発表年:2012年
ez的ジャンル:Hip-Hop/R&B+ジャズ系先鋭ジャズ・ユニット
気分は... :あの日を忘れない!
今日は3月11日。あの日から1年になります。
都内で忙しなく生活していると、日常が戻っているかのような錯覚に陥ってしまいます。しかし、未だ原発事故は(真の意味での)収束せず、被災地の復興も歩みはじめたばかりなんですよね。
改めてあの日やあの日以降のことを思い出し、いろいろと自問自答しないといけないと思う次第です。
いろいろ思うところはある一方で、軽々しい発言は控えるべきだとも思いますので、この程度に止めておきます。
今回は先鋭ジャズ・ピアニストRobert GlasperがRobert Glasper Experiment名義で発表した最新作『Black Radio』です。
Robert Glasperは1978年テキサス州ヒューストン生まれのジャズ・ピアニスト/プロデューサー。
ジャズ・ピアノの学ぶ傍らでHip-Hop/R&B等も耳にする若者であり、大学ではネオ・ソウル・シンガーBilalとクラスメイトとなり、親交を深めていきます。さらにBilalを介してCommon、Erykah Badu、Q-Tip、J Dilla、Mos Def、?uestlove、Kanye West、Jay-Z等との人脈を築いていきます。
このような経緯から、正統派ジャズ・ピアニストであると同時に、Hip-Hop/R&Bアーティストとの交流を通じたクロスオーヴァーな側面も持つ先鋭的アーティストがRobert Glasperです。
これまで2003年のデビュー作『Mood』を皮切りに、『Canvas』(2005年)、『In My Element』(2007年)、『Double-Booked』(2009年)といったアルバムをリリースしています。
例えば、『In My Element』(2007年)では、故J Dillaへのトリビュート「J Dillalude」やHerbie Hancock「Maiden Voyage」とRadiohead「Everything in Its Right Place」の生演奏マッシュ・アップなど先鋭的ジャズ・ピアニストとしてのセンスを発揮しています。
Robert Glasper「J Dillalude」(From 『In My Element』)
http://www.youtube.com/watch?v=MXqlEnOMUJI
Robert Glasper「Medley: Maiden Voyage/Everything in Its Right Place」(From 『In My Element』)
http://www.youtube.com/watch?v=TPre5d3ME4E
また、当ブログで紹介した作品でいえば、Q-Tip『The Renaissance』(2008年)、Gretchen Parlato『The Lost And Found』(2011年)といった作品に参加しています。特に後者では共同プロデュースも務めています。
さて、本作『Black Radio』はRobert Glasper Experiment名義でのリリースとなっています。
Robert Glasper Experimentは、Glasperが自身のピアノ・トリオとは別に結成したユニットであり、主にクロスーヴァー路線のユニットと位置づけられると思います。メンバーはRobert Glasper(p)、Casey Benjamin(sax、fl、vo)、Chris Dave(ds)、Derrick Hodge(el-b)の4名。
Robert Glasper Experimen名義の初リリース作品は、Blue Noteの企画アルバム『Blue Note Street』(2007年)に収録されたWayne Shorter「Oriental Folk Song」のカヴァー「Oriental Folk Song Rework (Me N U)」となります。
Glasperの前作『Double-Booked』(2009年)では、全12曲中、前半6曲がRobert Glasper Trio名義でオーソドックスなピアノ・トリオでの演奏、後半6曲でRobert Glasper ExperimentがHip-Hop/R&B等のエッセンスを採り入れたクロスオーヴァーな演奏を行っています。
そして、Robert Glasper Experiment名義での初フル・アルバムが本作『Black Radio』(2012年)です。
Experiment名義の初フル・アルバムというだけでも期待値が相当高まりますが、さらに超豪華ゲスト陣が本作への興味を倍増させてくれます。
