング・メンバーはChristian Scott aTunde Adjuah(tp、flh、sirenette、SPD-SX、sampler)以下、Elena Pinderhughes(fl)、Braxton Cook(as)、Stephen J. Gladney(ts)、Lawrence Fields(p、el-p)、Kris Funn(b)、Luques Curtis(b)、Matthew Stevens(g)、Cliff Hines(g)、Dominic Minix(g)、Corey Fonville(ds、SPD-SX)、Joe Dyson Jr.(pan african ds、SPD-SX)、Marcus Gillmore (ds、SPD-SX)、Weedie Braimah(djembe、bata、congas)。
三部作すべてに参加しているメンバーも多いですが、本作ではMatthew Stevens、Marcus Gillmoreといった今ジャズ注目のミュージシャンの参加が目を引きます。Marcus GillmoreはTaylor McFerrin『Early Riser』(2014年)でのプレイが印象的でした。
ジャズ誕生100年の三部作の最終作のタイトルが『(リンカーン大統領の)奴隷解放宣言』というのもインパクトがありますね。
ジャズという音楽自体が黒人解放運動と強く結びついていますが、Christianはそうしたジャズの歴史と人種差別問題がクローズアップされることが多くなった昨今の社会情勢がオーバーラップさせているのでしょうね。
アルバム自体は、これまでの2作と同様に、生ドラミングとサンプリングパッドを融合させた今ジャズらしいビートをバックに、Christianらが雄弁なアンサンブルで魅せてくれます。
個人的にはRadiohead「Videotape」をカヴァーしている点が興味深かったです。
このカヴァーを含めて、困難に直面してもそれを乗り越えて、より良き一歩を踏み出そうとするChristianの強い意志が本作に貫かれている気がします。
「In The Beginning (Interlude)」、「Videotape」以外はChristianのオリジナルです。
大作を聴きながら、ジャズの過去・現在・未来に思いを馳せてみましょう!
全曲紹介しときやす。
「The Emancipation Procrastination」
前述のように、タイトルに社会的メッセージを感じるオープニング。黒人のアイデンティティとしてのジャズを強く印象付けてくれます。その象徴でもある帝王Miles Davisへのオマージュも織り交ぜられているのもいいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=JJ2jBa42qc4
「AvengHer」
Marcus Gillmore参加曲。そのGillmorのドラミングとサンプリングパッドによる今ジャズらしいビートをバックに、Christianがエモーションなプレイで魅せてくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=9BH6xXgM-nY
「Ruler Rebel (X. aTunde Adjuah Remix)」
The Centennial Trilogyの第1弾であった『Ruler Rebel』のタイトル曲のリミックス。『Ruler Rebel』ヴァージョンは壮大のスケールの演奏の中に、さまざまな感情が入り混じっているように感じましたが、本ヴァージョンはより慈愛に満ちているような気がします。
https://www.youtube.com/watch?v=5TUHc4WkEGg
「Ashes Of Our Forever」
今ジャズらしい刺激的なビートとChristian、Elena Pinderhughes、Stephen J. Gladneyの美しいアンサンブルの調和が印象的です。The Centennial Trilogyシリーズらしい音ですね。
https://www.youtube.com/watch?v=1v3hX1--l0s
「In The Beginning (Interlude)」
パーカッション奏者Weedie Braimahの作品。というか、Weedie Braimahのパーカッション・ソロ。
https://www.youtube.com/watch?v=S2BwrwtX1Yo
「Michele With One L」
今ジャズらしいビートと対話しているかのようなChristianの雄弁なプレイに惹き込まれます。今ジャズらしい黄昏モードがいいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=Zt1s5ES6hAg
「The Cypher」
アブストラクトHip-Hop調の乾いたビートとChristianやElena Pinderhughesのフルートらの美しいアコースティック・サウンドとのコントラストがいいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=_oHaL95_Luc
「Videotape」
Radioheadのカヴァー。オリジナルはアルバム『In Rainbows』(2007年)のエンディングを飾った曲です。このカヴァーは実に興味深いですね。何が起ころうと、より良き一歩を踏み出そうとする現在ジャズの牽引者の真摯な気持ちが伝わってきます。
https://www.youtube.com/watch?v=7-9-E0SOfMI
「Gerrymandering Game」
Cliff Hinesのギター、Lawrence Fieldsのピアノらのミニマル感覚の演奏が印象的です。
https://www.youtube.com/watch?v=gqR5zJB2T08
「Unrigging November」
大海に解き放たれたようなChristianのプレイ、パーカッシヴなビートとCliff Hinesのギターが印象的です。
https://www.youtube.com/watch?v=HVEVVUfPrOo
「Cages」
Stephen J. Gladneyのサックスをフィーチャー。Corey Fonvilleのドラム、Christianのトランペット、Stephen J. Gladneyのサックスのパッションが伝わってくる、スケールの大きいジャズ100年史のような演奏です。
https://www.youtube.com/watch?v=dcAZGqu2SgM
「New Heroes」
ラストは美しさとしなやかさのあるアンサンブルでニュー・ヒーローの登場を予感させて、"The Centennial Trilogyを締め括ってくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=C8KvDw9yo_A
Christian Scottの他作品もチェックを!
『Rewind That』(2006年)
『Anthem』(2007年)
『Live At Newport』(2008年)
『Yesterday You Said Tomorrow』(2010年)
Stefon Harris/David Sánchez/Christian Scott『Ninety Miles』(2011年)
『Christian Atunde Adjuah』(2012年)
Next Collective『Cover Art』(2013年)
『Stretch Music』(2015年)
『Ruler Rebel』(2017年)
『Diaspora』(2017年)