発表年:1999年
ez的ジャンル:ミステリアス系女性ヴォーカル
気分は... :秋になるとこの低音ヴォーカルが聴きたくなる!
ジャズ界最高の女性シンガーの一人Cassandra Wilsonの3回目の登場です。
『New Moon Daughter』(1995年)、『Blue Light 'Til Dawn』(1993年)に続いて紹介するのは、『Traveling Miles』(1999年)です。
秋になると、Cassandra Wilsonが聴きたくなります。
僕にとっては秋刀魚のようなアーティストなのかもしれません(って彼女に失礼ですが)。
いつも書いていますが、ジャズ・ヴォーカリストという狭い枠組みで捉えて欲しくないアーティストですね。ジャズ、ソウル、ブルース、カントリーといったジャンルの枠を超越した彼女の地を這うような低音ヴォーカルは唯一無二のものだと思います。
本作『Traveling Miles』は、タイトルの通りジャズ界の帝王、故Miles Davisに捧げられたアルバムです。Milesが演奏した名曲の数々にCassandraが詞をつけて歌う曲が数多く含まれ、単なるトリビュート・アルバムに終わらない、独自の歌世界を構築している点が素晴らしいと思います。
その意味ではCassandraの歌世界にMilesの音世界を上手く採りこんだアルバムと言えるかもしれませんね。彼女のディープ&ミステリアスな歌声は、クールなMilesワールドと実にマッチしていると思います。
レコーディング・メンバーはCassandra Wilson(vo、g)以下、Doug Wamble (g)、Marvin Sewell(g)、Kevin Breit(g、md)、Pat Metheny(g)、Eric Lewis(p)、Lonnie Plaxico(b)、Dave Holland(b)、Perry Wilson(ds)、Marcus Baylor(ds、per)、Jeffrey Haynes(per)、Mino Cinelu(per)、Olu Dara(cor)、Steve Coleman(as)、Vincent Henry(hca)、Regina Carter(vln)、Stefon Harris(vibe)、Angelique Kidjo(vo)といった布陣です。
Milesのオリジナルを知らない人でも十分に楽しめるし、オリジナルを知っている人は2倍楽しめます。
全曲紹介しときやす。
「Run the Voodoo Down」
オープニングはアルバム『Bitches Brew』収録の「Miles Runs the Voodoo Down」にCassandraが詞をつけたもの。
『Bitches Brew』の持つ呪術的ミステリアス感をオリジナルのようなエレクトリック・サウンドではなく、アコースティックな味わい(ギターのみエレクトリックですが)で再現しているのがお見事!そんなサウンドとCassandraの地を這う低音ヴォーカルがバッチリ融合しています。Milesのオリジナルと同じくDave Hollandがベースをプレイしている点が興味深いですね。また、ラッパーNasの父親Olu Daraのコルネットもグッド!このクールなグルーヴ感はR&B/Hip-Hop好きやクラブ・ジャズ好きもグッとくるはず!
Miles Davis「Miles Runs the Voodoo Down (1/2)」
http://www.youtube.com/watch?v=xqWGu5ZaQuQ&feature=fvw
Miles Davis「Miles Runs the Voodoo Down (2/2)」
http://www.youtube.com/watch?v=WLK94YUduAc
「Traveling Miles」
Cassandraのオリジナル。タイトルの通り、Milesへの想いが込められた1曲。Cassandraらしいブルージーな味わいを堪能できます。M-BASEの盟友Steve Colemanがアルト・ソロで盛り上げてくれます。
http://www.youtube.com/watch?v=uN4JAsdRgGc
「Right Here, Right Now」
この曲もオリジナル(Cassandra Wilson/Marvin Sewell作)。カラッとしたアーシー感がグッド!ミシシッピ出身のCassandraには、こういう雰囲気が似合いますね。作曲者でもあるMarvin SewellとDoug Wambleによるアコースティック・ギターがいい感じです。
「Time After Time」
ご存知Cyndi Lauperの1984年の大ヒット曲。何故ここでCyndi Lauper?と思われるかもしれませんが、Milesがアルバム『You're Under Arrest』(1985年)の中で本曲をカヴァーしており、その影響によるセレクトなのでは?Cyndi Lauperのオリジナルとは全く異なるテイストのカヴァーですが、個人的にはオリジナルを超えた絶品カヴァーだと思います。
http://www.youtube.com/watch?v=ySVWeao57m8
Miles Davis「Time After Time」
http://www.youtube.com/watch?v=OddHP8_Em7s
「When The Sun Goes Down」
Cassandraのオリジナル。リラックスした開放感に溢れる仕上がりです。Milesへのオマージュ・アルバムという中では少し埋もれがちですが、なかなかの佳作だと思います。
「Seven Steps」
Milesのアルバム『Seven Steps to Heaven』(1963年)のタイトル曲(Victor Feldman/Miles Davis作)。ジャズ・ヴォーカリストらしいスウィンギーなヴォーカルを聴けます。Regina CarterのバイオリンとStefon Harrisのヴァイヴがいいアクセントになっています。
Miles Davis「Seven Steps to Heaven」
http://www.youtube.com/watch?v=iBteygssDRo
「Someday My Prince Will Come」
邦題「いつか王子様が」。ディズニー映画『白雪姫』(1937年)の主題歌として説明不要の名曲(作詞Larry Morey/作曲Frank Churchill)。また、本作との関連で言えば、当ブログでも以前に紹介したMilesのアルバム『Someday My Prince Will Come』(1961年)の名演も忘れられませんね。
このロマンティックな名曲とCassandraの低音ヴォーカルの相性はどうなのかなぁ?なんて思ったりもしますが、ブルージー&ビターな味わいのCassandraらしい仕上がりになっています。コレはコレでアリかも!
Miles Davis「Someday My Prince Will Come」
http://www.youtube.com/watch?v=fBq87dbKyHQ
「Never Broken」
Wayne Shorter作の「E.S.P.」にCassandraが詞をつけたもの。Milesヴァージョンは作者のWayne Shorterを含む第二期黄金クインテット時代のアルバム『E.S.P.』(1965年)に収録されています。ここではエキゾチック・ムードのアレンジが印象的です。
Miles Davis「E.S.P.」
http://www.youtube.com/watch?v=UfjaMkxItLs
「Resurrection Blues」
アルバム『Tutu』(1986年)のタイトル曲にCassandraが詞をつけたもの(作曲はMarcus Miller)。個人的はオリジナルが大好きなのですが、オリジナルの雰囲気を上手く活かしつつ、気付けば完璧にCassandraワールドになっているのが流石です。
Miles Davis「Tutu」
http://www.youtube.com/watch?v=00tzcnyDL68
「Sky & Sea」
名盤『Kind of Blue』(1959年)収録の「Blue in Green」にCassandraが詞をつけたもの。憂いを帯びたCassandraのヴォーカルにウットリですな。Pat Methenyが参加し、美しいソロを披露してくれます。
Miles Davis「Blue in Green」
http://www.youtube.com/watch?v=PoPL7BExSQU
「Piper」
Cassandraのオリジナル。Cassandra本来の魅力を堪能するにはいい曲かも。ギリシャの伝統楽器ブズーキの音色がアクセントになっています。
「Voodoo Reprise」
オープニング「Run the Voodoo Down」のリプライズ。ここではアフリカ、ベナン出身の女性シンガーAngelique Kidjoが参加し、少し変化をつけています。ここでもDave HollandがベースとOlu Daraのコルネットがグッときます。
ちなみに僕が所有するCDはこちらのジャケのもの。