発表年:1968年
ez的ジャンル:トロピカリアMPB
気分は... :ジャケを眺めているだけで嬉しくなります!
今回は1960年代後半のブラジル音楽シーンに衝撃を与えたトロピカリアの金字塔的アルバム『Tropicalia:Ou Panis Et Circencis』(1968年)です。
トロピカリア(トロピカリズモ)は、1960年代後半のブラジルで起きた音楽を中心としたカウンター・カルチャー運動です。
このムーヴメントの中心にいたのがCaetano VelosoとGilberto Gilの二人であり、トロピカリアの名称は、Caetano Velosoが1968年にリリースしたアルバム『Caetano Veloso』の収録曲「Tropicalia」に由来するものです。その後Nelson Mottaによってトロピカリズモ(Tropicalismo)と呼ばれるようになりますが、Caetano自身はトロピカリズモという呼称には抵抗感があったようですね。
音楽面では、ブラジルの伝統音楽を見直しつつ、ロック、サイケデリック・ロック、ソウルミュージック等の欧米の最新音楽スタイルを取り入れ、MPBが新たに進むべき方向を提示しました。
そんなトロピカリア・ムーヴメントを代表するアルバムが『Tropicalia:Ou Panis Et Circencis』(1968年)です。
本作はThe Beatles『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』に刺激を受けた、Caetano Veloso、Gilberto Gilをはじめ、Tom Ze、Nara Leao、Gal Costa、Os Mutantesという新鋭MPBアーティスト達が集結し、制作されたアルバムです。
ジャケに参加メンバーがズラリと勢揃いしています。
このジャケを眺めているだけで嬉しくなってしまいますね!
詩人Jose Carlos Capinamの写真を片手に最前列で一番目立っているGilberto Gil、二列目でchamber pot(寝室用便器)をまるでコーヒーカップのように手にする作曲家/指揮/アレンジャーのRogerio Duprat、黄色の服でお行儀良く座っているGal Costa、キザにポースをきめる詩人Torquato Neto、二列目と三列目の間でNara Leaoの写真を抱えているCaetano Veloso、三列目にはOs Mutantesの三人(Arnaldo Baptista、Rita Lee、Sergio Dias)とTom Zeという並びです。
肝心のサウンドの方は、正にBahia meets Sgt. Pepper'sって感じですね。
ブラジル音楽にサイケ、ソフト・ロックを取り入れたアヴァンギャルド・サウンドは今聴いてもインパクト十分です。
今の僕にとっては本家The Beatles『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』以上に刺激的ですね。
ブラジル音楽好きのみならず、Beatles好き、60代ロック好き、サイケ好きの方も楽しめる作品だと思います。
全曲紹介しときやす。
「Miserere Nobis」
トップバッターはGilberto Gil。Bahia meets Sgt. Pepper'sという言葉がピッタリのオープニング。ブラジル音楽の新たな方向性を示すアルバムの1曲目に相応しい躍動感と、時代を反映した不思議なポップ感覚が魅力です。
http://www.youtube.com/watch?v=-EkijMCao2g
「Coracao Materno」
本作が発表された1968年に亡くなった偉大なブラジル人歌手Vicente Celestino(1894-1968年)の作品をCaetano Velosoがカヴァーしています。トロピカリアが単に最新の音楽スタイルを取り入れただけではない、ブラジルの伝統音楽にも目を向けたものであることが実感できます。
「Panis et Circencis」
Os Mutantesの登場です。Gilberto Gil/Caetano Veloso作のソフト・サイケ・チューン。Os Mutantesの1stアルバム『Os Mutantes』(1968年)のオープニング曲でもあります。まさにSgt. Pepper's的な仕上がりですね。Rogerio Dupratによるサウンド・コラージュもお見事です。本作のハイライト曲の1つ。
http://www.youtube.com/watch?v=IOHa_jcckFQ
