発表年:2012年
ez的ジャンル:アルゼンチン・ネオ・フォルクローレ
気分は... :静かなる音楽に囲まれて
今年も残すことあと9日あまり、年内に紹介できる新作もあと数枚といったところでしょうか・・・例年であれば12月はR&B/Hip-Hop系の大物アーティストの新作がリリースされ、その紹介に追われることが多いのですが、今年は目立った新作が少ないですね。その分、いろいろなジャンルの新作をじっくり吟味して購入することができています。
そして、クリスマスを前にして僕を虜にしている新作アルバムが、Andres Beeuwsaert『Cruces』、Antonio Loureiro『So』、Rafael Martini『Motivo』という"静かなる音楽"の3枚です。
アルゼンチン・ネオ・フォルクローレを代表する鍵盤奏者Andres Beeuwsaert、サンパウロ出身のブラジルの新たな才能Antonio Loureiro、ミナス出身のピアニストRafael Martiniという"静かる音楽"ファンの魅了する3アーティストの作品は、どれも現代ポピュラー音楽の最高峰と呼ぶに相応しい芸術的な新作に仕上がっていると思います。
本当はこのなかでは知名度が低いRafael Martini『Motivo』を最初に紹介したいと思っていたのですが、残念なことにAmazonでの取扱いがないようなので、Amazonでの取扱いが確認できた時点で紹介したいと思います。
今回はアルゼンチン・ネオ・フォルクローレの注目の鍵盤奏者Andres Beeuwsaertの最新アルバム『Cruces』です。
Juan Quintero、Mariano Canteroと組んだアルゼンチン・ネオ・フォルクローレの重要グループAca Seca TrioのメンバーでもあるAndres Beeuwsaertの紹介は、ブラジル人女性シンガーTatiana Parraとの共演作『Aqui』(2011年)、初ソロ・アルバム『Dos Rios』(2009年)に続き3回目です。
最新作『Cruces』は『クルーセス〜交差する旅と映像の記憶〜』という邦題表すように、旅を映像イメージさせるサウンド・スケープ的な作品に仕上がっています。そして、これまでのAndres Beeuwsaert作品と同様に、美しく透明感のある室内楽的な音世界が流れていきます。
レコーディングにはAndres Beeuwsaert(p、key、vo、g)以下、Juan Pablo di Leone(picollo、fl)、Fernando Silva(cello、b)、Santiago Segret(bandoneon)、Gabriel Grossi(harmonica)、Loli Molina(vo)、Pablo Passini(g、vo)、Ramiro Nasello(flh)といったミュージシャンが参加しています。
『Aqui』と楽曲が重なっている(重なっているのは3曲)ことを懸念する人もいるようですが、本作ではTatiana Parraのヴォーカル/スキャットがないインスト・ヴァージョンになっている分、本作の持つサウンド・スケープ的な音世界に楽曲が溶け込み、『Aqui』ヴァージョンとは別の魅力を堪能できると思います。
目を閉じながら、映像を思い浮かべて聴くと、さらに味わいが増すと思います。
こういう作品を聴くと、ますます"静かる音楽"にハマってしまいますね。
全曲紹介しときやす。
「Pasan」
Andres Beeuwsaert作。Aca Seca Trio『Ventanas』にも収録されていた楽曲です。牧歌的な雰囲気も漂ったAca Seca Trioヴァージョンと比較して、Andresらしい室内楽的なエッセンスが強調されています。
Aca Seca Trio「Pasan」
http://www.youtube.com/watch?v=NPv4-Rh4qYQ
「Salida」
Andres Beeuwsaert作。『Aqui』でもTatiana Parraのスキャット入りで演奏していました。そのインスト・ヴァージョンはAndresの持つピュアで美しい音世界の魅力をダイレクトに満喫できます。目を閉じながら聴くと、Andresの好きな地平線の映像が浮かんできます。Andres Beeuwsaertというアーティストの美学がよく表れた1曲だと思います。
「Chorinho」
Lyle Mays作。Pat Metheny Groupのキーボード奏者として知られるLyle Maysの作品をカヴァー。『Dos Rios』のエントリーで彼の音楽とPat Metheny作品の共通性を指摘しましたが、まさにそれを裏打ちするカヴァーですね。Andresらしい室内楽的なエッセンスを楽しめる知的な演奏を楽しめます。
「Sonora」
Andres Beeuwsaert作。『Aqui』でもTatiana Parraのスキャット入りで取り上げていました。本ヴァージョンは『Aqui』ヴァージョンに比べてエレガントさが後退しましたが、逆に落ち着きが増して癒しモードな印象を受けます。
「Cruces」
Andres Beeuwsaert作。タイトル曲はAndresのピアニストとしての魅力を存分に満喫できます。Juan Pablo di Leoneのフルートとの絡みもいい感じです。
「Reinicio」
Andres Beeuwsaert作。さまざまな感情が交錯する心象風景を音にしたような楽曲ですね。Loli Molinaの薄っすらとしたスキャットが隠し味になっています。
「Milonga Gris」
Carlos Aguirre作。アルゼンチン・コンテンポラリー・フォルクローレの最重要ミュージシャンCarlos Aguirreのカヴァー。『Aqui』でもTatiana Parraのスキャット入りでカヴァーしていました。本ヴァージョンはTatianaのスキャットのパートをSantiago Segretがバンドネオンで奏でています。ある意味、よりフォルクローレらしい仕上りかもしれませんね。
「Entre A Terra E A Agua」
Mrrio Laginha作。ポルトガル出身のピアニストMrrio Laginhaの作品をカヴァー。『Dos Rios』でも彼の作品「Nazuk」を取り上げていました。アルバムの中でも特にしみじみと胸の奥に沁みてくる演奏です。
「Vento Em Madeira」
Lea Freire作。『Aqui』にも参加していたブラジル人の女性フルート奏者Lea Freireの作品をカヴァー。軽快な雰囲気の室内楽的な演奏はAndresらしいですね。Andresのピアノ、Juan Pablo di Leonのフルート、Santiago Segretのバンドネオンによるアンサンブルは素晴らしいの一言です。
「Choral」
Dino Saluzzi作。偉大なアルゼンチン人バンドネオン奏者Dino Saluzziの作品をカヴァー。思わず祈りを捧げたくなるような厳粛な演奏です。
「Ninos」
Pablo Passini作。作者Pablo Passiniもギター&ヴォーカルで参加しています。ギター中心のせいか、それまでの楽曲とは少し趣が異なります。それでも十分癒し系の静かなる音楽です。
ご興味がある方は、Andres Beeuwsaert関連作品やAca Seca Trio作品もチェックを!
Andres Beeuwsaert『Dos Rios』(2009年)
Tatiana Parra & Andres Beeuwsaert『Aqui』(2011年)
Aca Seca Trio『Aca Seca Trio』(2003年)
Aca Seca Trio『Avenido』(2006年)
Aca Seca Trio『Ventanas』(2009年)