発表年:2011年
ez的ジャンル:印象派MPB+アルゼンチン・ネオ・フォルクローレ
気分は... :渓谷の音楽・・・
サッカーのコパ・アメリカでは地元アルゼンチンが2試合連続で引き分けとなり、主力メッシをはじめ監督・選手が地元メディアからバッシングを受けています。
でも、アルゼンチンと並ぶサッカー大国ブラジルも初戦は引き分けでしたし、出場国の実力差は以前に比べてかなり縮まってる印象を受けます。特にチリは実に素晴らしいサッカーを展開していますね。したがって、アルゼンチン、ブラジルと言えども、チームとしての完成度・結束力がなければ簡単に勝つことできないのでしょう。
この大会に日本が出場していれば・・・そう思わずにはいられません。
今回はアルゼンチン、ブラジル、サッカー大国の意地を見せよ!ということでブラジル人の女性ヴォーカリストTatiana Parraとアルゼンチン・ネオ・フォルクローレ注目のアーティストAndres Beeuwsaertによるデュオ作品『Aqui』
サンパウロ出身の女性ヴォーカリストTatiana Parraについては、昨年彼女のデビュー・アルバム『Inteira』を紹介済みです。
その『Inteira』にも参加していたアルゼンチン人アーティストAndres Beeuwsaertは、アルゼンチン・ネオ・フォルクローレ・シーンの重要グループAca Seca Trioのメンバーです。
Aca Seca Trioは1999年にブエノスアイレスでJuan Quintero、 Andres Beeuwsaert、Mariano Canteroの三人により結成されました。これまで『Aca Seca Trio』(2003年)、『Avenido』(2006年)、『Ventanas』(2009年)という3枚のアルバムをリリースしています。また、Andres Beeuwsaertはソロ・アルバム『Dos Rios』(2009年)をリリースしています。TatianaはAca Seca TrioやAndresのソロ作にゲスト参加しています。
Tatianaのデビュー作『Inteira』は、アルゼンチン人アーティストとの交流を交えて創った印象派MPBとしてブラジル音楽/南米音楽ファンから高い支持を得ました。僕も『Inteira』に魅了された一人です。
その『Inteira』でも多大な貢献を果たしたのがAndres Beeuwsaertです。TatianaとAndresはプライベートでも公認の仲らしいですね。
そんな二人の息の合ったデュオ作品が『Aqui』です。
基本はTatianaのヴォーカル/スキャットとAndresのピアノ。あとはフルート、チェロ、ギターが加わる程度のシンプルな編成です。しかしながら、Tatianaのヴォーカル/スキャットとAndresのピアノのみで素晴らしく美しい音世界を創り出します。これには正直驚きました。Andres Beeuwsaertの音楽的才能とTatiana Parraの豊かな表現力を再認識した次第です。
この澄み切った美しさは、海辺の音楽というよりも渓谷の音楽といった雰囲気ですね。
サッカー選手のみのらず、音楽でも素晴らしい才能を輩出するアルゼンチンに注目です!
全曲紹介しときやす。
「Sonora」
Andres Beeuwsaert作。AndresのピアノとTatianaのスキャットが織り成す美しいオープニング。静寂の中の美しさといった雰囲気がたまりません。
http://www.youtube.com/watch?v=fBcmKk2lD14
「Brincando com Theo」
本作にフルートで参加しているLea Freireの作品。生命力のある演奏にグッときます。躍動するAndresのピアノとそれに呼応するTatianaのスキャットのコンビネーションが抜群です。
「Ventania」
Andres Beeuwsaert作。Lea Freireのフルートが加わった演奏です。Andresの美しいピアノに魅了される1曲です。まさに心が洗われる渓谷の音楽といった感じです。
http://www.youtube.com/watch?v=BVeS9RGcmjs
「Luzes da Ribalta」
Charles Chaplin/Braguinha(Joao de Barro)/Antonio Almeida作。英語タイトルではないのでわかりづらいですが、チャップリンの名作映画『Limelight(ポルトガル語タイトル:Luzes da Ribalta)』の主題歌「Terry's Theme」のカヴァーです。Tatianaの美しい歌声を堪能しましょう。
「Estrela da Terra」
Dorival Caymmi/Paulo Cesar Pinheiro作。チェロも入った感動的な演奏です。何よりTatianaが素晴らしいヴォーカリストであることを実感できます。
「Vento Bom」
Sergio Santos/Andre Mehmari作品。本曲は『Inteira』でも歌われていました。アコーディオンの音色とライトなリズムが印象的であった『Inteira』ヴァージョンと比較すると、Andresのピアノのみのシンプルな演奏はピュアな魅力に溢れています。Tatianaのヴォーカルも生き生きとしていてグッド!人気ブラジル人ジャズ・ピアニストAndre Mehmariの作品であることを考えれば、こうしたピアノ演奏が本来の姿なのかもしれませんね。
「Jardim」
ギターで参加のConrado Goysの作品。ギターが加わることで、それまでの楽曲とは異なる印象を受けます。アルバムの中でいいアクセントになっていますね。
「Salida」
Andres Beeuwsaert作。Andresの創りだす素晴らしい音世界に惹き込まれます。7分半近くの大作にも関わらず、リピートして何度も聴いてしまう至極の演奏です。
「Carinhoso」
Pixinguinha/Joao De Barro作。ショーロの名曲をカヴァー。昨年紹介したアルゼンチン出身の女性シンガー/ギタリストMariana Meleroのデビュー・アルバム『Beira Mar』でも取り上げられていました。本ヴァージョンはTatianaのヴォーカルの表現力に魅力されます。
http://www.youtube.com/watch?v=rIER3mDROQ8
「Cueca de Agua」
Javier Cornejo作。ここでのAndresはピアノのみならずヴォーカルも披露してくれます。二人の息の合ったデュエットを堪能しましょう。
「Milonga Gris」
現代アルゼンチン音楽の最重要アーティストCarlos Aguirreの作品。アルゼンチン音楽好きにはグッとくる1曲かもしれませんね。AndresのピアノとTatianaのスキャットが生み出すアーティスティックな音世界を満喫しましょう。
「Tankas」
Pedro Aznar/Jorge Luis Borges作。Pedro AznarはPat Metheny Groupでの天使の歌声でお馴染みですね。Andresの美しいピアノとTatianaの包み込むような歌声に心が洗われます。
「Corrida de Jangada」
ラストはCapinan/Edu Lobo作。Elis Reginaでお馴染みの1曲ですね。当ブログでも『Elis Regina in London』および『Aquarela Do Brasil』のヴァージョンを紹介済みです。Elisのイメージが強い曲ですが、本ヴァージョンもElis同様の躍動感に充ちています。ただし、この躍動感をTatianaのヴォーカルとAndresのピアノのみで創り出してしまうところが驚きです。
Tatiana Parra『Inteira』(2010年)
Aca Seca Trio『Aca Seca Trio』(2003年)
Aca Seca Trio『Avenido』(2006年)