「Lindoneia」
Nara Leaoによるムーディーな1曲(Caetano Veloso作)。エレガントなオーケストレーションとNara Leaoの線の細いヴォーカルがマッチしています。
http://www.youtube.com/watch?v=I7Klh_LrXzs
「Parque Industrial」
Gilberto Gil、Caetano Veloso、Gal Costa、Os MutantesがTom Ze作品を歌います。Tom Zeの風変わりな楽曲をSgt. Pepper's風のアレンジで仕上げた感じです。結局、トロピカリアの中では埋もれた存在になってしまったTom Zeですが、90年代以降に再評価が高まりスポットライトが当ったのは良かったですね。
「Geleia Geral」
バイーアらしい仕上がりのサウンドをバックにGilberto Gilが歌います。Torquato Neto/Gilberto Gil作品。
「Baby」
Gal Costaのキュートなヴォーカルに相当グッときます(Caetano Veloso作品)。実はこの曲が一番好き!という人は案外多いのでは?終盤にCaetano VelosoがPaul Anka「Diana」のフレーズを重ねているところも好きです。 Galのソロ1st『Gal Costa』(1969年)にも収録されています。
http://www.youtube.com/watch?v=RTUnRlW_rVE
Os Mutantesも1stアルバム『Os Mutantes』(1968年)で本曲を演奏しています。こちらはかなりサイケ・モードの仕上がりです。
Os Mutantes「Baby」
http://www.youtube.com/watch?v=yLq-ixiy3WE
「Tres Caravelas(Las Tres Carabelas)」
Caetano Veloso & Gilberto Gil作。ヴォーカルも二人です。ムーディーなラテン歌謡が展開されます。Sgt. Pepper's的アルバムと言いつつ、こういった曲が入っているのが面白いですね。
「Enquanto Seu Lobo Nao Vem」
Caetano Veloso作&歌。歌自体はシンプルなのですが、ど派手なファンファーレをはじめバックがやかましいです(笑)
http://www.youtube.com/watch?v=DcKj0IOMWw0
「Mamae Coragem」
Torquato Neto/Caetano Veloso作によるミステリアスな楽曲をGal Costaが歌います。YouTube動画の方はかなりリズミカルですが、オリジナルはもっとテンポが遅く、ミステリアスな霧がかかっている雰囲気です。
http://www.youtube.com/watch?v=WIQ7JBKSsu8
「Bat Macumba」
Caetano Veloso & Gilberto Gil作。Gilberto Gilが歌う本曲は、クラブ世代には人気のバイーア・グルーヴですね。Gilberto Gilらしいリズミックな仕上がりが格好良いですね。シタール風のギターにもグッときます。
http://www.youtube.com/watch?v=4k3HA5TSU2A
Os Mutantesも1stアルバム『Os Mutantes』(1968年)で本曲を演奏しています。
Os Mutantes 「Bat Macumba」
http://www.youtube.com/watch?v=eb4NArQ7cvk
「Hino Do Senhor Do Bonfim da Bahia」
ラストは実にSgt. Pepper's的なフィナーレです。Gilberto Gil、Caetano Veloso、Gal Costa、Os Mutantesによる合唱で締めくくります。
本作が気に入った方は下記の関連2作品もどうぞ!
Caetano Veloso『Caetano Veloso』
Os Mutantes『Os Mutantes 』
当時のブラジル軍事政権から反体制分子と見なされていたCaetano VelosoとGilberto Gilは1968年末に逮捕され、1969年に二人はロンドンへ亡命します。それ共にトロピカリアの盛り上がりにも終止符が打たれました。
さて、今夜はW杯の組み合わせ抽選会ですね。
またブラジルと同じ組になりそうな予感が……
W杯抽選終わりましたね。
日本はまずまずの組だったのでは?
もし、北朝鮮の代わりにブラジルのいるグループGに入っていたら、3戦全敗確定でしたね(笑)