発表年:1969年
ez的ジャンル:トロピカリズモ系MPB
気分は... :後期Beatlesファンを魅了します!
いよいよ9月突入ですね。
今日はMPB(Musica Popular Brasileira)を代表するアーティストCaetano Velosoの2回目の登場です。前回は『Caetano』(1987年)を紹介しました。
"ブラジル人アーティストなんて、まだ夏気分を引きずっているんじゃない?"
なんて思われる方もいるかもしれませんが、今回は全然夏らしくない作品です。
ということで、1969年のアルバム『Caetano Veloso』、通称"ホワイト・アルバム"をセレクト。
本作は、Gal Costaとの共演アルバム『Domingo』(1967年)、初のソロ・アルバム『Caetano Veloso』(1968年)、Gal Costa、Gilberto Gil、Nara Leao、Os Mutantes等との共演盤『Tropicalia: Ou Panis et Circenses』(1968年)に続きリリースされたCaetanoの4枚目のアルバムです。
Gilberto Gilと共にトロピカリズモのリーダーとして注目されたCaetanoですが、当時のブラジル軍事政権からは危険分子と見なされ、1968年末にはナイトクラブで騒いでいたところを"政治的集会"という理由で逮捕され、約半年拘束されることになります。結局は国外退去を命じられたCaetanoはイギリスへの亡命を余儀なくされます(1972年にブラジルへ帰国)。
そんなビミョーな時期にリリースされた作品が『Caetano Veloso』(1969年)です。
ジャケの雰囲気がBeatlesの本家"ホワイト・アルバム"に似ていることから、"ホワイト・アルバム"の愛称で呼ばれている作品です。前述の『Tropicalia: Ou Panis et Circenses』(1968年)のジャケもBeatles『Sgt. Pepper's 〜』を連想させるものであり、本作も本家ホワイト・アルバムうを意識して、こうしたデザインにしたのかもしれませんね。
単にジャケのみではなくサウンドにも後期Beatlesの影響が窺えます。ボサノヴァと英米ロックにインスパイアされた新たな音楽のムーブメントであるトロピカリズモを実際のサウンドで昇華させたアルバムですね。
きっと純然たるブラジル音楽ファン以上に、後期Beatlesファンや60年代後半の英米ロック好きの方を虜にする作品であるような気がします。また、歪んだギター等サイケなロック・サウンドとボサノヴァ、カーニヴァル音楽、バイーア地方(Caetanoの出身地)の伝統音楽、ファド(ポルトガルの民族歌謡)、タンゴといったラテン音楽を見事に融合させている点も魅力です。
1969年のブラジルでこんなに先鋭的な"ロック・アルバム"が制作されたことに驚かされます。
「ブラジル音楽=ボサノヴァ、サンバ」というイメージしかない方が聴くと、なかなか衝撃のアルバムだと思います。
全曲紹介しときヤス。
「Irene」
1968年末に逮捕され、約半年拘束されていた時期に書かれた曲です。Caetanoの公式サイトで流れてくるテーマ曲にもなっていますね。そんなこともあって人気曲なのでは?バイーアの香りが漂うメロディに、ロックのテイストも加わったCaetanoらしい仕上がりの1曲です。
「The Empty Boat」
この曲は英語で歌われています。タイトルや不穏な雰囲気が漂うダークなフォーク・ロック調のサウンドを聴いていると、軍事政権との対立する様子を窺えますね。
「Marinheiro So」
バイーア音楽とロック・サウンドの素敵な出会いといった雰囲気がいいですね。ロック・サウンドの大胆に導入することで実に新鮮に聴こえますね。同時期のブラジル人アーティストと聴き比べると、その新しさが実感できると思います。
「Lost in the Paradise」
この曲も英語で歌われています。ブラジル音楽好きの人以上に後期Beatles好きの人がグッとくる曲なのでは?Paul風のメロディ&サウンドとJohn風のヴォーカルって感じでしょうか。Dracoもカヴァーしていますね(『Enter the Draco』収録)。
「Atras Do Trio Eletrico」
軽快なカーニヴァル・チューン。タイトルにあるTrio Eletricoとはフレーヴォ(カーニヴァル音楽)をエレキ・ギターで演奏するスタイルらしいです。
「Os Argonautas」
ファド・テイストの仕上がり。メランコリックな哀愁ムードがいいですねぇ。
「Carolina」
エレキ・ギターを導入したサウンドが続く中でアコギのみの本作はグッドきますね。一気に癒しモードへ!って感じですな。
「Cambalache」
スペイン語で歌われる本曲はタンゴ調です。歌詞の中にRingo Star、John LennonといったBeatlesメンバーの名が出てくるのも嬉しいですね。
「Nao Identificado」
「Alfomega」と並ぶお気に入り曲でもあります。後期Beatlesとバイーアが融合した雰囲気が大好きです。 後半のグチャグチャしてくる感じもサイコー!
「Chuvas de Verao」
Edu Loboの父Fernando Loboの作品。美しいストリングスも加わったMPBらしいサウダージな哀愁チューンに仕上がっています。
「Acrilirico」
ポエトリー・リーディングですね。アヴァンギャルドな雰囲気が漂っています。
「Alfomega」
僕の一番のお気に入りはこのGilberto Gil作品(Gilberto Gilはギターでも参加)。サイケなファンキー・グルーヴに仕上がっています。この時代にこんなサウンドを演奏していたことに驚かされます。この1曲を聴くだけでも本作をゲットする価値があると思います。Ghostface Killah「Charlie Brown」という曲でモロ使いサンプリングされているのを見つけました。
「Alfomega」
http://jp.youtube.com/watch?v=vjHl2PLMnGY
Ghostface Killah「Charlie Brown」
http://jp.youtube.com/watch?v=KXyppkxL5oc
次回は70年代の作品を紹介しますね。『Joia』(1975年)が僕のイチオシです。