発表年:1981年
ez的ジャンル:奇跡のジャズ・ピアニスト
気分は... :情熱的に生きる
今日はフランス人ジャズ・ピアニストMichel Petruccianiの代表作『Michel Petrucciani』(1981年)です。
僕の中ではMichel Petrucciani(1962-1999年)ほど"奇跡のジャズ・ピアニスト"という形容が似合う人はいないかもしれません。
先天的な骨形成不全症(グラス・ボーン病)という障害を背負って生まれ、身長は1mに満たず普通に歩くことさえ一苦労のPetruccianiですが、一度ピアノの前に座ると、信じられない音を奏でてくれます。
Michel Petruccianiは1962年にフランスのオランジュでイタリア系フランス人の家庭に生まれます。前述のような障害を持っていたにも関わらず、幼少時からピアノを習い、13歳で最初のコンサートを開催し、1980年には初のレコーディングを経験しています。
1981年にはCharles Lloyd(ts)と運命の出会いを果たします。当時引退中だったLloydはPetruccianiのピアノに惚れ込み復活を決意し、Petruccianiと共にニューグループを結成します。このグループでの活動によりMichel Petruccianiの名は一躍ジャズ・シーンに知れ渡ります。
その後も意欲的に作品をリリースし、"フランス最高のジャズピアニスト"といった評価まで得ますが、1999年に急性肺炎のために死去しました。享年36歳。
Petruccianiに魅了されるのは、障害を抱えているにも関わらず演奏しているからではありません。全体重をのせて鍵盤をたたくという個性的な演奏スタイルが生み出す独特の伸びやかで強靭なタッチの中に、生きることへの情熱と喜びを見出すことができるからです。実際にPetruccianiは生まれた時から20歳位までの命と告げられており、明日をも知れぬ命の中で演奏していました。
そんなPetruccianiの魂の演奏を堪能できる作品が『Michel Petrucciani』(1981年)です。ジャズ・ファンの間で通称『赤ペト』と呼ばれている作品です。
『Michel Petrucciani』は1981年4月3日、4日にオランダで録音されたもので、実質的なPetruccianiの1stアルバムです。本作以前の録音としてMike Zwerin(tb)との双頭リーダー作『Flash』(1980年)がありますが、リリースは本作より後だった模様です。
本作のメンバーは、Michel Petrucciani(p)、J.F.Jenny-Clark(b)、Aldo Romano(ds)というトリオ編成。当時18歳だった若手天才ピアニストPetruccianiをJenny-Clark、Romanoというベテラン・サイドメン二人がサポートするといった感じですね。
若手といっても明日をも知れぬ命であり、当時はまだ無名であったPetruccianiの演奏には"この1枚に懸ける"といった強い思いが伝わってきます。その一方で、Bill Evansあたりに通じる叙情性が実に味わい深く聴くことができます。
いろいろな意味でインパクトがあり、サプライズな作品だと思います。
全曲紹介しときやす。
「Hommage A Enelram Atsenig」
まずはこのオープニングで驚かされます。ジャケの風貌とはあまりにギャップのある力強いタッチと疾走感はハードボイルドの世界のような男臭さに溢れています。いやぁ、この燃焼度の高さはハンパないです!Petruccianiのオリジナル。
「Days of Wine and Roses」
超有名なHenry Mancini作品。Jack LemmonとLee Remickが主演した映画『酒とバラの日々』の主題歌であり、アカデミー賞映画主題歌賞、グラミー賞ベスト歌曲賞を受賞しました。このスタンダードをPetruccianiは彼ならではのロマンティックかつ鮮やかな演奏で聴かせてくれます。この1音ごとの抜けの良さはPetrucciani独特ですよね。
「Christmas Dreams」
個人的にダントツのお気に入り曲。このロマンティックなワルツを聴くたびに胸が高鳴り、目がウルウルしてきてしまいます。 この演奏を聴いて感動しなければ嘘でしょう!と言うくらいにご執心の美しく、感動的な演奏です。Petruccianiの真髄ここにあり!ちなみにドラムのAldo Romano作品です。
「Juste un Moment」
この曲はPetruccianiのオリジナル。冒頭のJenny-Clarkのベース・プレイにPetruccianiのピアノが加わる瞬間のスリリングな感じがいいですね。Petruccianiの強靭なタッチが推進力となって、演奏全体のテンションがどんどん高くなっていきます。実にエネルギッシュ!
「Gattito」
Aldo Romano作品。「Christmas Dreams」もそうですが、実に美しい曲を書く人ですね。そんな美しい曲に相応しい、落ち着きと品格のあるPetruccianiのピアノ・プレイにうっとりです。秋に聴くにはピッタリの演奏かもしれませんね。
「Cherokee」
Ray Nobleが1938年に書いたIndian Love Songの副題を持つスタンダード。Charlie Parkerの十八番として有名ですし、本ブログでは以前にClifford Brownの演奏を紹介しました。
演奏の豪快さと激しさで言えばアルバム中一番ですね。ハイ・スピードで切迫した演奏に人生を一気に駆け抜けようとしたPetruccianiの生き方を重ねてしまいます。Jenny-Clark、RomanoもPetruccianiの情熱に負けじと激しく応酬します。特にRomanoのドラムはど迫力ですね。聴き終わった瞬間、Petruccianiのやりきった満足感が聴き手にも伝わり清清しい気分になるのがいいですね。
タイトルのCherokeeとはインディアンのチェロキー族のことですが、本作のリリースと同じ1981年にPetruccianiはインディアン・ナボホ族出身のErlinda Montanoと結婚しています。そんな流れで考えても興味深い選曲ですね。
聴けば何かを感じずにはいられない、奇跡のアルバムだと思います。
ぐだぐだ言わず今日を精一杯生きるべし!
そんな事を教えられるアルバムです。
また、また、語ってしまいました。
だって、きいたことないんだもの。。
何の先入観もなく、純粋なジャズ・ピアニスト作品として聴いて感動できる1枚です。