発表年:1973年
ez的ジャンル:内なる狂気系プログレ・ロック
気分は... :自分の中のもう一人の自分...
本ブログでプログレ・アルバムを紹介するのはKing Crimson『In The Court Of The Crimson King』に続き2回目ですね。その時の記事にも書いたけど、高校生の頃まではかなりプログレ・ロックを聴いていまシタ。
僕がプログレにハマるきっかけとなったのがPink Floyd『The Dark Side Of The Moon』(1973年)っす。今まで数多くのアーティストの数多くのアルバムを聴いてきたけど、これほど衝撃を受けたアルバムは他に存在しない。
それはBeatlesやStevie Wonderを初めて聴いた時のような感動的な衝撃ではなく、聴き終わった後、その美しく、狂った音楽に寒気に襲われ、背筋がゾクゾクしてきたといった衝撃だった。初めてレコードを聴いた日は、ホント怖くなって寝れなかった記憶がありマス。
Pink Floydは、Syd Barrett、Roger Waters、Nick Mason、Rick Wrightの4人で結成され、1967年にシングル「Arnord Layne」でデビューした頃には、ロンドン・アンダーグラウンド・シーンでは名の知れた存在となっていた。そして、サイケ・ロックの名作としても名高いデビューアルバム『Piper At The Gates Of Dawn』(1967年)のヒットでその人気を着実なものとした。
しかし、その直後にバンドのフロントマンだったSyd Barrettが精神に異常をきたし、そのフォローとしてDavid Gilmourが加入し、Sydはバンドからの脱退を余儀なくされた。その後1979年発表の大ヒット・アルバム『The Wall』まで、この4人で活動することとなる。
『The Dark Side Of The Moon』はPink Floydの8thアルバム。僕がこのアルバムを購入した理由は、全米のアルバムチャートに約8年間もの間チャートインを続けるモンスターアルバムへの興味からだった(最終的には15年間もの間チャートインしていた)。
『狂気』という邦題に興味を覚えたね(5thアルバム『Atom Heart Mother』の邦題『原子心母』もインパクトあったけど)。
“Dark Side Of The Moon”を直訳すれば“月の裏側”だが、“こちらから見えない、あちら側のもう一つの世界”を意味しているのだと思う。この場合の“あちら側”とは、人間の正気を越えた狂気の世界である。そして、あちら側の世界へと足を踏み込んでしまったのが、かつてのリーダーSyd Barrett...
きっと僕がこのアルバムに覚えた衝撃は、聴いているうちに脳波に異常をきたし、あちら側の世界へ踏み込んでしまいそうな危うさを感じたからだと思う。しかも、このアルバムには一種の中毒性があり、高校のある時期に家帰ると毎日このアルバムを聴いていたら、さすがに親が心配した(笑)パンクやハードロックを大音量で聴いていても何も言われなかったが、このアルバムだけは親もヤバさをカンジたんだろうね!
皆さんも、あまりのめり込まず、ほどほどに聴いてください(笑)
全曲紹介しときヤス。
「Speak To Me/Breathe In The Air」
「Speak To Me」は、心臓の鼓動、レジシターの音、笑い声いった効果音による狂気の世界へのプロローグだ。そして、静かに、ゆったりと、「Breathe In The Air」へと続く。この美しくブルージーなナンバーを聴いていると、じんわりと狂気が自分の心を侵食していく不気味さを覚える。
「On The Run」
まさに70年代のトランスってカンジのインスト。こんな曲聴いてりゃ、親が心配するわけだよねぇ。まさにこの曲で脳波がイカれて、トリップ状態になりそうだよね。そして、エンディングの爆発音で完璧にイッちゃいそうになる。
「Time」
アルバムのハイライト曲の1つ。イントロの時計の戦慄にドキッとし、その後のスリリングだけどやたら長いイントロにじらされ、へヴィーなサウンドと歌詞に頭を悩ませ、David Gilmourの泣きまくりのギターソロに陶酔し、美しいコーラスに心が虚しくなる。まさにプログレッシブ(先進的)な音楽であることを実感できるナンバー。
「The Great Gig In The Sky」
「Time」からシームレスに続く、Clare Torryのスキャットをフューチャーしたナンバー。「虚空のスキャット」という邦題のように、「Time」からの流れで虚無感一杯の状態のところへ、あまりも美しい女声スキャットが響きわたる。初めて聴いた時に、最もヤバいと思ったのがこの曲だった。自分の心の中にも、自身も知らない狂った自分がいるように思えたねぇ。ここまでがLPで言うA面デス。
「Money」
シングルにもなったヒット曲。でも逆に、キャッチーなこの曲だけ、アルバムの中で違和感を感じる。このアルバムにフツーの曲は必要ないんじゃないかなぁ?でも、この曲があるおかげで狂気の世界から正気な世界へ戻ってこれるカンジかもね。今聴くと、結構プログレ・ジャズロックっぽいかもね。
「Us And Them」
ここからはまたあちら側の世界の入口へ。歌詞は戦争の虚しさを歌ったものですが、個人的にはとってもスピリチャルなナンバーだとカンジます。Rick WrightのピアノとDick Parryのサックスが美しすぎますね。
「Any Colour You Like」
「Us And Them」と次の「Brain Damage」のブリッジとなるインスト。つなぎの曲だけど侮れませんよ。
「Brain Damage」
アルバムの全体のテーマを提示する重要なナンバー。狂気は決して他人事ではないのかもしれない。
♪狂人は今僕の頭の中に...
♪僕の頭の中に誰かがいる、僕以外の誰かが...
♪お前は狂気の世界に自分を見いだすのだ。
今日のようなストレス社会においては、この歌詞が一層ズシリと重くのしかかるよね。
「Eclipse」
「狂気日食」と題されたこの歌は以下の歌詞でこの狂気のアルバムを締めくくる。
♪あの太陽の下、すべては調和を保っている
♪だが、その太陽は徐々に月に侵食されていく
Sydはあちらの世界で何を見たのだろうか?
ジャケ好きの僕としてはアート集団Hipgnosisによるジャケットもお気に入りっす。2ndアルバム『More』からPink Floydのジャケットを手掛けているが、どれもアートとして堪能できる名作ばかりっす。
本当は彼らのジャケ・デザインの凄さって、フロント、インナー、バックが一体となって、1つのアートになっているので、LPで観賞して欲しいんだけどねぇ。
正直、Pink Floydの音楽自体はRoger、Nick、Rick、Davidの4人が集まった最後のアルバム『The Wall』(1979年)で終焉を向かえたと思っている。なので、『The Final Cut』(1983年)以降の作品はまともに聴いたことがないし、聴きたいとも思わない。それでも、Hipgnosisが手掛けるジャケットだけは目を奪われるものばかりっす。
本作以外では、4th『Ummagumma』(1969年)、6th『Meddle』(1971年)、9th『Wish You Were Here』(1975年)あたりが僕のオススメっす。
ありがとうございます。
たまたま昨晩WOWOW『Rock The Classic』(Rockの名盤の紹介番組)で
『Dark Side of the Moon』の回を放送していました。
その中で、メンバー自身がこの作品で1つのゴールに到達したと語っていました。
その後のFloydはこの作品の呪縛から逃れられなかったカンジですからね。
Floydのリスナーは、『Dark Side of the Moon』を分岐点に、
それ以前の商業的成功とは縁遠い作品群が好きな人と、
それ以降の大作アルバムが好きな人に分かれるのかもしれませんね。
それにしても『原子心母』という邦題は、洋楽史に残る名タイトルですよね。
このタイトルを目にして、気にならない人はいませんもんね(笑)