発表年:2019年
ez的ジャンル:新進ジャズ・ドラマー系ビート・ミュージック
気分は... :却来(きゃくらい)!
今回は鬼才ジャズ・ドラマーMark Guilianaの最新作『Beat Music! Beat Music! Beat Music!』です。
現在ジャズ・シーンで最も旬なドラマーの一人Mark Guilianaの紹介は、『My Life Starts Now』(2014年)、Mark Guiliana Jazz Quartet名義の『Family First』(2015年)に続き3回目となります。
アコースティック・ジャズとエクスペリメンタルなミニマル/ビート・ミュージックという2方向のアプローチを行き来するMark Guilianaですが、本作『Beat Music! Beat Music! Beat Music!』はタイトルが示すように後者のアプローチによる新作です。
全体の印象としては、『My Life Starts Now』(2014年)に近い雰囲気ですね。
レコーディングにはMark Guiliana(ds、electronics、vo)以下、Chris Morrissey(b)、Stu Brooks(b)、Jonathan Maron(b)、Tim Lefebvre(b)、Jason Lindner(syn、melodica)、BIGYUKI(syn)、Jeff Babko(syn)、Nate Werth(per)、Troy Zeigler(electronics)、Steve Wall(electronics)、Cole Whittle(spoken word)、Jeff Taylor(spoken word)、さらにはMarkのパートナーであるN.Y.コンテンポラリー・ジャズの歌姫Gretchen Parlato(spoken word)、Markの息子Marley Guiliana(spoken word)が参加しています。
これまでのMark Guilianaでお馴染みのメンバーが中心です。
Jason Lindnerは、Markも参加するユニットNow Vs Nowの同僚。Stu Brooksは、ダビー・バンドDub Trioでも活躍するベーシスト。Jeff Babko、Tim Lefebvreは、鬼才Louis Coleも属するユニットCrow Nutsのメンバー。Nate Werthは、人気ジャズ・ミクスチャー・バンドSnarky Puppyのメンバー。BIGYUKIは、もはや説明不要の日本人キーボード奏者。Jonathan Maronは、N.Y.のジャズ・ファンク・グループGroove CollectiveおよびRepercussionsの元メンバー。
また、Steve Wallはミックスも担当に、本作に大きく貢献しているようです。
実に聴きやすい音だなぁ!というのがアルバム全体の印象です。初心者でも楽しめる"開かれたビート・ミュージック"といった感じでしょうか。
エクスペリメンタルなビート・ミュージックでありながらも、ダンサブル/ポップなエッセンスを上手く織り交ぜ、無機質なビート感覚と温もりのあるエレクトロニカ・サウンドを巧みに融合させているのがいいですね。
あとはダビー・バンドDub Trioでも活躍するベーシストStu Brooksの参加曲を中心に、ビート・ミュージックの中にレゲエ/ダブを上手く取り込んでいる演奏も目立ちます。
もはやジャズ作品とは呼べない内容ですが、鬼才ジャズ・ドラマーのビート感覚を楽しむという意味では、現在進行形ジャズの側面も残しています。
能の大成者、世阿弥が用いた「却来(きゃくらい)」(元々は禅語の「却来(きゃらい)」)という言葉があります。「高い段階に一度到達した後に、あえて低い位に立ち戻る」という意味であり、芸を究めた者が目利きの観客(上級者)しかわからない高位の芸ではなく、あえて目利かずの観客(初心者)でも理解しやすい低位の芸を披露するといったものです。
本作におけるMark Guilianaは、正に「却来」的アプローチで初心者でも楽しめるビート・ミュージックを聴かせてくれます。
Beat Music!を3回連呼させるタイトルに相応しいビート・ミュージック・ワールドをぜひお楽しみください。
全曲紹介しときやす。
「Girl」
ビートミュージックらしいミニマルなオープニング。今ジャズ・ドラマーらしいビート感覚と同時に、本作らしいレゲエ/ダブのエッセンスも織り交ぜたアルバムを象徴するオープニング。
https://www.youtube.com/watch?v=PYq758xhxOU
「Bones」
推進力のあるグルーヴが印象的なキャッチーなダンサブル・チューン。Louis Coleあたりに通じるポップ・センスがいいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=TOkxahVcOdI
「Bud」
Stu Brooksの地を這うベースが先導する哀愁エレクトロニカ・ダビー。ビートミュージックならではのダビー・サウンドになっているのがいいですね。無機質なのに、その先にエレクトロニカな温もりを感じるのがいいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=x4iDFwLmWS4
「Bullet」
新幹線の京都駅でのアナウンスを素材にしたダンサブルなビートミュージック。サウンドも駅構内アナウンスという素材の選び方もビートミュージックらしい1曲に仕上がっていて楽しめます。
https://www.youtube.com/watch?v=4vIcwoXkR0I
「Home」
エレクトロニカなミニマル・ワールドが展開されます。
https://www.youtube.com/watch?v=gDONPcIi4FM
「Roast」
ビートミュージックらしい疾走感が格好良いダンサブル・チューン。初心者もとっつきやすい開かれたビートミュージックになっているのがいいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=pkGwrj8FHEA
「Human」
モロにレゲエな感じでスタートしますが、中盤以降はビートミュージックが浸食し、エキサイティングな展開に・・・
https://www.youtube.com/watch?v=qBoUSTgpimQ
「Bloom」
パートナーGretchen Parlato、息子Marley Guilianaが参加。温かみのあるエレクトロニカに仕上がっています。
「Stream」
ラストはJason Lindnerのメロディカが印象的なレゲエ/ダブのエッセンスを強調した演奏で締め括ってくれます。
Mark Guiliana関連の他作品もチェックを!
Mehliana『Taming The Dragon』(2014年)
『My Life Starts Now』(2014年)
『Beat Music:The Los Angels Improvisations』(2014年)
Mark Guiliana Jazz Quartet『Family First』(2015年)
Mark Guiliana Jazz Quartet『Jersey』(2017年)
Now Vs Now『Earth Analog』(2013年)
Now Vs Now『The Buffering Cocoon』(2018年)