発表年:1966年
ez的ジャンル:メロディアス系ソフト・ロック/ビート・ロック
気分は... :奇妙な奴ら???
今日はソフト・ロック・ファンに人気のThe Crittersのデビュー・アルバム『Younger Girl』です。
The Crittersはニュージャージー出身のグループ。当初はThe Vibratonesとして、Jim Ryan(vo、g)、Chris Darway(org)、Kenny Corka(b)、Jack Decker(ds)、Paul Iovino(g)の5人で活動していました。その後Paul Iovinoが抜け、新メンバーBob Podstawski(sax)、Don Ciccone(vo、g)が加わったことを契機に、グループ名をThe Crittersと改名します。
その後数曲のレコーディング経験(リリースは後年)を経て、1965年にKama-Sutraプロダクションとの契約に成功し、シングル「Children and Flowers」 でデビューします。その後1966年に2ndシングル「Younger Girl」、3rdシングル「Mr. Dieingly Sad」が全米チャート・インし、注目されるようになります。そして、1966年8月には今日紹介するデビュー・アルバム『Younger Girl』を発表します。
順調に階段を上がっているように見えたグループですが、実際にはグループ存続の危機を迎えていました。何とメンバー6人のうち、Bob、Don、Jackの3人が相次いで徴兵で軍隊に召集されてしまう事態に陥ったのです。『Younger Girl』のジャケにメンバー5人の写真しかないのも、そういった事情と関係しているのかもしれません。
特にJim Ryanと共にソングライティング面で大きく貢献していたDon Cicconeが居なくなった穴は相当痛かったようです。その後、外部ライターを迎え、何枚かのシングルをリリースしますが大きな成功を収めることなく、シングル「Little Girl」のリリースを最後にレコード会社との契約を終了します。
その後レコード会社を移籍し、新メンバーを迎えてアルバムを2枚リリースしていますが、実質的にはシングル「Little Girl」までがCrittersの歴史と考えて良いのでは?
Jim RyanとDon Cicconeという優れたソングライター二人がいたことが魅力のグループであり、その意味で二人が揃ってレコーディングに参加した本作『Younger Girl』こそがCritters本来の姿だと思います。
「Mr. Dieingly Sad」というドリーミーな名曲が収録されているため、どうしてもソフト・ロック名盤という印象が強い本作ですが、ソフト・ロック調の曲以外にもフォーク・ロックあり、ビート・ロックありとバラエティに富んだ内容になっています。
ソフト・ロック好き以外にも、Lovin' Spoonful好き、Beatles好き等多くの人が楽しめる、間口の広い1枚だと思います。
全曲紹介しときやす。
「Younger Girl」
2ndシングルになったのはLovin' Spoonfulのカヴァー(John Sebastian作品)。Lovin' Spoonfulのオリジナルは当ブログでも紹介した『Do You Believe In Magic』に収録されています。デビュー・シングル「Children and Flowers」同様、オリジナル曲で勝負したかったメンバーの意思に反して、プロデューサーArtie Rippがシングル用に本曲のレコーディングを強行しました。そのため、Jim、Jack、Bob、Chrisの4名はレコーディングに参加せず、残ったDon、Kennyにセッション・ミュージシャンを加え、レコーディングが行われた模様です。
個人的にはLovin' Spoonfulのオリジナル自体が好きなので、裏事情があるにせよCrittersヴァージョンも好きです。オリジナルと比較すると、よりソフト&メロウに仕上がっているのがらしいですね。また、同時期にHondellsも本曲をカヴァーしていました。Hondellsヴァージョンはかなりのんびりモードです(笑)
http://www.youtube.com/watch?v=gEFnsdHN5-s
Lovin' Spoonful「Younger Girl」
http://www.youtube.com/watch?v=b53EbA1NBRk
Hondells「Younger Girl」
http://www.youtube.com/watch?v=Cig8NNumrQ4
「It Just Won't Be That Way」
Jim Ryanによるオリジナル。小気味良いビート・ロックに仕上がっています。こうした曲を聴くと、Crittersを"ソフト・ロック・グループ"として括ってしまうのは一面的なように思えてきます。
「Gone for Awhile」
Jim Ryan/Don Cicconeによる絶品オリジナル。Beatlesのメロディに惹かれる人であれば絶対に気に入るはず!彼らのメロディ・メイカーとしての才能を存分に堪能できる1曲です。この曲を聴けば、外部ライター作品など不要に思えるのですが...
