発表年:2002年
ez的ジャンル:近未来系オルタナ/フォークトロニカ
気分は... :『火の鳥』が読みたくなる...
今回はThe Flaming Lips『Yoshimi Battles The Pink Robots』(2002年)です。
The Flaming Lipsの紹介は『The Soft Bulletin』(1999年)に続き2回目になります。
僕の場合、1983年結成という長いキャリアを誇るThe Flaming Lipsというロック・バンドに関して、『The Soft Bulletin』と本作『Yoshimi Battles The Pink Robots』以外の作品は殆ど把握できていません。それでもこの2枚は非常に気に入っており、ロック離れが進行する僕でも定期的に聴きたくなります。
今日紹介する『Yoshimi Battles The Pink Robots』(2002年)はグループの10thアルバムです。
まずは"Yoshimi"という日本人の名前を冠したタイトルが気になりますよね。
この"Yoshimi"とはバンドと交流のある日本人ミュージシャンYoshimi P-Weこと横田佳美氏の名前から取ったものです。彼女はボアダムスやOOIOOの活動で知られていますね。
本作では"Yoshimi"はジャケに写る邪悪なロボットと対決する空手の黒帯を持つ女の子という設定になっています。
また本作のジャケには日本語で「ザ・フレーミング・リップスは、あなたが人生と、このレコードをエンジョイしてくれることを願っています。」と書かれています。さらにインナーにも「君の知っている人は皆、いつか死ぬ。」「君は一番美しい顔をしている。」といったフレーズが日本語で書かれています。特にインナーの言葉は引っ掛かりますよね。
そんな日本語のフレーズやジャケに象徴されるように、僕が本作に惹かれるのは作品全体に貫かれた近未来感と死生観です。
ロボット等が登場する近未来の設定や、そこで描かれる生と死というテーマは、僕に大きな影響を与えた漫画である手塚治虫『火の鳥』の世界が重なってきます。
人は誰しも自分の人生が永遠でありたいと願う。しかしそれは叶わぬ夢であり、限りある人生を運命に従い生き、人生で最も大切なものを守り抜こうとする...『火の鳥』が示してくれたメッセージは、今でも心の中に深く刻まれています。そんな『火の鳥』に通じる世界観を本作からも感じ取ることができます。
サウンド的にはフォーキー・サウンドと近未来的なエレクトロニカ・サウンドが融合した"フォークトロニカ"サウンドが本作の特徴ですね。電子的な中にもヒューマンな温もりを感じます。
『火の鳥』(特に未来編、宇宙編、復活編、望郷編、生命編あたり)を読みながら、聴くと余計にグッとくる作品だと思います。
全曲紹介しときやす。
「Fight Test」
本作を貫く近未来的ムードを印象づけるオープニング。そんな雰囲気の中でも彼ららしい胸に響くメロディを堪能できます。極限まで闘わなかったシンガーの後悔というテーマは、自分たちの立ち位置を再確認しているかのようですね。
http://www.youtube.com/watch?v=7EbrMAZbFpo
「One More Robot/Sympathy 3000-21」
ダンサブルなエレクトロニカ・サウンドは、何の予備知識もなく聴くとFlaming Lipsとはわからないかもしれませんね。
http://www.youtube.com/watch?v=NHK9C5cy74c
「Yoshimi Battles the Pink Robots Pt.1」
前述のように、タイトル曲では邪悪なロボットから街を守るために闘う空手の黒帯を持つ女の子ヨシミが登場します。死ぬまで闘うようプログラミングされているロボットがヨシミに恋をしてしまい、彼女に危害を加えるよりも自殺をする事を決意し...ヨシミは闘いに勝利したものの、自分が何故勝てたのかに疑問を抱き....といった内容です。『火の鳥』で言えば、ロビタを思い出してしまう内容です。このストーリーのアニメを観たいですよね。
美しくも悲しい、懐かしくも新しいサウンドも歌詞とジャスト・フィットしています。Yoshimi P-Weの声も聴くことができます。
http://www.youtube.com/watch?v=AzlMeTxVdH8
「Yoshimi Battles the Pink Robots Pt.2」
Pt.2はポストロック/エクスペリメンタル的なインスト。詳細はわかりませんが、ここでのハードなドラムはYoshimi P-Weなのでしょうか?
http://www.youtube.com/watch?v=ViB5nnPRuYo
「In The Morning of the Magicians」
「Yoshimi Battles the Pink Robots Pt.1」に通じるフォークトロニカな仕上がり。とても美しいのに、とても切ない思いが胸の中を支配します。このビミョーな感情に揺さぶられるのが本作の魅力かもしれませんね。
http://www.youtube.com/watch?v=0jTuKHKIT4w
「Ego Tripping at the Gates of Hell」
この曲も切なさで胸が締め付けられます。Wayne Coyneの悲しげな歌声と美しいメロディを聴いていると、涙腺がゆるんできてしまいます。
http://www.youtube.com/watch?v=6tkHIMqN-YM
「Are You A Hypnotist??」
現実と夢の世界を行き来しているかのようなトリップ感が魅力です。
http://www.youtube.com/watch?v=BYKdIukYKc8
「It's Summertime(ThrobbingOrange Pallbearers)」
この曲も日本人女性について歌ったもの。友人の日本人女性が病気で亡くなったことを彼女の姉妹からの電子メールで知り、姉妹を励ますために書かれた曲。この訃報は今回のアルバム制作の契機になった模様です。牧歌的なフォークトロニカ・サウンドと切ない歌詞にグッときます。
http://www.youtube.com/watch?v=kGptuuFNIts
「Do You Realize??」
アルバムからの先行シングル。インナーに日本語で「君の知っている人は皆、いつか死ぬ。」と書かれていますが、まさにその事を歌った曲。Flaming Lipsらしいメロディと人生へのメッセージに胸が熱くなります。聴き終えた時の感動は『火の鳥』を読み終えた時のそれを同じですね。
http://www.youtube.com/watch?v=uzR7u4rwFSY
「All We Have Is Now」
「Do You Realize??」に続いて聴くと感動が増幅します。僕の頭の中では火の鳥が飛び立って行く姿がイメージされます。限りある人生だからこそ今を精一杯生きないとね!
http://www.youtube.com/watch?v=Aacl6KCaCmE
「Approaching Pavonis Mons By Balloon (Utopia Planitia) 」
この曲は2003年のグラミーでBest Rock Instrumental Performanceを受賞した楽曲です。ユートピア・ムードですが何処か力強いものを感じます。
http://www.youtube.com/watch?v=6bW1aMDeuqY
国内盤のボーナス・トラックには「Yoshimi Battles the Pink Robots Pt.1」の日本語(関西弁)ヴァージョンが収録されています。僕が所有するのは輸入盤ですが、国内盤をゲットしておけば良かった!と後悔しています。
未聴の方は名盤の誉れ高い9thアルバム『The Soft Bulletin』(1999年)もチェックしてみてください。
『The Soft Bulletin』
「Race For The Prize」
http://www.youtube.com/watch?v=4mMC5CWTT0s