発表年:1991年
ez的ジャンル:ブラジリアンDNA系ミクスチャー・ロック
気分は... :LastはLustで!
Arto LindsayとPeter SchererによるユニットAmbitious Loversの久々の登場です。
『Greed』(1988年)に続いて紹介するのは、彼らのラスト・アルバム『Lust』(1991年)です。
以前にも書きましたが、洋楽のパラダイムが大きく変わったのが1990年前後だと思っています。もはやロック、ソウル/R&B、ジャズといった枠組みで全体像を捉えることができず、Hip-Hop、ハウス/テクノ、ワールド・ミュージック等が新ジャンルとして確立され、過去の埋もれた作品がレア・グルーヴとして再評価される動きが盛んになりました。
そんな新時代の到来を予感させるミクスチャー・サウンドを聴かせてくれたのが、Ambitious Loversの『Greed』(1988年)でした。
そのインパクトの強さのせいか、僕の中では『Greed』を聴く機会が圧倒的に多く、正直『Lust』の印象は年々薄れていく一方でした。
しかし、先週久々に聴いて"こんなに良かったっけ"と思うほど好印象だったので、今回取り上げることにしました。
Ambitious Loversの魅力の1つに、Arto Lindsayによるブラジル音楽のエッセンスの採りこみがあります。ブラジル人のDNAを持つアメリカ人によるブラジリアン・サウンドは表層的なものではなく、地に足がしっかりついていますよね。ここ数年再びブラジル音楽を聴く頻度が多くなってきている僕にとって、実にジャストなサウンドなのだと思います。
ブラジル音楽のみならず、パンク、ファンク、ジャズ、現代音楽などさまざまな音楽がカオス状態で詰め込まれ、それらがスタイリッシュ&エレガント&アヴァンギャルドにまとめられているのがいいですね。ホント、このミクスチャー・センスは卓越していますね。
本作のレコーディングにはArto Lindsay作品の常連Melvin Gibbs(b)、Marc Ribot(g)、Pat Metheny作品でもお馴染みのNana Vasconcelos(per)、ChicのNile Rodgers(g)、Miles Davis作品にも参加しているBilly Patterson(g)等のミュージシャンが参加しています。
本作を最後にAmbitious Loversは解散します。
本作の充実度を考えれば、このユニットでやるべきことはやり尽くした感があるのでしょうね。
全曲紹介しときやす。
「Lust」
タイトル曲はサウダージ・テイストが加わった静かなるアヴァンギャルド・ロックといった感じです。ブラジル人DNAが組み込まれたアメリカ人Arto Lindsayらしい哀愁のメロディ&ヴォーカルが魅力です。エレガントな音作りもサイコー!
「It's Gonna Rain」
この曲もN.Y.らしいアヴァンギャルド感とブラジルらしいサウダージ感がミクスチャーした美しい仕上がり。ブラジル音楽ならではの味わい深さがいいですね。現代音楽のエッセンスはPeter Schererらしいですね。
「Tuck It In」
静かに幕開けの2曲に続き、Ambitious Loversらしいミクスチャー・ファンクの登場です。 『Greed』収録の人気曲「Copy Me」をお好きな方ならば気に入る1曲だと思います。
「Ponta de Lanca Africano(Umbabarauma)」
Jorge Benによるブラジリアン・クラシックのカヴァー。オリジナルに近い雰囲気に仕上がっていると思います。
「Monster」
N.Y.とブラジルのミクスチャー感覚抜群のロック・チューン。エッジの効いている感じがいいですね。
「Villain」
Arto Lindsay/Peter ScherertoとCaetano Velosoの共作。以前にCaetano Velosoの記事でも紹介したように80年代後半よりArto LindsayとCaetano Velosoは親密に交流しています。
気だるい哀愁感がいいですね。この曲を聴いているとRadiohead『OK Computer』が聴きたくなるのは何故だろう?
「Half Out of It」
Hip-Hopテイストのミクスチャー・ロック。 まさにカオス状態といった混沌感がいいですね。
「Slippery」
『Greed』収録の人気曲「Love Overlap」と同タイプのスタイリッシュでアヴァンギャルドなダンス・チューン。「Love Overlap」大好きの僕は勿論この曲もお気に入りです。カッチョ良いカッティング・ギターを聴かせてくれるのはNile Rodgersです。
「Make It Easy」
僕の一番のお気に入り曲はコレ。Nile RodgersとAmbitious Loversがお互いの個性を存分に発揮してシナジー効果を生むと、こんなファンク・チューンが出来上がるといった仕上がりです。Nile Rodgersサウンドの中にしっかりArto Lindsayらしいブラジリアン・テイストが融合しています。
「More Light」
品位あるエレガントな仕上がりがいいですね。現代音楽を学んでいたPeter Schererらしいセンスに溢れています。
「E Preciso Perdoar」
Carlos Coqueijo & Alcivando Luz作品。ブラジル音楽ファンの方は、Joao Gilbertoの代表作『Joao Gilberto(三月の水)』収録曲としてお馴染みですね。Peter SchererのピアノとArto Lindsayのヴォーカルのみのシンプルさがサイコーです。
本作と同じ1991年にリリースされたArto LindsayプロデュースによるMPBの歌姫Marisa Monteの2ndアルバム『Mais』(1991年)とセットで聴くと、さらに楽しめると思います。本作と同様Melvin Gibbs(b)、Marc Ribot(g)らがレコーディングに参加しています。詳しくは『Mais』の過去記事をどうぞ!