http://www.youtube.com/watch?v=8h-MTSJibWc
「Children and Flowers」
Crittersの記念すべきデビュー・シングル。The Searchersがヒットさせた「When You Walk In The Room」等で知られる女性シンガー/ソングライターJackie DeShannonの作品です。前述のようにプロデューサーArtie Rippの意向で、この曲がデビュー・シングルに決まったようです。ポップな仕上がりですが少し型にハマりすぎの印象も受けます。
「Everything but Time」
Don Ciccone作による躍動するビート・ロック。この曲もBeatles好きの人は気に入るはず!
「Come Back on a Rainy Day」
Jim Ryan作によるソフト&メロウ・チューン。実にスマートで小粋な仕上がりです。彼らのセンスの良さが光る1曲だと思います。
「Mr. Dieingly Sad」
アルバムのハイライトはこの曲でしょう。3rdシングルにして、ようやくオリジナル曲(Don Ciccone作)で勝負することができました。彼らのソフト&メロウな魅力が最良のかたちで音になっていると思います。素敵なメロディと抜群のヴォーカル&コーラスにウットリです。これぞソフト・ロック・ファンが待ち望んでいた1曲なのでは?
http://www.youtube.com/watch?v=A7sQ-ply8Ho
「I Wear a Silly Grin」
哀愁メロディがグッとくるJim Ryan作。オルガンが哀愁モードを高めてくれます。
http://www.youtube.com/watch?v=mhKdqiINSio
「Best Love You'll Ever Have」
Chris Darway作品。Jim RyanやDon Cicconeのソフト&メロウな楽曲とは異なるので、アルバムのいいアクセントになっています。ある意味、1966年という時代を最も反映している曲かも?
「Forever or No More」
「He'll Make You Cry」
Jim Ryan作の哀愁フォーク・ロック作品が2曲続きます。こうした哀愁モードにJim Ryanの持ち味があるのかもしれませんね。特に「He'll Make You Cry」がいい出来だと思います。
http://www.youtube.com/watch?v=72jp7iS6sbM
「Blow My Mind」
アルバム中では異質なリラックス・モードの仕上がり(Chris Darway作)。ストレス発散といった感じでしょうか(笑)
オリジナルLPはここまでですが、CDにはアルバム未収録のシングル等8曲がボーナス・トラックとして追加されています。これがなかなかの充実ぶりで、購入者には嬉しい限りです。個人的には「Bad Misunderstanding」、「Marryin' Kind of Love」、「Don't Let The Rain Fall Down On Me」というシングル3曲と、Martha Reeves & The Vandellasの大ヒット曲「Dancing in the Street」のカヴァーがお気に入りです。あまり紹介されることはありませんが、「Dancing in the Street」のカヴァーは相当カッチョ良いですよ。
「Bad Misunderstanding」
http://www.youtube.com/watch?v=qBidnYqW_bQ
「Marryin' Kind of Love」
http://www.youtube.com/watch?v=1cwElZmrVsE
「Don't Let The Rain Fall Down On Me」
http://www.youtube.com/watch?v=reZzptq9IlM
Crittersを支えたJim RyanとDon Cicconeのその後ですが、JimはCarly Simonのサポート・ギタリストとして活躍しました。大ヒット曲「You're So Vain」(1972年)でもJimのギターを聴くことができます。一方のDon CicconeはFour Seasonsのベーシストとして迎えられ、大ヒット曲「December 1963 (Oh, What a Night)」(1975年)では Frankie Valliらと共にリード・ヴォーカルをとっています。さらに1990年代にはソロ・アルバムもリリースしています。