発表年:2010年
ez的ジャンル:アメリカン・フレンチ・ジャズ・ヴォーカル
気分は... :アルバムが俺を呼んでいる !
今日はアメリカ出身ながら、イギリスを拠点に活躍する女性ジャズ・ヴォーカリストStacey Kentの新作『Raconte Moi』です。本作は彼女にとって初の全曲フランス語アルバムです。
Stacey Kentは1968年ニュージャージー州サウスオレンジ生まれ。90年代初めのイギリスへ渡り、そこで公私のパートナーとなるサックス奏者Jim Tomlinsonと出会い、結婚します。それ以降イギリスを拠点に音楽活動を続け、1997年にデビュー・アルバム『Close Your Eyes』をリリースします。
その後はコンスタントにアルバムをリリースし、前作『Breakfast On The Morning Tram』(2007年)ではグラミー賞にもノミネートされています。
一昨日、Anita O'Dayを取り上げたように、最近50年代〜60年代の女性ジャズ・ヴォーカルがマイ・ブームになっています。昨日もCDショップのジャズ・ヴォーカル・コーナーでBeverly Kenney、Blossom Dearie、Annie Ross等の作品を物色し、Annie Rossのアルバムをゲットしてきました。
そんな50年代〜60年代女性ジャズ・ヴォーカル・モードの僕の気分とリンクした新作ジャズ・ヴォーカル作品が本作『Raconte Moi』です。
CDショップで本作のオープニングを飾る「Les Eaux De Mars」を聴いて、"このアルバムは絶対買い!"と確信しました。「Les Eaux De Mars」はAntonio Carlos Jobimの名曲「Aguas de Marco(邦題:三月の水)」のフランス語カヴァーです。
アルバム全体としては、オーソドックスな中にもセンスの良さを感じる女性ジャズ・ヴォーカル・アルバムに仕上がっています。購入後に気付いたのですが、前述のBlossom Dearieのレパートリーも2曲含まれており、アルバムが僕を呼んでいたかのような気分になります。かなりこじ付けですが・・・(笑)
プロデュース&アレンジは旦那様のJim Tomlinsonが担当しており、レコーディングにはGraham Harvey(p、el-p)、John Parricelli(g)、Jeremy Brown(b)、Matt Skelton(ds、per)、Jim Tomlinson(sax、cla)といったメンバーが参加しています。
前作『Breakfast On The Morning Tram』でも3曲ほどフランス語ヴォーカルに披露していたStaceyでしたが、『Breakfast On The Morning Tram』の成功が初の全曲フランス語アルバムへの挑戦へ向かわせたのかもしれませんね。
Stacey Kentの他のアルバムをしっかり聴いているわけではありませんが、全曲フランス語アルバムの試みは大成功しているように感じます。彼女の声質がフランス語の語感と実にマッチしているし、それを引き立てるJim Tomlinsonのアレンジも冴え渡っています。
小粋な女性ジャズ・ヴォーカル作品をお探しの方にオススメです!
全曲紹介しときやす。
「Les Eaux De Mars」
前述のように僕に本作購入を決意させたオープニング。僕の中ではElis ReginaとAntonio Carlos Jobimの共演盤『Elis & Tom』のヴァージョンやJoao Gilbertoのヴァージョン(アルバム『Joao Gilberto(邦題:三月の水)』収録)の印象が強いのですが、ここではフランス語カヴァーらしく、少し気取った小粋でキュートな「三月の水」を聴かせてくれます。
http://www.youtube.com/watch?v=VrvjsjNEocU
「Jardin D'hiver」
Keren Ann & Benjamin Biolay作の名曲のカヴァー。Keren Annのオリジナルは彼女のデビュー・アルバム『La Biographie de Luka Philipsen』(2000年)に収録されています。ボサノヴァの誕生に貢献した偉大なフランス人ミュージシャンHenri Salvador が見事に復活を遂げたアルバム『Chambre avec Vue』のオープニングを飾った楽曲としても有名ですね。
2005年にリリースされたJim Tomlinson Feat. Stacey Kent名義でリリースしたアルバム『The Lyric』で本曲をカヴァーしており、今回は再演となります。全体的な雰囲気は前回のカヴァーと同じですが、アレンジが今回の方が小粋に仕上がっていると思います。またStaceyはライブで作者のKeren Annと本曲をデュエットしたこともあり、彼女にとっても特別な曲なのでしょうね。
Jim Tomlinson Feat. Stacey Kent「Jardin D'hiver」(From 『The Lyric』)
http://www.youtube.com/watch?v=9K9vT6wvfSc
Keren AnnのオリジナルやHenry Salvadorのヴァージョンも素晴らしいのでぜひ聴いて下さい。
Henri Salvador「Jardin D'hiver」
http://www.youtube.com/watch?v=lNtT6iVUy7E
Keren Ann「Jardin D'hiver」
http://www.youtube.com/watch?v=im9fspvvkf4
「Raconte-moi」
タイトル曲はBernie Beaupere/Emilie Satt/Jean-Karl Lucas作の新曲。哀愁モードながらも透明感あふれる素敵なアコースティック・チューンに仕上がっています。
「L'etang」
Paul Misraki作品。Blossom Dearieもカヴァーしていた楽曲です。50年代〜60年代の女性ジャズ・ヴォーカルの雰囲気を2010年ならではの感性で聴かせてくれます。Jim Tomlinsonのサックス・ソロも素敵ですよ!