主なゲスト陣を挙げると、Shafiq Husayn(Sa-Ra Creative Partners)、Erykah Badu、Lupe Fiasco、Bilal、Lalah Hathaway、Ledisi、Musiq Soulchild、Chrisette Michele、Meshell Ndegeocello、Stokley Williams(Mint Condition)、Mos Def等です。凄すぎるメンツですよね。
全13曲(国内盤ボーナス・トラック1曲を含む)のうち、7曲がオリジナル、6曲がカヴァーです。カヴァーの6曲の選曲センスも実に興味深いです。
全体として、Hip-Hop/R&Bなどジャンルを超えたクロスオーヴァー作品ですが、根底ではしっかりジャズしているのが印象的です。他のクロスオーヴァー系作品にはないサムシングがありますね。
さらに本作ではJahi Sundance(ジャズ・サックス奏者Oliver Lakeの息子)のターンテーブルやメンバーであるCasey Benjaminのヴォコーダーも大活躍しています。
プロデュースはRobert Glasper本人が務めています。
内容、参加メンバー、選曲、Glasper等メンバーのピープル・ツリー、様々な意味で僕にとって興味の尽きない1枚です。
記事書いているだけで興奮してきてしまいました・・・
個人的には大傑作だと勝手に思っています。
全曲紹介しときやす。
「Lift Off/Mic Check」
Shafiq Husayn(Sa-Ra Creative Partners)をフィーチャー。先鋭的なプロデューサー/クリエイター・ユニットSa-Ra Creative PartnersのShafiqとGlasperの顔合わせは個人的に興味があります。アコースティックな演奏にJahi SundanceのターンテーブルやCasey Benjaminのヴォコーダーが散りばめられ、ミステリアスなコズミック・ワールドが展開されます。
「Afro Blue」
Erykah Baduをフィーチャーし、Mongo Santamaria作の人気アフロ・キューバン・クラシックをカヴァー。John ColtraneやDee Dee Bridgewater等のカヴァーでもお馴染みの名曲ですが、ここではErykah様の持ち味を十二分に活かした浮遊感のあるネオ・ソウル調のカヴァーを聴かせてくれます。Hip-HopモードのChris Daveのリズムもグッド!逸品カヴァーです。
http://www.youtube.com/watch?v=3-0JZlrk4xA
「Cherish The Day」
Lalah HathawayをフィーチャーしたSadeのカヴァー。オリジナルは当ブログでも紹介した『Love Deluxe』に収録されています。深い霧の中をさ迷うようなオリジナルの雰囲気を受け継いでいますが、Lalahのヴォーカルも含めてクロスオーヴァーなエッセンスをうっすらと加えているあたりが心憎いですな。Casey Benjaminのサックスも盛り上げてくれます。
http://www.youtube.com/watch?v=5MCyBHZkwJY
「Always Shine」
BilalとLupe Fiascoをフィーチャー。Glasperの盟友とも呼べるBilalは『Mood』、『Canvas』、『Double-Booked』にも参加しており、Glasper作品の常連といったところでしょうか。さらHip-Hop界の救世主Lupeも加わり、ジャズ、ネオソウル、Hip-Hopが三位一体となったファンタスティックな1曲に仕上がっています。このバランス感覚は素晴らしいですね。ジャジーなピアノHip-Hop好きの人は要チェックだと思います。
http://www.youtube.com/watch?v=qOj_90wYK8Y
「Gonna Be Alright (F.T.B.)」
大好きな女性ネオ・ソウル・シンガーLedisiをフィーチャー。Ledisi本人の作品に劣らない素晴らしいジャジー・ソウルに仕上がっています。Erykah Baduもそうですが、ネオソウル系女性シンガーとの相性は抜群ですね。
http://www.youtube.com/watch?v=8lcKsgrOvzQ
「Move Love」
KINGをフィーチャー・・・と書いても知らない人が多いでしょうね。KINGは双子姉妹Paris Strother、Amber Strother、Anita Biasによる女性ソウル・グループ。昨年デビューEP『The Story』をリリースした有望株です。彼女たちの透明感のあるコーラスを活かした浮遊感のあるジャジー&メロウ・グルーヴ。大物ゲスト参加の楽曲に混じり、大健闘しています。
http://www.youtube.com/watch?v=-PPxEWkLiAs
KINGは要注目グループだと思います。『The Story』もチェックを!特に「Hey」はGilles Petersonもイチオシの注目曲です。
