発表年:2020年
ez的ジャンル:新世代ジャズ・ベーシスト系ネオソウル
気分は... :ズシリと重い・・・
今回は新世代ジャズ・ベーシストBen Williamsの最新作『I Am A Man』です。
1984年ワシントンDC生まれ。ジュリアード音楽院で学び、2009年にはThelonious Monk International Jazz Bass Competitionで優勝し、一躍注目のジャズ・ベーシストとなったBen Williamsの紹介は、初のリーダー作『State Of Art』(2011年)に続き2回目となります。
自身のグループSound Effectを率いたり、Pat MethenyのグループUnity Bandへ参加などでも知られるBen Williams。
Jazz The New Chapterブームのなかで、Jamire Williams、Kris Bowers、Matthew Stevens、Gerald Clayton、Christian Scott aTunde Adjuahらによる若手ジャズメンのオールスター・ユニットNEXT Collectiveのメンバーとして注目を浴び、初リーダー作『State Of Art』(2011年)にもスポットが当てられました。
『State Of Art』は、Go-Go調、ジャズ・ラップ調、ブラジル調、アフリカ調、ブルース調とバラエティに富んだ演奏で、トータルなサウンドにこだわった僕好みの1枚でした。
その『State Of Art』(2011年)、『Coming Of Age』(2015年)に続く、3枚目のソロ・アルバムとなるのが本作『I Am A Man』(2020年)です。
Jose Jamesが立ち上げたレーベルRainbow Blondeからのリリースです。
そのレーベル主宰者Jose Jamesの最新作『No Beginning No End 2』(2020年)と呼応するように、本作『I Am A Man』(2020年)もネオソウル的アプローチが強調された1枚に仕上がっています。Ben自身もヴォーカルに挑戦しています。
"I Am A Man"というアルバム・タイトルは1968年の衛生労働者のストライキのとき、黒人労働者が首から下げていたプラカードに由来するものです。それ以外にもキング牧師の死の前日のスピーチに由来する「Promised Land」、黒人差別の象徴であるエメット・ティル事件(1955年)を綴ったBob Dylanの初期作品カヴァー「The Death Of Emmett Till」、黒人公民権運動で歌われていたLouise Shropshire作の賛美歌「We Shall Overcome」など黒人公民権運動をテーマにした楽曲がズラリと並ぶ社会派作品という印象も強いです。
「The Death Of Emmett Till」、「We Shall Overcome」以外はBen Williamsおよび参加メンバーのオリジナルです。
レコーディング・メンバーはBen Williams(b、vo、syn)、Kris Bowers(key、p)、David Rosenthal(g)、Marcus Strickland(ss、ts、bass clarinet)、Bendji Allonce(per)、Kenyon Harrold(tp)、Anne Drummond(fl)、Jamire Williams(ds)、Justin Brown(ds)、Brian Bender(prog)、Justina Sullivan(cello)、Celia Hatton(viola)、Maria Im(violin)、Chiara Fasi(violin)等。
また、Kendra Foster、Muhsinah、Wes Felton、Nilesがフィーチャリングされています。
ジャズ・ミュージシャンである以前に、黒人ミュージシャンとしてのアイデンティティを表明した1枚、その重みをしっかり受け止めて聴きましょう。
『I Am A Man』preview
https://www.youtube.com/watch?v=CzPkS6A1n14
全曲紹介しときやす。
「Intro: I Am A Man」
Ben自身のヴォーカルがエコーのように響き渡る深遠なオープニング。
「If You Hear Me」
本作らしいネオソウルなメロウ・グルーヴ。Jamire Williamsが叩くビートと美しいストリングスをバックに、Ben自身が雰囲気のあるジェントル・ヴォーカルを披露してくれます。Kenyon Harroldがトランペット・ソロで盛り上げてくれます。
https://www.youtube.com/watch?v=yjXi820_fd4
「March On」
Wes Feltonのラップをフィーチャー。J Dilla調ビートとロッキン・ビートが交錯するメリハリ感がいいですね。ジャズの枠に囚われないRainbow Blondeらしいカラーの1曲に仕上がっているのでは?
「Promised Land」
Kendra Fosterの女性ヴォーカルをフィーチャー。タイトルは(多分)キング牧師が暗殺される前日に行った"私たちは必ず「約束の地」へたどり着く"というスピーチに因んだものだと思います。美しくもダークな雰囲気に包まれた演奏です。そんな中でMarcus Stricklandのバス・クラリネットが一筋の光明のように聞こえてきます。
「High Road」
Muhsinahの女性ヴォーカルをフィーチャー。ゆっくりと場面が転換していくような雰囲気のある音作りが印象的な哀愁チューン。聴き重ねるほどに味わいが増してきます。
「Take It From Me」
Nilesのラップをフィーチャー。ダークなトーンが支配する1曲に仕上がっています。黒人公民権運動をテーマにした映画のサントラのようです。
「Come Home」
Kendra Fosterの女性ヴォーカルをフィーチャー。ロックした力強いサウンドを聴かせてくれます。
「The Death Of Emmett Till」
Bob Dylanの初期作品のカヴァー。この曲は白人女性に向かって口笛を吹いただけで14歳の黒人少年が残虐に殺害されたエメット・ティル事件をテーマにした作品です。Dylanのオリジナルの公式リリースが『The Witmark Demos: 1962-1964』(2010年)であったため、あまり知られていない曲ですがDylanの鋭いメッセージが綴られています。BenのヴォーカルもDylan調です。Kris Bowersの美しいピアノとDavid Rosenthalのハードなロッキン・ギターとのコントラストが印象的です。
「High Road Part 2」
アルバムで最もジャズ・フィーリングのある生演奏ジャジーHip-Hop調の仕上がり。Al Green「Love And Happiness」も引用したKenyon Harroldによるホーン・アレンジも印象的です。
「We Shall Overcome」
Louise Shropshire作の賛美歌をカヴァー。黒人公民権運動の象徴する1曲として知られています。浮遊感漂う音空間のなかで勝利を望み、恐れを捨てて突き進もう!というメッセージが揺らめきます。
https://www.youtube.com/watch?v=YOSOFyF2aaw
Ben Williamsの他作品もチェックを!
『State Of Art』(2011年)
『Coming Of Age』(2015年)