「La Venus Du Melo」
Bernie Beaupere/Emilie Satt/Jean-Karl Lucas作の新曲。ジャジーなSSW作品といった味わいの仕上がり。John Parricelliの気の利いたアコギにグッときます。
http://www.youtube.com/watch?v=cECqQWw6Xmw
「Au Coin Du Monde」
「Jardin D'hiver」に続くKeren Annのカヴァー(Keren Ann & Benjamin Bioley作)。オリジナルはKeren Annの2nd『La Disparition』(2002年)に収録されています。アコギ主体のフォーキーなオリジナルに対して、Staceyヴァージョンはピアノを中心とした美しいジャジー・チューンに仕上がっています。Keren Annのオリジナルとセットでおさえておきたいですね。
http://www.youtube.com/watch?v=L8sreOgDWNo
Keren Ann「Au Coin Du Monde」
http://www.youtube.com/watch?v=HPOXUJ8bHUA
「C'est Le Printemps」
英題「It Might As Well Be Spring」(Oscar Hammerstein II作詞、Richard Rodgers作曲)。映画『State Fair』のために1945年に書かれ、アカデミー賞のBest Original Songを受賞した名曲です。Nina SimoneやBlossom Dearieもカヴァーしています。John Parricelliのギターをバックに優しくピュアに聴かせる前半と、ボッサ・アレンジで軽快に歌う後半のコントラストがいいですね。
http://www.youtube.com/watch?v=KlP70cu1qqg
「Sait-on Jamais ?」
Camille D’Avril/Jim Tomlinson作の新曲。さり気なくロマンチックなアレンジに胸トキメキます!
「Les Vacances Au Bord De La Mer」
Michel Jonasz作の名曲カヴァー。オールド・ファンはハイファイセット「海辺の避暑地」の原曲としてご存知の方もいるのでは?Staceyがハイファイセットを知っているとは思えませんが、70年代ニューミュージック好きの人はグッとくる仕上がりなのでは?
「Mi Amor」
Claire Denamur作。ラテン・モードの仕上がりでアルバムにアクセントをつけています。
http://www.youtube.com/watch?v=FiSdUbeXdLc
「Le Mal De Vivre」
Barbara作。Graham Harveyのみをバックに、哀愁ヴォーカルで切々と歌い上げます。
「Desuets」
Pierre Dominique Burgaud/Andre Manoukian作。ラストはシンプルながらも小粋なアレンジが光ります。
http://www.youtube.com/watch?v=nDXMF9OJ-cA
間もなくStacey Kent & Jim Tomlinson名義でCandid時代の音源集『Fine Romance』も発売されるようです。
Stacey Kent & Jim Tomlinson『Fine Romance』(2010年)
他のStacey Kent作品もチェックしたいですね。
『Close Your Eyes』(1997年)
『Love Is...The Tender Trap』(1998年)
『Let Yourself Go: Celebrating Fred Astaire』(2000年)
『Dreamsville』(2000年)
『In Love Again: The Music of Richard Rodgers 』(2002年)
『The Boy Next Door』(2003年)
Jim Tomlinson Feat. Stacey Kent『The Lyric』(2005年)
『Breakfast On The Morning Tram』(2007年)
また、本作購入の副産物として、フランス人女性シンガーソングライターKeren Annの存在を知ることができたのもラッキーでした。Staceyと共にさらに掘り下げたい女性アーティストです。
Keren Ann『La Biographie de Luka Philipsen』(2000年)
Keren Ann『La Disparition』(2002年)
さらに、Henri Salvador の復活アルバム『Chambre Avec Vue』もぜひ聴いてみたい作品です。
Henri Salvador『Chambre Avec Vue』(2000年)