KING「The Story」(From 『The Story』)
http://www.youtube.com/watch?v=7qYSIw_x8Mk
KING「Supernatural」(From 『The Story』)
http://www.youtube.com/watch?v=ttT78mf0gKY
KING「Hey」(From 『The Story』)
http://www.youtube.com/watch?v=Itl3BgEUNW0
「Ah Yeah」
Musiq SoulchildとChrisette Micheleという超大物2人をフィーチャー。個人的に大好きな男女R&Bシンガーなので期待値大の1曲です。2人の作品では聴けない、しっとり&ミステリアスなジャジー・チューンに仕上がっています。2人の新しい側面を聴けた気分がします。本曲のみBryan-Michael Coxが共同プロデュースしています。
http://www.youtube.com/watch?v=oN0tFgLcp4g
「The Consequences Of Jealousy」
Meshell Ndegeocelloをフィーチャー。クール&ミステリアスな哀愁ジャジー・チューンです。「Lift Off/Mic Check」同様、Jahi SundanceのターンテーブルやCasey Benjaminのヴォコーダーがいいアクセントになっています。
http://www.youtube.com/watch?v=8dA7ODYmtYU
「Why Do We Try」
Stokley Williams(Mint Condition)をフィーチャー。Chris DaveがMint Conditionとの関わりが深く、Experimentの日本公演にもStokley Williamsが同行していた模様です。ATCQのAli Shaheed MuhammadをフィーチャーしたMint Conditionのオリジナルは『E-Life』(2008年)に収録されています。アルバムの中でも最もリズミック&ダンサブルな仕上がりです。ある意味、アルバムで最もキャッチーかもしれません。クロスオーヴァー好きの人は要チェックだと思います。
http://www.youtube.com/watch?v=GekMtAxxYjI
「Black Radio」
タイトル曲はMos Defをフィーチャー。Mos Defのセッションでメンバーが意気投合したのがExperiment結成のきっかけだったようであり、Experimentとは深い縁のMos Defです。Mos Defの硬派なHip-HopワールドとExperimentのジャズ・ワールドががっぷり組んでお互い一歩も引かない感じがいいですね。
http://www.youtube.com/watch?v=IcIuGl1_3w8
「Letter To Hermione」
Bilalをフィーチャーし、David Bowieをカヴァーしています。オリジナルは『Space Oddity』に収録されています。フォーキーな味わいのオリジナルの印象が強いので、エレガントながらも何処か寂しげな哀愁ジャジー・チューンに仕上がったカヴァーは新鮮に聴こえます。
http://www.youtube.com/watch?v=Yc0TmmmMlZs
「Smells Like Teen Spirit」
ラストはNirvanaの名曲をカヴァー。意外な選曲に思われるかもしれませんが、ライブ・レパートリーとしても演奏されている楽曲です。アコースティックな演奏にCasey Benjaminのヴォコーダーが響き渡るExperimentらしいカヴァーに仕上がっています。Jahi Sundanceのターンテーブルも効果的です。終盤にはLalah Hathawayのヴォーカルも加わります。
http://www.youtube.com/watch?v=onXoreYFMhU
「Twice」
僕が持っているのは国内盤ですが、国内盤にはボーナス・トラックとしてLittle Dragonのカヴァー「Twice」が収録されています。日系スウェーデン人の女性シンガーYukimi Naganoが率いるLittle Dragonについては、以前にStateless『Art Of No State』の記事で紹介したことがあります。本曲「Twice」はデビュー・アルバム『Little Dragon』(2007年)に収録されています。この曲もライブ・レパートリーのようです。Little Dragonをカヴァーするというだけで只者ではありませんよね。そのセンスに脱帽です。
興味のある方はRobert Glasperの他作品もチェックを!
『Mood』(2003年)
『Canvas』(2005年)
『In My Element』(2007年)
『Double-Booked』(2009年)